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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
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17-19 一難去ってまた一難

 オーク共は粘った。半数以上の味方が倒れても戦い続けてくれた結果、最後の方は戦いがグダる。銃が怖くて出城から出られないナキナ軍と、銃だけでは出城を落とせないオーク共。双方とも遠距離攻撃のための弾、矢、石を消耗しきって攻撃手段を失い、夜になってオークは後退した。

 戦の決着は翌日に持ち越し。モンスター共はそう考えたのだろうが、ナキナにもうそんな体力は残されていない。

 明日の夜明けまでに決着を付ける必要があった。

「……これで、ニ十七匹目。ん? レベルアップか」


==========

“●レベル:27 → 28(New)”


“ステータス詳細

 ●力:93 → 97(New)

 ●守:68 → 70(New)

 ●速:105 → 109(New)

 ●魔:80/80 → 80/83(New)

 ●運:6 → 7(New)”

==========


 今夜がほとんど月明かりのない新月だった事から、『暗視』スキルを持つナキナ忍者衆による夜襲が決行された。

 山の抜け道を通り、敵軍後方から忍び寄ったのは五十人の忍者職。俺は忍者ではなく救世主職であるが、自前で『暗視』スキルを所持していたので自主的な強制参加である。

 『暗躍』しながらオークの寝床になっているテントへと入り込む。眠った敵をそのまま永眠させていき、気付けば三十体近くの心臓を刺し潰していた。

 俺の本来の職業はアサシン職なのだと聞いている。気配を察知されないままモンスターを暗殺し続けていると、記憶がなくても実感してしまう。こういった卑怯な闇討ちこそが俺の本領のような気がするのだ。


「グオオオオッ!!」


 二つ目のテントを静かにしてやっている最中にモンスターの怒号が外から響いてきた。誰かが失敗して、襲撃に気付かれてしまったらしい。

「バレたのなら速度優先だ。『既知スキル習得(A級以下)』発動。忍者職の『分身』を習得」

 分身にテントの制圧を任せて、本体たる俺は次へと向かった。三つ目以降のテントには丁寧な襲撃を行わない。火魔法を放ってテントごと焼いて回るだけだ。それだけでも半分以上のオークが焼け死んでいく。



 『魔』が尽きたのならば、無理をせず山中の集合場所へと走る。

 既に集まっていた忍者職達の中に、ベネチアンマスクの御影シャドウを発見する。あいつもアサシン職らしいので『暗視』スキル持参していたのか。

 知らない奴でもないので挨拶してやろうと近づくと、仮面越しににらまれてしまう。そのまま影のように気配なく消えてしまった。

 ふと、LIFEに連絡が入る。グループではなく個人の方だ。


『糸氏:無事だろうな?』

『誰かさん:所詮はオークだったし』

『糸氏:本隊による攻撃も開始した。もう戻って来て良いぞ』


 俺達の攻撃成功により、睡眠中に叩き起こされたオーク共は浮き足立ってた。

 そこへと、近くまで接近していたナキナ歩兵部隊が突撃を仕掛ける。火事で照らされる敵の位置は丸見えで、ナキナ軍にとっては狙い易い。

 一方でオーク共にはナキナ軍が見えていない。夜の闇に向かって銃を放っても、宝くじを当てる程の『運』がなければ命中できるものではなかった。

 圧力に押されて敵軍は細かく散っていく。これで、ナキナ王都防衛線の第二幕は――エルヴン・ライヒを一、怨嗟魔王を二とするなら、オーク共は第三幕かもしれない――終了だろう。

 一仕事終えて、ようやく今日こそは柔らかなベッドの上で眠れそうである。


『糸氏:今夜は皐月に注意。ベッドの下で眠るのがベスト』


 戦で疲れているのに仲間が安眠させてくれません。いや、戦で火照っているからかもしれない。

 ここ最近、ペーパー・バイヤーがLIFEで貞操の危機を知らせてくれるのは助かるのだが、どうやってそんな予想を立てているのか分からない。そもそもどんな気を利かせればそんな警告をする気になるのか分からない。

