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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十章 人類国家の挑戦
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20-16 各々のペットの事情

 マスクで顔を隠し直して、仕事をめくくる。

 塔に潰されたドラゴンゾンビの体は完全に消え去った。腐敗臭はおろか、悪霊の気配は欠片も残っていない。

「どうにか終わったが、まだ終わっていない」

 ドラゴンと戦っていて、こちらが主戦場のように勘違いしてしまいそうになる。が、本当の主戦場はここから十キロ西方にある。五万以上の敵軍が現在進行中だ。

「ドラゴンと万の低級モンスター。どちらがより脅威かと言われると悩みどころだけど、五人に任せっきりなのは悪い」

 人類を滅ぼすのにドラゴンなど必要としない。魔族が五万もあれば事足りる。

 侵攻を押しとどめているのは皐月達天竜川魔法使い衆と黒曜のたった五人だ。今も敵軍の先方が到着していないのは、彼女達が善戦を続けているからだろう。

 Sランク職で構成される人類最強戦力、現在の原型一班オリジナル・ワンとも呼べる彼女達であるものの、万倍の敵が相手ではスタミナが持たない。早急に援軍を向かわせるべきであるが、今の俺達に都合の良い戦力が残されているだろうか。


「――よくも、この我と低級モンスターを比べてくれたものだ。旦那様よ?」


 ふと、手元から女の声が響いた。音源は手に持つドラゴンの歯である。

「我の実力をあれだけ味わっておいてまだ見くびっておるのか。旦那様よ?」

 歯が喋った、と驚いた反応を見せてやりはしない。

 歯は俺を責めているような声質で俺に語りかけているが、それは照れ隠しだ。

「何か言ったらどうなのだ。旦那さ――」


「――お帰り、天竜」


「――うっぐ。た、ただぃま」

 ばつの悪さを誤魔化すためにかもしていた高圧的な態度は、簡単にがれ落ちた。カイロがごとく、正気に戻っても覚えている数々の失態により歯の表面温度が高くなっていく。

 俺の知る天竜が手の中にいる証拠だ。

「腐っていた期間は長かったが、調子の悪い所はないか?」

「……ふん。みすぼらしい歯の分際たる我に良いも悪いもないわ」

 天竜は不貞腐れた態度を取っているが、これも気恥ずかしさからくるものだろう。

「それは困る。皐月達を救援できるだけの力を持っているのは天竜以外にいない。天竜を頼れないとなると、一体どうしたら良いのか」

 だから、俺も芝居がかった口調で汚名返上の機会を与えてやる。万の敵から仲間達を救出するという名誉の大役をチラつかせる。実際、モンスターの大群を退けられる力を有している知り合いは天竜しかいない。

 断られはしないだろうが、断られると困るなという雰囲気を出すために腕を組む。

「困ったな。弱ったな」

「べ、別に戦えないとは言っておらんっ。寝起きの頭を覚まさせるには丁度良い運動だ」

「戦えるのか?」

「ふ、ふん。我は旦那様の忠実なる下僕。悪質な二択に答えられずにすべてを差し出した。命令には逆らえん立場だと忘れたのか?」

「でも、今はただの歯だからな」

「体の再構成など容易いわ!」

 歯は独りでに暴れ出す。手中から空中へと跳び出て、上空へと浮かんでいく。

「まったく……優しい言葉の一つもかけられないのか。我の旦那様は」

「ん、何か言ったか?」

「言っていないッ」

 地上から四十メートル付近まで浮かび上がったため、小さなつぶやきなど聞こえない。

 歯が停止すると今度は地面から大量の土も吸い上げられていく。土は粘土細工のごとく形成されていき、まず恐竜のような骨格が組み上げられた。続いて筋肉が張れて、鱗が敷き詰められていく。

 そして着地してきた巨体は、俺が知る天竜。全長四十メートル、翼全開で横幅七十メートルに達するドラゴンが大地を踏み鳴らす。


「我は天竜川の神、天竜なるぞ!!」


==========

“●レベル:102”


“ステータス詳細

 ●力:605 守:175 速:25

 ●魔:104/1042

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●悪竜固有スキル『暴虐』(無効化)

 ●悪竜固有スキル『暴食』(無効化)

 ●悪竜固有スキル『暴君』(無効化)

 ●悪竜固有スキル『暴走』(無効化)

 ●魔王固有スキル『領土宣言』(無効化)

