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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
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17-10 三種会議

 新ナキナ城とやらは山の傍にある兵舎に併設されていた。正確には、兵舎の隣にあった古い武器庫の見栄えをよろしくして、城と言い張っているらしい。だから、外から見たら立派な倉庫にしか見えない。

 車のまま街中を横断して、城に横付けする。

 エンジンを切り、運転続きで肩を凝らせたペーパー・バイヤーが、やれやれと腕を回して柔軟体操を行う。

「メーターぎりぎりだった。カタログの燃費はやっぱり信用できないな。一度地球に戻ってガソリン買わないと、もう動かせない」

 地球に帰る。故郷に戻る。

 記憶さえ戻っていれば、最も渇望したであろう叶わぬ望みをペーパー・バイヤーは軽々しく発言する。

「そんな簡単に言うなよ」

「……いや、戻るだけなら簡単だぞ。この木彫りのアイテムがあれば、天竜川付近に帰れる」

 そう言いながら、ペーパー・バイヤーが取り出した木彫りの装飾品には見覚えがあった。

 確か以前に、アイサを地球に追放した際に月桂花が持たせていたアイテムだ。異世界渡り用の秘術が込められた貴重品で、魔王の幹部クラスでもなければ所持できない。

 貴重品であるが使い勝手は高くないという。まず、個人用なので複数人の移動には使えないらしい。出口もほぼ固定なので、地球経由で異世界のどこにでもテレポート、という裏技は使えないようだ。

「待て。個人用であるなら、アイサとペーパー・バイヤーの二人が異世界にいるのは何故だ?」

「アイテムの数だけならリリームが地球に来る時に使った類似品があったぞ。まあ、出口を同じにしたかったからもう一つ探したが。レオナルドの分を発見できなければ、主様の頂上までヘリで空輸するしかなかった」

 リリームと故人のレオナルドなる勇者はかつて同パーティを組んで、人類圏より地球へと出発していた。それゆえ二人が使用していた異世界渡りのアイテムは異世界側の帰還地点リスポーン・ポイントが同一で、ペーパー・バイヤーとアイサが使うには都合が良かったらしい。

 次元を超える偉業を苦労話で済ませてしまうあたりがペーパー・バイヤーである。


「そんな場所で仮面だけで話しておらず、城に入った。入った」


 馬を置いてきたアニッシュがやってきて、城内へと案内された。




「合唱魔王および山羊魔王討伐の功績により、凶鳥に騎士の称号を授ける!」

 城内でまず行われたのは受勲式だ。ナキナにも魔王討伐の情報は伝わっていたため、式の準備はあらかじめ済まされていた。

 アニッシュが宝剣を抜いて、膝を付く俺の肩を剣の平べったい箇所で軽く叩く。座禅中の警策に似ていなくもない。

「同様の功績により、魔法使い皐月に騎士の称号を授ける!」

 受勲は俺だけではない。魔王討伐戦に参加した者達全員が騎士に任命されていた。

「山羊魔王討伐の功績により、魔法使いアジサイに騎士の称号を授ける!」

 ちなみに、騎士になっても身分保証以上の特典はない。ナキナに金一封を望むだけ無駄だし、酷が過ぎる。アニッシュ的にはせめて形ないものだけでも渡したい、という善意を込めたつもりなのだろうが。

「以下同文、ペーパー・バイヤーに騎士の称号を授ける!」

 なんだか騙された気分になってしまう。

「以下同文、森の種族アイサに騎士の称号を授ける!」

 不満げな俺を目撃したからか、喪服の女がアニッシュへと耳打ちしている。


「ん、凶鳥は領地も欲しいのか? 男爵の位を授ければ可能であるぞ。まあ、今のところ、与えられる土地は魔界に飲み込まれているので取り戻す必要はあるだろうが」

「そんな不良債権、願い下げだ」


 形のないものの素晴らしさを実感させられてしまった。

「では続けて。以下同文、森の種族リリームに騎士の称号を授ける! 森の種族、族長殿に騎士の称号……う? うむ、これは流石にアリなのか? 前例はある、と。うむ、では族長殿に騎士の称号を!」

