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スーパー戦隊シリーズ第44作目『魔進戦隊キラメイジャー』(2020)

スーパー戦隊シリーズ第44作目『魔進戦隊キラメイジャー』は前作「リュウソウジャー」の惨憺たる大ゴケを見て、手堅い路線にしようとしたのでしょう。
ゲキレンジャー」以来13年ぶり(ライダーも含めると8年半ぶり)となる塚田プロデューサーに「ゴーカイジャー」以来9年ぶりとなる荒川脚本です。
この組み合わせで想像するのは2004年の『特捜戦隊デカレンジャー』で、私はまたもや嫌な予感がしてしまったのですが、それが見事に的中しました
蓋を開けてみれば前作とどっこいどっこいというか、前作の逆張りを意識しすぎた結果かえって目も当てられない事態になってしまった作品です。

本作に関してはもう分かりやすく「評価の良し悪し」と「個人的な好き嫌い」が直結する作品だと言っていいのではないでしょうか。
すなわち真ん中の評価=「凡作」という評価はなく(あったとしたらそれはその人に評価のセンスがない)、好きな人は「名作」と評価し嫌いな人は「駄作」と評価する二極化が起こっています。
そもそも塚田プロデューサーの作品自体「マジレンジャー」以外心底から好きになれた試しがないし、荒川作品にしても「ゴーカイジャー」以外を好きになれた試しはあまりないんですが。
ただでさえ私との相性が微妙な本作のメインをこの2人が手がけているとあってはそりゃあもう楽しく感じられないのは当たり前であり、完全な作り手の自己満足に終始してしまっています。

強いて心配になった点を挙げるならば、レッド役の中の人が新型コロナウイルスにかかってしまい撮影に支障が出たくらいですが、それは作品のクオリティと何ら関係のないことです。
そういう対外的事情は受け手の知ったことではないし、仮にそれで作品の評価が揺らいでしまうようであれば、その程度の強度しかない作品だということではないでしょうか。
ドラマの内容、アクション、世界観、ストーリー、キャラクター等々もう全てにおいて2010年代の戦隊シリーズの悪いところばかりが噴出してしまったという感じです。
そのくせ価値観が洗練されているのかと思えばそうでもなく、むしろ物凄く古臭い価値観が時代に合わなくなっていくというアナクロニズムが目立ってしまっています。

使っているモチーフに目新しさがあるわけでもないし、かといって既存のテーマを深掘りして新しい価値観やヒーロー像を提示するということもできていません。
根本的な作り手の力量のなさが露骨に出てしまったシリーズであり、その意味ではまだ前作の方が試みとしては新しいことをやろうとしていたという印象すらあります。
本作はその点「お前ら戦隊ファンはこういうのさえやれば喜ぶんだろ?」というのが見え見えなのですが、本稿ではそこを詳しく突っ込むことで総合評価としますのでご了承ください。

(1)力さえ持っていれば何をやってもいいと思っている勘違い学生サークル

まず本作の立ち上がりから最後まで悪い意味で一貫していたのは「力さえ持っていれば何をやってもいい」という勘違いの学生サークルとしてキャラクターが設定されていることです。
私の知人はそんなキラメイジャーのことを「意識高い系」と評していましたがまさにその通りで、立ち上がりの1話・2話の段階でやっていることが歴代トップクラスに最低でした。
1話目ではあろうことか主人公の熱田充瑠が戦闘中に周りの迷惑も顧みずお絵描きを始めてしまい、挙げ句の果てに発狂してキラメイジャーに覚醒するというとんでもない流れを見せています。
さらに2話目では陸上選手の速見瀬奈が陸上の大会に出たいからという理由でヒーローの使命を断り、さらにそんな瀬奈を4人が放置してしまうというあり得ないことをしているのです。

確かに歴代でも最初に使命を断るヒーローないしヒロインはいましたが、それはそのキャラクターなりの考えや信念、生き様から自然に発生したものがほとんどで違和感がありませんでした。
しかし、本作では納得のいく心理描写やバックボーンの構築が不十分なために、単に優先順位をつけられない今時の若者にしか見えず、ヒーローとしてのスタートラインに立ててすらいません。
特に主人公の充瑠はその象徴みたいなもので、彼はいうならば荒川版ライトみたいな想像力の豊かさを持ったキャラクターですが、大人の覚悟を持っていたライトとは違い充瑠はただのクソガキです。
無自覚に周りを引っ掻き回して迷惑をかけ、それに対して謝罪すらしないのはライトもそうでしたが、ライトは己の使命に対しては物凄くストイックな男でした。