 ともかく、戦で疲れたので早く眠りたい。

 俺はそっとスマートフォンの電源を落とした。





 クタクタに疲れて部屋戻った皐月は、そのままベッドにうつ伏せに倒れる。

 戦には勝利できたが、連続六日勤務が体を疲労させてしまった。『魔』が一定量回復するたびに敵軍に向けて大魔法を撃っていれば疲れて当然だ。『魔』と精神力は相関関係があるのか、『魔』が二桁に落ち込むとやる気が酷く損なわれるのだ。


「あー、だるー。師匠、靴下脱がせてー」

「……この弟子。二人っきりになった瞬間、出会った頃よりも我侭わがままで困る」

「あと、お茶入れて」


 ついでに、戦に勝った後で凶鳥を発見できなかった所為で皐月の疲労は増していた。

 未だに記憶喪失で、己を凶鳥などと言い張って変な仮面を付けたがる困った男に苦労させられている。一発頭を斜め四十五度で叩いて記憶を思い出させるか、ヒロインの口付けで思い出させてやるのも手である。……冷静に考えるとキスがショック療法に分類されるのははなはだしく遺憾だったが。

「師匠。マッサージ」

「生前の頃の私より老いたから、肩が凝り易い訳だ」

「墓作ってあげた恩の分ぐらい働いて損はないでしょう」

 異世界でオークを焼き殺す日々を過しているのも、凶鳥が原因だ。

 異世界にやってきた本来の目的は行方不明になっていた凶鳥の捜索だったので既に半分以上の目的は果たしたようなもの――残り半分は、御影シャドウを偽者と確定するまでお預け――なので、もう日本に帰還してしまっても良いのかもしれない。

 しかし、中心戦力たる皐月達がいなくなれば滞在中の国、ナキナは滅びてしまう。後味はなかなか悪い。


「まあ、モンスターは多いけれども異世界も悪くない。こうして師匠をこき使えるし」


 それに、異世界で皐月は大切な人と再会できていた。モンスターが生息している危険な異世界もなかなか捨てたものではない。


「弟子が無理やり憑依霊にしてしまったのだけどね。地獄あっちには本当に何もないから、こうなったら守護霊に転じてずっとこっちにいるわよ」


 皐月の影の中には一人の女性ゴーストが住んでいた。先代の炎の魔法使いである。

 ゴーストであるのに親しく会話できているのは、二人の師弟関係が厚い証拠だろう。

 『魔』を提供している皐月とゴーストの会話は実にスムーズだ。が、他人には寒気がするむせび声にしか聞こえないようで、お茶をれたティーカップもポルターガイスト現象にしか感じられない。つまり、皐月の傍では怪奇現象が頻度高く発生している。

 結果、ナキナの人々から「禁忌の土地の魔法使いは一味違う……恐ろしや」「すまふぉ、とかいう呪具でしゃしん、を使って魂を抜き取るってよ……恐ろしや」と皐月はささやかれている。案外、凶鳥以上に怖がられているのかもしれない。

 ……ちなみに、怪奇現象はアジサイの方でも発生している。むしろ、あちらの方が霊的現象は酷い。アジサイが凶鳥に対してアプローチ頻度が低いのは構うべき姉がいるからだと皐月は推測していた。ライバルが大人しいのは良い事である。


「乗りかかった船だからナキナは最後まで面倒みるけれど。偽御影の正体ははっきりさせたいわね」


 御影シャドウが偽者であるのはほぼ確定しているのだが、偽者だとすれば正体と動機が掴めていないため放置を続けている。敵であるのなら急いだというのに、御影シャドウは堂々と御影みたいにナキナに協力しているため強硬な手段を取り辛い。

 世間に遠慮など無用。とりあえずヤッてしまうのも火力重視派の炎の魔法使いとしてはありだと皐月は思わなくもないのだが、御影シャドウは十中八九『正体不明』スキル持ちである。正体を暴いてからではないと倒せない。

