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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十九章 怨嗟の終わり
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Z-1 回顧録1


 ――――二千年前。


「救世主よ。我をほふるとは見事だ……と称えておこう。名誉である――」


 深海のごとき暗い夜。

 紅が酸化しきった陰湿なオブジェで構築された魔王城。

 その最上階にて、人類を恐怖のどん底に追いやった大魔王は吐血する。玉座に座したまま心臓を一突きにされて死のうとしている。

 大魔王らしからぬ静かな最後であるが、アサシン職が一度首を絶たれた後に『正体不明』スキルで復活してからの暗殺劇だ。静かであるが大魔王が滅びる程度には異常な出来事が起きていた。

「――が、救世主よ。お前の抵抗は無駄なものだ。この世の終焉は運命付けられている」

「殺されておいて、言い残す事がその程度の呪いか?」

「ははっ、傀儡かいらいよ。お前に語りかけている訳ではないわ。お前が受難を自覚するのはこれからだ」

 黒い玉座にいるのは城主たる大魔王と、その大魔王を『暗殺』スキルにて仕留めたアサシン職の二人だけ。本来の魔王討伐部隊たる原型一班オリジナル・ワンはまだ城の中腹辺りにいるはずである。

 しかし、大魔王は心臓に刺さったナイフを見下ろしながら、第三者に語りかけている。


禁忌・・の大空洞の底を覗いてきたアイギパーンいわく、この世界が終わるまで残りはわずか二千年。我ならば二千年で準備を整え、魔性とはいえ世界を存続できたものを。……いや、虚勢であろうな」


 随分と長く語り続けているが、大魔王はこれでも死ぬ寸前だ。何万年を生きる魔族と百年しか生き延びられない人間族とでは即死の時間感覚が異なる。

 アサシン職は殺してなお語るのを止めない大魔王を最大限警戒し、武器を構え直した。


「先触れたる竜頭さえ滅ぼせぬようではな。創造主が世界を見捨ててしまうのも当然であろう」

「大魔王、お前は何を言い残して??」

「それでも無駄な抵抗を続けるのか、救世主? 馬鹿馬鹿しい。救済地点セーブポイントなど存在しない。手遅れであると気付け。我をまぐれで屠れる程度の才覚しか持たぬ傀儡しか用意できなかった時点で二千年先も見えたぞ」

「大魔王ッ!!」

 蝋燭ろうそくの火が消える寸前のように、大魔王の『魔』が一瞬だけ強まるとしぼんで消える。

 大魔王は心臓が止まる寸前のみ、自らを倒したアサシン職と向き合った。


「救世主の傀儡よ。我はお前を呪わぬが、それは呪う必要がないからである。座付きの魔王たる我を倒した事を後悔せよ。救えぬ世界を救うという受難から逃れたければ、代わりの傀儡いけにえを用意するのだな。ははははっ――」


==========

“ステータスが更新されました

 ステータス更新詳細

 ●『救世主職』に就職しました”

==========




 ――――二千年後。


 大魔王の今際いまわきわの台詞の意味の半分を理解したのは、アサシン職……もとい、黒曜が五体目の座付きの魔王を倒した時だった。

 黒曜は世の中を嫌っていたものの律儀りちぎに救い続けてしまっていたからである。

 大魔王を討伐した事で魔界中央まで人類は進出しさかえた時代があったのだが、その後、魔族の侵攻に耐えられなくなって人類は生存圏を大きく後退させた。時代的に、人類の危機が訪れる機会が多かったのも原因だったのだろう。


==========

“ステータスが更新されました

 ステータス更新詳細

 ●救世主固有スキル『ZAP』を取得しました”

==========

“『ZAP』、このスキルを得た救世主はもう後戻りできないというか、後戻りさせられてしまうスキル。


 世界を救えなくなった瞬間、強制的に時が戻る”


“実績達成条件。

 人類の危機となりえる魔王を討伐してしまい、救世主職をAランクにする”

==========


 人類に知られず人類を救い続けた黒曜へと与えられた報酬。それは更なる過重労働の強制であった。

 『ZAP』スキルは説明のみでは理解し難いものであったが、黒曜は案外早くにスキルを体感してしまう。

 スキルを初めて発動させたのは、暴食魔王なる肥満型の魔王に敗れた時である。


「オークが魔王を気取るかッ。『暗殺』発ど……クソ、失敗か」

「皆、僕が豚面だからってオークと間違えるんだな。そんな失礼な奴等は皆食べてしまうんだな。いただきまーす」


 暴食魔王は人類全体を窮地に追いやるような強大な魔王ではなかった。座付きの魔王と比較すればステータスも随分と低い。

 ただし暴食魔王の特異スキル『食欲無限』が問題であった。『正体不明』持ちの黒曜は正体を暴かれない限り殺しても死なないが、むしろそれは無限の食欲を持つ暴食魔王を喜ばせた。

