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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
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21-11 認識強化

 俺や黒曜のみに聞こえる声は、己を最初の救世主職と語った。

 俺が知っている最も古い救世主職は、ゼナから聞いた四千年前の人類滅亡の危機に登場したという伝説上の人物である。四千年前より以前の事は分からないため、四千年前の救世主職が初代であると断定し辛い。人間族では四千年も生きられないため別人の可能性もあるだろう。

“四千年前の救世主であっているよ”

「まさか、またエルフ??」

“いいや、僕は人間族さ。救世主職には『丈夫な体』スキルがあるから……ああ、君はまだCランクなのか”

 え、救世主職がランクアップすると寿命が伸びるの?

“僕の場合はまた少し事情が違うから気にしない、気にしない。そもそも慣れれば千年なんてあっと言う間さ”

 年月の長さや重さが感じられない軽薄な口調に顔を引きつらせる。黒曜に目線を向けてみると、こいつはこういう詐欺師だ、と無言で返事をされてしまった。

“今は僕の事よりも迷宮魔王さ”

 言われて思い出した訳ではないが、ルーター級の現状を確認する。

 落雷による麻痺から復帰したルーター級は体を拘束する氷と土の柱から逃れようともがいていた。


“あの迷宮魔王に『魔王殺し』の効き目が悪い理由は単純。……目が悪い”


 魔王の顔に注目する。大小二対ある目はどちらも白濁しており眼球が動いているようには思えない。地下生活に適用するために退化してしまったのだろう。

「視力と『魔王殺し』が関係している、と?? 視覚が元々ない奴にだって効果があるのに」

“視覚の有無ではなく、視覚を有していた魔王が視覚を失う事が重要なのさ。『魔王殺し』は魔王に天敵の存在を認識させて恐怖させるスキル。だから、感覚器官を失えば効果が薄れてしまうのは当然と言える”

 地上に現れたルーター級の顔を観測し、救世主職のキャリアから算出された答えだと初代救世主は断言した。脳内に響く声もそうだが、どうやって俺達を覗き見しているのだろうか。

「理屈は分かりましたが、俺はどうすれば?」

 退化した目を治療してやるという手が浮かばなくもないが、『奇跡の葉』系のアイテムはオルドボ商会に売りつけたため在庫切れだ。

“都合の良いスキルを持っていないのかい?”

「回復系のスキルはさっぱりですね」

“……何故、そんなからめ手を最初に思い付くのか。視覚を失った相手に己を認識させるスキルがあれば良いだけなのに。『既知スキル習得』で覚えていないのかい”

 『既知スキル習得』は俺に対して使用されたスキルをラーニングし、自由に使用するものである。初代救世主はこれまでの戦いの中でテレパシーのような精神攻撃を受けた覚えがないか、と脳内に対して直接訊たずねてきている。

「うーんと、現在進行形で受けているこれは?」

“これ、指向性は強いけど『神託オラクル』だからね。攻撃ではないから”

「となると、うーん」

“CランクでありながらSランクスキルの『魔王殺し』を有していたりと、君は随分とアンバランスだ”

 そう言われてもすぐには思い出せない。

「俺だけに訊かず、黒曜にも訊いてくださいよ」

“黒エルフ君の場合はスキルを魔王や魔族に使わせる前に『暗殺』してしまうから……”

「ふん、誰が死に覚えなんてするかっ!」

 救世主が三人揃っているのに情けない。

 初代救世主本人はどうなのだ、とたずね返してみたが、救世主を休職しているためスキルを使えないとほざいている。案外役に立たない。


「視覚に頼らず敵に強く認識させるスキル。スキル。――あっ、あった」


 一つだけであるが、使えそうなスキルを今思い出した。効果が強過ぎて使い所が難しいが、幸いここにいる仲間達のほとんどが耐性を持っている。

「応用すればいけるか。いや、それでも天竜が使えなくなるのはマズいか」

「旦那様よ。先程からブツブツとどうしたのだ。我が使えなくなる訳がなかろう。信頼が足らんな」

「いや、そうは言うがあれを食らえば色々マズい」

 仲間達の状況と手持ちの装備やスキルを思い浮かべる。『魔王殺し』を完全に発動できた後に天竜川魔法使い職による砲撃。大ダメージを与えられるだろうが、それだけでは決め手に欠ける気がする。


