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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十八章 二正面作戦
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18-14 記憶を取り戻す

 地面に叩き付けられた記憶の塊が、衝突の衝撃によって変化を始めた。

 最初の形態は、発芽した種であった。一本のか細い芽がアボカドのような種から伸びている。カイワレダイコンと変わらない芽の見た目に、エクスペリオは酷く落胆した事だろう。

「……何でしょう。これは」

「ッ! 絶対にアイツだ、二人とも全力で後退するぞォッ!!」

 記憶は植物の形態を採択した。

 俺の中にある半分だけの記憶が警告する。俺が戦った敵の中で植物のボスモンスターはアイツだけだ、と。

 球体広場の中央から端まで移動する。壁が迫れば皐月の炎で溶解させて逃げ道を開く。

 置き去りにされたエクスペリオは暢気のんきに立ち尽くしているが、命が惜しくないのだろうか。

「何を恐れているのですか??」

 小さな芽は太く伸びていく。一呼吸している間に人間族の身長と変わらない高さまで成長していた。養分を求める根が張り出して、あっと言う間に広場の石畳全体に広がる。

「これは、これはッ」

 見た目はもう樹木そのものだ。幹回りは十メートルを突破し、更に成長を続けている。

 球状広場はたった一本の樹木に支配されてジャングルと化した。当然、そんな狭苦しい場所に収まってはいられないため、樹木は天井を突き破ってまだ成長を続ける。

「これはッ! いえ、ありえないッ。ありえないですよッ!!」

 成長の足しにしようと根や枝がエクスペリオに絡みついていた。直接戦闘を好むタイプではないとはいえ、エクスペリオは迷宮魔王の幹部である。たかが植物ごと捕らわれるはずがない。

 ……そう、この植物はそういう手合いなのである。

 体の末端は弱い武器でも体を傷付ける事が可能なぐらいに『守』が低い。『力』も目立って高い訳ではないだろう。

「ちょっッ。マジでアイツなの、凶鳥!」

「そうだ。だから走れって言っているんだ!」

 だが、この植物は無限に成長する。無制限に成長する。

 何度、枝葉を刈り取っても再生を続ける。根を地中から引っ張りぬいても、千切れて残った部分から再生する。焼き尽くしたとしても、焦げた己を養分に再生してしまう。


「どうしてこのような真性の化物がッ、どこぞのアサシンの記憶から蘇るというのですかッ!!」


 百を越える枝と根に壁際まで追い込まれたエクスペリオは叫んだ。

 その時には、もう樹木は天井を突き破って頭頂部は外に達してしまっていた。石化能力で硬度を増していたはずのオリビア・ラインは内部から崩壊を始めたのである。上空から俯瞰ふかんしたならば、南北に長くそびえているだけのプランターと変わらないだろう。巨大木は記憶モンスターなので色は黒っぽいが、大きさ程の異様さはない。

「ヘンゼルっ、外に続く道はないのか?」

「屋上に続く道ならある、であります」

 崩れ落ちていく壁の破片に後頭部をせっつかれつつ、ヘンゼルの導きで階段を駆け上がった。

 屋上に跳び出した俺達が見た光景は、夕日の中、周囲の山々よりも高く成長した巨木だ。魔法世界においても異常な高さに成長を果たし、それでもまだ伸び続け天を貫こうとしている樹木の正体は……魔界で発芽した世界樹。

