「心の糧」は、以前ラジオで放送した内容を、朗読を聞きながら文章でお読み頂けるコーナーです。

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坪井木の実さんの朗読で今日のお話が(約5分間)お聞きになれます。

小さな幸せ

村田 佳代子

今日の心の糧イメージ

 朝、寝室の窓に差し込む光が、壁に掛かる絵に当たると、描かれているマザーテレサに向かって、心の中で「おはようございます!」と言ってベッドを離れます。1981年4月に初来日なさったマザーのお姿を描いた絵です。これは、同年2月、来日されたヨハネ・パウロ教皇様が大雪の後楽園球場で司式されたミサを描いた作品と共に、「善き訪れ」と題した個展で発表した思い出の作品です。

 この時の個展がきっかけとなって、カトリック雪の下教会の為に資料を頂いて取り組んだ歴史画、「鎌倉のキリシタン」三連作を描く事になり、カトリック美術協会会員の仲間に加えて頂きました。

 以来、資料を頂き、現地取材の連絡を頂く注文の場合は、展示の場所を確認して、その聖堂の壁面に相応しいサイズと色調で殉教者を描くことが仕事の一つになりました。

 当時は自身のアトリエで子供たちを指導していましたし、鎌倉市の生涯学習の講師として市民の美術サークルをいくつも担当し、美術史の講義から受験生のためのデッサン教室、子供達には工作と絵画をと、連日忙しく過ごしていました。この状態が20年以上続きましたので、年に一、二作の歴史画を心を込めて制作するのは何にも勝る小さな幸せ時間でした。

 還暦を迎え、教室を縮小してからは、積極的に自分の意志で本当に調べたい人物や歴史について取材し、学び、十連作、二十連作という大作に取り組むようになると、小さな幸せではなくなり、困難を克服して辿り着く達成感で「描かせて頂けた」という感謝を神様にお捧げする事となりました。

 そんなわけで寝室の壁のマザーテレサは、毎朝私に人生の分岐点を思い出させてくれる、大切な小さな幸せです。