2025-07-06

さようなら、プルダックポックルミョョン

ストレスが溜まる度にブルダックボックルミョン(カルボ味)を食べていた。

近くのスーパーには置いてなくて、近くのスギ薬局しか置いてなかったのでストレス値が満タンになる度毎回買いに行っていた。

パワハラ上司死ね死ね殺すと叫ばれ続けストレスフルだった時期は週に二、三回ペースで食べていたし、死人のような顔で店に入ってきては迷いなくインスタントコーナーに向かい毎回プルダックポックルミョンだけ買って行く姿が異様だったからか、ひっそりと店でのあだ名がプルダックさんになっていたりした。

最近パワハラ上司左遷されてストレスフリーになったためかスギ薬局に行く頻度も2週間に3回程度、それもプルダックポックルミョンではなくゴミ袋とかモッツラレラチーズとか関係ないものばかり買うようになっていた。プルダックポックルミョンは1ヶ月に2回買うかどうかぐらいだった。

春先、しばらく出張に行くことになった。会社の手配が間に合わず富山でのホテル暮らしが続き、さらには出張先には弊社パワハラランキング堂々の第1位の上司がおり、合わない環境魔王上司ストレスフルになりつつなんとか耐えて、ようやくこっちに戻ってきた。物理的に距離を取ったことで解けていくストレスを感じつつ、早速プルダックを買いに行こうとスギ薬局に向かい、入った瞬間ふと違和感を覚えた。

配置が違う。

嫌な予感がした。今までは入り口入ってすぐにスギセレクト化粧品やら洗剤やらがまとめられているはずなのに冷感スプレーの山になっているし、すぐ隣にあったプロテインビタミン剤コーナーが化粧品コーナーになっていた。

ただの配置換えだろう。冷感スプレーなんて特に季節商品から前に出したとかだろう。そう思えばいいと頭では分かっていた。

だけど、何故か─────説明できない嫌な予感が私を満たしていた。

(『インスタント食品』の案内板は?)

斜め上を見上げなから店内をうろうろと歩く。前なら6列目の店奥のコーナーに陳列スペースがあったはずだった。でも、何度探しても、インスタント食品の棚の前を3往復しても、あのおかっぱ頭のニワトリイラストがどこにも見当たらなかった。

「あの」

近くにいた化粧品コーナーの店員さんに声を掛けた。

はい

「ここにあったプルダックポックルミョンってどこに行きました?」

はい?」

「プルダックポックルミョンです。あの、辛いカップ麺なんですけど、あの、前まではあって」

「あ───────…………」

店員さんは小首を傾げながらインスタント麺コーナーの棚を見まわし、一番下の段を指差した。

「コレですか?」

差した先にあったのは日清のポックンミョンの袋麺だった。牙もプライドも失ったアホそうなアフロライオンイラストが描いてあった。

「あの、違うんです、変なおかっぱ頭の変なニワトリの絵が描いてあるやつです、あの、ないなら大丈夫です、すみません

「あ、あの、ちょっと待ってくださいね

からさまにテンションが下がった私に店員さんはインカムで何やら誰かとやり取りをして、そしてハッとしたようにこちらを見た。

「あのお客様すみません、あのプルダック、ってやつ、本社指示で無くなっちゃったみたいなんですけど、Janコードが分かれば発注もかけられますよ!」

店員さんは心から、よかったね!というような微笑みを浮かべていた。コレだけで分かる、この人はきっと優しい人だ。

けれど、違うのだ。

注文をしてしまったら絶対に取りに来ないといけないではないか

私は“ストレスが溜まった時に”“手に入れたいと思ったら手に入る”、その環境が失われてしまったのが辛いのだ。

私は曖昧に笑いながら先ほどのライオンが描かれた麺を鷲掴んでいた。

「…………あの、本当にありがとうございます。でもとりあえず今日大丈夫です。申し訳ないので。すみませんでした」

力になってくれた店員さんにペコペコと何度も頭を下げて、茫然自失のままモッツラレラチーズと共に会計を済ませた。

家に帰って、ポックンミョンの封を開けて乾麺を取り出すとフライパン冷水からそのまま煮始める。ボコボコと膨れ出した水面を眺めながら、

麺が茹で上がった頃、付属の味付け粉末を振りかけて雑に混ぜて啜ってみる。どこかぼやけたパッとしない味が口の中に広がった。麺も伸び伸びで美味しくない。ストレス燃えていく気配もない。

緩慢に咀嚼しながら、私はプルダックポックルミョンのことを思い出していた。

今思えば、味が特別美味しいというわけでもなかった。

しかも食べた翌日に絶対お腹を壊すし、翌日のオナラ劇物と化す。

文字にすると碌でもないが、それでも、私が欲しいのは、こんな日に食べたいのはプルダックポックルミョンだった。

とりあえず美味くもない目の前のこれを片付けなければ。そのストレスが薄ら降り注いでくるのを感じながら、台所のあと4食分残ってしまったポックンミョンの存在を思い出して、少しだけ途方に暮れた。

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