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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十八章 二正面作戦
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18-4 過去と向き合う

 ガリガリとレンガが削れる耳障りな音が左右から響く。

 迷宮の壁に小さな穴が開き、その奥に穴を拡張しようと細かく動くスコップと無数の目が見えた。

洞窟ケイブゴブリンか!」

 地下迷宮名物の脆弱モンスターが壁を掘って奇襲をしかけてきた。弱いといっても洞窟ゴブリンは集団で襲いかかってくる。逃げ場のない狭い地下通路でむらがられたらペーパー・バイヤーが死んでしまう。

 穴の中からゴブリンの醜い顔が現れた。

 そこに、広げられた手の平が添えられる。皐月の細い五本の指だ。

「――炎上、炭化、火炎撃!」

 生きたまま燃え盛る叫びが壁の向こう側から伝達される。相変わらず皐月の炎はモンスターに対して辛辣しんらつである。

 反対の壁からも洞窟ゴブリンが顔を出していたが、そちらは青い着物のアジサイが対応する。

「――凍結、崩壊、氷結撃!」

 冷たい風が吹く。

 穴から顔を出す、醜悪な形をした氷の像が出来上がっていた。自重を支えきれずに倒れていき、重い頭だけがこちらに落ちてくる。アジサイの氷も十分に辛辣だ。

「こんな雑魚に『魔』を使わなくても」

「自然回復の範疇はんちゅうよ」

「時々使わないと腕がにぶる」

 ゴブリン共の出鼻はくじいたものの、三節魔法のみでの完全制圧はできない。壁の向こう側にはまだ百体以上が残っているだろう。


「――師匠! 突貫ッ!」

「――姉さん、お願い」


 二人の魔法使いの足元から影が伸びる。各々の影が女性の形に姿を変えつつ、壁の穴に侵入する。

 少しすると穴の向こう側からまばゆい火炎と、凍える吹雪が肌に伝わってきた。ゴブリン共は全滅だ。

 歴戦の魔法使いである皐月とアジサイはやはり頼りになる。モンスターに接近されても動じず対処可能な魔法使い職は案外少ないらしい。

伊達だてに青春削って天竜川守護していなかったわよ」

 以前、アニッシュ達と共に地下迷宮を攻略していた頃と比べて戦力は充実している。スケジュールは予定通り、極めて順調だ。明日の朝にはオリビア・ラインの真下に到達できる。

 精霊帝国側のチームも今日中には敵の都に接近しているはずだ。


『誰かさん:そちらは順調か?』

『メルグス:順調だけど、僕は寂しい。早く会いたい』

『ロバ姉:大丈夫だ。可愛い妹を残して去ったりはしない。トレア姉以上に愛してやろう!』

『メルグス:ええいっ、馬鹿姉。お呼びじゃない!』


 LIFEがあるので遠距離であっても連絡は取り合えている。今のところは、であるが。

 向こう側のまとめ役はゼナが担当しているので問題はないはずだ。怨嗟魔王はあの御影シャドウが対処する事になっている。正体不明のやからに大事な役をまかせるのは正直不安であるものの、暗殺そのものを失敗するとは思っていなかった。

 御影シャドウに対する俺の微妙な心情。こんなものをどう表現したら良いのか俺にも分からない。



“――俺はッ、お前をッ、絶対に許さない!!”



 ふと、誰かが真正面から俺をにらんでいる光景がフラッシュバックした。

 一体、誰の素顔だったのだろうか。


「皆様。お疲れ様、であります。お夕食を持参しておりますので、ぜひ、であります。ちなみにお勧めのこちらは、破格の五ロニーであります」

「お、パンとチーズか。悪くないが馬鹿に高い。凶鳥にツケといてくれ」

「この私は乾燥野菜も挟んで。懐が寂しいので凶鳥様、お願いしますね」

「そんなっ! 凶鳥様が私に夕食を与えてくださるなんて」

「姉さん。何食べる? 兄さんがおごってくれるって」

「私はもう凶鳥に散々費やしているから、このぐらいお願いね」


 過去をフラッシュバックしている間に、何故か俺が奢る破目はめになっていた。





 精霊帝国の帝都は森の種族が作り上げたものではない。魔界に飲み込まれたどこかの古代文明の遺跡を修繕し、勝手に王都やら帝都やらと呼称し扱っているだけである。

 精霊帝国となってからも遷都はしていないため、ゼナが案内すれば辿り着くのは容易であった。警備網の突破は幻惑に長ける月桂花がいる時点で紙も同じだった。巧妙に隠された警戒魔法すら、アイサの目により看破されたため精霊帝国は暗殺チームの接近に一切気付いていない。

