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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十九章 怨嗟の終わり
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19-1 神託漏洩

 オリビア・ラインの完全制圧および防衛陣地としての整備は、到着したナキナ軍と解放した旧オリビア人達に任せる事にした。

「アニッシュは流石に出られなかったか。で、やってきたのはお前か」

「何が不満なの。せっかく家内がきてあげたというのに、貴方アナタ?」

「いや、完全に屋外だろ。ここ」

 ナキナ軍を率いてきたのは喪服姿のカルテだった。ナキナ王の親族であり、指揮能力も高いカルテが派遣されたのは当然だろう。

 ぎこちない会話しかできない女であるが、憎らしい女という訳でもない。

「喪服は趣味が悪いな」

「仮面の趣味ほどではないわよ。それに、夫を死地に追いやった女ですから、服を選ぶ自由を失うぐらい当然でしょう」

 鬼嫁なのか貞淑ていしゅくなのかよく分からなかった。

「私に構っていないで早く向かって。ナキナの脅威はまだ片方残っていますわ」

「言われなくとも、これから直行する」

 オリビア・ラインの脅威は取り除いた。けれども、精霊帝国側の脅威はまだ残っている。

 いや、帝国の脅威はより一層強まったと言える。オリビア・ライン攻略と同時に動いていた精霊帝国攻略組からの通信が途絶したのである。

 攻略組に参加していたアイサから入った最後の連絡は、アイサ以外の何者からの褒め言葉であった。


『メルグス:神託通り、うまく処理してくれましたわね』


 精霊帝国攻略組にもリセリの姉、ネイトが同行していた。だから、ネイトがアイサのスマートフォンから連絡してきたのかもしれない。

 ……これは楽観が過ぎる。精霊帝国の大将たるエルテーナがアイサのスマートフォンを使ったという妄想の方がまだ納得できるはずだ。

 精霊帝国の攻略は失敗した。その後の連絡がない時点で最悪のケースを想定するべきだ。

 日本語入力の問題があるので、エルテーナが直接スマートフォンを用いた訳ではないはず。となれば、入力を強要されたアイサは生かされているだろうし、他のメンバーも捕縛されているだけなのかもしれない。精霊帝国攻略組の安否を悲観するのはまだ早い。同族を禁術で化物エルクにしてしまうような奴等に捕らわれている状況を安心していられるかは別問題だったが。

 ゆえに、オリビア・ライン攻略組たる俺達がそのまま救出部隊として精霊帝国領へと挑む。疲労が溜まっていても休日返上でナキナの端から端へと移動する。


「ゼナや月桂花、落花生にラベンダー、そこに俺に化けた黒曜までいたのに失敗した。ただ突っ込んでも二の舞になるだけだ。何か作戦を考えないと」


 怨嗟えんさ魔王と組んでいる精霊帝国をあなどっていた訳ではなかった。が、想像以上の難敵だったからこそゼナ達は失敗してしまったのだろう。救出を急がなければならないのは当然であるが、同時に、精霊帝国攻略組が何故失敗してしまったのかを考えなければならない。

 失敗理由を考える材料は、ある。

 LIFEの内容が語っている。精霊帝国の大将、エルテーナは巫女職であり、『神託』スキルを所持している。

 『神託』スキルには俺達も助けられた。先の見えない迷宮を突き進んでいる最中、リセリは一区画先にある危険を時々警告してくれていた。未来の危険を事前に察知できていた訳である。

 敵であるエルテーナもリセリと同じく未来の危険を察知している可能性がある。


「リセリ。『神託オラクル』は未来の危険を察知できるスキルで間違いないのか?」


 遠征用の荷袋にアイテムを詰めているリセリを発見し、巫女職としての意見をく。

「未来を見通す創造主の警告や助言を傾聴できるスキル、というニュアンスが正しいですわ」

 どうして創造主が未来を予知できるのか。

 この疑問を問いかけてみたが、リセリからの回答は創造主だからの一言であった。キラキラしている瞳を見る限り冗談を言っている様子ではなく、異世界人的には当然の事のようだ。

 未来予知そのものについては追求しても仕方がない。たずねたい事は別にある。

「予言を言語として耳にするイメージか」

「重大事項についてはそうなりますが、大抵は一言、二言のささやき声で終わってしまいます。半分以上は瞬間的なイメージが頭の中に浮かぶだけです。しかも見えるものは現在ではなく近未来。巫女職は現状から判断して神託を解釈するセンスも問われます」

「個人の才能に依存しそうだな」

「エルテーナの直感は瞬発力に優れていましたわね。敵を認めたくはありませんが、神託と常識の関連付けがこの私以上に優れていたのは確かです」

 リセリは若干以上にくやしそうな顔をしている。電波時計並みの頻度で創造主の言葉を受信しているリセリがおとっているとは思えないのだが。

 『神託』スキルが近未来を細かく伝える訳ではない。あくまで、解釈するのはスキル所持者である。これは重要な情報だろう。

「解釈しなければならないのは分かったが、そもそも、創造主は個人的な危機に対しても警告してくれるものなのか?」

 異世界の総人口は不明だが、種や文化を維持しようと思えば百万を超えるはずだ。百万人いる人類の中からたった一人の危機を教えてくれるぐらいに、異世界の神様は熱心なのだろうか。

「基本的には世界規模、地域規模の災害を神託されるだけですわ」

 大雑把に解釈すると災害速報のようなものらしい。

「例外的に、高位の巫女職は個人の危機の神託を受けます。これは大変名誉な事で、創造主に目をかけられているという証拠と自信に繋がります」

 創造主は平等に情報を伝えている訳ではないらしい。『神託』の受信感度の良い巫女職を贔屓ひいきする傾向がある。リセリも贔屓されている一人だ。

「この私というよりも、凶鳥様に関して頻繁に神託を受けているという方が正しいですわね。あ、今は御影様でしたか」

「お、俺?」

「流石は救世主職でございますわ。討伐不能王を討伐されたという功績も、このたびのオリビア・ライン解放で再現されました。旧オリビアの人々が目撃しておりますし、救世主現るの噂は広まり始めていますわよ」

