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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
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21-1 朝ドラ


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“●カウントダウン:残り十年と五月 → 残り六月”

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「どうして、一気にカウントダウンが加速している??」


 墓石魔王を倒して、天竜を取り戻して、五万の敵軍も追い払った。

 これ以上ない戦果を得た翌日。朝、毛布に包まってまだ眠っている最中だったというのに、網膜に浮かび上がってきた不吉な『カウントダウン』の所為で、ばっちり目が覚めてしまう。

 まだ十年以上の猶予があり、魔王の討伐によって数年ぐらい平気で変化するためあまり気にしていなかったのだが、この減り方は異常だ。これまで魔王を倒して増える事はあっても減る事はなかった。早急に原因を特定しなければならな――。


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“『ハーレむ』、野望(色)を達成した者を称えるスキル。


 相思相愛の関係にいる者が視認可能範囲にいる場合、一時的に「対象の人数 × 10」分レベルが上乗せ補正される。

 また、スキル所持者と対象者との間で寛大さが高まる。

 ただし、対象者と対象者の間に対しては一切補正が行われないため、刃傷沙汰を回避したいのであれば相応の努力が必要”

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“●レベル:95 → 105”


“ステータス詳細

 ●力:257 → 297

 ●守:113 → 153

 ●速:413 → 465

 ●魔:104/104 → 144/144

 ●運:119 → 129”

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「どうしたのだ? 旦那様よ?」


 ちなみに、ここは要塞の中にある個室である。ホテルと異なり生活空間以外の用途によりスペースが多く必要とされる要塞での個室。王様たるアニッシュの客人の立場たる俺達はなかなかに優遇されているのだ。個室なので部屋は当然一人用。昨日、眠りに入るまでは確かに一人であった。


「目覚ましが鳴っていないではないか。もう少し我を眠らせよ」


 だというのに、密着した距離から女の声が聞こえている。まるで女性が抱き枕を抱えている姿勢で寄り添っているかごとく体が重い。金縛り、怪奇現象か?


「……おい、天竜。どうして俺の部屋にいる?」

「我は旦那様の持ち物であろうが。私物が己の部屋に持ち込まない方がどうかしているぞ」

「お客様。申し訳ありませんがペットの持ち込みは禁止されております」

「たわけていないで、もう少し眠らせぬか。毛布が小さいのだ。体を寄せよ」


 何故か天竜がベッドに入り込んでいた。俺の従僕ペットなので、きっと猫のように夜寝ている内に窓から入り込んできたのだろう。

 猫だと思えば可愛らしいと思わなくもな……なんで首のオレンジ色のスカーフを除いて全裸なの。


「それこそ、たわけだ。ペットに服を着せて眠らせるなど、ストレスにしかならんぞ」


 天竜の容姿について捕捉しよう。

 ドラゴンのゴーストである天竜に決まった姿というものはない。魂のない物体ならば車だろうと戦艦だろうとバケットホイールエクスカベーターだろうと憑依できる。また、物体を用意しなくても、土を練り合わせて生前の姿を形作る事だって可能である。

 だからといって、無機物や爬虫類はちゅうるいに対して俺が寝起きの生理的現象によって興奮している訳ではない。現在の天竜は正しく人間族の女性の姿をしているので、俺は正常だ。

 俺とほぼ同世代の成人前後に天竜は擬態している。切った先が棘々しいセミロングの髪型。日本人体型というか日本人そのままの体なので貧……スレンダー。食事事情が改善される戦後日本人の身長と比較するとかなり小さい。

 天竜が人間に化ける際には必ずこの容姿を選んでいるが、理由は昨日判明した。

 天竜が喰らった女性の姿そのままである。

 喰った者として可能な贖罪など存在しない。それでも、女性の姿で土地神として働く以外の方法などありはしなかったのだろう。


「眠いのなら自分の部屋で寝ろ」

「ここが我の部屋だと言っておる」

「なら、俺はもう起きたから好きに寝ていろ」

「駄目だ。人肌の温もりが消えてしまう。変温動物に優しくない飼い主では困るぞ」


 ……黒い世界にいる名の知れぬ女性よ。体が勝手に使われているぞ。早く化けて出てくれ。



「そもそも、我が眠いのは……昨夜の旦那様の所為ではないか?」



 爬虫類が獲物を見詰めるように、体の上によじ登ってきた天竜が俺を見てくる。

 そして何故か、微笑みながら下腹を手でさすっている。きっと裸で眠っていた所為で腹を壊してしまったのだろう。それ以外の意味がある挙動ではない。


「待て待て待て。俺は熟睡していた。何もしていない」

「久しぶりに見た旦那様の顔がついたくまし……いかはマスクにより定かではないが、妙に魅せられてしまった。正直、ゾンビとなっていた日々で気が弱まっていた所為もあるのだろう。同衾どうきんするだけでは収まらなかった訳だ」


