秦正樹さんと歩く街頭演説 外国人、減税…重なるテーマも熱量に違い

田渕紫織

 序盤の情勢調査で、各党間で勢いの差が報じられる参院選。公示後初の週末を迎えた5日、街頭の熱気を探ろうと、有権者の心理に詳しい秦正樹・大阪経済大准教授(政治心理学)と大阪市内の演説現場を歩いた。関心を集めるテーマに各党の主張が重なる一方、違いも浮かんだ。

 5日朝、大阪きっての繁華街・難波の駅前広場では日陰のない炎天下にもかかわらず、参政党の演説会に多数の人が集まっていた。手荷物検査を経て、演説会場を仕切るロープの中に入った秦さんは「土曜日の朝なのに、こんなに人が」と漏らし、最後列から周囲を見回した。

 研究者になる前は「ネトウヨ(ネット右翼)だった」と自称する秦さんは、有権者心理や陰謀論のほか、新興政党の動向や拠点の大阪で維新政治を研究してきた。

 午前10時すぎ、「日本人ファースト」と書かれた選挙カーの上で参政候補の演説会が始まった。日本維新の会を離党し、公示直前に参政に入党した比例区候補の参院議員が「日の丸は美しい。君が代も美しい。これをマイクを通して大きな声で言えることが、めっちゃ気持ちいい!」と声を張ると、ひときわ大きな拍手が起きた。

記事の後半では、自民党や立憲民主党を含め2日間で5カ所の街頭演説を聴いて回った秦さんが、各党の主張の重なりと聴衆の違いを分析し、今回の参院選の歴史的意味合いを語ります。

 演説が1時間ほど続いた後、神谷宗幣代表がマイクを握った。減税に触れた後、「(党の掲げる)『日本人ファースト』っていうのは、日本人の賃金を上げましょう(ということ)、なんですよ」と主張。「外国資本とか外国人を入れすぎ」と叫ぶと、「そうだー」と応じる聴衆の声量はさらに大きくなった。

 演説で高まる熱量に秦さんは「日本は欧米と比べて移民も少ない。外国人をめぐる問題は、環境問題などと同じく『票にならない』というのが通説だったのに」と驚きを見せた。

 「排外主義!」。声が飛んできた後方を振り返ると、「ヘイトスピーチ 差別的な主張に惑わされないで」などと書いたプラカードを掲げる人たちがいた。秦さんが声をかけた1人は、SNSで連絡を取り合い、演説会に集まったと話した。抗議者と支持者がロープを挟んで近づき、途中からは警察官が間に立った。

 近くの商店街ではキャリーケースを引いた訪日外国人が行き交う。秦さんは「内容が耳に入っていれば、どんな思いで聞くのでしょうか」と話した。

 秦さんは前日の金曜夜、オフィス街に近い大阪・京橋駅前で国民民主党の玉木雄一郎代表の演説を聞いた。手取り増などを訴えた演説に「人がびっしり。スーツ姿の男性を中心に足を止めていた」と同様の熱気を感じた。一方で、参政の街頭演説は「20~40代が中心で女性も多い。暑い土曜の朝なので、つい足を止めるというよりも来ようと思って来た人が多そう。来た人どうしの雑談も多く交わされ、より強い熱量を感じます」。

国民民主党と参政党の街頭演説に感じた類似と相違

 続いて、約3キロ南の西成で行われる日本維新の会の演説会に向かった。労働者の街とされるが、最近は訪日外国人ら向けの高級ホテルも進出している。

 「大変ご迷惑をおかけしています」。午後2時半の天下茶屋駅前。マイクを握る維新候補が謝ったのは、維新が大阪で進めてきた民泊についてだった。

 大阪市は2016年に国家戦略特区の「民泊特区」に認められた。大阪・関西万博の効果もあり、府内の訪日外国人は過去最多に上る。維新候補は「ごみの問題などご批判をいただいています」と語り、オーバーツーリズム対策や土地購入規制、訪日外国人の免税廃止などを訴えた。

防戦一方の維新「もはや既成政党」

 「万博のアピールをほぼしないのは意外。外国人に関する話は、参政に引っぱられているのでしょうか」と秦さん。演説に集まったのは20人ほどで、大半が高齢者だった。社会保険料の値上げを「頭にくる」「ステルス増税」と批判すると、首にタオルを巻いた初老の男女からまばらな拍手があがった。

