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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十八章 二正面作戦
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18-3 迷宮魔王の計略

 黒く硬化した巨壁が北から南にそびえる。視界の七割は黒い城壁だ。

 その原型、原意は魔界からオーバーフローしてくる魔族の群を阻むために築城された人類を守ってくれる要塞のはずであるが、現在は魔王連合に支配されてしまっている。要塞周囲には万を超えるオークが防御陣地を築き、守りは固い。

 要塞そのものも石化スキルにより内外の構造が強化されており、本来の設計よりもかなり堅牢だ。五節魔法の威力でも簡単には破壊できないだろう。

「壊せなくても、私の五節で中を蒸し焼きにぐらいできるかも?」

「もっと確実な方法を取るべきだ。あの要塞のどこかにいる迷宮魔王とエクスペリオを探り出して、確実に仕留めなければ作戦失敗だ」

 山一つ先に見えるオリビア・ラインを望んでいるのは、ナキナ国より派遣された暗殺チームである。

 苦境に立たされたナキナを救う。そのために膨大な数の魔王軍の正規攻略を諦めて、敵軍大将の暗殺により敵軍弱体化を狙う特殊作戦を俺達は採択した。魔族に比べて脆弱な人類が考え付く作戦など今も昔も変わらない。

 魔王軍は強力であるが、一発逆転可能な隙がない訳でもない。

 信頼や連携といった概念のないモンスター共を組織として運用するためには魔王の『異形軍編制』スキルが必要不可欠なのである。十万もの脳筋オークが隊列を組むには魔王のカリスマに頼るほかない。

 つまり、魔王を倒せば魔王軍も瓦解がかいさせられる。

 この作戦が攻略ではなく暗殺である理由だ。


「皐月とアジサイは戦力のかなめ。魔王発見まで『魔』は温存してくれ」


 オリビア・ライン担当の暗殺チームの構成メンバーは七人。

 一人目。圧倒的火力を誇る炎の魔法使い、皐月。赤い異世界のドレス――地球から着てきたものはこれまでの戦闘で焼失済み――は暗殺者としては失格だが、トレードカラーは簡単に捨てられるものではない。

 二人目。皐月と同等かそれ以上の実力を持つ氷の魔法使い、アジサイ。冷静なるアジサイは属性も相まって目立ちはしないものの、立ち回りの良さには定評がある。


「道中の敵はリリームが蹴散らせ。要塞内は迷宮化しているはずだが、進み方はリセリのノウハウに任せる」


 三人目。精霊戦士のリリームは貴重な前衛だ。後方支援職ばかりのチームにおいて、剣で戦える彼女の役割は大きい。どうしてこんなに頼れる人物がオリビア・ライン側に参加しているかというと、このエルフ、森林地帯ではパラメーターが下がるポンコツなのです。

 四人目。危険を『神託オラクル』によって察知可能なリセリ。迷宮魔王が落としたオリビア・ラインは内部がラビリンスと化してしまっている。迷宮経験を買って参加してもらっていた。


「道案内は任せるぞ、ヘンゼル」


 五人目。ヘンゼルも当然俺達と一緒だ。迷宮魔王を裏切って俺と商売してくれている彼女には全面的なサポートを頼みたい……無償で。そもそも、契約内容がヘンゼルをオリビア・ラインへと連れて行く事なので同行してもらわなければならない。


「――あったぞ。ドローンが地下迷宮への入口を発見した。オークの警備がいるようだが、お前なら余裕で制圧できる」


 六人目はペストマスクの怪しい男。不詳ふしょうもとい不肖ふしょうの親友、ペーパー・バイヤーである。

 戦闘以外ならなんでもできる男は用意が良い。今も秘密装備、ドローンでの偵察を完了した。これから向かう先、地下迷宮ではマッパーを担当してもらう。


「よし、手早く済ませるぞ」


 七人目は俺。これで全員。

 魔法使い(二名)職、精霊戦士職、巫女職、商人職、無職、救世主職。こんな珍妙な陣容の部隊に暗殺されようとしている迷宮魔王が不憫ふびんでならない。

 精霊帝国側の暗殺チームは戦士職(二名)、魔法使い(四名)職、女帝職(二名)、巫女職、忍者職、暗殺職とかたよってはいるがまだマシな人員だろう。三千年前に精霊戦士職を引退していたゼナとジャルネが同じ職業だったと始めて気付く。

