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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
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17-15 王都防衛戦4

 馬と同じ構造の下半身を持つナックラヴィー型の怨嗟えんさ魔王は突進力に優れる。長い両腕も地面を叩いて足のようにもちい、ナキナ王都を守る城壁へと一斉突撃してくる。

「アイサッ。外に出ている騎士団の撤退援護!」

「任せて!」

 体を伏せて対物ライフルと一体化したアイサが怨嗟魔王を狙撃する。先頭を走っていた一体の左肩へと命中し、腕が根元から弾け飛んだ。

 ただし、赤い巨眼を血走らせながら叫び上げ、怨嗟魔王は止まらない。叫び上げているので痛覚はあるはずなのに、悶絶しない。痛みを燃料にして更に加速してしまったぐらいだ。

「このッ」

 心臓を狙った再度の狙撃に対しては何と反応してみせて、残った腕を盾にしてしまう。

 結局、両腕がなくなり防御できなくなってからの狙撃で仕留めるしかなかった。

「一体倒すのに三発も!? ステータスは――」


==========

“●レベル:???”


“ステータス詳細

 ●力:??? 守:??? 速:???

 ●魔:???/???

 ●運:???”

==========


「――僕の眼でも『鑑定』できない! 『正体不明』、怨嗟魔王は凶鳥と同じ『正体不明』だよ!」

 車と同じ速度で突進している怨嗟魔王に全弾命中させているのだから、アイサの狙撃の腕が悪い訳ではないのだ。

 怨嗟魔王に対して『鑑定モノクル』スキルが効果を発揮できなくてやり辛そうであるが、二体目の怨嗟魔王はちゃっかり頭の目玉を狙い、一撃で倒していた。

 だが、二体倒している間にナックラヴィーは出撃していた騎士隊との距離を詰める。騎士隊は二百人で構成されているが、化物の一斉突撃は迫りくる壁も同じ。鎧袖一触がいしゅういっしょくで踏み潰されてしまうだろう。

 アイサの狙撃だけでは止められない。多数の敵を相手取るには威力重視の面制圧能力が必要となる。

 そういう荒業は魔法使いの仕事である。


「――遮断、業火、隔絶、絶炎絶壁、その壁は何人たりとも通さず通せず、近寄りし悪漢は燃え尽きるであろう!」


 赤い線が地面に浮かび上がった後、灼熱の炎が怨嗟魔王の進路を閉ざした。伸ばされていた皮膚のない異形の腕が火に触れた途端、燃え盛り、あっと言う間に灰と化す。

 城門の上に登ってきていた皐月が戦場に腕を伸ばしている。その隣に紫のタイトスーツを着たラベンダーが現れて、同じように腕を伸ばす。


「――創造、新生、生命、人類創生、人を生み出し世界を作り上げた泥こそは世界の始まりにして世界そのものとなろう!」


 街道の隣で地面が隆起して、女神の形をした巨大ゴーレムが上半身を起す。

 炎の上から土色の腕を突き入れて、怨嗟魔王を数体まとめて手の平で救い上げる。そして合掌。美しい姿をしていたとしても本性は人工生命たるゴーレムだ。無慈悲に、機械のように、力を強めて異形の化物共を手の中で圧縮していく。最後はトマトの中身が飛び出るようにドス黒い血が飛び散り、完全に手中へと収まった。

 二人の魔法使いのお陰で騎士隊は命からがら逃げていき、城門へと辿たどり付いた。

「普段敵が強過ぎて気が付かないが、魔法使いの魔法って反則だな」

 皐月達がいれば怨嗟魔王であろうとも簡単には前進できない。そう楽観しかけたが……上空からモスマンが飛来する。

 地上と上空からの同士侵攻は、防衛側にとって負担が大きい。エルフの弓隊が矢を放つが、三次元的に動く相手に対して命中精度は期待できない。エルフの意地で命中させる兵士もいたが、撃ち落すにはいたらなかった。

「I痛IIIッ、――直撃、極光、赤光線ッ」

 怨嗟魔王の赤い眼から赤色光線が発射される。魔法でありながら性能はレーザー兵器そのもので、城壁の固い石に一直線の溝が生じた。兵士に当れば、当然その部位が断絶して血が吹き出る。

 多くの兵士は身を隠してやり過ごしたが、速い攻撃に反応できなかった兵士の脳天から首元まで赤い光が縦に――。


「『コントロールZ』発動ッ」


==========

“『コントロールZ』、後のない状況をくつがえせるかもしれないスキル。


『魔』を1消費することで時間をコンマ一秒戻せる”

==========

“ステータス詳細

 ●魔:80/80 → 50/80”

