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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
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21-14 絶滅生物

 結論の出ている話なので、続くゼナの小難しい解説は省略する。


「――甲殻組成の解析に唯一成功したのは、墓石魔王の作成者だった原型一班オリジナル・ワンの魔法使い職だけだ。研究しようにも欠片の入手さえ不可能に近く、入手できたとしても固過ぎて細かく砕いて分析できない」


 要点をまとめると、防御は鉄壁。

 魔法的な防御手段を必要としない程に強固な甲殻はただの物質装甲でありながら真性悪魔の七節魔法を弾き返す。山羊魔法が使用していた八節魔法でようやくダメージを与えられる。それだけ桁違いな『守』に守られている。


「――竜頭魔王が食らうのは地表構造物のみだから世界はまだ姿を維持できているが、本気で地殻を削った際には地盤さえ失われてしまう。魔界にある大瀑布はその痕跡であるが……御影はそこに身投げした事がある? 呆れた、最大落差五百メートルでよく生きていたものだ」


 だが、『守』以上に危険視するべきは圧倒的な破壊力。

 空から下りてきて地表をかすめるだけで地表が削れてしまう。魔王の形を成した自然災害なのだ。正面から対峙するなど自殺志願も同じ。鎧袖一触を体現する唯一の生物が竜頭魔王なのである。

 いかに竜頭魔王が究極であるかを懇切丁寧に説明されても、スケールの違いにより深い感想を抱くのは難しいだろう。地球表面に生きる知的生命体が恒星の大きさを想像するようなものだ。

 ただし、ここはステータスのある異世界だ。数値的な把握は可能である。しかも俺達には『鑑定モノクル』スキルを有するアイサがいる。

 エルフの調査部隊に参加していたアイサが、宝石色の義眼でしっかりと竜頭魔王のステータスを視て調べ上げていた。敵を知り己を知ればどんな強敵とだって戦う方法は――、


==========

“●レベル:82”


“ステータス詳細

 ●力:4294967295 守:65535 速:1024

 ●魔:82/82

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●バハムート固有スキル『身体強化』

 ●バハムート固有スキル『環境適応』

 ●バハムート固有スキル『雑食』

 ●バハムート固有スキル『浮遊』

 ●バハムート固有スキル『究極生物タイラント

 ●魔王固有スキル『領土宣言』

 ●実績達成ボーナススキル『異世界渡りの禁術』”


“職業詳細

 ●バハムート(Sランク)

 ●魔王(Dランク)”


“座

 ●THE・竜座ドラゴン

==========

“『身体強化』、体を鍛えるスキル。


 パラメーターの成長率が向上し、種族の成長限界値を突破可能となる”

==========

“『環境適応』、劣悪な環境下で生存するためのスキル。


 生存環境の激変に強くなり、生命の生存に適していない環境に対して身体を改変させてでも適応する。これにより、極寒地帯、灼熱地獄、宇宙空間であろうと生息可能となる”

==========

“『究極生物タイラント』、生物として究極に至ったスキル。


 魔法やスキル、その他様々な特異現象に対して耐性を取得可能となる。耐性取得後は同様の攻撃による効果が九十九パーセント削減される。耐性取得を免除されるのは物理現象のみである。レベルを上げて物理で殴られると痛い”

==========


 こんな化物と俺は本当に戦うつもりなのか?


「パラメーターが限界突破しているじゃないか、勝てるかッ!」


 人間族と単位が違い過ぎて比べる事さえ馬鹿らしくなる。もはや、レベルアップ云々で埋められるものではない。特に『力』が酷い。人間族を十億人集めてようやく拮抗できる程に馬鹿げた値に対処方法などありはしない。もう1だけ追加してオーバーフローで0になってくれたりはしないだろうか。

 数値として竜頭魔王の強さを確認してしまい、現実の重みに耐えかねて頭を抱えてしまう俺達。ゼナが最初に宣言していた通り、倒す術は発見できていない。



“――まあ、昔はこの世界にも竜頭魔王に対抗できる存在が何柱かはいたのだけどね”



 重苦しい場面を晴らしたかったのか、状況に合わない男の軽薄な口調が耳に届く。

 ただし、男の声が聞こえたのは数人のみ。はっきりと耳にしたのは俺とゼナの二人だけだろう。

 『神託オラクル』を使えるリセリには威厳ある声に間違って聞こえてしまって平伏しているし、ジャルネは猫族でもないのに虚空をキョロキョロ見回している。ペーパー・バイヤーにいたっては完全に何も聞こえておらず、大事な会議中だというのにスマートフォンを取り出して耳に当てていた。

 ルーター級撃破時に始めて聞いた初代救世主の声で間違いない。


「この声は、救世主職か。御影もついに捕捉されてしまったとは同情する」


 珍しく、ゼナが綺麗な顔のひたいにシワを寄せていた。


“僕を悪者みたいに言わないでくれ。過去に、人類の中でも有望だった君達に未来の滅亡を少し早く伝えただけじゃないか”