 天竜と俺は主従関係を結んでいるが、それ以上の関係性はなかったはずだ。そもそも土地神で、現在では信仰の途絶えた忘れられた存在であった。仲間として頼もしいと感じても、恋する相手としては恐れ多い。

 それは天竜にしても同じだったはずである。種族が異なり、生きた時代も異なる。性別が異なるぐらいで俺をオスとして認識するはずがない。

 ドラゴンゾンビとなっていた境遇は悲惨を極めた。が、今更、俺を意識し始める理由がないのだ。ドラゴンでもあり、土地神でもある彼女を魅了する強力なスキルがあれば別であるが、そんな危険なスキルは持っていない。


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“『吊橋効果(極)』、恋愛のドキドキと死地の緊張感の類似性を証明するスキル。


 死亡率の高い戦闘であればあるほど、共に戦う異性の好感度が指数関数的に上昇する”

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「まずいッ、持っていた!?」

「我としても想定外であった。今後は旦那様から我が亭主と呼び方を変えねばならぬ」


 天竜が顔を赤らめてもじもじし始めた。無防備に眠っている被害者を見て発情してしまった、などと本人は供述している。


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“『一発逆転』、どん底状態からでも、『運』さえ正常機能すれば立ち直れるスキル。


 極限状態になればなるほど『運』が倍化していく”

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 ●運:229 = 129 + 100”

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 寝汗は少ない体質であるというのに、朝っぱらから身の危険が高まって冷汗で背中がびしょ濡れだ。

 このままでは、皐月かアイサに刺し殺されてしまう。特にアイサは前科があるので油断できない。


「ま、まだ状況証拠が揃っただけだ! 俺は無実だ!」

「本当に覚えていないのか? 余韻のようなものは?」

「そんなものはな――」


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“●カウントダウン:残り六月”

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 ちらりと網膜内の数値に目をやってしまうが、『カウントダウン』は俺の人生の残り時間を示している訳ではない。そろそろ、スキルの正体についてゼナに問うなり教国を訪れるなりしなければならないか。


「――ないっ! 冤罪だ!」

「それでは我が亭主。『ハーレむ』は発動していないのか?」

「……ん? 『ハーレむ』は何故か発動している。ただ、主従関係の天竜と相思相愛と見なされてスキルが発動しても、やましい関係を立証するものではないはずだ」

「ドラゴンもハーレムを形勢する種族ゆえ詳しいが、『ハーレむ』は性的な関係になった者同士でなければ発動せんぞ?」


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 ●運:319 = 119 + 200”

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 動脈を流れる血の圧力のみで心臓破裂を起してしまいそうだ。眩暈がして一瞬、意識が遠ざかった。

 確かに不思議ではあったのだ。アイサは以前より俺をしたっていたはずなのに、つい最近、ナキナを出発する直前まで『ハーレむ』の発動対象外になっていたのである。

 アイサと一緒にいるとレベルが加算され始めたら、リリームとゼナもスキル対象内となっていた事から法則性は見えたものであるが、意識的に理解を拒絶していた。


「クソ、俺の知らないところで20-17が行われていたのか。まさかっ」

「一度してしまえば二度したところで同じ事。さあ、我が亭主。今度はしっかり認知してくれ」


 人間族に擬態していても天竜のパラメーターは高い。動揺している俺は『暗影』で逃げ出すという考えにいたらず、『力』で押さえつけられて天竜の成すがままになっていた。

 これでも節度を守って子供ができるギリギリ手間で踏み止まっていたというのに、まさか覚えていないなんて。

 だが、やってしまったものは仕方がない。この事実は最高機密として墓まで持っていくことにし――、


「――にん、ち。認知? 朝っぱら、面白い事を言う。ははっ。笑う」


 ――ふと、天竜と真正面から見詰め合うのが恥ずかしくて顔を横にらすと、部屋のドアを開けた姿勢の黒曜と視線が合ってしまう。

 ベッドの上にいるほぼ全裸の天竜。

 天竜に乗っかられている俺。

 その光景を目撃する黒曜。手馴れた仕草で構えられる刃物。


「ふふ、ははっ」

「こっ、こここここ、黒曜ゥっ!? お、おはよよよよぅ」


 俺の最高機密。墓場まで持っていくの、随分と早かったな。


「――訊いておく。お前の『コントロールZ』で時間を一日前まで戻せるか?」


 黒曜が静かに質問しながら接近してきた。美しい彼女が余りにも恐ろしくて声帯がビクビク勝手に微動してしまい、たった三文字の返事にさえ手間取るていたらくだ。


「……む、りだッ!」

「――なら、死ね。………………『暗殺』発動」


 ……朝の日光がベッドを照らす。

 やはり『カウントダウン』は俺の人生の残り期間を示したものではなかったらし――。

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 助けたいシリーズ一覧

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