 この七人の侍ならぬ七人の暗殺者でオリビア・ラインに潜む魔王を討伐する。


「……私達の影の中に」

「……姉さん達がいるけど?」

「ゴーストはノーカンで」


 ヘンゼルいわくオリビア・ラインは地上五層、地下六層の多層構造になっているようだ。迷宮魔王は地下を離れ、オリビア・ラインの上層に座している可能性が高い。

 精霊帝国側の暗殺チームと行動を合わせなければならないので、攻略期間は五日ほどを予定している。

 最初でつまづかないように慎重に。気配を悟らせずに小さな洞窟を守るオーク二体を始末すると、手招きして全員を呼び寄せる。迷宮探索を開始した。




「迷宮魔王……様は姿を見せられない魔王で、居城の管理運営は三騎士が分担して行っていました、であります。ですがメイズナー様の討伐により残ったオルドボ様、エクスペリオ様への負担が増加してしまい、また人類圏侵攻もあって地下迷宮の監視はかなり手薄になっている、であります」


 裏切っている君主を様付けするかどうかで少し悩んだヘンゼルは、迷宮魔王について解説を続ける。

「魔界でのエルヴン・ライヒの立ち上げを機に、怨嗟魔王様から距離を置くために迷宮魔王様はオリビア・ラインに入城している、であります」

「つまり地上から近づくよりも、誰もいない地下を通った方が気付かれにくいと?」

「その通り、であります。鳥系男子のお客様。オリビア・ラインの地下には、人類圏侵攻時に使われた侵攻ルートが存在する、であります。それを利用する、であります」

 ヘンゼルを中心に前方はリリーム、後方は俺が守りを固めている。中央ばかりが分厚い菱形隊列には不安を感じるが、ヘンゼルの言う通り地下迷宮はかなり手薄になっている。

 迷宮内で勝手に繁栄しているゴブリンや虫型モンスターとはエンカウントしているが、魔王軍の主力である銃装備のオークやインプとは遭遇していない。弱モンスターならばペーパー・バイヤー以外は自衛できる。

「この迷宮が侵攻ルートだったのか」

「オリビア・ラインがあったにもかかわらず人類圏へと魔王連合が侵攻できた理由、であります。単純に地下を通って迂回うかいした、であります」

 オリビア・ライン陥落の謎は、種さえ分かれば大したものではなかった。迷宮魔王が地下を掘り進んで長城という壁を無視しただけである。銀行強盗と同じやり口だ。

「むむ。迷宮魔王の迷宮はナキナ国の端だけではなかったのですね。年々拡張が進んでいるという話はありましたが、ナキナ国の地下を掘り進んでオリビアまで到達していたなんて」

 リセリと俺は迷宮魔王の作った地下迷宮を一度経験している。魔界に近いナキナの東端にあり、荒くれ冒険者が集って地上には街が作られるぐらいににぎわっていた。一層下りるだけで一日かかる巨大な地下迷宮であったが、多くの冒険者の金目当ての努力により詳細な地図が作成され、魔界ほどに危険はないと判断されていた。

 だが、人類がマッピングできていたのは全体の数パーセントに過ぎなかった訳である。


「迷宮魔王様にとっては何十年前から継続していた作業の延長でしかなかった、であります。人類を遊ばせるアトラクション目的の迷宮へと注目させている間に、魔界から人類圏へと、西へ西へと己を成長させていた、であります」


 地下を掘って人類を攻撃する。迷宮魔王の計略は根気と年数を必要とする壮大なものだったらしい。

 宝箱を迷宮に配置してわざわざ冒険者を呼び寄せていた理由も計略の一つだ。人類の経済基盤に己を取り込ませる事により、自分を有益なものであると錯覚さっかくさせ、強引な討伐を避けさせるのが狙いだった。

 人類が宝を漁っている隙に、迷宮魔王は地下を掘り続ける。その結果、人類は現在追い込まれている。

「あっ、ヘンゼルがどこにでも現れたのは、ここを使っていたから?」

 ヘンゼルの横に並んでいる皐月が気付く。

「迷宮はナキナから魔界まで、広大な範囲の地下を巡っている、であります。険しい地上を通るよりもずっと早く、関所もないので無税で通過できた、であります」

「一国掘り抜いていたなんて飽きれたわね」

「オルドボ商会自慢の物流ネットワーク、であります」

 えっへん、と裏切っているのにヘンゼルは自慢げな顔を見せる。迷宮魔王の詳細を話してくれているので誰もツッコミを入れようとはしない。

 話ついでに、迷宮魔王そのものについてたずねてみる。都合の良い弱点があればぜひ攻めたい。


「迷宮魔王様の弱点、でありますか。その情報は金貨一万マ――」

「ロハで頼む」


 せっかくの商売を潰されてヘンゼルは不機嫌に口を曲げてしまったものの、素直に答えた。


「迷宮魔王様には明確な弱点がある、であります。三騎士が守っている迷宮魔王様の心臓、ダンジョンコアと呼ばれる巨大宝石を破壊すれば良い、であります」


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