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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
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21-13 活性化する魔王

 命掛けで迷宮魔王の指先のごとき一部ルーターを破壊に成功し、迷宮魔王本体の登場により尻尾巻いて逃げ帰ったのが三日前。オルドボ商会を潰すという当初の目的は達成でき、ついで程度にルーター級ワームの撃破に成功したのだから落ち込む必要はどこにもない。

 ……などと能天気な事を言っていられる情勢ではなくなっていた。

 この三日で起きた事を説明すると、本店とギルド長の同時喪失によりオルドボ商会がなくなり、取引を行っていた各国で混乱が生じた。が、それ以上に、世界各国の地下に隠されていた空洞がすべて陥没、都市機能そのものに大きな打撃を受けてしまった。それに伴う地震と、巨大ワームによる襲撃の被害も大きい。



「だが、その程度の被害を気にしていられない。竜座が活動を開始した」



 世界を滅ぼす力を有する魔王に対して与えられる称号、その一つ竜座ドラゴンが大陸南西部の穀倉地帯を文字通り根こそぎ食い荒らしたのである。直線状にあった中規模国家の都市は食後のついでに襲われたに過ぎないが、人的被害はそちらの方が大きい。

 高度を下げて頭部の下側に存在する特殊形状の口を開いて、農場と建築物と住民達すべて、そこに都市があったという証拠ごと丸呑みした。残されたのは丸くえぐられて続くキロ単位の窪地くぼちのみである。

 戦場から離れた後方を襲われて人類はパニック状態だ。


「迷宮魔王がとうとう姿を現したというのに、竜頭魔王も動き始めたのはタイミングが悪過ぎる」


 討伐手段を思い付けない竜頭魔王を後回ししていたというのに、ご破算だ。元々の飼い主たる翼竜魔王をドラゴンの巣ごと食べて満腹になっていたのなら、もう少し時間に余裕があると思っていた。

 希望的観測に過ぎなかったという訳だ。

 戦場にいた間にあった出来事を、出迎えに現れたペーパー・バイヤーが時系列で教えてくれる。


「南西の被害は三日前。二日前には西部で同規模の街が複数竜頭魔王に飲み込まれたようだ。このペースが続くと、半年で人類は文明を維持できなくなる計算になるな」

「三日前と二日前か。昨日は?」

「昨日はオリビア付近に現れたのをエルフの調査隊が発見した。ああ、安心しろ。昨日は迷宮魔王と戦っていたから人類の被害はない」


 自由に空を飛ぶ竜頭魔王の行動範囲はかなり広いようだ。人類圏の間を気ままに移動しているため次の被害地域の予測が難しい。


「竜頭魔王の奴、見境なしに迷宮魔王にも襲いかかっているのか??」

「一時間ぐらいのちょっとした大怪獣戦争が起きていた。迷宮魔王の目から伸びてるルーター級? だったか、比較的小さいワームを数本食い千切っただけで決着は付かなかったみたいだが」

「その一本を倒すのに俺達がどれだけ大変だったと思うんだ……」


 ペーパーの感想になるが、巨大魔王同士の戦いは空を飛ぶ竜頭魔王が圧倒していたらしい。ルーター級を複数失った迷宮魔王に対して、竜頭魔王の被害は遠目で見ている限り無傷だったようだ。


「あー、でも、それなら迷宮魔王は被害を受けているのか。討伐の狙い目か?」

「それはどうだろうな。千切れたルーター級が生え直していたから」

「……迷宮魔王は切っても再生する万能ネギか何かなのか?」

「昼間だったから断言しないが、迷宮魔王の体は微かにだが淡く光っていた。異世界でも体の欠損を修復する手段は限られるぞ」


 ファンタジー世界にも回復魔法なる便利なものは実在しない。あるのは薬草ぐらいなものである。



「話は変わらないが、お前がオルドボ商会との取引に持っていった『奇跡の葉』はどこに消えた?」



 オルドボ商会に売ったのだから所在はオルドボ商会となる。

 オルドボ討伐後にヘンゼルは回収しようとしていたが、地下の穴へと消えてしまってからは不明だ。どこに消えたのだろうか。


「お前なぁ、ただでさえ倒せない相手を強化してしまってどうする。難度の変更は一度ゲームクリアしてからにしろよ」

「主様で一度ゲームクリアしているからセーフだな」


 俺だって敵に塩を送ったつもりはない。オルドボ商会を使って回復アイテムを集めていた迷宮魔王の作戦勝ちだ。きっと、迷宮魔王も将来的に竜頭魔王と戦う事を想定して貴重なアイテムの確保に動いていたのだろう。

 スマートフォンで撮影された魔王同士の戦いを後で見たが、竜頭魔王の方が三倍近く大きい。迷宮魔王ですら直接戦えば捕食される相手だ。迷宮魔王にもそういった自覚があると思われた。

