[台本]七夕にて
登場人物
○九重 優太(ここのえ ゆうた)
男性、■■歳
残された者。
○日乃夢 真実(ひのゆめ まなみ)
女性、故人
去って行った者。
↓これより下が台本本編です。
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優太:「…………。」
優太:夜の浜辺。満天の星空。
七夕。視界に収まりきらない天の川。
優太:「…………。」
優太:「……確か、今日は曇りの筈だが。」
真実:「地元の方は快晴だったよー」
優太:「──ッ」
(優太、後ろを振り向く。)
優太:「…………。」
間。
優太:「……あー……」
優太:これ……
真実:「やほー久しぶり、優太(ゆうた)。」
優太:「……おう。久しぶり。真実(まなみ)。」
(真実、優太の隣に座る。)
真実:「元気してた?」
優太:「まあ、ぼちぼちだな。」
真実:「ぼちぼちってなにー?
せっかくなら“元気もりもりー!”くらい言ってよー」
優太:「俺、そういうキャラじゃないから。」
真実:「そうだけどさー」
間。
優太:「あー……」
間。
優太:「なんだ……」
間。
優太:「こんな事言うの、変だけどさ。」
真実:「うん。」
優太:「…………お前に会えるなんて、夢みたいだ。」
真実:「夢だからね。」
間。
優太:「ハハハ。やっぱ、そうだよな。
だって、お前は────」
間。
真実:「…………うん。そう。だから、私はユウタの都合の良い夢だよ。」
間。
真実:「ごめんね。」
優太:「……俺の夢の分際で申し訳なさそうな顔すんなよ。」
(優太、真実の頭をわしゃわしゃっとする。)
真実:「きゃー!あははは!もーやめてよー!」
優太:「ふふ……」
真実:「何笑ってんのさー」
優太:「いや……あまりにも、本物のお前っぽい反応するから、つい。」
真実:「そりゃー?ユウタの記憶の中の私だから?」
優太:「夢なのになんて夢の無い事を言うんだコイツ……
そういうのは俺の領分だろ。」
真実:「私だってそういう事言う事あります~~」
優太:「ハハハ……そうか……」
間。
真実:「ねえ、せっかくなら楽しそうな顔してよ。」
優太:「ああ?俺の夢の中なんだからそんなの俺の自由だろ。」
真実:「私が嫌なのー!
せっかく久しぶりに会えたんだよ?なのにそんな暗い顔というか、儚んでるみたいな顔ー」
(真実、優太の顔を覗き込む。)
真実:「ユウタには似合わないよ。」
優太:「……。」
真実:「べろべろば~」
優太:「…………ぷふっ」
真実:「うわ゛っ!唾飛んできたっ!ばっちぃ!!」
(真実、仰け反り飛び退く。)
優太:「あっはっはっはっはっはっはっ!!」
真実:「もー!最悪なんですけどー!」
優太:「あははは!悪い悪い!!」
間。(優太、笑う。真実、嫌そうな顔で喚いている。)
優太:「あははははは……これ、本当に夢なのかな……
なんだか、本当に、お前と……マナミと話してるみたいだ。」
真実:「何言ってんのさー夢に決まってんじゃん。
ユウタの想像力というか妄想力が常軌を逸しているんだよ、きっと。」
優太:「……そうか。」
間。
真実:「私は夢だよ。」
優太:「……。」
真実:「ユウタが瞬きしたらもう居なくなってる様な、そんな朧げで、脆い。そんな不確かな夢の存在。」
優太:「…………じゃ、一生瞬きできねーなー」
真実:「“様な”って言ったじゃん!そういう感じのモンですよー!ってだけだよ!
