19-3 救出作戦開始
精霊帝国に捕らわれた仲間を救出するための第一歩。
敵が想定していない速度にて敵本拠地へと潜入する。これを成しえる手段を所持していたのは、嘴付きマスクの男、ペーパー・バイヤーだ。もはや、どんな難問だろうとペーパー・バイヤーに答えられないものはない。
「一度、地球の天竜川へと戻れ。その後、リリームが地球に来た時に用いた『異世界渡り』のアイテムを使用し、エルヴン・ライヒの都へと移動だ」
九州から関空へ行くのに羽田を経由するかのような手段をペーパー・バイヤーは提示してきた。移動方法だけ聞く遠回りな気がしてくる。
「どうして時空移動した方が早いんだ?」
「地球へと戻る方法はあると前に言っただろ。俺達は元々お前を捜索するためにラベンダーが完成させた『異世界渡りの禁術』用アイテムで異世界へと渡っている。当然ながら、地球への帰還も同じアイテムで可能だ」
ペーパー・バイヤーは重要アイテムたる木製細工を俺に手渡す。地球に居座っている主様の体が原材料となっているらしい。葉を模した意匠であり、なかなかに細かい。
「これを使えば、主様の麓に戻れる」
「そこまでは理解できるが、地球に帰ってからはどうするんだ?」
主様の体を削っているだけあって、異世界移動の出入り口は主様が生前に縄張りにしていた場所に限られる。地球の天竜川に帰ってから改めて異世界に移動しても、到着先は討伐不能王の旧領土になってしまう。精霊帝国からは遠い。
「だから、地球帰還後は別の『異世界渡り』アイテムを使う。リリームが元々所属していたレオナルドの勇者パーティは森の種族の都から地球へと出発していたんだ。帰還先も都に設定されているぞ」
天竜川へと現れた勇者パーティは、レオナルド、リリーム、その他――名前を忘れたあの人――の合計三名だった。
今の俺達と同じように、勇者パーティも地球から異世界への帰還方法を準備していた。『異世界渡りの禁術』スキルを有していない者でも単独で帰還できるように、アイテムという形で各自が所持していたのである。
残念ながら三人全員のアイテムは回収できなかったようであるが、レオナルドとリリームの分をペーパー・バイヤー達は確保していた。
傍迷惑な奴という印象しかなかったレオナルド率いる勇者パーティ。実際、今もリリームが少しうるさい。
「過去の贖罪のためならば何でもいたしますので、見捨てないでぇぇ」
だが、どんなに迷惑でも何かしらの役には立ったらしい。
「数の関係上、二人までとなるがな。俺が用意できるのはここまでだ」
「十分過ぎるぞ、ペーパー・バイヤー。救出作戦は実行可能だ」
俺とサポートの二人で潜入し、囚われた仲間達を救出する。
移動手段が用意できれば半分以上は成功したと言えるだろう。
「サポートはたったの一人。つまり、私達の中からたった一人が選ばれる。これはもう生涯の伴侶を選ぶも同じっ!」
「皐月の炎は隠密に不向き。私の氷でなければ柔軟な対応は困難。答えは一択。真実も一つ」
「『森林怖い』さえなければッ」
戦闘の危険があるので、サポート役は戦闘要員であるのが望ましい。必然的にペーパーは留守番となる。本人達の主張通り、皐月、アジサイ、リリームの誰かから選出されるだろう。
リセリは自分を指差しつつ、どうするべきか訊ねてくる。
「この私も留守番の方が良いのでしょうか。『神託』を受けてしまうこの私が傍にいても良い事はありませんものね」
「留守番組にも仕事がある。リセリにはこのまま常識的な方法でエルヴン・ヒライを目指してもらいたい」
「それでは、エルテーナに気付かれてしまいますよ?」
頻繁に『神託』を受けるリセリはデコイとして最適である。俺が精霊帝国の都に侵入するのに合わせて、リセリを含む残りのメンバー達には精霊帝国への領域侵犯を試みてもらう。