 それにしても、戦いの終盤に現れる魔王共はどいつもこいつも巨大で困る。巨大で倒せない魔王が最後まで残っているだけかもしれないが。


「こちらも合体ロボか何かで対抗したいものだな。……ペーパー、こんな事もあろうかという台詞、カモン」


 俺はそわそわしながらペーパー・バイヤーに解決策を強請る。


「そんな物はない。お前が用意しろ」


 使えない男ばかりに頼っていては駄目だな。どうにか魔王共を倒す方法を考えないと。




「迷宮魔王についてはもう各国動き始めておる。そなた達が倒したルーター級の付け根が迷宮に繋がっておった。冒険者を多数投入してマッピングを開始したぞ」


 世の中、働いているのは救世主職だけではない。異世界に生きる者達すべてが生存を勝ち取るために知恵と勇気を振り絞っている。ただ黙って滅ぼされる存在ではない。

 その証拠に、人類国家の代表アニッシュを中心に人々は結束を強めている。

 俺達が拠点にしている要塞はささやかな規模のものであったが、迷宮魔王と竜頭魔王の活動が本格化した頃より多数の国からの来訪者が集まり、宿泊率が二百パーセントを超えていた。建物が足りず、塀の外に簡易的な野営地が立ち並んでいる。人類国家の代表に取り入ろうと各国、各領主が今更馳せ参じた結果だ。

 帝国残党の吸収に成功し、教国からも支持を受けられた事が要因としては大きい。世界情勢の背後に喪服のナキナ大臣がちらほらして見えてしまう。


「冒険者を迷宮に?」

「ダンジョンコアの捜索だ。迷宮魔王の心臓部と言われている。それを我々が探し出すゆえ、発見次第、御影と黒曜には『暗殺』スキルでダンジョンコアを破壊してもらいたい」

「正規軍ではなく冒険者。救世主職ではなくアサシン職としての俺達。色々なりふり構っていないな」

「常識や慣習など御影と知り合ってからの日々で忘れてしまったのだ。……余も一度は迷宮の奥を目指した身である。現場の苦しさは分かっているつもりだ」


 肩書きさえなければ率先して地下に潜っていた、とアニッシュは誇張ではなく本気で語った。

 ……なお、アニッシュの現在の肩書きというか立場は、滅びた帝国を建て直すために嫁いできた帝国戦闘姫の婚約者なのだが――、



「――ど、どっ、どういう事だ!? 既に森の種族とオリビアの女と婚姻していて、私が三人目ッ?! いや、まだ増える予定? どういう事だぁーーっ!!」



 ――現在、黒い叔母の策略により婚約者の数が増加し続けている模様。


「……はぁ、本当に立場を忘れて地下に潜りたいぞ」

「が、がんばれ」

「十人ぐらいまでなら御影ぜんれいがいるゆえ、諦めよう。ともかく、迷宮魔王は討伐の段取りをつける。僅かな猶予でしかないが、その間に御影には竜頭魔王を倒す目処をつけてもらいたい」


 仕事と婚約者に追われるアニッシュは要点だけ伝えて去っていく。




 竜頭魔王の情報収集は『鑑定』スキルを持つアイサを主軸に、リリームやゼナ達エルフチームに担当してもらっていた。ルーター級との戦いに彼女達が現れなかった理由は、観測と調査に専念してもらっていたためだ。

 美形率の高い一室で、ゼナより一次報告を聞く。



「森の種族の古文書の回収。原型一班オリジナル・ワンの魔法使い職が残した報告書の再調査。そして、のーとぴーしーの文書をまとめた。やはり、異世界こちらに竜頭魔王の種族を断定できるものはなかったが、禁忌の土地に似た生物がかつて生息していたと分かった」



 まだ不器用にであるが、ペーパーが貸し出したノートPCとプロジェクターを使っていた。エルフ語フォントまで自作したらしくスライドする報告書が壁に投影されている。その所為で俺は読めないのだが、絵が多いので問題はない。


「流石は禁忌の土地と言える。バハムートの原産地と我々は考えている」

「あんな空飛ぶ巨大異形、地球にはいないぞ」

「かつて生息し、今は絶滅した存在になっている。ペーパー・バイヤーから聞いた名前ではバハムートではなかったが」


 スライド画に映り込んだのは二枚の画像だ。

 一枚は地上へと下りてきている最中の竜頭魔王を撮影した画像。

 もう一枚は岩の画像。黄土色の部分が柄となっており、形状は隣の竜頭魔王の写真と酷似している。下方に曲がる牙。左右に突き出した眼球。並んだヒレ。瓜二つだ。



「禁忌の土地ではアノマロカリスと呼ばれているそうだな」



 ペーパー・バイヤーは一目見て竜頭魔王の正体に気付いていたらしいのだが。どうして俺が知らないのにペーパーが知っているのか問い詰めると、俺が休んだ大学の講義でしっぱり勉強したから、と返されてしまった。止むをえない理由があったとはいえ、勉学は大切だな。


「結論から述べよう。竜頭魔王を倒す術は発見できていない」


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 助けたいシリーズ一覧

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