そのライトからストイックさを抜いて単なる放埓なガキに描いてしまったのが充瑠であり、塚田Pによると彼は「花より男子」の牧野つくしを想像したそうですが、これですら比較になりません。
牧野つくしは確かにパワフルな子ではありましたが、決して周りの迷惑を顧みない人ではなかったし、義理と筋はしっかり通して嫌なことは嫌だと言い貧しい家計を立派に支えた苦労人です。
単なる甘やかされて育っただけの充瑠にはそのようなライトや牧野つくしがしっかり守っていた一線や義理と筋といった部分がなく、ただ無軌道に動いているだけの地球外生命体にしか見えません。
そしてもっと気持ち悪いのはそんな主人公をなぜだか周囲が根拠もなく「あいつは流石だ」と太鼓持ちのようにして持ち上げることであり、またもやキング、タカ兄、ラッキーに続くマンセー系レッドの悪夢が来ました。

私は前作「リュウソウジャー」は世紀の大駄作だとは思いますが、大嫌いという程ではなかった理由の1つは主人公のコウが決して必要以上に周囲から持ち上げられることがなかったからです。
むしろ終盤ではコウ以外も見せ場がありましたし、負の御都合主義だったといえど、レッド以外の4人がトドメを指す倒し方は悪くなかったといえます。
本作に関してはその辺りすらなく、またもや無反省に2010年代戦隊のトレードになっていたレッドマンセーをはじめとする身勝手なキャラクターたちの立ち居振る舞いが許せませんでした。
「ルパパト」「リュウソウ」で歯止めのかかったレッド持ち上げ、そしてそんなレッド持ち上げに伴う無自覚なヒーローと言えない身勝手な若者たちの価値観は許容しがたいものです。
彼らの中にあるのは「力さえあれば何をやってもいい」と思い込んでいる、まさに「デカレンジャー」のジャッジメントシステムとなんら変わらない「力こそ全て」のヒーロー像でした。

(2)余りにもバリエーションが少なさすぎる特撮

2つ目に挙げられるのが余りにもバリエーションが少なさすぎる特撮であり、武器といい玩具といい、それから勝ち筋の見せ方といい山も谷も無さすぎる見せ方でした。
これに関してもやはり前作の逆張りをやって失敗したところであり、前作は騎士竜があまりに多いこと、そして強化フォームがあまりにも多すぎることが問題となっています。
しかしそれでも新機軸のものを見せようという気概はそれなりにあったので、高く評価こそしないものの何かできることを開拓しようというのは感じられました。
本作ではそれすらもなく、ロボット玩具にしてもなりきり玩具にしてもあまりにも少なさすぎて、流石に44作目なのだしもう少し増やしてもいいだろうと思ったのです。

確かに「ガオレンジャー」以降のスーパー戦隊シリーズが抱えていたのは「玩具販促と物語の兼ね合い」であり、玩具販促のために物語やキャラが犠牲にされている作品もありました。
しかし、それはあくまでも「玩具販促の物語上の意味づけをきちん行って欲しい」という意味であって、決して玩具販促そのものをやるなということではないのです。
ところが本作はなりきり玩具もロボット玩具もプレイバリューに乏しく、もはや没個性の領域を通り越して無個性とすら評した方がいいと思ってしまいます。
デザインが美しいわけでもないし、初期に打ち出した背景設定や物語としっかりつながっているというわけでもありません。

そのため巨大特撮にしても等身大アクションにしても、年間通して山も谷もへったくれもない単調な塩試合を延々と見せ続けられている気分です。
ラストの皇帝との戦いにしたって、それ自体は良くできているものの、結局は「デカレンジャー」の最終回を本作用に焼き直して見せているだけにすぎません。
デカレンジャー」の最終回はそれまでのクオリティの低さを多少加味してもそれを覆すくらいの迫力はありましたが、本作の最終回にはその迫力すらないのです。
だからどうしても最後までやっていることが「閉じた学生サークルの中で起こった戦隊ごっこ」の領域を抜け出ることがなく、普遍性のあるヒーローの面白さとはなりませんでした。