「称号はこばまんが、私からもナキナに要求がある。そのための場を用意してもらおうか」

 受勲が終われば、次は会議だ。



 別の倉庫に移動すると、そこにあったのは長机だ。部屋の中央に鎮座しており、既に見慣れた顔が着席していた。

「なんじゃ、凶鳥達も到着しておったのか」

 鹿の角を持つ少女ジャルネに、彼女の護衛役で兎の耳を持つローネが座っている。

「ようやく来たです」

「や、やあ」

 山羊魔王討伐で共闘した黄色と紫の魔法使いコンビも着席していた。更に、言葉を発していないが黒いベネチアンマスクを付けた男も机の端に座っている。

 三人が気付いているとは思えないが、悪霊魔王の頃に三人とは色々あった。複雑な気持ちもあるが、今は敵対していないので何も言わず最も離れた場所を選んで座る。

「兄様っ! 姉様っ!」

「リセリ。生きてまた逢えるとは!」

「二人とも人前よ。感動の再会はまた後でしましょうね」

 銀髪の三人は親族なので並んで座る。ウルガとリセリは一度感極まって抱き合っていたし、ネイトも少し涙ぐんでいた。


「さっそくで悪いが、余は森の種族の動向を知りたい。エルフはナキナをどうするつもりなのだ」


 会議に招待された人物は全員、ナキナを取り巻く状況に詳しい人物ばかりだ。エルヴン・ライヒに関しては当事者や被害者も揃っている。

 先日、俺達の中でも話し合った内容を族長のゼナ自らがアニッシュに伝えた。エルフを正常化するために戦力を欲しているゼナとしては、この場でナキナの協力を確保しておきたい狙いもある。


「――という訳だ。エルフの正常化のため、ナキナに同盟国としての役割を期待する」


 ナキナが大した戦力になるかという話もあるが、何だかんだと最前線で魔族と戦っているナキナの兵士は質が高い。特に防衛戦闘に長けている。

 問題は、ナキナに敵国へと攻め込むだけの備蓄がない事にあった。そのため、ゼナの話を聞いたアニッシュの反応は酷くにぶいものとなる。

「申し訳ない、族長殿。ナキナにその余裕はないのだ」

「余裕の有無に関わらず森の種族は攻めてくるぞ。私という大義を抱き込んでいた方が得というものだ」

 ほとんど脅しに近い協力願いに、アニッシュは渋面を作り悩んでいる。と、ナキナを影で支配しているかのような黒い喪服の女がボソボソと王様に耳打ちする。

「叔母上よ。余もそれは考えたが情というものが……国民を第一にというのも分かっておるっ」

 更に顔をしかめながら、アニッシュはゼナに脅し返す。

「ナキナがエルヴン・ライヒの傘下に加われば、無用な戦闘は回避できると思うが。逃亡中の前族長を差し出せば、エルフも待遇を考えるというものだ。そもそも、同盟は国と国同士の条約、族長殿との個人的な繋がりではない」

「一時の気休めだ。エルヴン・ライヒをうたう妄信者共は、エルフ以外の種族を奴隷として扱う。奴隷を監視するための上級奴隷ぐらいならば得られようが、同じ奴隷階級からは酷く恨まれよう」

 ナキナを存続させる事だけが目的なら、エルヴン・ライヒの子分となる情けない手段がある。

 ただし、将来的にはエルフから都合良く使われる毎日だ。エルフに従わない者達から見れば裏切り者なので、下手をするとエルフ以上に嫌われて迫害されてしまうかもしれない。

「獣の種族は長耳共にへりくだりはしないぞ。住処を追われたうらみは強い。徹底抗戦じゃ」

 そして、ジャルネを代表とする獣の種族陣営としては、ナキナの裏切りを牽制けんせいするだろう。ナキナに逃れた獣の種族は多い訳ではない。そのため、敵となる数は少ない方が好ましい。