「ん。見た目はハルピュイアっぽいのに、案外、柔らかくて美味しいんだな」

 『暗殺』スキルが暴食魔王の脂肪にはばまれて失敗。腕が腹に埋まってしまったところを捕らえられて、腹から現れた巨大な口に上半身を丸ごとかじられてしまう。


「この味は女なんだな。それに……食べたところの肉が再生しているんだな。これはすごいんだな。ずっと食べていられるんだな」


 不死だからこそ永久パターンにはまってしまったのだ。

 黒曜はその後、暴食魔王の巣穴で百年以上喰われ続ける。頭を失っていたので意識がなかったのが幸いであろう。

 ただ、永遠に喰われていては救世主としての役目を果たせない。

 つまり、『ZAP』スキルの発動条件は満たされる。


“――――『ZAP』スキル発動。YOU ZAPPED TO …… ”





 黒曜は意識を取り戻した。齧られ続けた体は無事で、どこも欠損していない。

 ただし目前には暴食魔王がいる。


「な、に……一体どうなって――」

「あんまり美味しそうじゃないけど、僕って偏食しないんだ。いただきまーす」


 ……黒曜は『ZAP』スキルの発動に驚愕していたために暴食魔王に反応できなかった。時間がさかもどっていると直感できずに棒立ちになってしまった。

 その隙を暴食魔王は見逃さない。パクリと体を食されると、前回と同様に百年間大事に喰われ続けた。


“――――『ZAP』スキル発動。YOU ZAPPED TO …… ”





「うぅ。げふぉ。……クソ、気持ち悪い」

「あんまり美味しそうじゃないけど、僕って偏食しないんだ。いただきまーす」

「何度も喰われてたまるかッ! 『暗影』発動!」


 二度目の時間遡行ではスキルを発動させて間合いを取る事に成功する。

 隙を見せずに冷静に対応すれば、黒曜は暴食魔王を討伐できる。実際、その後は『速』で圧倒して勝利した。

「はぁ……はぁ……『ZAP』スキル。時が戻るだと、ありえない!?」

 人生のすべてをミスなくこなせるはずがないのは当然だろう。体調不良によりステータスのすべてを発揮できない事だってある。いや、調子が良かったとしても連戦連勝を永遠に続けられるはずがない。

 しかし、それでは世界は救われない。

 世界を救う者は常に勝利しなければならない。

 救世主職であっても無理難題であるだろうが、『ZAP』スキルがその無理難題を押し通してくれる。敗北した瞬間に時間を逆転させて開始位置まで戻る事により、勝負をやり直せる。勝つまで戦い、勝つまでリセットを続ければ、絶対に負けなくて済む。


「冗談、ではないぞッ! 死さえ許されない呪いと同じだ!!」


 背筋を急激に冷やしながら、黒曜はあらためて救世主職スキルを確認していく。


==========

“スキル詳細

 ●救世主固有スキル『既知スキル習得(A級以下)』

 ●救世主固有スキル『カウントダウン』

 ●救世主固有スキル『コントロールZ』

 ●救世主固有スキル『丈夫な体』

 ●救世主固有スキル『ZAP』”

==========

“『既知スキル習得(A級以下)』、スキルは体で覚えるスキル。

 スキルによる攻撃をラーニング可能。逆説的に、攻撃を受ける必要がある。

 初級スキルとA級スキルでは、A級の方がラーニングし辛い。覚えるまで体を酷使するしかない”


“実績達成条件。

 人類の危機となりえる魔王を討伐し、救世主としての権利を得る”

==========

“『カウントダウン』、救世主的に必要なタイマースキル。

 ある残り時間が見えるようになる”


“実績達成条件。

 人類の危機となりえる魔王を討伐し、救世主職をDランクにする”

==========

“『コントロールZ』、後のない状況をくつがえせるかもしれないスキル。


『魔』を1消費することで時間をコンマ一秒戻せる”


“実績達成条件。

 人類の危機となりえる魔王を討伐し、救世主職をCランクにする”

==========

“『丈夫な体』、寿命ぐらいで死んでいられないスキル。


寿命の概念がなくなり不老となる。病気に対しても耐性が強まる。

ただし『守』パラメーターには何ら影響がないので注意”


“実績達成条件。

 人類の危機となりえる魔王を討伐し、救世主職をBランクにする”