私が00年代以降の戦隊シリーズに対して思っていたことなのですが、主人公の守っているものが昔に比べてはるかに小さく狭いというのがある時期以降目立っています。
それは70・80年代戦隊とは違い、「戦いとは何か?」を初期設定の段階できちんと打ち出す必要があるからであって、個の視点から発するものである以上守れるものに限界があるのです。
しかし、そんな90年代以降の作品でも昔はそこから地球全体の話へ繋げていく工夫は凝らされていたのですが、その努力すらも本作は見事に放棄してしまったようです。
結果として、どうしてもキラメイジャーたちの戦いがご当地ヒーローと同様か、それ以上に狭い範囲のものにしか守ってないように感じられてしまいます。

(3)生理的嫌悪感が青天井のラブコメ描写

そしてこれが個人的に最も嫌だったのですが、荒川脚本をはじめ本作のラブコメ描写はあまりも青天井のどぎつさであり、生理的嫌悪感がMAXを通り越してオーバーフローしています。
元々「ジェットマン」の頃から私は荒川さんの描くアイドル回やヒロイン像が大の苦手でしたが、本作でいよいよそれが誰の目にも誤魔化しようのない形で白日の元に晒されました。
基本的に暇さえあれば頭の中は恋愛脳なキラメイジャーですが、かといってそれを井上脚本のように味わいのある大人の文芸のように見るには脚本家としての力量もスタッフの演出力も役者の演技力も追いついていません。
何だろうなあ、井上先生の描く恋愛は臭いけれどもきちんとした大人の愛になっており非常に奥深さが感じられるのですが、荒川氏が描くラブコメは本当に単なる童貞の妄想の域を抜け出ないものなのです。

特に小夜のキスシーンなんてあまりにも気色悪すぎて冗談抜きでリアルに吐いてしまうほどであり、アコちゃんラーメンに始まった荒川氏渾身のヒロイン描写がとうとうここまで来たかとウンザリしました。
これがアコちゃんラーメンの時にはまだ若気の至りで多少なり許せたのですが、それから30年近くが経っても同じようなことを繰り返しているのはもはや不気味というかホラーです。
そして最も気合を入れたであろう充留と柿原のラブコメにしても、とにかくくっつけさせようという意図はわかるのですが、あまりにも露骨すぎてかえって冷めてしまいます
為朝や宝路が女の子に愛されないネタであったり、本作のヒーローか否かの基準が「女にモテるかどうか」というものすごく古臭いものになっているのはどうかと思うのです。

これは作り手への嫉妬とか羨望とかいうことではなく、今の時代は恋愛なんてしなくても個人が個人として自由に楽しく生きることはできるはずです。
しかし、本作においてはどうにも荒川氏個人のラブコメやアイドル系路線ばかりが前に出すぎているためか、恋愛しない奴は人間じゃないと言わんばかりの価値観の押し付けが受け付けません。
もちろん本人たちにそのつもりがなかったとしても無自覚にそうなってしまっていて、それこそ昨今の言葉を借りるなら「所詮この世は陽キャが勝ち組、陰キャはおとなしくしてろ」というのがメッセージでしょうか。
何だかYouTubeの動画にありがちな陰キャを馬鹿にする陽キャの縮図そのものであり、恋愛至上主義の90年代ならともかく10年代においてそれは完全に化石化してしまったしょうもない価値観です。

アバレンジャー」「デカレンジャー」でもそうでしたが、私は荒川氏がヒロインを通じて提唱しているこの童貞丸出しの恋愛観やジェンダー観が大の苦手であり、最近ますますその癖が強くなっています。
その上で(1)で述べたように散々無自覚に身勝手な行動を働いているのに無根拠に「お前はすごい」と持ち上げられる主人公と、そんな主人公の太鼓持ちである仲間たちと敵組織。
力だけは安易に受け取っておき、「限界は超えないためにある」など言いながら、ではその限界を超えない戦いがどういうものかに対して真剣に向き合うわけでもない。
とにかく全てにおいて不徹底かつ中途半端であり、だからこの全編に蔓延しているラブコメ描写も本気で向き合ったものじゃないので全く乗れません。
結果としていつもの塚田P作品と荒川脚本の悪いところだけが残った作品だなあという印象にしかならないのです、まさかこんな結論になるとは。