==========


 ~~~


 『暗影』を組み合わせれば三秒の時間遡行で間に合う距離だった。空を見上げたまま三秒後に死ぬはずだったエルフの女性弓兵を突き飛ばして、赤い光の射線から逃れさせる。

「――発火、発射、火球撃!」

 反撃で火球を発射したが、モスマン型の怨嗟魔王は簡単に避けてしまった。

 そんなやり取りをしている間にも光線が降り注ぐ。恐らく、被害者が出てしまっているはずだ。仮面の中で数人が水没していく音を聞いてしまい、気が狂いそうになる。

「クソ魔王がッ! 『暗影』ッ、『暗影』ッ!」

 城壁から空へと飛んで、重力落下する前に影をまとって上空へと跳ぶ。跳び終わった後ですぐに落下し始めるが、また『暗影』スキルで上へ跳ぶ。その繰り返しだ。

 比較的低空を飛んでいたモスマンの背中に跳躍を完了した後、羽の根元をナイフで切断してやった。

 だが、それが限界だった。

 便利な『暗影』も連続で使用すれば長いクールタイムをはさまなければならなくなる。たった一体を撃墜するのが精々で、その後は自由落下を開始してしまう。

 間抜けな俺を狙ってモスマンが急降下してきていた。地面に落ちるだけでは済まされないらしい。


「凶鳥様。一人で無茶はしないで!」


 モスマンの足が届くよりも先に、助けが飛んできた。

 妖精の羽を生やしたリリームが横から俺の体を掻っ攫う。手と手を繋いで空を飛ぶ。


「すまない。助かった」

「空の敵はアジサイ様や落花生様が対処してくれます。凶鳥様は大人しく地上に戻ってください!」

 リリームの言う通りだ。俺ばかりが魔王と戦っている訳ではない。

 アジサイの氷と思しき氷像が屋根のなかった城壁を覆い、怨嗟魔王の魔法を防ぎ始めた。落花生の電撃は速いので対空魔法としては最適で、連射によって次々と感電死させている。

 ここぞとばかりにエルフ達も矢を放つ。ナキナに所属している魔法使いも対空攻撃を開始した。一方的に優勢だったモスマン共に被害を与え始める。

 リリームに牽引けんいんされて、アイサのいた塔へと戻る。無茶に対し、アイサにも少し文句を言われた。怒られるよりも、震えた声で心配される方が心にこたえる。

 最近、多数同士の戦いで居場所がなかった俺はあせっていたのかもしれない。反省したので、対空戦闘は他の人達に任せてしまおう。

 リリームと二人でアイサを守る。伏撃から体制を変更し、上空のモスマンをアイサは確実に撃ち落していく。

 城壁の上の戦況が安定してきたが、その代わり、地上で変化が起きる。


「――絶叫、振動、復讐、波動咆哮ッ、オ前GA恨メSIイッ!!”」


 皐月の炎の壁にはばまれていたナックラヴィーが、四節魔法の咆哮で強引に穴を開いたのだ。

 穴は一つだけではない。カーテンを引き千切るかのように穴が増えていき、そこから異形が駆け出す。

 ラベンダーのゴーレムが掴みかかるが、更に放たれる四節魔法に押され気味である。五節魔法のゴーレムであっても、十倍の戦力差を防ぐのは難しい。

 障害物を突破した三十体以上のナックラヴィーが城壁を射程距離にとらえた。水が苦手だという怨嗟魔王は、突進力をそのままに水掘を跳び越える。城壁に張り付き、魔法をゼロ距離から叩き付けて粉々に砕く。

 城壁を失えば、市街地を守るものは何もない。破壊は許されない。

 モスマンを気にしつつも城壁を見下ろして、張り付いた怨嗟魔王を見下ろす。血走った巨眼と視線がかち合う。

 怨嗟魔王は『正体不明』。どんなスキルを所持したものか分からないが、大量に現れた事実により、同じナックラヴィーやモスマンを復活させて使いまわしている訳ではないというのは確定した。

 となれば、一つの仮説が浮かび上がる。


「人間族に寄生する寄生魔王がいた。他生物を魔王にする前例はあるが、怨嗟魔王の場合は増える点が特徴的だ。そう、まるでウィルスのように生物から生物へと感染していく」


 怨嗟魔王は感染するのだ。

 生物が魔王と化すのか魔王の眷族と化すだけなのかは分からないが、『正体不明』スキルが付与されるぐらいには体を改造されてしまう。元はケンタウロスだった生物がナックラヴィーにしか見えなくなるぐらいには変容してしまう。

「感染方法は分からないが、離れたまま攻撃するのが無難か」

 眼球へと向かってナイフを投擲する。

 怨嗟魔王は片腕を盾にしてナイフを防いだが、その所為で体を片腕のみで支えなければならなくなる。次はその腕の筋を狙ってナイフを投げる。

 支えを斬られて怨嗟魔王は落下。地面で一度バウンドして水掘へと入水した。

「GAAAッ!? ミ、水ッ、アァAAAGAギャGGAAッ!!」

 モンスターでも足が届かない高さまで掘られているとはいえ、怨嗟魔王の暴れようは必死が過ぎる。溺死しないようにと我武者羅がむしゃらに手足を動かしているというよりは、そもそも水が怖くて仕方がないといった感じに暴れているだけに見える。