 記憶とはいえ討伐不能王は派手に暴れてしまった。その討伐不能王を倒した仮面の人物を救世主として人々が称え始めている。

 ……今は聞かなかった事にする。精霊帝国攻略に集中したい。

「魔王と組んだエルテーナを創造主が未だに贔屓していると思うか?」

「それはないでしょう。エルヴン・ライヒの行動は人類全体を混乱させています。エルテーナが高位の巫女職であっても、創造主からは見放されているはずです」

「では、どうしてエルテーナは未来の危険を察知できている?」

 リセリは腕を組んで少しだけ思考し、可能性の話で言えばと前置きしてから己の考えを告げる。


「創造主は世界規模の問題を解決しようとする者達を援助しようと神託の頻度を高め、内容も詳細化してくれます。それが結果的に、エルテーナへと情報を伝えてしまっているのではないかと」


 エルテーナは自分の国を世界規模の問題児にする事で『神託』の対象となろうとしている。これは考え過ぎであるが、精霊帝国関連の神託頻度が高まっているのは間違いない。

 エニグマを解読されてしまったドイツ軍……というよりはセキュリティ意識なく、鍵なしのまま無線LANを使用しているようなもの。暗号化されていない味方の通信電文が敵国に筒抜けになっているだけである。エルテーナは一歩も外に出向く事なく、世界中の重大事件の未来予想を見聞きできてしまう。

 具体的には、精霊帝国へと味方部隊が侵入し敵警備部隊とニアミスしてしまうと――、


“――『神託』する。

 敵近し。迂回されたし”


 ――という『神託』が配信される。味方部隊は敵を回避できるだろうが、この段階でエルテーナは国内に潜む何者かを察知できてしまうのだ。

 創造主は善意で行っているのかもしれないが、その所為で俺達は迷惑している。

「リセリ。創造主に迷惑だから止めてくれ、と伝えられないのか?」

「恐れ多いですわね。そもそも神託は受信するだけで、巫女職からの意思を伝えられません」

 敵に情報が垂れ流されている状態で俺達が馬鹿正直に動いても、救出は失敗してしまうだろう。

 対策は……思い付かない訳ではない。情報漏洩を逆手に取れば良い。


「言葉で言う程簡単ではないけどな。敵が想像していない速度と方向からエルフの都へ潜入できなければ難しい」


 精霊帝国攻略組は森の種族のみやこを目指していた。

 地理的には魔界の中にある。ナキナの国境を越えて、獣の種族の縄張りを通過した先にある大森林の中央だ。ナキナの国境付近までは馬で輸送してもらえるだろうが、そこから先は徒歩移動するしかない。レベルアップで足腰が強化されている人間族であっても十日の道のりになるだろう。

 腹立たしいが、距離の問題だけは解決できそうになかった。

「ペーパー、どうにか解決してくれないか?」

「無茶を言うなっ!」

 最近、ペーパー・バイヤーが頼りなくて困る。


「まったく、全員は無理だ。ただ……人数少なくて良いなら、ショートカット手段があるぞ」


 やはり、ペーパー・バイヤーは心の友である。親友ゆえに多少の無茶を簡単に叶えてくれる。素晴らしい男だ。かっこいい。

 敵の都に常識外の速度で潜入できるのであれば、『神託』はどうにか対策可能だろう。

「移動時間を短縮できれば皆を救出できるのか?」

「いや。それだけでは不十分だ。捕まっている皆の位置を掴んでおかないと救出なんてできない」

 都と言われているだけあって捜索範囲は広いはずだ。

 『神託』を誤魔化していられる時間は限られる。当てずっぽうに捜索していても時間切れとなって、救出作戦は失敗してしまうだろう。

 ふと、背中を軽く突かれて肌が粟立つ。

「ひっ。なっ、慣れませんわね……」

「お前の後ろでポルターガイストが発生しているぞ。ぼんやりと形が見えるが……二人いるな」

 リセリが顔を引きつらせながらも挨拶していた。

 振り向いてみれば、赤と青のゴーストが二人並んで浮いている――足はあるが、微妙に浮遊状態である。赤の方はリセリに手を振って挨拶し返しているが、リセリは一歩後退してしまった。他人には怪奇現象にしか見えないらしい。

 赤と青のゴーストといえば、二人しかいない。皐月の師匠ゴーストに、アジサイの姉ゴーストである。

 悪霊魔王だった頃に呼び出してからかなり時間が経過しているが、二人ともゴーストらしく皐月とアジサイに憑依して『魔』を吸収しているため肌艶は悪くない。

「……霊感ない俺には骸骨っぽいものが透けてみえるだけなんだが」

「女性が裸で見えるなんて、ペーパーはスケベだな」

「不条理な死を迎えた上級レイスといえば巫女職の天敵でありまして、仲間だと分かっていても、こればかりはどうにも……」

 赤と青は手に持つスマートフォンの画面を見せてくれていた。LIFEアプリが起動しており、“霊界グループ”なるグループトークが開いている。


「御影くーん。あの二人、やっと招待できたよ。お手柄でしょ?」

「この世に未練があったのは彼女達も同じでしたから。事前にスマフォを手渡しておいたのは正解でした」


『‐大紅団扇が韋駄天を招待しました‐』

『‐氷姉がエゾキクを招待しました‐』


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