 ●土地神固有スキル『信仰』

 ●土地神固有スキル『文化熟知』

 ●土地神固有スキル『土地繁栄』

 ●土地神固有スキル『天災無効化』

 ●従僕ペット固有スキル『信頼関係』

 ●実績達成ボーナススキル『勘違い(被害者)』

 ●実績達成ボーナススキル『気苦労』

 ●実績達成ボーナススキル『肉食嫌悪』

 ●実績達成ボーナススキル『弱人間族(極)』

 ●実績達成ボーナススキル『神格化』

 ●実績達成ボーナススキル『弱勇者(大)』

 ●実績達成ボーナススキル『悪霊化』(中断)

 ●実績達成ボーナススキル『従属化(主:御影)』”


“職業詳細

 ●土地神(Aランク)

 ●従僕ペット(Dランク) → (Cランク)”

==========


「飛ぶぞ、旦那様よ!」

 俺が背に乗り込むと、天竜は飛翔を開始した。




「もー限界っ! 『魔』が私も師匠も残っていない! 御影の奴、こんな死地を私達だけに押し付けて! 信じられない! 黒曜、ちょっと御影に化けなさい。顔を殴らせろ」

「黙れ! 喋っているスタミナがあれば、さっさと『魔』を自然回復させろ。火力馬鹿女」

 草原を全力で走っているのは皐月達。彼女達の後方三十メートル付近では多数のオークが追走していた。

 背中へと飛んでくる矢を黒曜がナイフで弾いている。その間に接近してきたオーク共は、落花生が蹴り飛ばしてギリギリ距離を稼いでいた。

「もー無理っ! こうなったら誰かが尊い犠牲になって、他四人を救うしかない! 立候補は?」

 アジサイも氷の槍を作って敵を足止めしようとしている。ラベンダーもゴーレムを敵へと突っ込ませている。だが、数の暴力の前には魔法という奇跡も無力なようだった。

「……犠牲となった皐月の勇気。兄さんには伝えておく」

「皐月が死ぬなんて悲しいです」

「分かりました。ここは任せて、私達は先を行くよ」

「何で私で決定しているの! じゃんけん五回勝負よ!」

「お前等、土壇場でも変わらずうるさいッ」

 皐月達が危機に陥っている理由は、彼女達が敵軍相手にやり過ぎたからである。敵軍の後方へと大魔法を放って退路を断ってしまった結果、背水の陣を作り上げてモンスター共は全員、決死隊へと昇華した。

 無茶を止めるべき者が不在だったのが災いした。黒曜が負うべき役目だったが、人付き合いを千年単位でおこたっていたソロの暗殺者にパーティの統括はできなかったらしい。

 敵軍先鋒がまた五人へと近付く。

 そのまま槍を突き出して――、


「当機はまもなく着陸するぞ。舌を噛んでしまえ、旦那様!」


 ――上空から落下してきたドラゴンに潰された。飛行機が着地と同時に停止できないように、ドラゴンもなかなか停止できずに百メートル先まで敵軍を巻き込んでいた。

「て、天竜ですっ!」

 落花生は即座にドラゴンを天竜と見抜いた。

 頭の上にマスクの男が乗っているドラゴンなど多くはいないし、首にスカーフらしき布を巻いているのならば確定だ。

「御影が連れてくるって信じてた!」

「どの口で言うかな」

「決戦兵器なのに暴走していない」

「……こいつメスか?」

 天竜は敵軍中央へと突撃していく。悪竜だった頃に有していた数々のスキルは使用不能になっているが、そんな小手先は必要ない。象が蟻と戦おうと思えば、最も効率的な攻撃手段は巨体を用いた踏み付けだ。

 天竜が駆け抜けた後には、無残な姿となったモンスター以外に何も残っていない。

「残念ながらメスよ」

「メスのドラゴンなんて捨ててきてよ! パパッ!」

 王者たる風格を持って、天竜は吠えた。

「このクソ女共!! やかましいぞ!!」





 天竜の圧倒を例示するまでもなく、ドラゴンは空の支配者だ。基本的に他種族では太刀打ちできない。絶対数が多くない事が救いであるが、数を減らし続けている真性悪魔と比較すれば勢力は優勢と言える。

 血族ごとに集団を形成することが多く、翼竜魔王も例に漏れない。


「――テイムを外れて消えたと思えば、恥さらしめ」


 翼竜魔王は浮遊城から天竜が雑兵を千切っては投げている様子を眺めていた。成層圏に浮かぶ竜の巣――それゆえ、他種族に存在を知られぬ浮遊城。長年浮遊しているため、半分ほど崩壊している――の玉座から侮蔑の表情を浮かべている。

「迷宮魔王には期待していたが、あの程度の軍勢しか揃えられぬようでは手切れの時か。いや、禁忌の大空洞を有する迷宮魔王のお陰でレベルアップできたと思えば、まだ使い道はあるか」