“ふむ、マズいな”


 初代救世主は俺の独り言のような思案に相槌を打った訳ではなかった。氷の巨柱が一本、横倒しになって三つに砕けていく光景に対して感想を述べたのである。ルーター級の動きを抑えきれず魔法の拘束が破壊されていく。

 もう考える時間はほとんど残されていない。

「迷宮魔王について、他に明確な弱点はないのですか?」

“強いてあげれば、ワームの弱点たる腹部になるだろう。そこが一番柔らかい。土属性と思しき迷宮魔王を大地と繋げたままにしておくのも愚策だから、地面から出ている辺りから斬り飛ばせば良い”

 簡単に斬ると言うが、胴体の細くなっている部分でも四車線道路以上の幅がある。腹の部分を狙おうと思えばルーター級を横倒しにする必要もある。

「横倒しにするためにも、やはり天竜が必要になるのに――」

 ルーター級の頭部に押されてまた柱が倒れていった。

 巨大な鎌首をもたげていくワームの頭部が俺達へと振り下ろされるまでわずか。

「――こうなれば出たとこ勝負だ!」

 時間切れ直前に俺はスキルの使用を決意する。


「『既知スキル習得』発動。習得スキルは『怪物的誘惑テンプテーション』!」


==========

“『怪物的誘惑テンプテーション』、人為的な恋により精神を支配するスキル。


 フェロモンを用いて性別を問わず相手を支配する事が可能。

 『魅了』との相違はスキル範囲が広い事と、相手の行動を阻害するのではなく相手をスキル所持者に従わせたいと思わせる作用にある”

==========


 俺が知る中で最も高濃度かつ広範囲に広がる精神作用スキル、淫魔王がただよわせていたフェロモンを汗腺から大気中へと解き放つ。

「御影から汗の臭いが急に!」

「汗というな、失礼な」

 俺と同じく『成金』スキル等で精神耐性を備える皐月達は問題ない。

「…………そうか、お前は使えるのか」

 淫魔王に育てられた黒曜も特に悪影響を受けているようには見受けられない。


「ふっ、この程度のスキルで土地神たる我がどうにかなるものではな……ひゃぁんっ!?」


 ……特に防御手段を持たない天竜は二秒で速落ちしていた。体をビクリと震わせた後、翼をだらけさせて大地に寝そべっていく。

「旦那様ぁぁんっ」

「て、天竜、大丈夫か?」

「うふ……うふふふっ、お情けをくださいまし。具体的には繁栄しましょう!」

 ドラゴンのまま頬ずりされても鱗が痛いだけである。

 天竜は役立たずになってしまったが、ドラゴン繋がりで真正面にいる巨大ワームにも影響が現れている。完全に魅了されて呆ける程ではないにしろ、動きを止めて鼻をヒクヒク動かして俺の臭いを強く感じ取っているようだ。

 俺を感じ取っているという事はつまり、救世主職への認識を高めている事にも繋がる。フェロモンに刺激されて、失った視覚を補うために嗅覚その他が鋭敏になっているはずだ。

「旦那様のいけずぅ。我というドラゴンがありながらワームごときに浮気して、にゃはぁ」

「天竜、いいかげん離れろ!」

 完全とは言い難いが先程までよりも『魔王殺し』の効果は高まっている。二割ぐらいの効果から八割効果まで上昇していると直感できる。

 この好機を逃しはしない、と皐月達は魔法の詠唱を開始した。赤いドレスが内側から熱く照らされ、黄金色の電流がほとばしる。


「皆、全力でいくわよ。ここで勝負を決める。獅子身中のトカゲを狩る……目標、駄竜!」

「ペットの分際で発情したドラゴンを叩くです。敵は背後にありですッ!」


 違う。そっちの方向にワームはいない。

“最近の子は色々規格外だね。魔王と戦っている最中なのに余裕がある”

 自重しろと皐月と落花生の脳内でささやいてあげてください。

“え、ドラゴンを発情させている君の方なのだけど”

「黒曜! この脳内ボイスの止め方教えてくれ!」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

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