超・立体特集 

YOSHIKI/完全なる少年

スペシャル・セッション

すべては音楽に始まる

YOSHIKI 矢野顕子 

1992年1月1日発行

 

 

超多忙のヨシキと来日中の矢野さん。奇跡的にも、無事オン・タイムで話は始まりました。

 

矢野 二年前ぐらいかな。MTVで初めてXを見て、すごいなと思ったの。NYへ移ってからも、浦島タロコにならないように、チェックしてましたし。圧倒的な迫力でビックリしました。

ヨシキ それは、どういう面で....ですか?

矢野 ステージであんなに激しく動き回っているのに、最後まできちんと演奏している。ずい分体力があるなって。普通、ドラマーってリズムをキープするのに体全部とくに腰に負担がかかると思うのですが、ああいうふうに体を滅茶苦茶揺すって平気なんですか?

ヨシキ 自分でも不思議なんです。手と足と心臓は、ちゃんと音楽のリズムをとっているのですが、それ以外の体は、別の波を打っている……無意識にそうなるんです。

矢野 ドラムはどなたかに習ったの?

ヨシキ ほとんど独学。ドラムのセッティング自体が違ってますね。頭一個分ぐらい高くて、全体が低いんです。

矢野 スネアーはこの辺?

ヨシキ (手で高さを指して)この辺かな。ちょうどももの内側にあざができる。

矢野 かなり上からストーンと叩かないといけないスタイルなのね。

ヨシキ 体全部を、あずけちゃうんですよ。バーンってやって、たまにはずすことがある(笑)。ほとんど宙に浮いてるっていうか、あまり椅子にすわらない。あと、側にヴォーカルが来ると、そのまま体重をあずけて自分はラクになって鳴らしていたり(笑)。

矢野 もともとはピアノをやってらしたんでしょう?どうしてドラムを始めたの?ジャンケンで負けたとかっていうんじゃないですよね(笑)

ヨシキ ピアノは何時間やってもあきない。ドラムは長時間独りでやってると、つまらないけれど。

矢野 ドラムは一人でやってても生産性がないよね。でも、ピアノばかりやっていると、メロディーが出ないものに無条件で憧れちゃうんですよね。

ヨシキ 僕なんかドラムとピアノでいつも椅子から動けないから、前ではしゃいでる人達が羨ましくなることがあります。

矢野 ええっ!!十分はしゃいでると思うけど(笑)。   

 

 ヨシキは一分間に八百回、日本で一番早く叩けるドラマーだと、海の向こうの矢野さんの耳にもそれは届いていました。

 

ヨシキ 僕、すごい下手ですよ。練習はすごく好きですけど。目標とするドラマーがいないから、作戦を練っているというか、こうやったらおもしろいかな、びっくりするかな、とか考えている。本当に自分流で。

矢野 そう。アレンジメントはどなたが?

ヨシキ メンバー全員でやることが多いのですが、自分が作った曲はほぼ99パーセント、僕がやってます。全部譜面に書いて配るんです。

矢野 じゃあ、皆さん譜面が読めるんだ。

ヨシキ みんなで教え合って覚えました。譜面を読めるほうが便利ですからね。

矢野 ああ、そうね。それはいいことよね。

ヨシキ 矢野さんはいくつからピアノを始めたんですか?

矢野 三歳だったかな。それから一度も嫌いになったことはないですね。ピアノを弾いてる自分が、一番自分らしくいられるというのかしら、当たり前だったんですよね。とにかく、ものを表現するのに言葉や絵よりも、ピアノを弾いたほうが、はるかにピッタリとくる感じでした。きのう、コンサートがあったんですが、終わった後、父が「幼稚園の頃、ほらアッコ何かやりなさいと言うと、パッと食卓に上がって何かやってくれた。それとそっくりだった」って言うの。もう形無し(笑)。きっと、そういう気持ちは変わってないと思う。

ヨシキ 僕は五歳からずっとピアノをやっていますが、同じように弾いてるのが自然だって思いますね。

矢野 男の子って、途中でカッコ悪いとか、野球やりたいとか思うけれど、そうはならなかった?

ヨシキ これといってやめるきっかけがなかったですね。特に興味をひかれるほどのものが現れなかった。まあ、ピアノの練習の一方で暴走族なんかもやってたんですよ。

矢野 指の怪我とか大丈夫でした?

ヨシキ それはなかったんですが、右手の薬指がちゃんと動かなくて、もどかしい思いをしています。ケンカの名残りかなあ...。

矢野 薬指はみんな動かしにくいわよ。私、ヘンな指自慢だったらあるの。指全部がわん曲してて、手の甲側に全く反らないんです。それが当たり前だと思っていたら、普通は反るのね。

ヨシキ あ、僕も反らない!(笑)

矢野 ああ、よかった。私だけじゃないのね。きれいな指してますね。私は土方手ですけど(笑)。爪はのばしてるんですか?

