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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十八章 二正面作戦
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18-2 敵軍衝突


「オリビア・ラインを落とせと? いつかは倒さねばならない敵である事に間違いないが、順番を間違えていないか」


 意外な提案だったため、アニッシュは困惑顔だ。怨嗟魔王討伐会議で魔王連合を倒そうと提案すれば当然か。

 オリビア・ラインはナキナの西を封鎖する百キロを軽く超える長城だ。人類圏へと通じる道を封鎖している蓋みたいなもので、ナキナへの物流を遮断している障害である。物資不足、食料不足が深刻化しているナキナにとって早期に攻略しなければならない敵要塞であるのは間違いない。が、最優先するべきかと言われると微妙な相手だろう。

「銃武装したオーク共は数が増している。今攻め込んだからといって勝てるとは限らないが、今攻め込まないと手出しできなくなる」

「それはエルヴン・ライヒも同じだ。いや、緊急度は王都に入り込んできた分だけ上回る。そもそも、オリビア・ラインを攻めたとて、怨嗟魔王について情報が得られるものなのか?」

「怨嗟魔王は魔王連合の一柱だからな」

 ヘンゼルとの商売だから、とド直球に理由を明かせれば良いのだが、馬鹿正直に話した場合は忍者共がヘンゼルを拘束し自白剤を投入してしまう。個人よりも国を優先するのは理性的な判断だ。その個人が魔族だった場合は倫理感さえ働かない。

 もう少し穏便にゼナのスキルで心を読む方法もあるが、ヘンゼルに対して不義理を働きたくはなかった。


「じぃぃぃー」


 ゼナの怪しむ視線が俺へと刺さっているが、仮面でさえぎって誤魔化す。網膜の奥を直視されなければ心が読まれないと経験則的に分かってきていた。

「ごほんっ。個人的な筋からの情報で、オリビア・ラインに行けば怨嗟魔王の本拠地について分かる! 俺が保証しよう!」

「凶鳥を信じていない訳ではないが、もう少し皆を納得させられないか」

 アニッシュの言う事は最もだ。こんな説明では誰も賛同はしてくれな――。


「――はっ! 『神託オラクル』受信! そこの仮面に従っておけ? はいっ! はーい、この私はオリビア・ライン攻略に賛成ですわ!」


 ――電波を受信できる人は別枠で考えておこう。

 どうしたものか悩んでいると背中を指でつつかれる。誰かと思って目線を向けると、背の小さい少女、ヘンゼルだった。この会議は一国の未来を決定する重大なもののはずなのに、部外者――しかも魔族――が参加していて良いのだろうか。

 むすっとした無表情のヘンゼルは右手に小さな紙を握り、左手は指が三本立てられている。

 その小さな紙にはこの場を切り抜けるためのヒントが書かれているのだろうか。だとすると、その三本指は何だ?


「お客様。お買い得な情報をご用意している、であります」


 ……もしかして俺に商売をふっかけているのか。そう小声でヘンゼルに問う。

「まさか、三マッカルで情報を売ると?」

 一マッカルは一万円ぐらいのレートだ。

 ヘンゼルは左右に首を振る。単位が違うらしい。

「三十マッカル?」

「三百マッカル、であります。格安であります」

 べらぼうな価格設定だった。ぼったくりだ。ただより高いものはないというが、最初から高いものも高い。というか、会議の行く末はヘンゼルにとっても大切だというのに、何を考えているのか。

