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"ワル"ではあっても"クズ"ではない、自称天才・桜木花道がもたらす物語の躍動感

三井寿に始まったこの「スラダン」コラム、湘北高校のメンバーもいよいよ大トリの主人公・桜木花道のみを残すこととなった。
桜木花道という主人公は数多くあるジャンプ漫画の中でも物凄く強烈なインパクトをもたらし、ジャンプ漫画史に残る伝説の「素人」主人公である。
「SLAM DUNK」という作品には様々なキャラクターのドラマが詰まっているのだが、桜木花道視点で見るとこういえるであろう。
バスケットマン未満の不良が真のバスケットマンになるまでの物語」と……この「真の○○になる」というモチーフを読者の目に焼き付けたのが桜木花道だ。

今まで紹介してきた湘北バスケ部のメンバーたちが超高校級のスタープレイヤーであり、要するに「バスケットのプロ予備軍」として描かれている。
それに対して桜木はバスケ経験はたったの3ヶ月であり、バスケのいとはも全く分からないという「素人」だが、最終的には湘北高校の切り札にまで上り詰めた。
数々の欠点を露呈させながらも一人前のバスケットマンへと成長していく桜木花道の一挙手一投足に、読者はもちろん劇中の人物たちも注目せざるを得ない。
果たして、そんな欠点だらけの不良はどのようにして一人前のバスケットマンにのし上がっていったのであろうか?

「ミスター余計なことしたがり」という超問題児

まず桜木花道という人物を一言でいえば「ミスター余計なことしたがり」という超問題児であり、その破天荒さが最後まで性格的欠点として描かれている。
赤木晴子と出会うまではいいところが全くなく、水戸たちのような不良の取り巻きを連れてその日暮らしをしているだけのチンピラであり、髪型も赤毛のリーゼントだ。
さらにはバスケ部に入ってもその性格的欠点が治っていくどころか、むしろ赤木や流川に対して次々と喧嘩を売って部内で数々の問題行動を起こす。
熱血漢といえば熱血漢だが、いわゆる赤木のような品行方正で上品な優等生タイプではなく、言葉遣いも荒っぽいし何かと一喜一憂する。

更には大した実力も実績もないくせに周囲に散々「天才桜木」とビッグマウスを叩き、陵南も海南も山王もまとめて「俺が倒す」なんて言い切ってみせるのだ。
その性格描写は同じ1年生の孤高のスーパールーキー・流川楓とは対照的であり、とにかくもテンションの上げ下げが激しく、友達にはなりやすいかもしれないがすぐに頭突きをかましてくる怖さがある。
まるでヤンキー漫画の主人公がそのままスポーツの世界に足を踏み入れてしまったような怖さがあり、今だと格闘家兼YouTuberの朝倉未来がこれに類するであろうか。
流川に関しては一度コラムで書いたのでそちらをご覧いただきたいのだが、とにかくどこまでも流川と桜木は対照的な人物として描かれていた。

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ストレートな人物像

流川楓という人物は決して多くを語らずにほとんどをプレーで語り、無口で無愛想ながらも奥底にバスケットへの飽くなき情熱を秘めている。
だから決して言葉で多くを語ることはしないのだが、その分背中で見せるスター性が凄まじく超一流の実力とセンスを持ち合わせた「バスケットの申し子」であり、「バスケそのもの」であった。
対して桜木はとにかく感情を表に出す人であり、怒り・悲しみ・苦しみ・動揺・不安・喜び・楽しみといった感情をこれでもかというくらいに全身を使って表現する。
常に流川を意識しながら、全く手が届かないとわかっていながらも常に前に出ては空回りし、しかしそれと同じくらい数々の名場面を生み出した。

そんな桜木であるが、物語序盤〜県大会予選、翔陽戦の序盤まではほとんどいいところがなく、時折凄いところを発揮しては直後にその性格的欠点で全てを台無しにする。
プラスマイナスゼロでいえば、前半はむしろマイナスが多かった人物であり、今このような主人公を出そうものならたちどころに炎上してしまうであろう。
湘北バスケ部のメンバーの中で赤木と桜木は二大不器用であり、またそれ故に涙脆く義理人情に厚い人物として描かれているが、赤木と桜木では「品格」「知性の有無」という点で対照的だ。
赤木はとても優しく仲間思いだが苦悩や葛藤を一人で抱えこみ優しさを厳しさの鎧で覆い隠しているが、桜木はむしろ包み隠さずにどんどん表に出すことで自分を表現する人物である。