ヨシキ いえ、これは最大にのびてる。長い爪に憧れてるんです。

矢野 それは長い爪が好きなの?それとも女性的なものが好きなの?

ヨシキ 長くてきれいな爪が好きなんです。つけ爪もいっぱい持っていて撮影の時につけたりしています。ピアノを弾く時はやはり長くできませんから。

 

このあたりから矢野さんはヨシキに質問を連発。ちょっと、アメリカの新便記者さんといった感じです。

 

矢野 アメリカの音楽業界では、ジャンル分けがハッキリしていて、ハード・ロック、ヘヴィ・メタル、パンク……と色々あって、それに入らないものはポップスになるのね。ボン・ジョビなどはポップスになるんだけど、Xの音楽は、基本的には何になるのかしら?

ヨシキ えー、メチャクチャっていうか、ジャンルに囚われたくないんです。音楽はどんなジャンルのものでも好きですし、自由にやっていきたい―聴いてる人が自由に思うのは構いませんが。

矢野 Xの曲を聴いたり、ジャケットの写真を見たり、目に見えるスタイルから感じたんですが、バイオレンスというか暴力性を前面に出しているように思うんだけど、どうしてかしら。

ヨシキ まず、ヴィジュアルと音楽内容は関係ないと思うんです。たまたま全員が長髪ですが、スタイルは何でもやってやろうと思っています。モヒカンでクラシックやってもいいし。L・Aに行ってた時は、スラッシュ・メタルのコンサートにもいったし行ったし、かと思えば、ジョージ・ウィンストンに行ったり。いろんな音楽を滅茶苦茶聴きました。

矢野 そうね。そういう意味では、ジャンルはどうでもいいことですが、ただ暴力性をすごく捉えやすいイメージで使っているのが気になるんです。

ヨシキ 別に暴力に固執はしていません。例えば、ステージで物を破壊したりというのは、自然のままにやっている。内面にある暴力性が、ごく自然に発散されてしまう...というか...。

矢野 どうして暴力が好きなのかしら?

ヨシキ 好き嫌いじゃなくて、内面に必ずあるエネルギーだと思うんです。たまたま、今回のテーマは“破壊”と決めましたが、暴力と破壊は違いますよね。破壊性の内側に存在する芸術を追及してみようと―。ただ一貫したイメージだけは持たれたくないんです。

矢野 物が壊れる美しさは、確かにあると思います。その壊すことに意味性があるかどうかってことですよね。

ヨシキ 矢野さんに言われてハッとしたんですが、僕たちとしては暴力的なイメージを出してるつもりはなかったんです。ステージでも歌詞の内容にも。逆に女っぽいって思われている。

矢野 そう、か。私、バイオレンスの印象がどうしてもあったのね。ごめんね、しつこく聞いて。爪を長くしたり、メイクするのは、女性的なものへの憧れなんですか?

ヨシキ とにかくいろんなことやってみたい。常に揺れて流れていたい。デヴィッド・ボウイが好きなんです。

矢野 彼のことは、詳しくしらないですけれども、自分の作りたいものが何であるかすごく考える人ですよね。そのために、ヴィジュアルで耽美的なものを追及したり...彼にとって、老化していくということは、すごく大きな問題だったと思うのね。

自分自身と戦って、結局は音楽に帰っていったのは嬉しいと思います。音楽は好きですか?

ヨシキ 音楽は人生の全てです。音楽からあらゆる発想が始まっている。音楽さえ完全にやっていれば、あとは何をやってもいいんじゃないかと。

矢野 入れ墨とかメイクとか...。ヴィジュアルを全部取り除いたとしても?音楽以外でやりたいことはありませんか?

ヨシキ 今、一番したいことは、音楽の勉強。一年くらい休めたら、先生についてピアノをみっちり勉強したい。

矢野 それはすごくいいことだと思う。さっき、ケンカの話がでましたけど、物を壊すとかそういう次元のケンカじゃなくて、自分の存在自体に傷がつくようなケンカはしませんか。

ヨシキ しょっちゅう、失敗してます(笑)。最近はそうでもなくなってきたんですが、長生きしたくなかった。あと三年生きられると仮定して、自分の存在証明を今のうちにやってしまおうと物事をすべて進めていた。そうすると何も怖くはない。

矢野どうしてそう思うの?小さい時からそう思っていたの?

ヨシキ 三十歳をこえた自分が想像できないんです。短くてもいいから、密度の濃い素敵な人生を送りたい。

 

Xが“瞬間”の美学と評されている所以はここらへんから来ているのかもしれません。実際にヨシキは何度も倒れています。

 

矢野 世の中に対して期待できない気持ちがあるのかしら。そういう気持ち私にも一時期あったわ。人とコミュニケートしようという気持ちは?