……こら!目をかっぴらくな!目乾くぞ!」
優太:「あははは……そうか……」
間。
優太:「……じゃあ、今更になってなんで現れた。」
真実:「……。」
優太:「今更になって、なんでお前に縋ろうとしてんだ、俺は……。」
間。
真実:「そんなの決まってるじゃん。」
一拍。
真実:「ユウタが弱いからだよ。私さえ救えない。そんな弱いユウタだから。
誰にも頼れず、何も変わらない、何の意味もない“夢(わたし)”に逃げてる。」
優太:「………………。」
真実:「……何の為に生きてるの。なんで医者になったの。」
一拍。
真実:「ユウタのやりたかった事は、何一つ出来ないのに。
私を見捨てた貴方には、何もできやしないよ。」
優太:「……………………。」
真実:「────なぁんて、私が思ってると思ったんだろー!!」
(真実、優太の側面目掛けて飛び蹴りをかます。)
優太:「いでぇ!!!!!!!!!!!」
真実:「フン。」
(真実、手をパンパンと体勢を立て直す。)
真実:「どうよ。小学生以来の幼馴染フライングキックは。」
優太:「ゆ……夢じゃなかったら死んでたやもしれん……」
真実:「フフン!」
優太:「フフン!じゃねぇよ!!危ないだろうが!!」
真実:「そーんなうじうじしてるユウタが悪いー!男の子なんだから耐えろ!」
優太:「そうじゃなくて!」
(優太、真実の手を掴んで引き寄せる。)
優太:「怪我、してないか……!」
間。
真実:「…………ぇ、ぁ……ゆ、夢なんだから、怪我とかしないよ。」
優太:「…………本当だな。」
真実:「だから、夢なんだって。」
間。(優太、手を離す。)
優太:「……なら、良い。」
真実:「…………。」
(真実、ハッとする。)
真実:「そっ!そうじゃなくて!」
(真実、優太の手を掴む。)
真実:「私は!」
優太:「──!」
真実:「……私は。私は、ユウタを責めてなんか無いよ。」
優太:「…………。」
真実:「ユウタが罪逃れから”私の姿をした幻影“に言わせてるとかじゃない。
現実の私だって、絶対に、ユウタの所為なんかしない。」
間。
真実:「…………それは、ユウタが、一番分かってるでしょ?」
間。
優太:「…………ハハハ……
……なんだこれ……本当に、夢なのかよ……」
真実:「うん。夢だよ。
……7月7日。七夕の奇跡で白んだ反射の魅せる夢なんだよ。」
優太:「……そうだな……お前がそう言うんだったらそういう事なんだろうな。
織女(しょくじょ)様と牽牛(けんぎゅう)様に感謝だな。」
真実:「しょく……けんぎゅ……な、なに……?」
優太:「織姫と彦星、七夕伝説の元ネタ、乞巧奠(きこうでん)での名前。」
真実:「…………ユウタのそういうコミュニケーションにワンクッション間を置かないといけなくなっちゃう発言、
本当に良くないと思うよ。」
優太:「ははは!これでも日常生活でも善処してるんだぜ?」
真実:「どーだか~」
優太:「信じてくれよー
…………あ。分かった。」
真実:「ん?何が?」
優太:「夢にお前が出てきた理由。
……最近できた知り合いでさ。
お前みたいになってた子を助けた子が居たんだ。」
真実:「へぇ~~~!」
優太:「いや~~あれは、“僕”。思わず感動しちゃったね。
彼らにはこれからも元気であって居て欲しいものだね。」
真実:「わ。ユウタ、急に大人っぽくなった。
現実ユウタ出てきちゃってるじゃーん。」
ユウタ:「え。わ。気が付かなかった。」
真実:「あーあー。どんどん私の知らないユウタになっていくんだなー」
優太:「……。」
間。
優太:「まあな。」
間。
優太:「……そうか。」
間。
優太:「俺、お前に置いて行かれたってずっと思ってたけれど。
……俺も、どんどんお前の事を置いて行くんだな。」
間。
真実:「そうだよ。」
間。
真実:「幸せになってね、ユウタ。」
間。
真実:「いつまでも私への恋心を引きずってちゃ駄目なんだぞ。」
優太:「引きずってねぇし。」
真実:「それはそれで寂しい。」
優太:「お互い振った振られたの関係だろうが。
ちゃんと終わらせたつもりだ。お前との片想いは。」
間。
優太:「そんな顔すんなよ。マナミは相変わらず天邪鬼でガキだな。」
真実:「ユウタの中の私は永遠に“天邪鬼でガキ”ですぅー」
優太:「あそう。じゃ、永遠にそうしてろ。」
真実:「えーユウタ優しくなーい。」
優太:「優しい俺はもう居ないの。
……“強いお前が居ない”のと同じさ。」
間。
真実:「ふふふ……あはははははははははははははは!!!!」
優太:「…………。」
真実:「あははははは!あはははは……あはは…………」
間。
優太:「なんも言わねぇからな。」
(真実、体育座りの体勢で膝に顔をうずめている。)
真実:「うん。」
間。
真実:「ありがと。」
間。
優太:「こちらこそ、ありがとう。」
間。
優太:「一緒に星空を見てくれて。」
間。
真実:「うん。」
間。
優太:「……なあ。」
真実:「なに。」
優太:「また、会えるのかな。」
真実:「さあ。」
優太:「そっか。」
間。
優太:「マナミ。」
間。
優太:「もしも。」
一拍。
優太:「もしもさ。もしも、また会えたらさ。」
真実:「……。」
優太:「マナミ、顔上げて。」
真実:「……はい。」
間。(優太、呆れ気味に笑みを零す。)
優太:「もしも。また会えたら。マナミに言いたい事がある。」
真実:「……今言えば良いじゃん。」
優太:「ううん。今じゃない。」
真実:「ふーん……」
間。
真実:「会えたらね。」
優太:「会えるさ。」
真実:「なんでそう思うの。」
優太:「……これは、俺の都合の良い夢だから。」
真実:「わ。夢無い事言ってる。
せっかくならロマンチックな事言ってよー」
(真実、優太の脇腹を突く。)
優太:「ぐえっ!脇腹小突くな!」
間。
優太:「…………じゃ。」
(優太、天の川を指差す。)
優太:「星に願いを。あの天の川を短冊に見立てて、お前に会える事を願うよ。想い、描くよ。」
間。
真実:「…………フフ。」
間。
真実:「なんか聞いた事ある気がする。」
優太:「うるせっ。」
真実:「でも。ギリ合格。」
間。(真実、立ち上がる。)
真実:「じゃあ。またね。」
優太:「おう。またな。」
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END