「しかしな、前族長の望み通りにはならんぞ。種族の正常化? 耳長共がどうなろうと知ったものか。屈服し、泣いて謝るまで攻撃を続けてやる」

 とはいえ、ジャルネ達もゼナに協力したい訳ではない。好戦的な種族なので、種族間戦争で敵を滅ぼす事を躊躇ちゅうちょしない。

「獣の種族よ。忘れるな。お前達が先に、魔王の手先となって我等を襲撃してきたのだぞ」

「そ、それを言うでないわっ!」

 まあ、ジャルネ以外は脳筋ばかりだ。これまでの行いの悪さの所為で主導権を握るには立場が弱かった。

 三種族そろえば三種類の思惑が発生する。


「エルフの戦力どころかみやこの位置まで私は知っている。穏健派を解放するところまで力を貸してもらえば良い」

「西側のオリビア・ラインからも魔族がやってきておるのだ。せめてエルフとは停戦しておらんと国が滅びる!」

「人間族とも潜在的には敵対中なのじゃ。あ、いや、そこの喪服。飯の供給を止められるといささか以上に困るのじゃが」


 それから数時間、エルヴン・ライヒに対する考えは統一されずに会議は踊り続けた。

 俺は気分で陣営を変えられる地球人なので、傍観しながら溜息を付く。

「まったく、違う世界であっても人間は互いを理解できず協力できない。エイリアンが攻めてきたら皆仲良くなれるはずじゃなかったのか?」

 そんな俺に対して、仮面の下で「はっ? 本気で言っている??」と友人に対して普通作らない侮辱的な顔を作りながら、ペーパー・バイヤーは答えてくれた。

「LIFEを見てみろ。そこに答えがある」



『‐皐月がロバ姉を招待しました‐』

『‐皐月がメルグスを招待しました‐』


『皐月:私と姉妹の三人で、数的有利を活かして、青を潰し、紫黄も叩く。最後に御影を巡って正々堂々最終決戦』

『氷妹:それは無理。ラムネ供給元は私のおやつ。輸出禁止だけでロバ姉は脱落し、皐月達は紫黄と戦力拮抗。その隙を第三国となって突く』

『ロバ姉:クッ、殺せ』

『メルグス:役立たずな姉ッ!』

『稲妻キック:会議長過ぎです。眠いですっ』

『醤油:糸氏先輩。こちらの陣営に協力してくれれば勝てます』

『糸氏:勝手にやってろ』

『氷妹:そもそも、皐月は姉妹と同盟して生き残った場合、二人から狙われて脱落する。何がしたい?』

『皐月:えっ、妹はともかく、ロバ姉って別に御影なんて……』

『ロバ姉:はい、身も心も既に服従済みです』

『皐月:……分かった。まずは手を組んで姉妹から亡き者にしましょうか』

『氷妹:了解。裏取引で姉妹と協力して、一番弱い皐月を潰す』

『大紅団扇:あ、私も参戦して良い? 生前から恋してみたかったの』

『皐月:シャラップ!』

『氷姉:糸氏さん。スマフォの予備があればください。たぶん、この付近にあの子達もまだただよっているんじゃないかと思うので。霊界グループを新設して、そっちでまず誘ってみます』

『糸氏:トランシーバー的に使うためにダースで購入したはずなのに、どんどん減っていく……』


 たった数人であってもこの惨状とは。人は他者と共感し合えず、平和を愛せない生物のようだ。

 それにしても、皆視線を下げて、長机の下ばかり見ているなと思っていれば。ナキナの運命がかかっているのでもう少し真面目に……まあ、縁のない国だろうけどさ。





 蝋燭さえも不足気味なナキナなので、夕刻以降の会議は行われなかった。ナキナ側の結論は出ていないため、明日改めて会議が開かれるようだ。

 しかし、次からは辞退しようと御影シャドウは心に決めていた。対角線上に腹立たしい凶鳥面が見えていて、気を張っていないと己が何を仕出かすか分かったものではない。模倣が破綻してしまうリスクを避けるために、ハルピュイアの仮面を見ないのが正解だった。

「ラベンダー。会議中、何を見ていたんだ? 今も、それは??」

「スマートフォン。LIFEでメッセージが飛んできたから仕方なくね」

 御影シャドウにとってスマートフォンは見慣れぬ板型精密機械だった。御影さえガラケーしか所持していなかったのだ。使い方を教えてもらっていない物はさっぱり分からない。

「いちおう、天竜様の分も貰ってきた。早く探さないとね」

 ラベンダーは会議終了後にペーパー・バイヤーから手渡されたスマートフォンを御影シャドウに見せる。

 御影シャドウは仮面の裏でスマートフォンなる機械に視線を向けた後、興味なさ気に目をそらす。ガラケー派の御影ならばそうしたであろう反応だ。


「ああ、そうだな」


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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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