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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十八章 二正面作戦
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18-12 彼女が俺になった訳

 記憶が擬態する女の姿が、細かな粒となって消えていく。

 褐色の麗しい彼女による口付けはまさに奇襲であり、口撃であった。彼女に関する記憶が俺の中へと戻っていく――。




 モンスター共が蔓延はびこる大森林で遭難して、もう一ヶ月近く。携帯電話の液晶上には四月七日と表示されている。三月初めから遭難し始めてもう一ヶ月。

 最近、携帯電話を握り締めている時間が長くなっていた。節電のため電源を切っているのに、バイブレーションしたと勘違いして液晶を見詰めて落胆する日々が続いている。

 時々、寂しさをまぎらすために優太郎宛にメールを送っているが……返事が着信されるはずがない。この森のどこに基地局があるというのだ。人工物さえ発見できるのは稀であり、発見できたとしてもこけだらけの遺跡のみである。

「返信ぐらいしやがれ……クソッ」

 遭難者がボトルに手紙を詰めて海に流す行為と何一つ変わらない。

 今は返信がない事に怒りを覚えていられるから良いが、それもそろそろ限界だろう。精神の張り詰めが切れるよりも先にバッテリーが切れてしまう。

 たった一ヶ月、他人と会話していないぐらいで精神不安定になるなど心が弱過ぎるのだろうか。眠っている最中だろうと構わず襲われて、獣の喰い残しを無理やり飲み込んで、泥水をすすって腹を下す日々で心が磨り減るなど弱いにも程がある。唯一会話できたのは悪意に満ちた魔族共であるが、奴等は気持ちがダウンしただけなので除こう。

 討伐不能王を倒した男としては情けないが、俺は弱い人間だったのだろう。

「クソっ、クソッ。……誰かと話したい。一言だけでも話したい」

 ここがどんな場所なのかさえ分からないまま彷徨さまようのはもうたくさんだ。

 地球に、日本に、彼女達の元へと帰還できる確証という贅沢品までは求めない。この森にも人間が住んでいて、独りぼっちではないという最低限の繋がりが欲しかった。

 そして、今日もどこぞと知れぬ深い森へと迷い込む。

 誰もいない。寂しい森を絶望しながら突き進んだ。


『カカカッ、カカカッ!!』


『件名:四月七日

 本文:

 どこからだろう。鳥の鳴き声が、聞こえた』


 地面を見ながら歩く俺の後頭部へと、変な声の鳥が笑いかけてくる。気に触る鳴き方であるが目線を向ける程ではない。意味もなくメールを打つのに忙しいからだ。

『……カカカッ!!』

 枝から枝へ、鳥が飛び移る。枝葉がこすれて葉っぱが一枚落ちてきた。葉が俺の顔をかすめる。邪魔であるがベネチアンマスクがあるので無視した。

『…………カカカッ!』

 先程からちょっかいを出してきている鳥が枝から進行方向に下りてきて、道をふさぐ。

 ある意味人懐っこい鳥なのかもしれないと、ようやく視線を向けてみる。


『カカカッ!! この森から去れ!』


 ……変な仮面を付けた変な人物が立っていた。正直、不快感しか覚えない仮面であるが、もっと重大な事実が存在するだろう。

「に、人間か? それとも魔族か?」

『カカカッ。俺は鳥だぞ!』

 言葉を喋るヒューマノイド。

 言葉は通じていない様子であるが、言葉が通じないからこそ魔王やその幹部ではなかった。鳥の羽を各所に飾りつけたファッションは現地の風習か何かだと想像できる。

「だ、だ……っ」

『ダ?』

 俺と鳥は仮面同士で見詰め合う。


「第一原住民、発見ダぁぁあッ!!」

『ハァぁ?? お前何を言って!?』


 せっかく遭遇できた人類である。逃がしてはならないとタックル気味に鳥へとハグを敢行かんこうする。

『ちょっ、お前何をっ』

「逃がすか! 俺と一緒に異文化交流するんだ!」

『どこの部族だ、お前! 公用語も喋られない田舎者め! 待て、『オウム返し』で言葉を真似るから体に触れてく――ッ。仮面が外れる!?』




 ――思い出してみると、実に恥ずかしいファーストコンタクトであった。

 不慮の事故によって仮面が外れてしまってからの流れは違うが、結果そのものは変わらない。記憶喪失前の俺は今の俺よりも『運』が高かったので、簡単に赤子を発見してしまったのである。

 俺の仮面は黒い海の世界に対するふたであるが、彼女の仮面は忘れ去りたい過去に対する蓋だったらしい。攻撃性そのものは高くないものの、過去の追体験によって仮面の中を覗いた者を赤子のように丸めさせる効果を持つ。


