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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
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17-16 王都防衛戦5

 ナックラヴィーの背中の中心を後ろから突き刺す。背骨の固い感触と、弾力ある心臓を突き破る実感が刃先から指先へと伝わってきた。

「レベル27になって『力』は93。急所狙いなら十分に攻撃が通じるが……それだけでしかない。『魔王殺し』の発動前後で『守』が変わっているようには思えない」

 追撃戦となって多少の余裕が生まれて、怨嗟えんさ魔王の謎に挑戦している。

 今は怨嗟魔王に『魔王殺し』スキルが通じるか試していた。結果はネガティブ。怨嗟魔王に『魔王殺し』は効果を発揮しなかった。


==========

“『魔王殺し』、魔界の厄介者を倒した偉業を証明するスキル。


 相手が魔王の場合、攻撃で与えられる苦痛と恐怖が百倍に補正される。

 また、攻撃しなくとも、魔王はスキル保持者を知覚しただけで言い知れぬ感覚に怯えてすくみ、パラメーター全体が九十九パーセント減の補正を受ける”

==========


 ようするに、ナックラヴィーは怨嗟魔王本体ではないのだろう。配下にしては数が多い。魔王をかたるためだけに用意された代役に過ぎないのか。

 心臓を突き刺してもまだ動こうとする化物にナイフをもう一本突き刺して完全に葬る。


==========

“●ケンタウロスを一体討伐しました。経験値を二十五入手しました”

==========


 網膜に浮かび上がるポップアップ通り、こいつはケンタウロスの変異体なのだろう。

「呪いを感染させて眷族にする魔王というので確定だろう」

 怨嗟魔王の正体を知る手がかりの一つになれば良いのだが、配下を増やす魔王に心当たりはない。ペーパー・バイヤーなら知っているだろうか。

 考察している間にナックラヴィーをリリームがあらかた片付けてしまっていた。これでエルヴン・ライヒ襲来から続く戦いは終わりだろう。

 エルフもモンスターも残ってはいな――。


「『殺気察知』ッ」


 ――スキルに従い、後方に跳んでいた。

 俺が気付けたのは偶然ではない。『既知スキル習得』経由で習得していた忍者職の『殺気察知』が、森の中から発せられる嫌な気配を警告してきたからでしかない。

 森の内部から、つるらしきものが三本伸びてきている。錘付きの分銅が投じられたかのように直線的な軌道だ。スキルがなければ心臓と頭を打たれていた。

「何奴ッ!」

 蔓の発射地点へと、リリームが反撃で矢を撃ち込む。

 矢は謎の襲撃者の眉間に刺さる寸前に、二本の指でつままれて停止する。そのまま矢は襲撃者の弓につがえ直されて、こっちへと返送される。蔓よりも初速が速くて回避できそうになかったので『暗器』スキルで格納して対処した。

「なッ、凶鳥様、申し訳ありません!」

「頭を下げて隙を見せるな。敵の技量は高いぞ!」

 襲撃者は木の後ろに隠れたままなので全体像は見えていない。ただ、赤い眼だけが怪しく光っている。

「蔦は精霊魔法で、弓も使う。相手はエルフか?」

 エルフだとするとしつこい相手だ。ずっと森に潜んだままなので慎重な相手でもある。


「出てこい。――ネイブ《蔓よ》、ニラトセ《拘束せよ》、トーホス《新枝の》ッ!」


 リリームの精霊魔法が襲撃者を拘束にかかる。周囲の木々から蔓が伸びていくが、襲撃者に届く瞬間、蔓は硬直して動かなくなってしまった。

「森の植物が怖がった??」

 予期せぬ挙動を見せた蔓にリリームは不思議がる。

 襲撃者は停止した蔓へと手を伸ばして千切る。千切られた先から枯れていく光景を見てしまった。

「正体を見せろ。――炎上、炭化、火炎撃!」

 襲撃者が隠れる木を燃やす。隠れていた襲撃者は跳び出しながら矢を同時三射してきた。

 全部急所狙いの攻撃であったが、俺が対処するまでもなくリリームが弓で器用に切り払う。何だかんだと頼りになるな、リリーム。

 木から木への移動中、少しだけ相手の姿が見えた。

 黒革の鎧を着込んでおり、体格は俺よりも良い。人類にしては巨躯である。


「――Neiブ《蔓よ》、SuチFu《絞め殺せ》、ムーAイ《狙い撃つ》」


 更に矢が放たれて、リリームはまた切り落としたのだが……今度はやじりが膨張して黒い蔦が周囲に広がる。

 蔓に弓が取られて絡まった。リリームの腕にも蔓が伸びて絞まり拘束されてしまう。

 助けている余裕はない。襲撃者が森から跳び出してきていたからだ。

 リリームに向けて刃先がピック状に尖った独特の刀剣が上から振り落とされる。ナイフ一本での対処は難しそうになので、二本を交差させて凶刃を受け止めた。

 それでようやく襲撃者と対面する。二メートル強の図体を持つそいつは分かり易く化物だった。

「GgAッ、GAA!」


 肌がずりけてしまった毛細血管の浮き出た赤黒い体。筋肉の筋まで見えてしまっている。

 唇もがれてしまったのだろう。歯茎が剥き出しになってしまっている。

 ギロリ、と瞳孔が絞り込まれる眼球も血管が浮き出てしまって、理性の欠片も感じさせない。

 人間の形をした化物。そういった相手であるが……眼の赤さに既知感があった。ナックラヴィーやモスマンも同じようにドス黒い赤色の眼をしていたはずだ。


「IGAァァ、グゲ、ITA、Iタミ……痛ミを共有せよ」

「こいつ、言葉をっ」

「苦しみをっ、嘆きをっ、辛みを! どうして我等だけが苦痛の中にいRU? 皆で平等に怨嗟を味わうBEきなのだ」

 化物的特徴にしか目がいかないので、化物の耳の長さは気にならなかった。

 交差していたナイフが力で弾かれる。つまり、『力』は化物の方が上だ。

 『暗器』で格納していた矢を放って牽制を入れるが、胸に刺さる矢を鼻息一つで無視した化物は上段に構えた刀剣を振り下ろす。痛覚への耐久性が高いのか、肌がない体はもう痛みがオーバーフローしてしまっているのか。

