映画『F1/エフワン』を10倍楽しく見る方法──トリセツを専門家が指南!
映画『F1/エフワン』は6月27日に全国公開。鑑賞前に知っておきたいF1の専門用語やルールを専門家が指南する。 【写真を見る】ドライバーの心理まで映し出す、迫力のある映像!
映画『F1/エフワン』のトリセツ
映画が始まった直後から、その迫力ある映像にグイグイと引き込まれていく。 まるでドライバーの視点そのもののように思える映像は、ときに激しく揺れ、ときに慌ただしく周囲を見回す様子から、あたかもドライバーの心理まで映し出しているかのようだ。 この映像はヘルメットカメラによって撮影されたもの。ドライバーがかぶるヘルメットの、それも目のすぐ脇に超小型カメラを設置することで、いままではドライバーにしか体験できなかった臨場感溢れる映像の記録が可能になった。このヘルメットカメラを多用したことが、映画『F1/エフワン』を成功に導く大きな鍵となったように思える。 もうひとつの魅力は、製作についてホンモノのF1から全面的な協力を得るとともに、現実とフィクションを高度なSFXによって合成。実際には存在しないF1チームがフェラーリやレッドブルと競い合っているように見える映像世界を作り上げた点にある。 あのアイルトン・セナを描いたネットフリックス制作の「セナ」も見事なSFXで、これまで誰も見たことのないバトルの世界を描き出していたが、『F1/エフワン』では現実の映像に架空世界を溶け込ませている。その制作陣の手腕には驚かざるを得ない。 ただし、本作中にはF1の現場で実際に撮影された映像も多く使用されている。その証拠に、イギリスGPのスーターティンググリッドを映したシーンでは、私の友人でF1カメラマンの熱田 護が登場する。彼によれば、F2マシン(F1よりは格下ながら、F1とよく似た外観のレーシングカー)を使った撮影が、グランプリ開催中のサーキットでよく行われていたという。 もともとF1は映像権利の保護に厳しく、映像の使用許可を手に入れるのは極めて困難。しかし、本作では実在するF1チームやサーキットがそのまま登場。そのなかにはフェラーリF1チーム代表のフレデリック・バスールやメルセデスGP代表のトト・ウォルフなどが含まれている。 しかも、実際に行われているF1チーム代表の記者会見で司会を務めているトム・クラークソン(彼も友人のひとり)が劇中でも司会を演じるというこだわりよう。挙げ句の果てには、F1グループのCEOであるステファノ・ドメニカリまで登場する。ランボルギーニのCEOだったころに知己を得たドメニカリは極めてサービス精神旺盛な人物だけれど、彼を始めとするF1関係者全員の協力があればこそ、本作は成立したといえる。 物語そのものは、かつて天才ドライバーとしてもてはやされたソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)が、弱小チームを立て直すため50歳をとうに過ぎてから現役F1ドライバーに復帰するという、荒唐無稽なもの。しかも、チームメイトでルーキーのジョシュア・ピアス(ダムソン・イドリス)とは犬猿の仲で、チームはギクシャクしがちという設定。 まあ、それがどう変貌していくのか、していかないのかは劇場で確認していただきたいところだが、この作品が一編のヒューマンドラマとして成立しているのは、年齢は重ねていながらもレースへの情熱を失わず、若者への嫉妬にも似た感情を抱きながらも、それをかみ殺してニヒルな笑みを浮かべるピットの演技力があればこそといえる。彼と、チーム代表のルーベン・セルパンティス(バビエル・バルデム)がかわす軽妙な会話、その粋な言葉遣いも本作の見どころのひとつだ。 そしてもうひとつ、30年以上もF1の現場を取材してきた私の目から見ても嘘くささが気にならず、優れたリアリティを感じられる理由のひとつに、翻訳の妙がある。それは、どんなモータースポーツ・ファンが触れてもすんなりと腑に落ちるモノ。その最大の理由は、元F1ドライバーで現在はF1中継の解説も務める中野信治が監修を務めた点にあるはずだ。 これはネタバレになるので詳しくは書かないが、エンドロールでマーティン・ドネリーに謝辞が贈られていることも、長年のF1ファンにはほっとするところだろう。 そんな、F1ファンも満足させるに違いない仕上がりの本作だが、もちろんモータースポーツに詳しくない方が見てもたっぷりと楽しめるはず。特に、主人公のソニー・ヘイズはルール違反ギリギリ(?)の走りでチームを勝利に導こうとするのだけれど、以下のF1用語を知っておくと、さらにストーリーに没入できるはずので、それらをここで紹介しておきたい。