 魔界に捨てられた赤子が生存できたはずがない。

 よって赤子が無事に成長し、鳥の鳴く森などと呼ばれるようになるはずがない。


 これが彼女の『正体不明』の正体である。現実では、どのような経緯で彼女が助けられたのかは分からない。聞いても話してくれなかった。

 彼女にとって重要だったのは事実ではなく、俺が赤子を助けたという結果の方だ。

 随分と気に入ったらしく、彼女は俺に親切にしてくれた。口では色々言いながらも魔界での生活方法を教えてくれたのだ。


「そういえば名前は?」

「鳥の鳴く森だ」

「いやいや、もっと名前っぽいのはないのか。呼びにくい」

「……勝手に呼べ。どうせ気に入らん」


 口悪い奴であったが悪い奴ではなかったのでその後は行動を共にしていた。一人で魔王連合と戦おうとしていたため、目を離せなくなってしまったとも言える。

 彼女はアサシン職として一流であり、俺よりも高い技量を有していた。それでも俺が助けなければ融合魔王に殺されていたから、魔王との戦いはあなどれないのである。

 魔王との戦いを経て互いを認め合ったため、以降は短い期間であったがパーティを組んだ。


「あの女は何だッ、言えッ!!」

「桂さんをそんなに警戒しなくても!」

「このッ、女垂らしの裏切り者がァ!」


 月桂花と合流してからは姿を見せなくなってしまったものの、傍にいる事は羽音や鳴声で分かっていた。一緒に魔王連合の影を追った。


「魔王共がこそこそ集まって地下で準備を整えている。俺はその魔王共を潰す」


 そうだった。魔王連合の脅威に気付いたのは彼女が最初だったのだ。

 そして……結局、彼女はたった一人で孤独に戦い続けたのである。


「人間嫌いの割には無茶するよな。理由があるのか?」

「はっ! 俺が住んでいる世界を救っているだけだ。他人が一緒に救われるのが我慢できないからといって、『カウントダウン』を無視する訳にもいかないからな。アレからの催促を無視し続けるのもわずらわしい」

「……『カウントダウン』? アレ??」

「どうせ世界なんてもの、誰も俺の代わりに助けてくれないからな! 救ってやっているという優越感ぐらい味わわせろ」


 俺が非力だったがために、彼女に一人で戦い続ける決断をさせてしまった。俺が猿帝魔王に敗北してしまってから、彼女は姿を見せなくなってしまったのだ。

 彼女だけを戦わせる訳にはいかないと思案し、仮面の穴を再び開く禁忌に手を出してしまったのだが……それすらも彼女に重荷を背負わせる結果にしかならなかった。

 計画通り『記憶封印』をエクスペリオに行わせてから、瀑布へと身投げした後。俺を川底から引き上げたのは彼女である。


「この……お前はっ、お前だけはいつ何時も俺を救ってばかりいて。だから嫌いなんだよ。お前は。だから俺がお前の悲惨な人生を奪ってやって……身代わりになってっ!」

「……やめ……ろっ。よせッ」

「邪魔な魔王連合の奴等、全員ぶっ殺してみせてやるから、よ! お前は、もう無理するな。休め」


 弱りきった俺を魔王連合から隠すために彼女は仮面を交換した。

 これが俺が凶鳥となって、彼女が御影シャドウとなった経緯である。

 彼女の孤独をどうにか救おうと頑張ったはずなのに、すべて裏目に出てしまった。

 もちろん、記憶を失う寸前まで彼女を助けようと考え続けた。通じるはずはないと理解しつつ、それでも一縷いちるの希望にかけて携帯電話で優太郎に頼み事をした。


『――次に電話があった時は、を助けてやっ』


 まあ、彼女が俺に化けていると教える前に記憶をすべて失ったのは失態であったが。




「俺が御影石の御影だからな。石繋がりで名前は……黒曜こくようでどうだ?」

「黒曜とはどういう意味だ」

「石言葉的には摩訶不思議。ぴったりだろ?」

「馬鹿にしているな、キサマァッ!」




 黒曜を助けてくれ、と頼むべきだった。





 鳥の鳴く森……黒曜の姿が完全に粒子化していく。

 一度拡散した粒子が集まっていく先では、エクスペリオが鼻を振りオーバーリアクションに嘆息している。

「……はァぁぁぁっ。実にツマラナイ茶番でしたな」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[一言] なるほど あくまで記憶というか追体験だったんですね
感想一覧
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