「バスケットマンだからだ」に見え隠れする義理と筋の通し方

桜木花道がバスケをやろうとしたきっかけも決して褒められたものではなく、最初は「一目惚れした赤木晴子に認められたいから」という承認欲求であった。
しかもそのことは周囲にバレているし、晴子本人もそれに気づいているわけだが、それ故に中学時代からの仲間であった桜木軍団からは「単純王」なんていじられている。
実際にバスケ部になんとか入った時も最初はとにかくいけ好かない流川の足を引っ張っていたし、バスケットなんて「ただの玉入れ遊び」とバカにしていた。
赤木とも反りが合わず、かといってそれを上手く隠せるほどの性格的な器用さもないため柔道部の青田に利用され、柔道部に入らせようとするが、桜木はこう答える。

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桜木なりの義理と筋

ここで下手に青田の誘いに乗って柔道部へ行こうものなら、桜木もただのチンピラにしてクズなってしまうわけだが、ここでしっかりバスケ部への義理と筋を通す。
難しいことは分からず感情を全身で表現する不器用な桜木だが、ここぞというところで「自分はバスケットプレイヤー」という意地と誇りをしっかり持っているのだ。
この一言は実際に見物に来ていた赤木・木暮・彩子姉さんの胸を打ち、赤木の心に大きく響くほどの名言だったし、私もここで初めて桜木を「かっこいい」と思った。
そしてそんなバスケにひたむきに努力する桜木を赤木たちバスケ部はもちろん桜木軍団も晴子たちも暖かく見守り、いろんな欠点を孕みつつも成長していく。

青田も指摘していたように、桜木のとんでもない身体能力があるならばバスケットよりも柔道や空手などのような格闘技の方が向いているはずだ。
実際柔道では部長の青田を軽々と背負い投げしたし、湘北高校バスケ部が壊滅の危機に陥った時も誰一人敵わなかった鉄男をその拳と蹴りだけで軽々と吹き飛ばしてしまう。
それはバスケットにおいても活かされており、持って生まれた身体能力の高さと底なしのスタミナ、そしてめちゃくちゃに動きまくる運動量は超高校級である。
そんな男が格闘技ではなくバスケットという複雑なチームスポーツを選び、敢えて苦手な分野を選んで結果が出るまで挑戦を続けるというのが桜木の魅力だ。

もちろん、あくまでバスケットの漫画だからバスケ以外で結果を出すなんてあり得ないという大枠の前提はあるが、それだけではなく敢えて自分にとって未知の分野に挑み諦めない姿勢が大事である。
このヤンキー漫画のような型破りのキャラクター性でスポーツ漫画の常識を破壊しつつも、ギリギリのところできちんと義理と筋を通し成長し、結果を出していくのは並大抵のことじゃない。
普通のヤンキーであれば途中で挫折して嫌になったかもしれないが、桜木は決してバスケを心底嫌だと思わずきちんと結果が出るまで粘り続ける。
"ワル"ではあっても"クズ"ではないという一本筋の通った自称天才の素人・桜木花道の芯はこの「バスケットマンだからだ」という言葉とともに出来上がったと言えるだろう。

一切の嘘がない躍動感溢れるプレー

桜木のプレースタイルはスマートで華麗な流川とは対照的であり、リバウンドとディフェンスを中心に泥臭く不器用で荒削りだが、それ故に破天荒で躍動感が溢れるものとなっている。
予選までは何回もファウルを取って連続退場しており「退場王」なんて不名誉なあだ名をつけられており、また陵南の田岡監督は決勝リーグで戦った時も桜木を湘北の不安要素と決めつけていた。
また全国大会で戦った王者・山王工業もビデオで桜木のプレーを分析した時は「なぜこんな素人が湘北のレギュラーなのか?」なんて雰囲気になり「い、一応……要注意だぞ」なんて言ってもいる。
海南戦以降退場はなくなったものの、それでもやはり「未経験の素人」というディスアドバンテージは物語の最後まで桜木の欠点として重くのしかかっていた。

だが、桜木のプレーにはひねりも策もない分一切の「嘘」がなく、その一挙手一投足に流川とは別の意味で誰もが目を奪われ勝負する気を起こさせてしまう。
例えば海南の牧は前半10分の段階で桜木を要注意人物として「10番、俺がマークしてやる!」と本気でぶつかっていたし、仙道もまた「桜木は勝負する気を起こさせる」と評していた。
そして山王戦の後半で野辺に変わって桜木をマークした「丸ゴリ」こと河田兄は桜木が実際に自分のディフェンスについたことで桜木のとんでもない身体能力に驚いている。
おそらく遠目に見ているだけではわからなかった桜木のことを1 on 1で直に相手したことでようやくその凄さがわかったのではないだろうか。