「師匠、何か知らないの?」

「私が呼び出されたのは最近だから」

 ペーパー・バイヤーですら問い詰めに一度失敗している。仕方がなく、御影シャドウについては放置が続けられていた。





「塩が足りんのだ」


 朝一、食堂でアニッシュが涙ながらに語った。

 塩。塩化ナトリウム。NaCl。必須ミネラルの話なので生きるためには重要だと思うのだが、王様が話題にするような事なのだろうか。

 そういえば、本日の朝食はいつにも増して酷い。

 目玉焼きは素晴らしいが、玉ねぎっぽい野菜三分の一とレタスっぽい野菜二枚のサラダは素材の味しかしない。かたいパンの味付けはバターではなくただの植物油。以上。

 ナキナの主戦力である俺達が冷遇されている訳ではない。こんな内容でも恵まれている。

「戦続きで備蓄がきかけているのだ。そなた達、いつもの妙案はないのか?」

「塩……塩ねぇ」

「そなた達でも駄目か。塩がなければ軍隊を維持できぬ」

 たかが塩とあなどれない深刻な事態らしい。

 軍隊は速度が命だ。早く動ければ多くの場面で敵よりも優位に立つ事ができる。そして、早く動くためにはどうすれば良いかというと、実に単純だが敵よりも長く歩き続けるのが肝要かんようだ。戦闘時間よりも移動時間の方が圧倒的に長いため、軍は歩くのが仕事とも言われるぐらいである。

 歩き続ければ汗をかく。そして汗をかけば体内から塩が失われる。ゆえに塩は軍隊とは切って切れない。

「ペーパー・バイヤー。塩は用意していないのか?」

「何でもかんでも俺に頼るな。地球あちらで調達してくる手もあるが、輸送を考えると現実的ではないぞ」

 地球に帰るのは簡単でも地球からナキナに戻ってくるまでが一苦労らしい。一度に運べる輸送量にも限界がある。どうしようもなくなれば地球から輸入するが、あくまで最終手段だ。

「無理か。むむ、どうすれば良いか……」

 頭を抱えたアニッシュへと、代案を提案する。


「……値が張る手段なら、紹介できるかもしれない」

「なに!? この際だ。金で解決できるのであれば高くても良いぞ!」

「凶鳥。まさかあの子を紹介するつもりなの? 用意はしてくれるとは思うけれど。足元を見られるでしょうから、相場の三倍は覚悟しておいた方が良いわよ」


 俺は腰袋から半分に割られた板を取り出す。カマボコ板に似ているが、立派なアイテムだ。名前は『お得意様割符』という。敏腕美少女商人、ヘンゼルを呼び出す召喚アイテム。

 召喚といっても正確には彼女にこちらの位置を教えるだけの機能しかないので即時性はない。

「皐月。この板を持って念じれば良いのか。ナキナだとどのくらいで現れると思う?」

「どこにいてもひょっこり顔を出すから、一日待っていれば大丈夫よ」

 何でも用意してくれる商人に塩を頼む。解決策としては平凡極まるが一つだけ問題があった。

 ヘンゼルは……オルドボ商会に所属する商人なのである。

 敵の塩を買う、などという言葉はあっただろうか。




 怨嗟魔王の呪いが発症した。第一発症者が発見されたという衝撃的なニュースが舞い込んできたのは朝食を終えてから一時間後。

 朝の弛緩した空気が一気に緊張し、息を切らせながら現れた伝令へと注目が集まる。

「地下牢で隔離していた兵士か。誰が発症したのだ!」

 塩問題でアニッシュと一緒にいたため、俺も最新情報を知り得る事ができた。


「ち、違います! 発症したのは兵士ではなく、王都周囲の山村に住む農民です!」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
巫女職のオラクルは二人もいる筈なのに何で敵だけが正確に狙えるのかね? リセリが何処?
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