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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
302/352

21-10 角度良し

 迷宮魔王の鼻先をかすめて天竜は飛ぶ。縦軸に回転しながらクローを繰り出して髪の毛のごときハブ級を数本まとめて斬り裂く。断面の見えるハブ級がまだ動いているが雑魚は放置された。

「俺達が背中に乗っている事を少しは考えろッ」

「戦闘中ゆえ気にするなッ! うりゃッ」

 ルーター級の肌の上に着地し、スライドしながら竜の爪で肌を傷付けていく。ダメージは確実に入っているものの、体格差を埋める程ではない。一キロメートルのルーター級に対して七十メートルの天竜。比率は人間と蚊に等しい。

 『神格化』した天竜の輝く尻尾が振り下ろされて血飛沫が上がるが、これも切り傷程度に過ぎない。

 いや、ダメージが通じるだけでも天竜の『力』は誇れるものである。


「……いかん、時間切れだ」


 ふと、天竜がぽつりとつぶやく。

「何の時間が、切れたんだ??」

 まぶしかった光がしぼんでいき、天竜の『神格化』が途切れる。これでは与えるダメージが更に小さなものになってしまう。

「おい、天竜! スタミナ切れか!?」

異世界こちら上で『神格化』して戦えるのは三分が限界のようだ」

 まるで銀河の警備隊星人みたいな事を言って天竜がくやしがっている。

「ふざけている場合か、メスドラゴン!」

「ふざけてなどおるか! そもそも、土地神職の我が担当外地域で本領を発揮できるはずがなろうが!」

 群でやってくるハブ級に押し負けて空へと後退していく。まだ戦えない事はないもののダメージソースが不足している。ルーター級の討伐は正直厳しい。

「天竜でも駄目か。この状況を打破するとなれば『暗殺』だが難しいか」

 アサシン職の『暗殺』は心の臓を突く。転じて心を突く。心理的な隙が大きければ大きい程に成功率が高い。ワームのように野生生物そのままな獰猛一色な奴に対しては相性が悪いといえた。

 天竜が大空を猛スピードで旋回していく。追尾してくるハブ級がシーカーミサイルのごとくだ。Gがきつくて落とされないようにしがみ付くしかない。

「ペットの危機だぞ、旦那様。どうにか、せよ!」

「無茶、言うなっ!」

 違う角度からもハブ級が迫っていた。包囲されつつあり、このままで撃墜されてしま――、


「――遮断、業火、隔絶、絶炎絶壁、その壁は何人たりとも通さず通せず、近寄りし悪漢は燃え尽きるであろうッ!」


 下方のハブ級の一群が、突如空に生じた長い炎の壁に突っ込んだ。壁を突破した頭はこんがり焼けて炭化してしまい失速していく。

「敵はデカブツ! 定跡通り目を狙っていくけど、まずは動きを止める! アジサイ! ラベンダー!」

「――氷結、巨柱、束縛、零下神殿、築かれたオブジェたる白き象徴は決して崩壊せず融解せず」

「――築城、巨柱、束縛、土着神殿、築かれたオブジェたる大地の象徴は決して崩壊せず風化せず」

 ルーター級の体を拘束するように天空からは氷の巨大な柱が数本落ちてきて斜めに刺さる。対して、地面からはブラウンのオベリクスが斜めに突き上がる。スカイツリーのごとき柱が格子状となって絡み合い、堅牢な檻となって巨大な猛獣を内部に封じ込めた。

「落花生! 出番!」

「指図されるまでもないですッ。――浄化、雷鳴、来迎、天神雷神、神の顕現たる稲妻にまつろわぬ存在は焼き尽くされる事だろう!」

 急速に暗雲が発達したかと思えば、その暗雲を突き破って野太い稲妻の鋭角が姿を現す。拘束を逃れようとしてもがくルーター級の顔、特に白く退化した目の部分へと集中して落下。一キロの長さを感電させるだけでは飽き足らず地下へと通じる体の奥底にまで電流は走り続けた。

 頭部の無数のハブ級も含めて、感電したルーター級は全身を震わせながら顎から倒れていく。

「皐月達かっ! よく間に合った!」

 オルドボ商会の妨害活動のために別行動を取っていた天竜川魔法使いが集まってくれたらしい。ここにどうやってたどり着いたのかと空から彼女達の居場所を探していると、先に煙を上げて横転しているL‐ATVが見付かった。あれはペーパーの車なのだが、まあ良いか。

