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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
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17-11 工作活動

 暗く沈んだ夜のナキナ王都で、影がうごめく。燃料不足でともしびが極端に少ない街中を、覆面で正体を隠した怪しい者共が陰謀を巡らせる。

 その怪しい正体は、森の種族のスカウト職だ。フードで頭を隠しているが、多少横に広がっているのがポイントになるだろう。

 ほとんど光源のない街の中でも行動可能な『暗視』スキルを会得可能なスカウト職が、闇夜に紛れるこげ茶色の服装で駆け巡っている。人目を避けての行動なのだから、秘密裏な作戦なのは間違いない。そも、エルフが敵地であるナキナ王都で活動しているとなれば破壊活動以外にありえない。

 一例になるが、街中にある公共の井戸を目指しているエルフの場合、井戸に到着後、速やかに柱に背中を密着させて気配を断った。そして、懐から取り出したカボチャの種似の紫色の種を井戸のへりに置き、ナイフで傷付ける。粘性のある中身が漏れたところで、ナイフで種を井戸の中に落としてしまおうと――。


「――『暗澹あんたん』術! そこまでだ。耳の長いねずみめッ」


 ――エルフのスカウト職は明るみには出せない暗部活動に長けていたが、上には上がいるものだ。

 特にここナキナには、スカウト職以上に闇に適した職業、忍者職に就く集団が存在する。

 周囲を警戒していたエルフの視界外から空間を跳び越え、影の中から現れたボディスーツの女がエルフの腕を掴む。

 突然の出来事であったがスカウト職も対処が素早い。条件反射に近い動きで、掴まれていない方の手は予備のナイフを抜き去っていた。そのまま、ボディスーツの女の喉を斬る。

「甘いわッ!」

 ボディスーツの女は体を旋回させてナイフを避けた。

 エルフの腕は掴まれたままだったので旋回に巻き込まれて体が引っ張られていく。同時に、重心を支えるべき足を崩されただけで、簡単に投げられてしまう。

 腕の関節の可動域を超えてしまったため小気味良い音がして腕の関節が外れてしまったが、ボディスーツの女はこれでも手加減はしている。倒れたエルフに追い打ちで痺れ薬を塗った針を刺しているが、まだ手ぬるい。

 任務失敗を察したエルフが麻痺し切るよりも先に自害しようと、奥歯に仕込んだ猛毒の種――魔界産の有毒植物、井戸に投入しようとしたものと同種――を噛もうとしたため、首筋を手刀で強く打ち付けて昏睡させて命さえ救っている。

 当たり所が悪ければ体に障害が残る気絶のさせ方であるが、命が最優先なので仕方がない。

 というか、喋れさえすれば大丈夫だ。痛覚が正常機能してくれるのも大切であったが。


「……一匹生け捕りにした。地下牢に連れていき、全部吐かせろ。緊急を有するゆえ、手荒くしても良い」


 ボディスーツの女、ナキナ忍者衆の頭目たるイバラは仲間の忍者職を呼び寄せる。

 イバラと同じ格好の複数の忍者職が井戸の付近に集合した。気配を消していた忍者の数は五人とかなり多い。

 現れた五人の内、三人が動かないエルフを縛り連行していく。

「お頭。北区でもエルフのスカウト職が活動していたようです。こちらは自害されてしまったようですが」

「エルフ共め。攻めてくるよりも先に市民をおびやかすか!」

 既に多数のスカウト職が王都に潜入している。他種族をあなどっているエルフにしては破壊活動が入念過ぎる。

 忍者職の警戒網は密であるが、スカウト職すべてを発見できているとは思えない。捕える事に成功したエルフの尋問は丁寧に行われるだろうが、情報が得られるとは思えなかった。

「カルテ様はもちろんだが、アニッシュ王にも伝達だ。ご就寝中であろうとたたき起こせ、異常事態が起きているぞ」





 忍者衆から伝わってくる情報が次々と地図に上書きされていく。

 日中に三種族で会議を行った倉庫内――いや、日付は既に変わっているため会議は昨日の事だ――ではナキナ国を支える敏腕な苦労人が慌ただしく動いていた。

「森の種族の目的が後方攪乱であれば、人口密集地を狙うのが当たり前でしょうに。イバラに伝えなさい」

「井戸に毒? では水源も調査させるのだ!」

 もう何度目かになるのか分からないナキナの危機である。

 しかし、幸いにも対応指示は完璧だ。

 外交と内政の経験から他人が嫌がる事を熟知し、だからこそナキナがやられて嫌な事も思い付く大臣がいる。

 勇者《勇敢なる者》として成長し、『知恵比べ』スキルによって潜む敵の攻撃目標を予測する王様がいる。


==========

“『知恵比べ』、相手の裏を突く者のスキル。


 相手の思考を逆手に取り易くなる。曖昧な効果しか発揮できないが、あると便利”


“実績達成条件。

 勇者《勇敢なる者》職のDランクに相応しくなる”

==========


「獣の種族達はどうなって……む? 熊の男が捕えたエルフを連れてきた? あの者達は強者揃いであるな」

 森の種族の工作活動は多種におよぶ。井戸への異物混入、要人暗殺、放火、城門の開閉装置破壊、などなど。よくもこれだけ発見し阻止したものである。

「何!? 迎賓館でも姉妹と思しきエルフ二人が男の部屋に忍び歩きで入り込んでいたと! ……それは見なかった事にするのだ」

「アニッシュ王。甘い判断は許されません。幸い、そこは亡き夫の部屋。夫はいないはずなので、炸裂玉を投げ込んでも死ぬのは敵のエルフだけですわ」

「誰か! 叔母上に熱いお茶を与えて目を覚まさせるのだ!」


『糸氏:ぴろりん。就寝中ですが、緊急エルフ注意報です。半端に長い奴もヤバい』

『誰かさん:個人トークで警告が!?』


 工作活動の数が多過ぎるからこそ、不審者を発見できる確率が高まったとも言える。そういった意味ではエルフは随分とお粗末であるが、発見されても構わないという意思を暗に示しているかもしれない。攻撃があったと市民に伝わるだけで、王都は間違いなく混乱におちいる。

 ナキナの混乱そのものが目的であれば、次は実戦力の投入が考えられるだろう。


「日が昇るまでの時間は!? 森の種族が攻めてくるとすれば日の出と共にだ。兵士を配置に付かせよ!」


 アニッシュ王の指示によってナキナは開戦準備に入った。

「開戦が主目的のはず。それ以上の何かがあるとは思えぬ。……しかし妙な胸騒ぎがまぬな」





 朝日が昇り始めた森林地帯。そこには夜間行軍で森の種族の侵攻部隊が三千ほど集まっていた。

『ナキナ王都は敗残者の集まりですが、陥落させるのは難しいでしょう』

「い、いえっ! 人間族に獣の種族。準備万全の兵士を三千も用いて落とせぬはずがありません」

『そう? まあ、今回は労働力となる人間を奪えればそれでも良かったのだけれど』

 エルフ三千を指揮するのは長髪の女エルフだ。彼女自身も精霊戦士としては高い戦闘能力を所持している。


『トピューア様からも推薦があった事ですし、少しだけ期待してみましょう。精霊戦士トレア?』


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

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