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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
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21-17 地下からの再起

 迷宮魔王の最深部へと通じる道までの道中は長かった。

 俺達が倒したルーター級の胴体が入口になっていて、そこから巨大生物の体内とは思えないダンジョンの構造体が地下へと永遠続いている。

 元々は脇道や階層の存在する迷宮区になっていたと思われる。ただ、今は工作部隊の手により壁は取り除かれて坑道のごとく鋼材の道が造られていた。たった一週間程度の突貫工事のはずであるが、二十四時間体制、四千人体制で迷宮にショートカットを作成し続けたらしい。モンスターの襲撃もあっただろうに、異世界人も生存のために必死に働いている。

 地下第六層までは直通路が造られている。

 地下第七層からは正しい道順にマーキングが施されているのみであるが、以前に俺とアニッシュが潜った時よりも地下迷宮は横に広く長い。ワームの体内に迷宮が作られているのだから当たり前か。道が分かるだけでもありがたい。

 第十層に達するまでインプを中心とするモンスター群に襲撃を受けている層もあったが、ここは任せろ、と兵士達に背中を押されて先を急いだ。



「ここからが未探索エリア、第十層だ。ここからはナキナ忍者衆がお前達を先導する」



 そして、第十一層へと通じる階段で待っていたのは、黒いボディスーツで統一される忍者衆。ナキナの諜報部隊である忍者衆まで戦線に投入されている。


「かなり奥まで進んだはずだが、いつになったらゴールに到着するのだか」


 寄り道も戦闘も行わず地下を進んで丸一日は経過している。それでもまだ本体へ届いていない。


「迷宮魔王の体は十ニ層で構成されていると守銭奴商人職がリークしている。お前達のお目当ては十二層目にある可能性が高い。真実であるのなら残り一層下ればゴールだ」

「守銭奴? ああ、ヘンゼルか」


 迷宮魔王関連はヘンゼルがいるので情報の面で人類は有利に立っている。あれで金にうるさくなければ素直に感謝できるのであるのに、残念な子である。


「あの小さい商人職もそうだが……くっ。今回は、あそこに出店している奴からの情報だ」


 何故かイバラが感情を噛み殺し、目線をらしながら指差していた。

 イバラの不審な行動の意味を考えずに指先へと顔を向ける。

 ……何故だろう。人類の最前線だというのに屋台のような簡素な店がそこにある。異世界語で書かれているから店名は分からない。野太い手で書き殴ったような汚い文字だからかもしれない。

 ちなみに、現在のパーティ構成は俺、皐月、アジサイ、落花生、ラベンダー、天竜、リリーム、月桂花、とフルメンバーに近い初期メンバーだ。アイサや黒曜はだだをねていたが俺達に何かあった時のため保険として置いてきた。以前に、精霊帝国でパーティが囚われていた前例を活かした処置である。


“僕もいるさ。巫女職なしで危険を予期してあげられるよ”


 脳内ボイスの御神体は遠く教国にあるので知った事ではない。

 さて、俺達の中で異世界文字を完璧にマスターしているのは――俺以外は『異世界渡りの禁術』で世界間を移動しているため言語については自動翻訳なのだそうだ。俺の苦労を返せ――天竜、リリーム、月桂花の三人になるだろう。