 暗殺チームは休憩場所として考えていた候補から使われていない遺跡を選び、野宿を開始していた。


「……そこのエルフ。光が反射するからスマフォを使うな」

「凶鳥の偽者に指図さしずされたくない」


 そう言いながらもアイサはスマートフォンを懐にしまう。根の良さは隠し切れないらしい。

「あんな奴のどこが気に入っているんだか。他人の真似しかできない、醜い鳥の仮面を外せない男だ」

「凶鳥を悪く言っても無駄だからね。僕にとって凶鳥は救世主なんだ。今は公的に広まりつつあるけど」

「救世主、ね。それもどこまで信じられるか」

 御影シャドウとアイサ。

 ニ正面作戦で戦力分散でもしなければなさそうな組み合わせの会話は長く続かない。凶鳥が傍にいないと他人に刺々しい態度を取ってしまうアイサに非があるはずだが、御影シャドウが採択する話題にも問題があったのだろう。


「凶鳥が救ってくれたのは、僕が最初なんだ。異世界こちらでの話に限定してだけど。地球むこうで凶鳥は救世主職に目覚めていたなかったらしいから、救世主職の凶鳥が初めて救ってくれたのは僕で間違いない」


 凶鳥を心底好いているアイサを、御影シャドウは嫌っているのは当然であったが。己の偽者を好きと言われて腹立たない者はいない。


「――ちぃ。これから夜で、明日は早い。さっさと寝ておけよ」


 御影シャドウはエルフ特有の長い耳、白い肌、金の髪を持つ嫌いなアイサから目線をそらし、衝突を避けた。明日の暗殺を思えば賢明だ。





 オリビア・ラインの下部に到達したのは今朝になってからだ。地下の迷宮内なので太陽は分からないが、時刻ぐらいスマートフォンを見れば分かる。

 迷宮魔王暗殺は今日からが本番である。というか、今日中に決着させる必要がある。

「だ、誰だッ。あんな兵器を敵に教えやがったのは!?」

 だというのに、俺達は早速盛大な歓迎を受けてしまっている。

 要塞内へと通じる階段の上に備え付けられた銃座二台より、重機関銃の掃射にさらされたのだ。階段の中腹から下の通路までが完全にキルゾーン。盾にした柱がみるみる欠けていったため、来た道を急いで引き返している。

「『神託』に従って、凶鳥様一人で偵察しておいて良かったですね」

「まったくだ! 知らずに上っていたら全員が蜂の巣どころか肉片だった!」

 さすがに本城への入り口は警備が厳重だ。

 重機関銃を操るインプ共はかなり訓練されているのか照準も正確で、無駄撃ちも少ない。俺が射程圏外まで交代すると熱せられた銃身の交換を開始している。

 俺達のパーティにも銃はあるが、射程と速射性能で完全に負けてしまっている。

 ヘンゼルが自前のリボルバー式の銃を構えつつ、魔王連合へ種子島が伝わった経緯を教えてくれた。


「……銃を伝えたのは地下迷宮を攻略していた勇者候補パーティの一つだと聞いている、であります。脅威の新兵器をある冒険者が記憶武装で再現したのを、エクスペリオ様がコピーして解析した、であります」


 ビー玉の形をした記憶武装。使用者の記憶を読み取り、武器ならばどんな形状にも変化するという便利なアイテムだったため、勇者候補達は皆が便利に使用していた。

「やっぱりあのドロップアイテムは、そういう物だったか。あんな敵側アイテムで銃を使ったなんて傍迷惑な!」

 どこかの愚か者が銃を記憶武装で再現したために、今俺達は銃の脅威に立ち向かわなければならない。

「ちなみに記憶武装で読み取ったオリジナルは、あそこの重機関銃であります」

「……あれ、どうみてもブローニングだよな。異世界こちらであれ知っているの、凶鳥ぐらいだろ」

 馬鹿を言うんじゃない、ペーパー・バイヤー。まるで俺が敵に銃を広めた張本人みたいではないか。そんな心当たりはどこにも――。


「――ってッ、俺の所為か!?」


 大声を出したからか、再び掃射が始まる。

 耳の鼓膜が破れそうだったので、俺は両手で頭を抱えこんだ。


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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