 創造主がその手で植えたという神聖そのものであるはずの世界樹の種が、血と贓物で汚れた魔界で発芽した事により悪性変異、魔族化したものの末路。

 だが、魔族と化しても世界樹特有の傷を癒す奇跡の力は保持されていたため、どれだけ傷付けても即座に回復してしまう。

 ゆえに、人類のみならず魔族からも討伐不能と恐れられた魔王が、その威容を再び異世界に誇らせた。


「討伐不能王がッ! 何故このような記憶にぃ、ィィギィアアァアア、ぁッ!!」


 体全体につたを巻かれたエクスペリオの最後は、全身の血肉を搾り取られるものであった。

 血管に突き刺された根から養分をすべて吸い取られて、残りカスや毛がちりとなり風に舞った。討伐不能王と幹部格の対決ならば当然の結末だ。

「主様の里帰りか。エクスペリオめ、余計なものを最後に残してくれた」

 皐月、アジサイ、落花生、ラベンダー達、天竜川の魔法使い達の不幸の黒幕。

 ギルク、スキュラ、オーリン、といった名立たる悪を統括した魔のカリスマ。

 俺が地球の地方都市で討ち滅ぼした魔王が蘇ってしまった。一度倒した相手であるが、状況は以前よりも悪い。

 現在時刻は夕刻。まだ、ギリギリ太陽の光が残っている。

 討伐不能王は全身から若葉を一斉に生やした。僅かな光を受けただけだというのに成長速度が高まる。

 ふと、大蛇のごとき巨大な根がオリビア・ラインの内側から跳ね出した。邪魔な城壁を遠くへと弾き飛ばす。開いた穴から新しい幹が生え出して空へと伸び上がる。分枝が始まったのだ。無限増殖の始まりだ。

 世界は討伐不能王に飲み込まれて滅びる。

「オリビア・ラインの攻略に成功したと言えるけど……主様は…………」

「被害甚大、であります。これで迷宮魔王様の魔界における地盤はすべて失われた、であありますが……」

 皐月がへたり込むのも仕方がない。討伐不能王は単体で世界を滅ぼせる惑星レベルの災害なのである。どれだけレベルを高めたとしても、人がユカタン半島に落下してくる隕石を受け止められるものだろうか。

 崩れておいていく長城を眺め続ける。人類終焉の始まりを直近で傍観する。

 討伐不能王は、人類が戦うべき相手ではないのである。


「なるほど。これは人類では戦えないよな。……だからこその俺か」


 幹が五本に増し巨大森林となった討伐不能王。成長し足りない魔王の魔枝が、俺達の元へと伸びてくる。


「…………主様よ。記憶だけの抜け殻でしかないとはいえ、主様よ。この俺の顔を忘れたか?」


 鋭い枝先がもう少しで俺の顔を貫く寸前。俺は凶鳥面を引き剥がした。

 ビクリ、と枝が震えて停止する。

 停止したのは枝だけではない。討伐不能王全体の成長が止まっている。俺が仮面を外して、穴の開いた顔で見詰めてやっただけで恐怖に縛られた様子である。


「俺が救世主職の資格を得た理由は、世界を滅ぼす魔王を仕留めたからだ。主様よ、お前の魂はこの穴の底に深く沈み込み霧散したが……一度死んだぐらいでお前の罪が許されたと思ったのか?」


 停止したはずの討伐不能王が、ビクリ、とまた震える。

「呼んでいるぞ。この顔の穴からお前を呼んでいるぞ。お前が殺した少女達の手が、お前を呼んでいる」

 顔の穴から、うら若い年頃で殺害された少女達が手招きしている。お前はこっち側だと、討伐不能王を呼んでいるのだ。

「凶鳥……違うっ、この力は御影?」

「皐月。顔を見てくれるなよ。死者は自制が効かないからな」

 取り出したナイフの感触を確かめながら、顔を見せないギリギリの角度で振り向きつつ皐月に言い残して出撃する。




 夕日が沈む。

 黒い世界がやってきて、気温が極度に下がった気がする。

 討伐不能王の幹に到達するまで妨害がありえなかった。破壊の激しい屋上を歩いて進む俺に触れないよう、枝葉が勝手に避けていく。

 そして、討伐不能王の最も太い幹と対面した。

 植物に視覚器官などありはしない。が、きっと討伐不能王は直視していた事だろう。


「――深淵よ。深淵が私を覗き込む時、私もまた深淵を覗き込んでいるのだ」


 俺の顔の穴の先にある黒い世界は、少女の悪霊の腕で満ちていた。


「お前は、死ね。………………『暗殺』発動」


==========

“スキルの封印が解除されました

 スキル更新詳細

 ●アサシン固有スキル『暗殺』”

==========

“『暗殺』、どんな強者でも殺傷せしめるスキル。


 対象の心に大きな隙のある場合、攻撃がヒットした際に対象を一撃で仕留しとめられる。

 ただし、スキルが発動する確率は対象の心の隙の大きさ、ヒット時のダメージ量、スキル所持者の運に大きく依存する。

 スキル発動は攻撃のたびに判定が行われるが、初撃以降は確率が大きく下がるので注意。

 人間族が人間族をナイフで闇討ちした際の発動確率は二〇パーセント程度。人間族が一般的なボス級魔族の隙を付いた際の発動確率は一パーセントを下回る。よって、スキルに頼るぐらいなら最初から一撃死可能な攻撃を仕掛ける方が無難である。