 落ちてくる刀剣を今度はリリームがエルフナイフで受け止めるが、チャンバラするには不向きな形状のナイフなので欠けた刃が飛び散った。

「見た目通り強い。つ、強い」

 リリームは蔓に縛られているので逃げられない。交互にナイフで防御しているが、明らかに力負けしてしまっている。正面から戦うべき化物ではない。

「クッ」

「リリームっ! 大丈夫か!」

「……くぅぅ。森に近過ぎて力がでない」

 しかもリリームが存外役立たない。少し見直したらすぐこれだ。

 ふと、化物が両手で構える刀剣を傾斜させる。意図の分からない行動であったが理由は火花と共に判明した。遠く城壁の上から発射された弾丸を化物が防御したのだ。弾丸速度は音速を超えていたため、着弾音は後から響いてきた。

 音速にも反応してみせる反応速度。化物であっても戦い方は正統派で隙がない。

 『暗影』で背後に跳んで首の後ろを狙うが、当然のように反応されてしまう。

 スタミナも化物に相応しく無尽蔵だ。二人で対応しているのに突破できず、ジリ貧である。

「怨嗟を聞け。お前も怨嗟を叫べ」

「お前ッ、怨嗟魔王か!」

「怨嗟よ続け。怨嗟よ広まRE。この不治の苦しみは共有されるべきなのだ!」

「い、いや。こいつも『魔王殺し』の対象外。魔王本体ではない。ケンタウロスともフェアリーとも違う生物をベースにした化物。まさかベースになっているのはッ」

 城壁から援軍が到着するのを待つしかないだろうと諦めていると……一歩踏み込んだ化物の動きがにぶる。


「――失楽、不覚、泥酔、寒月夜かんづきよ、酒に酔う猫は水瓶みずがめで溺死するだろう」


 化物の検知範囲外、上空に浮かぶ月桂花が魔法をかけてくれたに違いない。

 そして、月桂花と共に浮かび上がっていた仮面の男、御影シャドウが落下しながらスキルを発動させる。


「手間取りやがって。『暗澹あんたん』発動!」


==========

“『暗澹あんたん』、光も希望もない闇を発生させるスキル。


 スキル所持者を中心に半径五メートルの暗い空間を展開できる。

 空間の光の透過度は限りなく低く、遮音性も高い。

 空間内に入り込んだスキル所持者以外の生物は、『守』は五割減、『運』は十割減の補正を受ける。

 スキルの連続展開時間は最長で一分。使用後の待ち時間はスキル所持者の実力による。

 何もない海底の薄気味悪さを現世で再現した暗さ。アサシン以外には好まれない住居空間を提供する”

==========


 落ちてきた御影は視界ゼロの暗澹空間で化物を囲んだ。超反応を見せる化物であっても五感の一つを奪われると対処が難しいのか、手首や首筋を斬り付けられる。


「怨嗟は、ここで終わらNUッ。――絶叫、振動、復讐、波動咆哮ッ!」


 足元へと咆哮した化物は、勢いに乗って暗澹空間から脱出する。森の内部に入り込むように角度を調整していたのだろう。樹木の間に身を隠しながら走り去っていく。

 追えば追いついただろうが、深追いする気にはなれなかった。




「お前達っ。何と戦っておった?」

「族長様! 申し訳ありません。逃がしました」

 化物が完全に去った後であるが、ゼナも前線へとやってきたらしい。

 ゼナは対戦していた化物の特徴に強く興味があるらしく、俺とリリームに詰め寄ってくる。

「怨嗟魔王の一種、かと。討伐できなかったので種族は特定できませんでしたが。肌のない赤黒い体に、剥き出しの歯茎が特徴的です。……エルフと同じように弓と精霊魔法を使っていました」

 ナックラヴィー型やモスマン型と比べて随分と知能が高かった。憶測のみで正体を言いたくはないが、耳の長い人類をベースにしている可能性は高い。


「エルク。いや、まさかな……」


 ゼナも断定を避けたかったのか言葉を濁した。

「エルク?? エルフではなく?」

「忌むべき言葉だ。忘れるが良い」

 ナキナの兵隊も遅れて到着し、前線だった場所がにぎやかになる。森はエルフが罠を残している可能性や怨嗟魔王が汚染している可能性が考えられたため、焼却するらしい。油らしきものが運び込まれていた。

 戦いがようやく終わったのだと、肩の力を抜く。人が集まっている中、もう新手に襲われる心配はないだろう。


「――はっ、スキルの使い方が全然なっちゃいないな。それで暗殺者気取りか」


 『暗躍』スキルで気配を断っていた男に背後からささやかれてしまったが、殺気は特に感じなかった。


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