==========


 救世主職として遜色そんしょくないスキルばかり……とは言い難い構成である。もっと攻撃的で強力なスキルが欲しい。こう黒曜は願ってさえいた。

 ……とんでもない勘違いである。

 救世主固有スキルはすべて、世界を救う者の必需品だ。


==========

“『既知スキル習得(A級以下)』、スキルは体で覚えるスキル”


“≪追記≫

 救世主にただの敗北は許されない。

 『ZAP』スキルと見合わせて敵のスキルを覚えて己を強化せよ”

==========

“『カウントダウン』、救世主的に必要なタイマースキル”


“≪追記≫

 救世の必要があるという事は、世界滅亡が始まっているという事でもある”

==========

“『コントロールZ』、後のない状況をくつがえせるかもしれないスキル”


“≪追記≫

 制御コントロールできる『ZAP』スキル。簡易版”

==========

“『丈夫な体』、寿命ぐらいで死んでいられないスキル”


“≪追記≫

 『ZAP』スキルを取得する前に、寿命は超越しておくもの”

==========

“『ZAP』、このスキルを得た救世主はもう後戻りできないというか、後戻りさせられてしまうスキ”


“≪追記≫

 世界は救われなければならない。世界を救ってもらわなければならない。世界が救われるまで救い続けなければならない。

 救え。

 救え。

 救え。

 救え。救え。救え。救え。救え。

 救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。

 救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。

 救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え。救え――”

==========


「救世主、救え?? 何なんだこの悪夢のようなスキルは。ふ、ふッ、ふざけるなァァぁッ!!」


 黒曜はその後、三百年ほど魔界の奥地へと引き篭もる。人類がどうなろうと魔族と戦おうとはせず、目をつむり、耳をふさぎ続けた。

 もちろん、そんなやる気のない態度に対しては『ZAP』スキルが発動し、やり直しを強制させられる。

 時間遡行が発動し終わった後、黒曜が立っていた場所は大魔王の魔王城の玉座だった。




 救世主職に絶望した黒曜が逃避の次に試したのは、自殺だ。

 『ZAP』スキルを上回るスキルで己を殺害してくれる魔王を求めて、魔界にいる様々な魔王へと戦いを挑む。



「討伐不能王へと挑む意気込みは買おう。だが、意思が貧弱だ!」


“――――『ZAP』スキル発動。YOU ZAPPED TO …… ”


「あはっ。まるで体を乗っ取られると知っていて挑んできたかのよう」


“――――『ZAP』スキル発動。YOU ZAPPED TO …… ”


“――我ハ無敵デアレ。『スキル拒否』”


“――――『ZAP』スキル発動。YOU ZAPPED TO …… ”



「ZAP、ZAPばかり言ってッ。もう、うるさいんだよッ!!」



 魔王共はやはり強力であったが、黒曜の望みを叶えるにはいたらない。墓石魔王の『スキル拒否』には大きな期待が寄せられていたものの、結局『ZAP』は無効化されなかった。

 自暴自棄になった黒曜は、魔王に負けるか自殺するか引き篭もるかの三択で『ZAP』スキルを無駄に発動させ続ける。

 結果、黒曜が学んだ事は……救世主の役目を放棄したと思われない程度に引き篭もるであった。『ZAP』スキルの無効化を諦めてしまった訳である。

 もちろん、黒曜が戦っていない魔王はまだまだ存在する。近場に魔王がいたなら殺されに行くだろう。救世主の役目をこなしているという体裁のため、自殺を諦めていないという体裁を整えるためだけに魔王へと挑むのだ。やる気など一切生じなかった。


 こうして、次に黒曜が偶然選んだ相手は魔王連合。

 その一柱たる融合魔王。


 融合魔王へと接近しただけも生物は絶命してしまう。恐ろしく効果の高い毒性を有する魔王である。ただしその毒には色がない。臭いがない。『魔』の気配さえもない。正体がまったく掴めないため対処方法がない。

 噂通り、黄色い結晶が本体の融合魔王を視認できる距離に近づいただけでも、黒曜は吐気を覚えた。魔法を使われたのかスキルを使われたのかさえ分からず体をふら付かせる。確かに毒性は強い。

 ただし『ZAP』スキルを上回れる程ではないだろう。

 黒曜は期待していなかったはずだ。いつも通りにまた『ZAP』してしまうのだろうと諦観していたはずだ。


「無茶をするな、黒曜ッ!! 今、助けに行くぞ」


 昨日、森で拾ったベネチアンマスクの男が現れるとは考えもしなかった。


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[良い点] >YOU ZAPPED TO ……  ドルアーガ思い出しました [気になる点] よく分からんのですが、主人公は2000年前にも存在したということでしょうか それともその場に別の誰かがいた…
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