(藤田直哉のネット方面見聞録)「右傾化」の裏で世論工作、日本でも懸念

 欧州議会選挙で、右派政党が躍進した。たとえばドイツでは、AfD(ドイツのための選択肢)が政党として第2位になり、旧東独圏では得票トップである。「右傾化」それ自体も民衆の選択であり、民主主義の下、尊重するべきかもしれないが、情報工作の観点から、この件には大きな懸念がある。

 福田直子「デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義」(集英社新書)では、モスクワのシンクタンク「戦略情報センター」の報告書を引き、ロシアが西欧社会に影響を与える方法論をこう説明している。「報告書の内容は、西欧では多くの人々が社会の安定と治安、同性愛やフェミニズムではない伝統的家族の形態、多文化ではなく本来の国家主義を重視しているという趣旨だった」「人々の怒りと不安を利用し、ロシアが『保守主義の保護者』としてリベラルと保守を分断させて君臨することこそ、世界でロシアの地位を再び高めることにつながるという結論が出されていた」(122ページ)

 ロシアは、「共産主義」のイメージが強いが、むしろ「保守主義」を強調し、他国への影響工作をしている。そして、ドイツのAfDはじめ、右翼的政党を応援する戦略に出ている。以前の選挙であるが、AfDへの投票が多かった旧東独の地域は、RTやスプートニクなどのロシアのプロパガンダメディアを参照する者が多かったことが分かっている。

 新冷戦では、直接的な兵器による闘争だけではなく、情報やイメージなどによる民意・世論の誘導が重要な争いの現場になる。ある国の政権を右寄りにするか左寄りにするかで、激しい攻防戦が起きている。トランプが当選した2016年の米大統領選にロシアが介入したことや、台湾の総統選での中国からの工作は記憶に新しい。もちろん、日本もその争いの舞台である。

 「アクティブ・メジャーズ 情報戦争の百年秘史」(作品社)や「諜報(ちょうほう)国家ロシア」(中公新書)が明らかにしているが、世論工作の方法論にはパターンがある。たとえば、ある国の実際に存在する問題や葛藤に介入し、分断や対立を激化させる手法が採られる。移民などのイシューで、移民側と、排斥側の両方のフェイスブックグループをロシアの工作機関が運営していた事例も報告されている。日本でも、ジェンダーや階層や地域差など、あおりやすそうな問題はいくつもある。

 日本の次の選挙でも、ネットを利用した他国からの介入が起こるだろう。影響された人々は、自国を「保守」する、あるいは社会を「革新」する意図で、他国を利し国や社会の安定に反する行動をしてしまうかもしれない。ルサンチマンや無力感や絶望感や怒りなどの情動は特に利用されやすい。必要なのは、内省と、影響工作の理解だ。それこそが様々なものを「守る」道である。(文芸評論家)

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