第1回安倍氏地元で教団「不許可」 蜜月の終わり「あれだけ応援したのに」

編集委員・沢伸也 高島曜介

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の下関家庭教会(山口県下関市)で4月1日午前10時ごろ、電話が鳴った。「市長が記者会見で話した通り、貸せなくなったのでご承知おきください」

 市営施設の責任者からだった。前田晋太郎市長は前日、「司法の判断に従う」として教団の市施設利用を許可しない考えを表明していた。

 教団にとって下関は特別な土地だという。創始者である故・文鮮明(ムンソンミョン)氏が1941年、留学のため船で初来日し、降り立ったのが下関とされる。その記念行事を毎年、30年以上にわたって開き、国会議員や県議も参加してきた。

 市役所からは4月30日、正式に「使用不許可通知書」が届いた。「裁判所から解散命令を命じられた貴法人に対する妨害活動等が生じることが具体的に予測される」

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深流Ⅴ 安倍氏銃撃から3年

 市が一転して不許可にした理由に挙げたのは、3月25日の東京地裁による解散命令だった(教団は東京高裁に即時抗告中)。

 教団の地元信者で作る団体による申請も、同様の理由で不許可だった。「あんなに応援してきたのに」。教団側の幹部からはそんな声が漏れた。

銃撃事件から3年

 安倍晋三元首相(当時67)が参院選の演説中に撃たれ、死亡した事件から8日で3年となる。解散を命じられた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)がいま何を考え、どこに向かおうとしているのかを連載で描く。

「信じていた」「納得いかない」 教団側の嘆き

 下関は、3年前の銃撃事件で死亡した安倍晋三元首相の地元でもある。教団関係者によると、山口の教団側は安倍氏を支援してきた。前田市長は長年、安倍氏の秘書を務めた経歴があり、教団側は安倍氏に近い議員から依頼を受け、前田氏の選挙を支援してきたという。

 自民党から市長に初当選した後の2019年12月、そして再選前の21年1月。前田氏は下関家庭教会2階の礼拝堂で、信者を前に市政報告会を行った。21年の際は、教団側は信者の義援金をコロナ対策金として前田氏に手渡した。再選を目指す市長選告示直前の21年3月、教団側は前田氏の事務所を訪れ、千羽鶴を前田氏に手渡した。

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世界平和統一家庭連合の下関家庭教会=2025年6月18日、山口県下関市、沢伸也撮影

 「組織的に支援してきた」。教団関係者は言う。

 前田氏は銃撃事件後の22年8月、教団の会合への出席を認め、「今後は会合に出ない」と表明した。それでも24年4月は、教団は市の施設で集会を開催できた。

 下関家庭教会幹部は「前田市長を信じていた」と言う。そんな中で市から届いた不許可通知。「友好団体であれだけ応援したのは、我々の活動や考え方に理解してもらえていると思っていたからだ。解散請求は法人の問題で、宗教活動まで否定されているわけではなく、納得がいかない」

 前田氏は不許可について、取材に「適切な対応である」と答えた。

解散命令請求、その当事者から届いたはがき

 銃撃事件、そして3年後の解散命令で変わった教団と政治との「蜜月」。教団側の幹部は参院選について「自主投票にする。それぞれ地元の判断に任せる」と話す。「自民党から絶縁宣言され、『それでも自民党に』と信徒にお願いするのは難しい。ただ、選挙など政治活動を通じて我々の考え方を実現したいという思いはある」

   ◇

 「もりやま正仁をご支援いただく輪を広げて下さい」

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教団の友好団体に昨年10月、盛山正仁・元文科相側から届いた選挙支援依頼のはがき(画像の一部を加工しています)

 こう記された選挙はがきが昨年10月、教団友好団体「世界平和連合兵庫県連合会」(神戸市)の事務所に届いた。消印は衆院選公示日の10月15日だった。

 盛山正仁氏(71)。銃撃事件を機に高額献金問題が再び問題視された教団に対し、文部科学相として23年10月、解散命令を請求した。

はがき「どこに出したか分からない」

 その4カ月後の昨年2月、21年衆院選で世界平和連合と事実上の「政策協定」にあたる推薦確認書に署名し、推薦状を受け取っていたことが発覚。国会で「記憶にない」「すでに教団側との関係を断っている」という答弁を繰り返し、辞任を否定した。

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盛山正仁・元文科相から昨年10月、教団の友好団体に届いた選挙支援依頼のはがき

 その流れで臨んだ24年秋の衆院選では、教団と接点があった議員の動向に注目が集まった。その状況下で盛山氏は、世界平和連合に選挙支援依頼のはがきを送っていた。

 朝日新聞が質問状で理由を問うと、盛山事務所の幹部から電話があった。「はがきがあるんなら出したんでしょう」「選挙って膨大な数のはがきを出す。スタッフにはバイトもいるので、どこに出したかさえも分からない」

 銃撃事件後も現場で続く教団と政治家の関係。盛山氏は昨秋の衆院選で落選したが、現在も自民党の支部長で、国政復帰を目指している。

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この記事を書いた人
沢伸也
編集委員|調査報道担当
専門・関心分野
埋もれている社会問題
高島曜介
東京社会部|調査報道担当
専門・関心分野
事件、外交、安全保障

旧統一教会問題

旧統一教会問題

2022年7月8日に起きた安倍晋三元首相銃撃事件をきっかけに、旧統一教会の問題が関心が高まっています。最新ニュースをお伝えします。[もっと見る]

連載深流Ⅴ 安倍氏銃撃から3年(全3回)

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