 スキルの発動条件的に、スキルの対象となるものは心を持つ者に限定される”

==========




 再生怪人ほどもろいものはない。巨樹は粒子となって消滅して、すべて俺の内側へと吸収されていった。

 仕事を終えた俺は皐月達の元へと帰っていく。

「おっと。忘れずに仮面っと」

 帰りながら顔の穴を封じるために仮面を付け直した。が、付けたのは顔の上半分を隠すだけのベネチアンマスクであって、凶鳥面ではない。

「……黒曜に返さないといけないな」

 借りていた凶鳥面を大事に握って歩きだす。


「その仮面。記憶は無事に戻ったようだな」

「ああ、取り戻した。待たせたな、優太郎」

「優太郎言うな。ペーパー・バイヤーだ」


 皐月達の所には離れ離れになっていたペーパー・バイヤー、アジサイ、リリーム、リセリが合流していた。オリビア・ラインが崩壊してしまう程の大被害であったが、うまく切り抜けていたらしい。

「それで、迷宮魔王は倒したのか?」

「……あっ」

 仕事を終えた気分でいたが、倒せたのはエクスペリオのみである。迷宮の主たる迷宮魔王の存在をすっかり忘れていた。

「影響力の割に影が薄い魔王だからな」

 迷宮魔王は自分の心臓を迷宮で守っているらしいのだが、どこにあるのやら。

「迷宮魔王様がおられたのはオリビア・ラインの中央のはずでしたが」

 ヘンゼルが指差した先は、討伐不能王の被害が最も大きい地帯だ。巻き込まれて死んでくれたと信じたい。瓦礫の中を発掘するのは骨が折れそうだ。

「リセリ、『神託オラクル』はないのか?」

「……神託きました。魔王が一体、付近にいます」

 パーティに一人、巫女職。いるといないとでは安心感が違う。迷宮魔王は近くにいるらしい。


「――いえ、違います。迷宮魔王は健在ですが、付近にいる魔王は……『行軍する重破壊』、墓石魔王?」


 リセリがつぶやいた途端、小さな地震で瓦礫が震えた。

 震源地は山一つ向こう側。魔界側の山脈の合間で振動がするたび、長方形の人工物が見え隠れしている。巨大ゴーレム、墓石魔王の巨体で間違いない。

 ここで戦おうと思っていた相手ではない。一切の攻撃を受け付けない不死身の墓石魔王と戦いたいとも思わない。

 とはいえ敵は選べないものなので、向かってくるのであれば迎え撃つまでだった。


「……いえ、遠ざかっていくようです」


 リセリは再度の神託を受けていた。墓石魔王はオリビア・ラインの傍まで行軍してきたものの、また魔界へと戻っていく。

「墓石魔王の奴、何しに現れたんだ??」

 墓石魔王の行動理由までは神託されなかった。とりあえず戦わずに済んだらしい。

 去っていく人工物を黙って見送った。




『誰かさん:迷宮魔王は逃したけど、オリビア・ラインは潰した』


 スマートフォンを取り出して、精霊帝国攻略組へ結果を送信する。

 送信内容通り、オリビア・ライン攻略組たる俺達は迷宮魔王の討伐には失敗したものの、ナキナの脅威になっていたオリビア・ラインの破壊には成功した。

 拠点機能は完全に失われている。城内にいたモンスター共は崩落に巻き込まれたか魔界へと逃れた。銃の製造工場と設計者たるエクスペリオを失ったため、当面は脅威となりえない。

「十点満点中、七点ぐらいの仕事かな」

「魔王を倒せなかったから三点ぐらいだろ」

 ペーパー・バイヤーの厳しい指摘を聞き流して返事を待っているが、LIFEがなかなか既読にならない。

 まだ戦っている最中なのかもしれない。気長にまとうとしてスマートフォンをしまう。

 ……が、しまった直後に着信音が鳴る。


『メルグス:神託通り、うまく処理してくれましたわね』


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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