ヨシキ 他人に興味はあります。ただ嫉妬はしません。結局、自分自身に帰してしまう。バンドのメンバーが抜けたときも時も、僕に魅力がないからなのかな...とか。

矢野  ご自分でお好きなところはある?自信は音楽に関してだけ?

 

ヨシキ いや、すべてに自信があるし、すべてに自信がないというか。自分がしゃべったこととか、後で考えると大嫌いになることがあるし、その一方で少しは自分のこと好きだし。

矢野 私も自分のことを世界一、無能な女だわ、と思うことあるの。でも、結局、自分の中からそれをカバーしていくものを見つけていかなくちゃいけないのね。そういうポイントになるものはあります?たとえば、きのうノラ猫にエサをあげたからエライ(笑)、というようなことでもいいんだけど。

ヨシキ 努力が好き。楽器にしてもそうなんだけど、しなきゃいけないんじゃなくて。 

矢野 それは立派な特質よね。だったら二、三年生きるだけなんて考えは捨てたほうがいいと思うよ。

ヨシキ そのへんは自分でも混乱してます。考えて考えて、マメに努力する自分がいる一方で、パーッと散っちゃえばいいという自分もいる。多重分裂してるっていうのか...。

矢野 お母さまはご心配なさってません?

ヨシキ よく言われますよ。ちゃんとごはんを食べてるかって。

矢野 それは私も言いたい!

ヨシキ 変わった母なんです。当時、子供の間で流行っていたラジコンカーはだめで、楽器や顕微鏡、天体望遠鏡は買ってもらってた。

矢野 ちゃんと役に立ちそうなものね。私もそう。うちの子にはラジコンカーは買ってあげない(笑)。

ヨシキ 友達みんなが持ってたから、とてもせつない思いをしましたよ。

矢野 いいのよ、子供はそういう思いを味わったほうが(笑)。稼げるようになったら自分で買いなさいって。私もそう言われて育ちましたので。

私は音楽以外のことに従事することが考えられなかったんですけれど、音楽をずっとやっていたいと思ってました?

ヨシキ 僕も音楽をやっている自分が自然で、いつも音楽と同次元に並んでました。グレたりした時期もあるけど、結局、音楽に帰ってしまう。何度も引越しをしましたが、ピアノだけはどこへも持って動いてました。ツアーのときはDXとか、鍵盤楽器のない部屋に帰る気はしないですね。

矢野 クラシックのピアノのレコードとか聴かれますか?

ヨシキ 大好きでよく聴いています。ちょうど12月に、クラシックのヨシキセレクションのCDを出すんですよ。

矢野 ジャズはどう?

ヨシキ キース・ジャレットが好きで、CDや本やビデオを持っています。キース・ジャレットがバッハを弾いてるのとかもあります。Xのコンサートでも、ベートーヴェンやバッハ、ヘンデルなどをよく使います。

矢野 19世紀以降はお聴きになりますか?ドビュッシーとか...?

ヨシキ シベリウスは好きですねぇ。でも、演奏家というよりは、音楽自体に興味があるので、誰の何のというのはあまり覚えていません。自分で弾く時も勝手にアレンジしちゃうので、ピアノの先生からは怒られる(笑)。

矢野 私も、それを幼稚園の頃からやってました。結局、自分が弾きたいように弾いちゃうのよね。クラシックは再現芸術だから、その譜面をどう解釈して弾くかということだから。それで、私はすぐ即興のほうに行きましたけれど。

ヨシキ 今でもよくクラシックの練習をするんですけれど、この音はいやだっていうのがでちゃうんですよね。でも、譜面を変えるわけにはいかない。

矢野 私が今おすすめしたいのは、イーヴォ・ポゴレリッチというピアニスト。すごい美少年で天才的ピアニストとしてデビューしたんだけど、そのスタイルがとても独創的なの。何かのコンクールで、アルゲリッヒがものすごく評価したのね。現在は、もう立派な青年ですが、ご自分のピアノの先生と結婚したんですよ。音楽的な喜びがすごく伝わってくるから、是非、聴いてみるといいですよ。

ヨシキ ぜひ、聴いてみます。矢野さんはクラシックは弾かれるんですか。

矢野 子供のためにかかれたクラシックラヴェルを弾くぐらい。主人は昔、すごく上手かったけれど。

ヨシキ 去年、『ビューティー』のコンサートへ行った時、ピアノがうまい、と思いました。

矢野 昔はもっと上手だったんです(笑)。彼は自分の技術を維持するための練習を今はあまりしないのが、ちょっと残念ですけど。

ヨシキ 矢野さんは練習はするんですか?