 大阪維新の会結党から15年。「維新はもはや『既成政党』。チャレンジャーの参政や国民民主に対し、防戦一方なのかもしれません」。そう指摘した秦さんは「維新幹部の応援が少なく暑い時間帯ではありますが、以前の大阪では、維新の街頭には若い人も集まっていた。西成は高齢者が多い街だからかもしれませんが(大阪で低迷する)自民党みたいです」と語った。

 秦さんは前日、西成出身の自民候補の街頭演説も聴いた。そこでも、外国人が利用する民泊の規制を訴えていたが、聴衆は数人で勢いの差を感じたという。

 続いて西成から約2キロ先の巨大ショッピングセンター前へ。5日午後4時半に始まった立憲民主党候補の街頭演説では、枝野幸男最高顧問が「日本人ファースト」を「ポピュリズム」「外国人排斥」と厳しく批判した。食料品の消費税ゼロの「公約」も訴えた演説には、中高年を中心に約120人が集まった。

足を止める有権者に見る浸透度は?

 知名度のある枝野氏が来ても、行き交う人の数にしては、足を止める人は少ない。秦さんは「足を止めるのは、投票先として考慮しているということ。無党派層への浸透に苦戦しているのがわかります」。

 前日からの2日間で大阪市内で行われた5陣営の街頭演説を聴いて回った秦さんは「ほとんどの候補が外国人と減税の話をした一方、有権者が投票で重視すると言われる景気対策や社会保障、外交・安全保障についての話はほぼ出なかった」と振り返った。

「日本政治の転換点になりうる参院選」

 「各党は、新興政党が支持を拡大する若者の票がほしいはず。特に高齢者に関心が高い社会保障などの話は、後回しになったのかもしれません」

 勢いづく政党が強調するテーマに他党が引っ張られている印象を感じた一方、「維新や自民、立憲といった既成政党の聴衆が少ないのに対し、参政や国民民主の多さは想像以上だった」と語った。

 今回の参院選について秦さんは「後の政権交代につながった2007年の参院選と同じぐらい、日本政治の転換点になりうる」とみる。だからこそ「私たちは将来を見据えて、責任を持って政策を掲げて実行できる投票先を選ぶことが大事」と語った。

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この記事を書いた人
田渕紫織
東京社会部
専門・関心分野
災害復興、子ども
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    津田正太郎
    (慶応義塾大学教授・メディアコム研究所)
    2025年7月7日13時0分 投稿
    【視点】

    研究者である秦さんと記者が一緒に演説会場をまわって歩くというのは、面白い企画だと思いました。暑かったでしょうから、秦さんにも記者の田渕さんにも「お疲れさま」と言いたいですね。 それはさておき、やはり今回の選挙の大きな争点は「外国人」になりそうです。選挙において何が争点になるのかは、それに賛成する/反対するということ以前に重要な意味があります。 人びとの関心がある争点に集まるほど、それに対して候補者や政党がどのようなスタンスをとるのかが投票のさいの判断基準になりやすくなります。そのため、その争点を「得意分野」とする政党にとって有利な状況が生まれやすくなるのです。 ここ数年の外国人観光客の急増や、一部地域での外国人居住者の社会問題化などより、外国人に対する潜在的反感が生じており、そのことが外国人の受け入れを減らすべきだといった主張を掲げる政党に勢いをもたらしているのでしょう。自分自身が実際に何か被害を受けたか否かとは別に、メディア接触を通じて認知上での不安や怒りが広がっていると考えられます。 外国人の争点化を受けて、他の政党もこの問題について言及せざるをえない状況が生まれているというのも、この記事で指摘されている通りかと思います。外国人に対するあからさまな差別演説を行う候補者もいるようですし、選挙戦がヒートアップしていくなかで過激さを競いあう状況が生まれないことを祈るばかりです。

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    秦正樹
    (大阪経済大学准教授=政治心理学)
    2025年7月7日17時21分 投稿
    【視点】