「無力化は後回しだ。今は城壁から落としていく」

 迎撃よりも城壁の保護を優先した。城壁を走って、上から怨嗟魔王を落とす作業に従事する。

 壁に取り付き動きが制限されている奴等は問題ないが、正攻法に大門に殺到している奴等が問題だ。

 門を防衛しているのは熊の部族を中心とした重歩兵隊なので信頼も毛皮も厚い。が、感染疑惑のある怨嗟魔王相手と殴り合うのはマズくないだろうか。

「ガフェインの奴!?」

 怨嗟魔王と真っ先に戦い始めたのは熊の戦士、ガフェインだ。大斧の大振りを一撃かまして致命傷を負わせたところまでは良かったのだが、大斧が根元から折れてしまったので今は殴り合っている。

「GAッ、GAAAァァッ」

 ナックラヴィーの長腕による打ち下ろしが熊の顎を貫く。

「グッ、グオォォォォッ!」

 ガフェインはニヤ付き、折れた奥歯を吐き捨ててから左手の拳で怨嗟魔王の腹を打つ。よろけて落ちてきた魔王の顎をアッパーで叩き上げた。

「ガフェインッ、怨嗟魔王のスキルは未知数だ! 血を浴びるのはリスクが高い。呪われる可能性が高いぞ!」

「魔王にッ、言えッ!!」

 俺の空中戦も危険は高かったが、それでもガフェインの接近戦ほどではなかったはずだ。

 怨嗟魔王は何から何まで正体不明のままだが、感染能力のみなもとが血である可能性は高い。血は魔術的な媒介として優秀だ。科学的にも血に病原菌が紛れているというのは理解し易い。

 だというのに、ガフェインは怨嗟魔王の首に噛み付いて魔王を横倒しにしていた。魔王の血を一滴も飲み込んでいないはずがない。

 城壁から地上へと飛び降りてガフェインへと加勢する。倒れていた怨嗟魔王にトドメを刺した。

「ガフェイン。体に異常は無いのか?」

「さあな、殴られた頭が揺れているだけなら問題はない」

 どうやら声を聞く限り、ガフェインは正気を保っている。とはいえ、それだけで安心できる訳ではない。後で綿密な検査を受けさせよう。

 怨嗟魔王はまだ大勢いる。一度背中合わせになって会話をしたが、すぐに離れて別の怨嗟魔王と向き合った。




「水が弱点なら雨を降らせれば良い。皐月、合わせて」

「どうするつもりよ、アジサイ」

「雨を降らせる」

 遠い空を見上げたアジサイは、空中を漂う見えない水蒸気に狙いを定める。


「――零下、凝固、八寒、凍結世界、命の灯火さえ凍り付く永遠の白き世界が訪れるであろう」


 ナキナ王都上空の天候が急激に悪化する。黒く重い雲が発達し、太陽の光がさえぎられたかと思えば、拳の大きさのひょうが降り注ぐ。アジサイの魔法が空を凍らせたのだ。

 飛行中のモスマンは雹に殴られてバランスを失い、墜落していく。

 ただし、雹は最終的に地上に達してしまうので味方にも被害が出てしまう。

 それを防ぐのが皐月の仕事だ。


「――全焼、業火、一掃、火炎竜巻、天にそびえる塔のごとき炎の柱にひれ伏すであろう」


 発生した暗雲を突き刺す高さの火炎旋風に照らされた雹が融解していく。地上にたどり着く頃には雨になっていた。

 魔法で作り上げられた雨は長く続かなかったものの、少しの雨量でも決定打となる。

 怨嗟魔王共は体に付着した水滴を目撃し、激しくおびえた。戦いの最中だというのに濡れた体を血が出るぐらいに擦っている。背中を向けて雨の範囲から逃げ出す者まで現れる始末だ。

 怨嗟魔王のパラメーターは人類の平均値を大きく上回っていたものの、皮膚のない体は『守』が低いため攻撃を重ねる事で少しずつ磨耗していった。

 城壁は虫食いのようになって使い物にならなくなっていたが、それでも倒壊だけは回避される。ナキナの勝利である。

 モスマン型はすべて討ち取られ、ナックラヴィー型も十体を下回ったところで怨嗟魔王は森へと退く。

 逃がしはしないと追撃し、最初に怨嗟魔王に追いついたのは凶鳥だ。リリームも後ろに続く。単純に『速』パラメーターの順番だ。怨嗟魔王は街道を必死に走って森にかなり近づいていたものの、二人からは逃げ延びられないだろう。

 ナックラヴィー型五十体。モスマン型五十体。これだけの戦力を投入して敗走するなど誰に想像できただろうか。



“――『神託オラクル』を盗聴した通りになりましたね。予定以上でも、予定以下でもなく。作戦は既に成功してしまっているので、少しぐらいお遊びになっても構いませんわ”



 いや、これだけの戦力を敗走させる作戦を誰が計画したのだろうか。

 凶鳥とリリーム。人類の中でも秀でた二人が森へと近づく。これも作戦計画の内なのだろうか。


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