 人類最高峰の魔法使い職に相応しい魔法にてルーター級に打撃を加えている。一つの属性に限ってではあるが、真性悪魔の六節魔法に引けを取らない。


「……ガス欠」

「無理し過ぎた」

「もう駄目です……」

「ちょッ、皆倒れないでよ、皆!?」


 とはいえ、ルーター級を抑えるために『魔』を大量投入するしかなかったようだ。皐月を除いたアジサイ、落花生、ラベンダーが倒れ込んでいく様子を目撃してしまった。

 落花生の雷を受けて麻痺状態にあったルーター級が、もう口を動かし始めている。Sランク魔法使い職の全力でもたった数分の優勢しか取れないのか。

「もうっ、皆ったら! せっかくの活躍の機会でしょうに!」

「……確かに、です。裏技を使うしかないですか。師匠に渡している『魔』を一時的に返却してもらうです」

 天竜に指示して合流のために飛んでいる最中、倒れていた三人が上半身を動かし始める。

 地上が近付いたので天竜の背中から跳び下りて急ぎ駆け寄る。その頃には三人は立ち上がっており、やや痛む頭に顔をしかめていた。

 最も近い位置にいたアジサイの体を支える。

「大丈夫なのか?」

「兄さんありがとう。全力は無理でも、八割ぐらいの出力ならいける」

 アジサイの影から足を伝って『魔』が流れ込んでいっている。本人の申告通り大魔法を放てるまでは回復しているようだ。

「皐月は衰弱死するまで『魔』を使っても、幼女になって復活するから私達よりも余裕がある」

「最悪そうするけど、まいったわね。あのワーム相手だと、命をかけても倒し切れるか微妙よ」

 せめて『魔王殺し』が完璧に発動してくれれば現状の俺達でも倒せるというのに、戦闘を継続する以上の事ができない。


“――い、聞こえ――る?”


 後ろから声をかけられたので振り返る。そこにいたのは落花生とラベンダーだ。

「何か言った?」

「いや、言ってないです?」

 二人の声には聞こえなかった。人の声にしては妙にハウリングしており、音飛びしている。


“――今まで――以上に――接――できそう――だ”


 また誰かから声をかけれたような。ただし落花生達には聞こえていないらしく、きょとんとした表情で俺を見ている。

 聞いた事のない声質だ。聞き取り辛いが、男の声に聞こえる。ここには俺以外の男がいないので空耳だろうか。

 ただ、方向を探りながら周囲を見渡していると、俺と同じような行動を取っている人物が一人だけ存在した。

「……黒曜、何か聞こえた?」

「いいや、さっぱりだ」

 エルフの長い耳に指を突っ込みながら否定されても困るのだが。


“――無視は――目だよ。黒エルフ君。お、アンテナの向きが良くな――きたかな。そこの神様――の翼を開くようにしてくれ――る?”


 あー、あー、聞こえない。と黒曜は何者かの声を無視し続けている。

「無視するのが身のためだ。お前は何も聞こえない」

「いや、そうは言うが……」

“――その魔王の――討伐ヒントを教えるから、さっ! おね――い”

「って言っているし」

「そいつはいつもそうだ。自分は引き篭もって出られない癖に、無理難題を押し付けてくる真性悪魔みたいな奴だ、ケッ」

 姿の見えない声の主は随分と黒曜に嫌われているらしい。黒曜に好かれている人物に心当たりはないが、ツバを吐かれる程に嫌われている人物も珍しい。

 反対されているので無視したいが、ルーター級がよろよろと動き始めている。迷っている時間はなさそうだ。声の人物の討伐ヒントとやらに賭けてみよう。

「天竜、翼を広げてくれないか? アンテナみたいに」

 指示の意味が分からないなりに天竜が翼を広げてくれると、声がこれまで以上にクリアに聞こえてきた。


“――良かった。地球いせかいの救世主職は素直で助かるよ”

「こちら、感度良好」

“――うん、こっちも聞こえる。君のペットが『神格化』してくれたお陰で目星を付けられた”


 天竜が翼を広げただけだというのに、声の人物の姿は見えないままだというのに双方向で会話できてしまう。

「貴方は何者で??」

 基本的に、初めて出会った人とは自己紹介である。顔が見えない程度、SNSが発達している地球であれば珍しくもない。


“――僕は最初の救世主職さ。最近は創造主の代行業ばかりしているけどね”


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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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