「――なにッ」

 ヘンゼルとやり取りしている間に、俺と同じようにイバラもどこからか現れた黒子のような忍者と耳打ちされていた。


「アニッシュ様。緊急です! エルヴン・ライヒが進軍を開始しました!」


 俺達が会議をしている間に先手を取られてしまった。まずい、これではなし崩し的に精霊帝国との戦いが始まってしまう。

「……三百マッカルの商機を逃した、であります」

 その割にはヘンゼルの落胆が三百マッカル分しかないのが不思議だ。

「――馬鹿なッ」

 イバラがまた黒子忍者に耳打ちされている。


「もッ、申し上げます! 観測所より通達。進軍を開始したそうです!」

「どうした、イバラよ。慌てるのは分かるが、それは先程聞いたぞ?」


 情報が錯綜さくそうしているのかイバラは同じ内容を二度も告げる。

 いや、似た内容であるが同じではなさそうだ。


「それがッ! オリビア・ラインからも敵軍が侵攻を開始したと! 侵攻方向から予測するに、エルヴン・ライヒと衝突します!」




 東軍。エルヴン・ライヒ。

 森林地帯というエルフにしか選べないルートを、一万以上の軍勢が平地と同じ速度で進む。構成は精霊戦士とナックラヴィーの混成軍だ。

 西軍。オリビア・ラインの近代化オーク。

 十万以上という大部隊が肩に先込め式銃をかついで行軍する。数が多く装備も重いため、東軍から一日ほど遅れて到着した。

 両軍が顔を見合わせたのはナキナ王都の五十キロ圏内。戦争に巻き込まれる距離としてはかなりの近傍であり、酷く傍迷惑だ。

 戦争が開始されたのは正午になってからだった。関ヶ原と同じようにとはいかず、半日で決着が付くという事にはなっていない。質では東軍が勝るものの、量と装備では西軍が優勢。


 ナックラヴィーの隊列が魔法を放ちながら西軍の前線を壊滅させていく。

 防御陣地の重機関銃による銃掃射がナックラヴィーを血の塵へと変えていく。

 攻勢に出たオークが戦場を突き進んでエルフ歩兵部隊の蹂躙を開始し、精霊魔法の罠にはまって一網打尽にされていく。

 好機と見た精霊戦士の一団が側面から西軍を襲い、待ち受けていたオークの銃で蜂の巣にされた。 


 その後、攻守が何度か入れ替わり、一度敗走した西軍が増援と共に逆襲を行うといった経緯を経てから前線は両軍中央に維持される。一日目の戦争はこれで完了だ。




「余の国内で敵国同士が勝手に戦争して。はぁ……」

 一日挟んで再開された怨嗟魔王討伐会議。さっそく、アニッシュが溜息を付いている。

「やるにしても、王都の目前とは……はぁ……。どこか他の、余達の迷惑にならない土地で殺し合えなかったのだろうか。そう思わぬか、凶鳥」

「魔界と人類圏の通り道がナキナしかないのだから、当然こうなる」

「ナキナを通り道と言ってくれるな。……会議を再開しよう」

 たった一日で随分と状況が変わってしまったが、今のところナキナに被害はない。異形共は真正面の敵を倒すのに注力している。

 どうやら、昨日ヘンゼルが俺に売ろうとしていたのは、両軍が開戦間近であるという魔王連合からのリーク情報だったようだ。確かに今後を決定するための重大情報だったが、素直に教えて欲しかった。


「怨嗟魔王は魔王連合とたもとと分けたか。魔王とは本来殺し合うもの。珍しくもない事件であるはずなのに、魔王連合の結束は固いと勝手に誤解していた」


 魔王連合同士は戦わない。アニッシュと同じように決め付けて考えていた者は多い。俺もその一人だ。

 淫魔王と山羊魔王が戦った時点で、ない可能性ではなかったのだろう。魔王連合の魔王も半分となり結束が崩れてきているのか。

「エルヴン・ライヒの奴等も怨嗟魔王との連合を隠さなくなった。精霊戦士とモンスターが一緒に戦っているらしいぞ。はぁ……」

 ゼナも溜息を付いている。上に立つ者は気苦労が多い。

 上の者達が頭を悩まされている理由は、目前の戦争が迷惑だから、だけではない。


「この状況ではエルヴン・ライヒをただ攻めれば良い、という訳にはいかなくなった。オリビア・ラインもだ。片方を潰せば、残ったもう片方にナキナが潰されてしまう」


 倒すべき敵同士、戦力を削り合う現状はナキナにとって喜ばしいものだ。が、戦争が決着してしまうのも酷く困る。

 ナキナの現有戦力では敵軍の一方にさえ敗北するだろう。敵軍戦力が平野部に出揃った段階で軍を動かすのでは遅過ぎるのだ。仮に、一方を集中的に攻撃して倒す事ができたとしても、敵の敵は敵のままナキナに襲いかかる。

「はぁ……。どうすれば良いのか。誰か妙案はないか?」

 妙案などありはしない。西軍、東軍両方とも人類の敵だからである。


「――両方とも同時に倒すしかないだろ」


 結局、俺達に選べる道などなかった訳だ。


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