幕間 爆乳勇者パーティーは脱走計画を練る




 夜。


 狭く蒸し暑い部屋の中、メイは苛立ちを爆発させていた。



「あーもう!! ムカつく!! まだお尻がヒリヒリするわ!! アイツ、いつか絶対にアタシの魔法で焼き殺してやるんだから!!」


「落ち着け、メイ」


「そうじゃそうじゃ。怒りに身を任せてもいいことはないのじゃ」


「落ち着けるわけないでしょ!! マリーだってアイツにどんな目に遭わされてるか!! きっと無理やり組み敷かれて酷いことされてるに違いないわ!!」



 メイは自分たちを裏切った忌々しい男に誰よりも優しい仲間が蹂躙される様を想像してますます怒りを露にする。



「こんな古代魔法さえなければ、アタシがアイツをボコボコにしてやるのに!!」


「メイ、奴の古代魔法はそなたの魔法でもどうにもならないのか?」


「……無理よ」



 ルナティアの問いに、メイは不機嫌そうに首を横に振った。


 メイは本来魔力量の少ない獣人でありながら、エルフに匹敵する魔力を持って生まれてきた特異な獣人だ。


 それ故に幼い頃には魔法学校へ入学し、あらゆる魔法を習得してきた。


 そのメイが不可能だと言うのだ。



「そもそも古代魔法を使えるアイツがどうかしてるのよ!! 古代魔法は何千年も昔に失われた魔法技術なんだから!!」


「……そうか」



 ルナティアはただ静かに頷き、どうやってこのピンチを乗り切ろうか考える。


 その時だった。


 憎きヒューガに居残りを命じられたマリーが、ひょっこり部屋に戻ってきたのは。



「み、皆さん、ただいま戻りまし――」


「マリー!! アンタ、アイツに変なことされてない!? 大丈夫!?」


「は、はい。ヒューガさんには何もされてません」


「本当!? おっぱい触られたり、お尻撫でられたりしてない!?」


「だ、大丈夫です。本当に何もされてませんから」



 心配して詰め寄ってきたメイに、マリーはどこか気まずそうに視線を逸らしながら頷いた。


 マリーの様子にルナティアが小首を傾げる。



「何かあったのか?」


「い、いえ、それは、その……」


「……何かあったなら、正直に話してほしい。私たちは仲間だろう?」


「っ」



 マリーは仲間という言葉にハッとした様子で、ぽつりぽつりと話し始めた。



「何ィ!? お主だけ美味いもの食ったのか!? ずるいのじゃずるいのじゃ!! 妾たちは硬いパンと温いスープだけじゃったのに!! 妾もそのハンバーグとやらを食べてみたかったのじゃ!!」


「あぅ、す、すみません。誘惑に負けてしまって……」


「いや、いい。よく話してくれたな、マリー」



 自分も食べたかったと駄々を捏ねるテレシアに対し、ルナティアは真っ直ぐマリーを見つめながら彼女を労った。


 そして、同時に険しい表情になる。



「どうやら奴は、マリーだけ優遇して私たちとマリーの仲を裂こうと画策しているようだな」


「ええ!? そ、そうなんでしょうか?」


「アイツならやりそうだわ!! 本ッ当に卑怯な奴ね!!」


「だが、チャンスだな」



 ルナティアのチャンスという言葉に一同は首を傾げた。



「チャンスって、何するつもりなのよ?」


「私たちは外部と連絡を取り、助けが来るまでの間、このままマリーに奴の注意を引いてもらうのだ」


「は? 連絡って、アタシたちはアイツの命令でこの部屋から出られないのよ?」



 メイは自らの首に浮かび上がる紋章をトントンと小突いて見せる。


 それはルナティアも理解していた。



「たしかに私たちは奴の命令には逆らえん。この部屋からは奴の許可なく出られないし、奴を直接攻撃することも叶わん。だが、方法はある」



 そう言ってルナティアは、今やビキニアーマーと化した伝説の鎧の胸当てを弄って何かを取り出した。


 それは、一枚の小さな紙。


 魔法が使えない者でも魔力を流すだけで紙に記された魔法を行使できる、スクロールだった。



「それって!?」


「我が王家に伝わる、緊急事態を知らせる魔法のスクロールだ。これを使えば、我が国の者たちに現状を知らせることができる。すぐにでも助けが来るはずだ」


「ほほう!! やるではないか、ルナティアよ!!」


「鎧を改造された時はあの淫魔に見つかるかと思ったが、要らぬ心配だったようだ。初代勇者様の加護かもしれん」


「早速使ってみましょうよ!!」



 希望が見えたことで沸き立つ勇者パーティー。


 しかし、その場でただ一人、マリーだけが浮かない顔をしていた。



「だ、大丈夫でしょうか? もしヒューガさんにそのことがバレたらどうなるか。そ、それよりも、今は下手に動かないで、ヒューガさんの機嫌を損ねないようにした方がいいのでは……」


「何ビビってんのよ!! 助けが来たらこっちのものなんだから!!」


「ああ、奴を他の者に倒してもらえば、私たちは自由の身になる。この手で奴に復讐できないことは遺憾だがな」



 ルナティアがスクロールに魔力を流し、救援を乞うメッセージを吹き込む。


 すると、スクロールから飛び出した光の粒子が鳥の形となって羽ばたき、壁を通り抜けてどこかへ行ってしまった。



「メッセージが祖国まで届いて、助けが来るまで一ヶ月はかかるだろう」


「うっ、結構かかるわね」


「その間、このことを奴に悟られないようにせねばならん。できるだけ怪しまれないよう、今まで通りに過ごすぞ」


「うむ!! 事が片付いたらあ奴には一生妾の奴隷として働いてもらおうかの!!」


「甘いわ、テレシア!! アイツは泣いて謝ってもアタシの魔法の実験台にしてやるんだから!!」



 爆乳勇者パーティーは浮き足立ち、だからこそ気付かなかった。


 さっき使用したスクロールが実はシリルに見つかっていて、その連絡先を書き換えられていることに。


 計画が筒抜けであることを、爆乳を揺らしながらはしゃぐ彼女たちはまだ知らなかった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

ルナティアたちの部屋の中は狭くて暑いので、汗とフェロモンの匂いがムンムンに漂っている。熱中症にならないように備え付けのウォーターサーバーで水だけは飲めるので安心。


今日の作者の一言

日間20位!! 週間34位!! このまま目指すぞ1位!!



「これはお仕置きが楽しみ」「筒抜けなの草」「ちょっとその部屋入らせろ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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