 異世界文字といってもエルフ語や帝国語と様々あるのだが、店の名前を読めたのはリリームと月桂花だけだ。


「えーとですね。お? おる?? おー、ると? オルド――」

「オルドボ商会新本店、と読めますわ。御影様」


 ……リリームが半信半疑になるぐらいに文字が汚いらしいので、きっと桂さんも読み間違えたに違いない。

 オルドボ商会はつい最近、経済的にも物理的にも潰したばかりだ。ギルド長たる金眼のオーガ、オルドボも討伐済みなので再起さえできないはずである。



「ぐふぇ! いらっじゃいまぜっ!」



 …………人間族にしては酷く大柄な店員が愛想良く客引きをしていた。

 まさか、と思いつつ店員の顔に注目する。


「何だ。仮面を付けていて顔が分からないじゃないか。うん、きっと別人……別オーガだな!」

「御影ねぇ、現実を少しは直視したら?」


 皐月達が仮面を付けた大柄店員ではなく俺の方にじっとりとした目線を向けてきた。

 だが、そう言われても仮面が邪魔で何者か分からない。仮面の裏側に金貨に狂った金色の目が見えなくもないが、きっと気のせいなのだ。

 大柄店員の仮面はフルフェイスの鉄仮面。俺やペーパーともキャラ被りはしていない。

 ようするに、見逃してしまっても問題ないではないな。


「旦那様よ。あやつの臭いはオーガだぞ。人間族の店員もいるが魔族に間違いない。始末するか?」

「それを言ったら天竜も本来は魔族になってしまうだろ。……はぁ、魔王戦の前に余計な事はしたくない。話を付けてくるから待っていてくれ」


 俺一人だけでは皆が納得しないため、唯一の前衛たるリリームを連れて店を目指す。

 店では仮面のオーガ……もとい仮面の大柄、それと眼帯や頬の傷といったいかにも盗賊職な人相の怪しい男達が仕事をしている。罠にしては白々しいというか罠になっていない。


「ヘッドマン、お前達、ニコやかに挨拶だァ」

「いらっしゃいませーっ」


 接客態度そのものに問題がない事が不自然で気持ちが悪い。罠よりもそっちの方が問題だろう。

 前に出ようとするリリームを制して、仮面大柄店員と向かい合う。腕を伸ばされると届く距離だ。


「まさか、生きていたのか。オルドボ」

「ぐふぇふぇ。偉大な初代ギルド長は死んだぜぇ。今は残っだ仲間達で商会を立て直しでいる所でぇ」


 本人は否定しているが、仮面大柄店員がオルドボであるのは間違いない。確かにあの時、余裕がなかったので討伐メッセージのポップアップを確認していなかった。

 ……本当にオルドボで間違いないよな。仮面だけでなく『正体不明』スキルまで有する別オーガだった場合、俺のアイデンティティがズタズタに傷付く。


「生まれがわったオルドボ商会のモットーは健全な商売でぇ」

「本当か。正直信じ難い」

「ぞれはそこの忍者職が知っているでぇ。短期で人類がごごまで到達できた理由は、オルドボ商会の地図が正確だったからだァ」


 こんな怪しい店の地図を買ったのか、とイバラに非難に近い目を向ける。こっちを見ていないので気付いていない、と背中がかたっていた。


「迷宮魔王の三騎士だったお前が、どうして迷宮魔王の不利になる事をするんだ??」

「おでは初代ギルド長じゃないでぇ。ただ、初代ギルド長は立派に役目を果たじた。後にどう生きても恥じる気持ちはない、とおでは思う」


 商売の魅力に取り付かれる魔族は珍しくないのだろうか。ヘンゼルと同じように、オルドボもただ商売をしたいという純粋な気持ちを持って、第二の人生を歩んでいるだけのようだ。

 まあ、第一の人生で得た知識で作成した地図を売っている時点で店のモットーを裏切っているとしか思えないが。人類に有益な限り見逃してやらなくもない。

 店員と会話しているだけでは冷やかしと変わらない。いちおう何を売っているのか一通り目を通す。

 商品は実に健全にも迷宮探索に役立つ品々ばかりだった。ラインナップセンスはヘンゼルを超えている。価格は高いが、ボスの城の前にある村の商店だと考えれば適正といえた。あ、喉渇いているのでお水ください。


「ぐふぇ、まいど、ぐふぇふぇ」


 オルドボは太い指で丁寧に商品を手渡してくる。

 ふと、頼んでいない洋紙まで手渡されてしまった。線が汚くて読み辛いが、地図のつもりらしい。おそらくというか間違いなく、次の層の地図だ。



「そごの印の場所、見でおくと良いでぇ。おでがこれからも商売を続けられるかは、お前ェにかかっている」



 言葉の意味を聞き返す前に大柄店員は店の奥へと消えていく。いや、大き過ぎて消えられていないのだが、詳しく説明するつもりはないらしい。

 思わぬ再会に動揺してしまったが、迷宮魔王攻略はまだ始まったばかりだ。

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 助けたいシリーズ一覧

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