矢野 したい時にします(笑)。そういう時は何時間でも平気なの。でも気がのらない時は全然しない。基本的に私、怠け者だから。ピアノの前に座ってることは、トイレに座ってるのと同じくらいの開放感がある。ごはんを食べてる時と同じ気持ちというか。

 

今でこそ矢野さんはエレガントな女性ですが、デビューしたての頃は“自由奔放”ってレッテルがはられてました。

 

矢野 若い頃は、他の人にどう思われるかということに全く関心がなかった。誠実に相手のことを考えて行動することができなかった。愛がないというか、つまり子供だったんです。つい最近まで(笑)。今は、自分のことを正当に評価してもらうのが、一番気持ちいい。誤解がおもしろい時期もありましたけれど。

ヨシキ 僕、今がその時期なんでしょうね。誤解されるのがおもしろい。

矢野 エネルギーのコントロールができなかった。本当にいろんな階段があると思うの。やりたくてもやれない時期もあるし、やりたいことがなんでもできる時期もある。Xは、今しかできないことが、いっぱいあるよね。

ヨシキ 一応、ロック・ミュージシャンの名のもとに目茶苦茶やってるわけだけれども、それをとっぱらったら、どう思われるのか...ただのヘンな人だったりして。

矢野 昔からの友人であるディヴィット・シルヴィアンが、昔、売れたくない、売れたくない、って言ってたの。その頃、YMOが爆発的に売れて、主人が精神的に動揺してるのを間近で見てたのね。その時、主人が「売れなきゃわからないこともあるよ」ってデイヴィッドに言ったら、ふうんと答えていたけれど。でも、そのままデイヴィッドは売れなかった(笑)。

ヨシキ 売れたじゃないですか。僕、好きですよ。

矢野 音楽通の人にはね。でも、ビックヒットにはならなかった。私、「春咲小紅」で実感したんですが、ああ、こんなものかって。売れることに伴う虚しさがわかりました。でも、それを乗り越えて、自分が作りたい音楽を追及していけばいいんだと思いました。自分のスタイルを改めて思い直しましたね。好きで作ったものが正当に評価されて、たまたま多くの人に聴いてもらえるのが理想です。レコードの制作費用がつりあって(笑)、貧しくもなく、大金持ちでもなく、毎日、鯵の干物を食べられたら幸せ。時々、アルマーニも欲しいけど(笑)。

ヨシキ 音楽は仕事って感じはしますか?

矢野 ないかな。あ、でも、レコードのプロモーションしてる時はあるわね。レコード作ってる時は楽しい。

ヨシキ 僕も仕事って気はしない。好きな仕事しかやらないってことがあるけれど。僕の好きなアーティストに、ケイト・ブッシュという人がいますが、矢野さんと、多少イメージがダブるんですが...。

矢野 イギリス人によく言われます。声が似てるって。彼女のように悪魔的なものを題材にしてるのは好きになれない。ダークなものはダメ。

ヨシキ そうかな。僕はダークというよりむしろ、女性的なものを感じる。

矢野 ダークなものって、どうしても消極性を感じるんです。ほのぼの4コマ漫画もダメだけど。一生懸命努力する人を励ます歌が好き。たとえ失敗が見えていても。だけど、ダークなものって、エネルギーの瞬発力はあるけれど、持続性がないでしょ。とくにアメリカでは、悪魔的なものはドラッグカルチャーと結びついているから、切実な問題なんです。やっぱり、自分と価値観が似ている音楽を聴いていたいのね。

ヨシキ ケイト・ブッシュが決してダークだとは思わないけれど、自分自身は臆病だから、単純に悪魔的なものは嫌いですね。歌詞にも絶対使いません。

矢野 セクシャルなものは平気ですか?今回のCDはオヨヨと思っちゃったけれど。

ヨシキ 最近は、恋愛とかジェラシーとか、きれいなものをやってたので、ここらで、またイメージを変えようと。裸になるのは、さすがに抵抗がありましたけれど。今は、とにかくより多くの人に僕たちの音楽を聴いてもらいたい時期なんです。10人よりは100人、10万人、100万人と。

矢野 だったら、あと三年なんて言わないで、三十年は生きてください。バイオレンスとかセクシャルとかの印象が強かったので、いろいろ失礼なことを言ったりもしましたが、音楽の本質には関係のないことに、あまり時間をかけないで、音楽にもっと時間を使ってはしいと思うんです。音楽での技術と表現力があるんですから。

ヨシキ 矢野さんってすごく女性的な方だと感じました。

矢野 そう思っていただいて嬉しいわ。自分とは様々な点で異なってる人と久しぶりにお会いしたので、興味深かったです。

 

子供たちのためにと、持参したカメラでヨシキと記念撮影におさまり、部屋を後にしたアッコちゃんでした。

 

 

 

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