エルテーナは『神託』をジャックして精霊帝国に敵が潜入したと気付くだろうが、同時二カ所の出来事に対して行われる『神託』を混同してしまう可能性は高い。
「同じ内容の『神託』を見分けるのが困難なのは認めますが、相手はエルテーナです。長く誤魔化せるものでしょうか?」
「だからこそ仲間達の救出を急ぐ。急ぎながらも確実に救出する。敵には大混乱に陥ってもらう」
優先するべきは仲間達の命である。
「敵ねぇ……。お前は兵士と一般人の見分けが付くのか?」
ペーパーの懸念は正しい。敵の都となれば敵兵のみならず一般人も数多く住んでいるはずだが、敵国の民の命まで考慮していられる状況ではないだろう。潜在的には全員的なのである。作戦中に出遭うエルフは敵として扱うしかない。
「エルテーナは自国民さえエルクにしてしまう独裁者だ。同族同士で思うところもあるだろうが、犠牲を理解してくれるか。リリーム?」
「……魔王に与するなど、森の種族は自ら破滅を選んだのです。私は御影様のすべてを肯定します!」
よし、エルフのリリームから理解を得られた。
「よし、エルフの都で呪いのビデオ放映大会を開くぞ!」
「おッ、おやめくださいッ!! 森の種族が森に住めなくなってしまいますッ!!」
賛成してくれたはずのリリームがいきなり猛反発してきた。何故だ。
「リリームという前例から、ホラームービーはエルフに対して有効だと思われる。無差別に命を取らずに敵を無力化するにはこれしかないんだ。分かってくれ」
「無差別にトラウマを植え付けてどうするのですか!!」
「おいおい、リリーム一人の前例がエルフ全体に通じるのか? 統計をもう少し考えろよ」
「ん? リリーム以上にテンプレートなエルフはいないだろ?」
「……それもそうだなっ!」
「ペーパー様もッ。諦めて納得しないでくださいッ」
都全体に恐怖を伝達するためには、幻惑魔法の使い手、囚われた月桂花を救出するのが確実だ。暗い部屋でジャパニーズホラーを視聴する幻惑をぜひ味わってもらいたい。
「では、救出作戦を開始する!」
「ご再考を! なにとぞご再考を! 私なら何でもしますから、止めてェェッ」
――作戦のために、地球に戻ってから半日でプロジェクター等の必要な機械を入手した。久しぶりの地球の空気を味わう暇なく、すぐに異世界へと渡ったが。
上映作品の言語変換や広域放映はサポートとして同行するアジサイの魔法頼りである。
「兄さんは妹心を分かっている。最後の頼りは家族だって分かっている」
「血の何も繋がっていない義妹だけどな。姉が黄泉から帰ってきているのに、義妹を続ける必要があるのか?」
「姉は姉。兄さんは兄さん」
アジサイの魔法は威力では皐月に劣るものの、火力馬鹿の皐月には真似できない応用力がある。何が起きるか分からない敵地での活動に向いているため連れてきた。アジサイを連れてくれば、セットでゴースト姉も憑いてくるし。
“我等三兄姉妹、生まれた日も違い死んだ日さえ違いますが、心の繋がりは不滅です。ふふふ”
ゴーストのアジサイ姉の冷たい息が背筋に吹かれた。人選を間違えてしまったのだろうか。
『エゾキク:誰かさんの偽者さんがピンチです。今すぐ作戦の決行を』
現地諜報員より、LIFEにて緊急連絡が入る。エルテーナの奴、黒曜だけを先んじて連れ出して凶行に及ぶつもりらしい。
「月桂花を助け出してからにしたかったが仕方がない。アジサイは氷で巨大スクリーンを作成してくれ。都全域に仕掛けるぞ!」
作戦開始を急ぐ。アジサイに指示しつつ、スマートフォンでも指示を飛ばす。
『誰かさん:了解した。全ユニット、救出作戦を開始せよ!』