    田渕記者に同行取材した秦本人です.まずは,もうめちゃくちゃ暑くて1〜2日で真っ黒に日焼けしてしまいました(津田先生,お心遣いありがとうございます).参院選は3年に一度7月にありますが,最近の猛暑化も考えて時期をもう少し早めたほうがいいんじゃないかと本気で感じます…とくに候補者の皆さんは,どうか体調を第一に考えて熱中症に気をつけて選挙運動を続けてほしいです.それはそうとして,記事に私のコメントをうまくまとめて書いていただいているので特に付け加えることもないのですが,せっかくなので,私が見た風景の中で最も印象に残った参政党の街頭演説を見たコメントを1つ2つしておきます. 1つは,参政党支持者のこれまでみたことのないほどの熱狂です.上西先生のコメントへの返答でもありますが,10時15分頃に候補者の演説が始まったときに既に3~400人近くにはいました.そのあと,時間を経て演説会場の周りで聞く(支持者以外の)人が集まってきて,最終的にはおそらく1,000〜1,500人以上の聴衆がいたかと思います.演説後に20〜30代くらいの支持者さん数人にインタビューをしたところ,皆さん共通して,「参政党の政策が良い」から支持しているということでした.もう少し具体的に聞いてみると,「日本人ファースト」を基盤にする政策は,どう転んでも私たち(=日本人?)に利益があるわけだから"100%"支持できるんだと熱く語ってくれました.一方で,街頭演説でも周囲でカウンター系の人々が「差別反対」などの看板を持っていたり叫んだりしていましたので,排外主義とか陰謀論政党とか言われてることについてはどう思うか?と聞いてみました.すると,ある支持者さんは,それはそれ,これはこれで考えている,それに,支持者が主人公の政党(DIY政党)だから常識から外れたことをいえば私たちが修正できる,そんな政党は他にないと言っていました.別の支持者さんは,あぁやって批判してくれるほど注目する人も増えるからありがたい,参政党の話を聞いたら「普通の日本人」なら支持につながるはずだ,と言っていました.ちなみに,先日の総選挙ではどこに投票したか?と聞くと,前回は国民民主党に投票したという人が多かったですが,同時に,それは他の政党が不甲斐ないから消去法で選んだだけなのに対して,参政党は積極的に支持できると一致して力強く答えていたのも印象的でした.他にも色々お聞きできて興味深かったですが,それはまた別の機会にします. もう一つ面白かったのは,ボルテージが最高潮に達した神谷代表が「税金上げといて社会保険料搾り取っといて賃上げしろって,国民殺す気かぁ!」と叫んだ瞬間の会場の雰囲気でした.私の隣にいた大人しそうな男性はそれまで少し拍手をするくらいでしたが,このときばかりは「そうだ!日本人守れ!」と叫びだしました(急に叫んだのでびっくりして心臓が止まりそうになりました).その直後,「与党が夢を語らないから(中略)そして国の運営を外国人に任せようとか(中略)情けないこと言うからですよ.我々参政党は,この1億2千万人の,600兆のGDPを持つ日本を,日本人の手で運営していきたいんです,日本人を豊かにしたいんです(中略)それを否定するのは誰だ!(中略)私を否定する人たち,誰だ,どういう思想を持った人たちだ,そういう人たちのせいで日本はだめになってきたんじゃないですか」というスピーチのくだりでも,支持者全体で何度も何度も「そうだ!そうだ!」と怒りを込めて叫んでいました. ここからは感想ですが,この様子を(朝日新聞的に言えば)「いつか来た道」と批判する人も多いかとは思います(し,批判を受けること自体は当然だろうとも思います)が,一方で,そういう批判こそが,彼らを突き動かす最大のエネルギーになっているんだろうなということも強く感じました.そして参政党神谷代表のメッセージは「多くの識者,メディア,そして既成政党が言ってきた「正しい論理」がこの国の生きづらさを生んだんじゃないのか!今まで間違っていたと認めろ!そして,それを"""正しい道"""に戻そうとする参政党を批判するのならば,それはもはや国の反逆者だ」という意味で,現場で叫んでいる支持者を見ていると,そう思う人,それを支持する人がたくさん現れるのは全く不思議じゃないなと感じました.だからこそ,参政党を「彼ら」=「異質な他者」と定義して,「私たち」=「常識人」のフレームで論じることには,より慎重になるべきだと強く思います.私はどの政党も支持していませんし,言うまでもなく参政党の主張にも賛同しませんが,同時に,参政党を脊髄反射的に「危険な政党だ」と声高に警鐘を鳴らすことこそが,支持拡大の最大の源泉となりうることもよくよくよくよく理解するべきだと感じました.

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