「……はぁ。人類の手で余る難題を伝えられた結果、原型一班は精神的に耐え切れなくなって離散したのだぞ」

“それについては謝罪しよう。皆が僕みたいに『絶望知らず』でいられないのは理解したから、以降はそれなりに自重したさ”


 ゼナの耳が一度つりあがってから、溜息と共に下へと曲がっていった。ゼナも黒曜と同じく初代救世主に良い印象を持っていない様子であるが、根は悪い人ではないため扱いに困っているのだろう。


「それはそうと初代救世主、様? 気になる事を言いましたね」

“同じ救世主職同士、フレンドリーに接してくれないかい。御影君”


 世界を救った偉大な人物であるが、本人の許しが得られたので今後は敬う必要はなさそうだ。良かった。


「では、初代さん。竜頭魔王に対抗できた存在というのは?」

“直近で言えば討伐不能王さ。まあ、彼も御影君が討伐してしまったからもういないのだけど”


 ここでも討伐不能王の名前が挙がるのか。倒してしまった悪人がこっそり捨てていたペットを育てていたという小話を聞いた時のように口の中が苦くなる。


「方法は?」

“無限再生する体で檻を作り、百年から千年ほど竜頭魔王を捕らえて餓死させるつもりだったようだ”


 方法は討伐不能王にのみ許された反則技だった。作戦期間からして真似できるものではない。


“討伐不能王を討伐した君がどうにかするしかない”


 パラメーターで竜頭魔王を倒すのは不可能だ。だからといってスキルや魔法で上回るのも難しい。特に『究極生物』なるスキルが厄介だ。一度目は良くても、耐性を付けられた二度目からは効果を望めなくなる。

 不幸中の幸いという言葉が適合するのかは怪しいが、俺はまだ『魔王殺し』スキルを竜頭魔王に用いていない。使っていたなら完全に詰んでいただろう。


「邪魔が入ったが、私からの報告は以上だ」


 竜頭魔王に関する報告をすべて終えたゼナが着席する。

 そして、ペーパー・バイヤーが報告役を引き継いだ。


「参考になるかは分からないが、アノマロカリスの生態について報告しておこう」


 ノートパソコンをペーパー自身が操作して別資料をプロジェクターで投影する。


「竜頭魔王と酷似した姿を持つアノマロカリスは、禁忌の土地ではカンブリア紀、五億三千年前に繁栄していた絶滅動物だ。絶滅動物なのだから既に滅んでいる。近縁種さえ存続していない」


 体の左右に生えるヒレと、特徴的な二本の牙。化石を元に復元された3D画像は完全に竜頭魔王そのものである。

 ただ、アノマロカリスの全長は最大でも二メートルほどであり、竜頭魔王と比べるまでもない。もちろん、まだ地球で化石が発見されていないか、あるいは大き過ぎて気付かれていないだけかもしれない。


「全長の相違については空想が入るが、カンブリア紀の被食者から見たアノマロカリスと、俺達から見た竜頭魔王との比率を一致させるためかもしれない。水中ではなく空を遊泳しているのも同じ理由か」


 アノマロカリスは海中に生息していた。というか、カンブリア紀なので生物はまだ陸へ進出していないはずだ。空などもってのほかである。



“絶滅動物が何かの手違いで僕達の世界に現れたのか。絶滅の切っ掛けは何だったのかな?”



 初代さん、ペーパーには聞こえないですよ。


「絶滅理由はいくつか仮説があるようだが――」


 な、何故聞こえている、と視線を送るとペーパーは黙って耳を指差した。耳にはイヤホンと思しきコードが繋がっており、その先はスマートフォンとなっている。


「――ガンマ線バーストが原因とも言われている。宇宙の果てから降り注いだガンマ線によりオゾン層が失われ、直射される紫外線にさらされたアノマロカリスを含む古代生物の多くが絶滅してしまった。ガンマ線が直接DNAを破壊した説もあるみたいだが、原因は変わらない」

「『環境適応』を持つ竜頭魔王なら耐え抜きそうだな」

「同じ手は使えないという事だ。まあ、人類の手でガンマ線バーストを起せるはずもない」

「ガンマ線バースト……ねぇ」


 古代生物たるアノマロカリスについて判明している事は少なく、ペーパーの解説は長くは続かなかった。

 だが、参考にならなかったというとそうでもない。


「……これはもう、禁忌の土地にある禁忌の兵器に頼るしかないのか」


 ガンマ線から連想される兵器が俺の脳裏に浮かんでいた。

 正直に言うと決して頼るべき兵器ではない。使用による環境被害は軽視できず、世界で唯一落とされた国の人間が使用を検討する事自体が倫理的ではない。

 けれども半年後には異世界は滅びてしまう。一億未満の人間しか生き残っていない異世界だからといって滅びてしまって良いはずがない。感情だけでは否定できなかった。

 苦渋を仮面で隠しながら、俺は禁忌を口にした。


「…………竜頭魔王は、熱核兵器で抹殺する」


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