(4)10年代戦隊の悪いところばかりが詰まった集大成

総じてまとめるなら本作は2010年代戦隊の悪い意味での集大成というか、「キュウレンジャー」とは別の意味で2010年代戦隊の行き着いた負の遺産ではないでしょうか。
根拠もなくやたらに礼賛され持ち上げられる主人公、まるで脅威感のない敵組織、狭い箱庭世界に終始しまるで広がりを持たないヒーロー像、そしてどこかで見たような無味乾燥でのっぺりとしたアクション。
それに加えて荒川脚本特有の気持ち悪いジェンダー観・恋愛観の押し付け、そして主人公たちの独善が物語として肯定されてしまう作風…これで好きになれという方が無理です。
ただ、逆に言えばスーパー戦隊シリーズが長いことを目を背けて来た問題点や欠点が図らずも本作でことごとく露呈したことの証でもあるのではないでしょうか。

聖地アタマルドだの何だのと前作同様いくらでも広げることのできる風呂敷を持ちながらそれを生かした作劇もできず、かといって既存のテーマと格闘するのも嫌という。
根本的に本作に見て取れる2010年代戦隊シリーズの本質は「甘え」であり、今まで積み重ねて来た先人たちの遺産に甘え、いたずらにそれを食い潰していたのです。
かといって、今の荒川氏や塚田Pに既存のテーマを集約しつつこれからに向けた新時代のストーリーやキャラクターを打ち出す力など残っているわけもありません。
だから、ある意味で本作は作り手がもう「自分たちにはこれしかできない」という開き直りを思い切って画面にぶつけて勝負してみたのではないでしょうか。

しかし、その潔さが必ずしも作品としての面白さや商品としての売上に繋がるわけでもなく、どれだけ作り手が一生懸命でもあくまで受け手に評価されなければ意味がありません。
本作はその点最後まで受け手に媚びるような描写ばかりを入れ、設定やストーリー、キャラクターの練り込み不足を表向きの明るさで糊塗しようとしました。
そんな過去作品で散々擦り倒したやり方を今更行われたところで面白みがあるわけでもなく、中弛みどころか年間通して緩慢なストーリー未満のプロット紹介が続くだけです。
だから本作には「ストーリー」も「シナリオ」も存在せず、精々が「ぼくのかんがえたかっこいいせんたいひーろーのしょうかい」でしかありません。

見る人が見ればどうしようもない作品未満だとわかる本作ですが、「掴み」だけは抜群にうまいので、その掴みに騙されれば受け入れてしまうのでしょう。
少なくとも私は本作が提示したものに思い切って騙され、その世界観やストーリー、キャラクターに感情移入して見ようという気は最後まで起きませんでした。
へー、次はこうなんだ、ふーん」という白けた気持ちで見てしまい、面白がる領域にすらならないという2010年代戦隊らしい特徴が出ていたと思います。
まあ逆にいえば、今のスーパー戦隊シリーズはここまで落ちぶれてしまったことを受け手に知らしめた作品であるとも言えるのですが…。

(5)まとめ


前作の反省を受け、本作は00年代戦隊でそれなりに実績のある古参のスタッフを揃えて、改めて「かっこいいヒーロー」を作りたかったのでしょう。
苦悩せずに前向きかつ軽やかに強いヒーローというのもそう意図したものだったと思われるのですが、出来上がったものはそのイメージからはとてもかけ離れたものです。
確かに1人1人が強いスーパースター的存在と設定されていますが、実際はそれを免罪符に好き勝手何してもいいという勘違いを起こした意識高い系の若者の話でした。
もちろんそこから描けるヒーロー像もあるのですが、結果的には「正統派」を描きたいのか「変化球」を描きたいのか、その軸足からして固まっていなかったことが露呈したのです。
その上でもう時代遅れとなった荒川氏の脚本に演出手法、アクションなどなどスーパー戦隊シリーズが抱えていた膿を噴出させたF(駄作)ではないでしょうか。

  • ストーリー:F(駄作)100点満点中5点

  • キャラクター:F(駄作)100点満点中10点

  • アクション:F(駄作)100点満点中10点

  • カニック:F(駄作)100点満点中5点

  • 演出:F(駄作)100点満点中5点

  • 音楽:F(駄作)100点満点中5点

  • 総合評価:F(駄作)100点満点中7点

評価基準=SS(殿堂入り)S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)X(判定不能)

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