 翼竜魔王は玉座に座ったまま手をかかげる。


「であれば、そろそろ我等の力を見せつけてくれよう」


 すると、竜の巣から翼竜型のドラゴンが次々と羽ばたき姿を現す。種族として低級のワイバーンが多いものの、齢五千年から一万年の純粋竜も多い。更に、古くから生きるドラゴンの中には真性悪魔を喰らった強者さえいた。

 『翼竜の統治者』を冠する翼竜魔王の戦力は、たった一勢力で他魔王連合のすべてと匹敵した。が、翼竜魔王は種族としての絶対的な力のみを過信せず、他勢力が減衰するまで静かに待ち付けていたのである。

 魔王連合という徒党を組みながらも、戦力を維持し続ける。

 これが、翼竜魔王の計略だった。

「悪竜に関してはこちらの不手際でもある。少しは埋め合わせをしてやろうではないか」

 ワイバーン一万体。

 成竜三千体。

 古竜百体。

 これだけでも過剰な戦力であるが、翼竜魔王自身が更に含まれる。すべてが血筋で繋がる一つの一族だからこそ結束力も高い。

 ……しかし、翼竜魔王の戦力はまだ他にいる。


「地上の悪竜と悪竜の頭の上にいる人間族ごと潰してやろう。まずは竜頭魔王を解き放ち、差し向けろ。鎖をほどけ!」


 山一つと同質量の竜の巣の傍には、更に巨大な生物が浮遊していた。

 巨大という単語で言い表すのは単純が過ぎるか。万のドラゴンが住み着く竜の巣と頭部の大きさが同じと言えば、規格外の体長を察する事ができるだろうか。竜の巣から伸びる複数の鎖に繋がれているが、意味を成しているとは思えない。

 大きさがあまりにも違い過ぎて、この世のものとは思えない。

 上空を横切る姿が三日三晩続くとうたわれる最強生物の名は、『古式竜』竜頭魔王である。竜頭という名前はあっても姿形はドラゴンからかけ離れているが。

「最後に勝つのは、我々翼竜の一族だ」

 生物であれば、たとえ魔族であっても体格差をくつがすのは難しい。事実、竜頭魔王は翼竜魔王の一族すべてと対峙しても完勝してしまう。本来であれば、翼竜魔王であろうとも竜頭魔王をテイムできるはずがなかった。

 ただ数年前、竜頭魔王が竜の巣を襲ったのが運の尽きであった。翼竜の一族の半分を喰らった所為で、一時的にドラゴンの血が体に溜まってしまったのである。

 ドラゴンの血が流れている。であれば、そいつはドラゴンと見なされる。

 そして、ドラゴンであれば、翼竜に対して絶対的な支配権を持つ翼竜魔王が使役できないはずがない。


「いけ、竜頭魔王!」


 竜の巣から伸びていた鎖が解かれていく。

 竜頭魔王は本能的に食事を求めるだけの生物でしかないが、己よりも小さなトカゲに使われる現状に不満はあったはずだ。けれども、翼竜魔王の血族認定された状態では逆らうのは難しい。だから、不本意でも翼竜魔王が指定した対象しか食べようとはしなかったのである。

 ……いや、実のところドラゴンの血の呪い以上に、毎回食事を邪魔してくる黒い板がわずらわしかっただけなのだが。

“Oォォ、Oォォォォゥ”

 邪魔されない食事を提供してくるからこそ、不満足でも竜頭魔王は翼竜魔王に従っていた。

 しかし、今はどうしてか……地上に食事を邪魔する黒い板の気配がない。

 竜頭魔王は久しぶりに自由を感じていた。


“OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOォォォォォゥゥゥゥ”


 知能がほぼ皆無で、本能に従う生物でしかない竜頭魔王が最初に喰い付いた先は、傍で浮かぶ岩石の塊、竜の巣である。前に食べ残してから長い期間、完食の機会を狙っていた。

 数多あるヒレを動かして巨大な体をひねらせた。特徴的な構造の口を開閉させながら、下方から竜の巣へと襲いかかる。

「うるさいぞ。何をし――ぃッ」

 玉座に座している翼竜魔王を玉座ごと丸呑みにしても止まらない、竜の巣の牙で分割し、クズ山の咀嚼を開始する。

 翼竜魔王は気付くべきであった。悪竜がテイムを脱したのであれば、より強力な竜頭魔王だってテイムを逃れてしまう可能性に、死ぬ前に気付くべきであった。

 ……気付いたところで、一族すべてが喰われて滅びる結末を変えられたとは思えない。


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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