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河田の桜木分析

そう、桜木花道というバスケットマンの凄さ・恐ろしさは彼と直に戦ったことあるものだけがわかるものであり、上記の柔道部の青田もそれを感じ取っていた。
これまで紹介してきた赤木・流川・宮城・三井の4人も試合の中で成長こそしていくが、実力も実績もそれなりに身についているため意外性は感じられない。
元々全国区で通用する実力をこの4人は持っていたし、だからこそそれだけ相手選手からのマークにも遭いやすいという問題点もまたあったのだ。
特に流川と赤木は敵チームから見て真っ先に警戒すべき存在としてマークされることが多く、山王戦でも最後までこの2人が河田たちのマークに遭いやすかった。

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桜木のリバウンドのすごさに驚く人たち

その点、桜木のプレースタイルはどこで何を仕掛けてくるかわからない意外性があるため、気がつけばとんだ伏兵にやられたということも少なくはない。
確かに欠点だらけでミスも多く荒削りだが、ドツボにハマった時にとんでもない力を発揮し、だからこそ一切の嘘がないダイナミズムに多くの読者は惹かれてしまう。
しかもたった3ヶ月で全国No.1の強豪たちまで驚愕させてしまうのだから、自称天才というのもあながち間違いではないといえるだろう。
後半に入ってくると、最初は苛立ちの種でしかなかったビッグマウスや増長しやすい性格もまた彼の愛すべき個性として受け入れられるようになっていく。

目の前の青春に全てを捧げた「素人」の凄さ

そんな型破りな桜木花道のプレースタイルが私たち読者に示してくれたのは「素人だからこそ見せられる無限の可能性」ではないだろうか。
桜木はかつて喧嘩として様々な相手と戦ってきたことも大きいのだが、プレイにも性格的にも一切の「嘘」「邪念」がなく、純粋で真っ直ぐだ。
そして、だからこそその純粋さが後半では湘北にとって大きな切り札となるわけであり、安西先生も彼のそんな性格を高く評価している。
山王戦でボロボロにやられてもうダメかと諦めている4人に対して桜木は「おめーらバスケかぶれの常識は俺には通用しねえ。シロートだからよ」と開き直った。

このシーンが数ある名場面でも象徴的だったのは素人には素人なりの戦い方があり、それは決してプロの戦い方に劣るものではないということだ。
赤木・宮城・三井・流川の4人は確かに実績も積んで自分のプレースタイルを確立しているが、その実力が通用しない相手には絶望しやすかった。
だが、桜木は自分が嫌という程「素人」という現実を叩きつけられてきたため、相手が全国No.1の王者であろうが全く絶望せず、むしろ楽しんですらいる。
この桜木の「絶望するのではなく目の前のものを全て受け入れて楽しむ」という桜木イズムもといスラダンイズムは作品の味にすらなった。

そして山王戦のラスト、限界を超えて戦う桜木は流川がシュートを決めようとした時、シュートの構えを作って淡々とこう言い放つ。

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左手は添えるだ

何とここで桜木はゴール下の練習をするときに、赤木に再三言われていた「左手は添えるだけ」という基礎基本を呟く。
そして流川からパスをもらった桜木は2万本のジャンプシュートで最後のブザービートを決めるわけだが、このシーンが感動的なのは決して桜木が決めたからというだけではない。
翔陽戦、海南戦、そして陵南戦と終盤で象徴的に用いられてきた桜木のダンクシュートではなく、2万本の特訓で身につけたジャンプシュートというのが最高に渋いのだ。
目の前の青春に全てを捧げ、たとえ素人であったとしても努力すれば実現不可能な夢はないということをこのブザービートでのラストシュートが教えてくれた。

この「素人ならではの戦い方」という、宮城が抱えていた「ハンデを抱えた者ができる戦い方」とは似て非なるテーマが桜木花道が背負っていたものである。
だからこそ、世の中で「自分には才能がない」「初心者だから」「素人だから」と思っている人たちにとって桜木の存在は希望の象徴となったのだ。
流川が「理想」「憧れ」を体現した存在だとするなら、桜木は「共感」「可能性」を体現した存在であり、しかもそれが折り重なっていくプロセスもまた美しい。
桜木花道という、最低で最高の"ワル"ではあっても"クズ"ではないバスケットマンが主人公だったからこそ、「SLAM DUNK」はこれだけ躍動感に溢れる物語となったのである。

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