1コマ90分が一般的な大学の授業時間。10~15分の延長を決める大学が増えてきたが、検討案を学内に示した東京外国語大(東京都府中市)では、教職員・学生が大学執行部に反発。結局、授業時間の延長は見送られたものの、議論の過程を問題視している。昨今の大学運営を巡っては、学費値上げや女子大共学化の是非なども論争の的。幅広い構成員による民主的な意思決定は難しいのか。大学は誰のものか。(西田直晃)
◆授業時間の延長案、教授会への通知は決定期限の1カ月半前
「学生や教職員に伝えるのが遅すぎる。影響が大きいのは学生なのに、教育サービスを受ける客としか捉えていないのか」
こう憤るのは、東京外国語大教職員組合に加入する女性教員だ。現行の90分授業を2026年度から延長する案について、大学執行部が教授会に明かしたのは5月中旬。1カ月後に学生向け説明会が開かれたが、最終決定の期限は6月末に迫っていた。
授業時間延長が検討された発端は、東京外大独自のカリキュラム「アクティブラーニング(AL)」を巡り、文部科学省所管の独立行政法人が「適切な授業形態ではない」と評価した2019年度にさかのぼる。
ALは座学の講義と違い、教員が学生に課題を与え、リポートなどを提出させる自由度の高い形式で、計15週の半期の授業を講義13週+AL2週で構成する。大学執行部はALの継続を模索したが、2024年3月に「改善不十分」と路線変更を求められた。
今年5月、大学執行部は「ALの廃止」を教授会に通知し、授業を「105分に延長し、日数は現状のまま13週で対応」と示した。ところが、組合と学生団体「授業時間延長について考えようの会」が学生にアンケートを実施したところ、7割ほどが「変えないほうがいい」と回答。5限目の終了時間が遅くなるため、延長を「アルバイトが難しくなり、勉学や留学に支障を来す」「自宅が遠いので負担が増す」と受け止めた学生が多かった。
◆東京外大は授業日数増で決着、学生の声は反映されず
ただ、ALが「不十分」と評価された以上、何らかの改善策を取らなければ、「国からの運営費交付金が止められる恐れがあった」(別の組合員)。
その後、教員を対象にした「105分×13週」「90分×15週」のいずれかを選ぶアンケートで後者に決定した。学生の声は直接的には反映されなかった。授業時間は据え置かれたが、授業日数が増えたため、学期間の休暇が短くなる可能性がある。
組合は「場当たり的だ。なぜ学内の構成員に早く呼びかけ、より多くの選択肢を話し合わなかったのか」と反発を強める。男子学生(22)は「学生の関心はとても高く、真剣な議論が生まれていた。大学運営の意思決定の過程を透明化してほしい」と訴える。
◆10~15分の授業時間延長、導入進む大学も
東京外大のケースは変則的だが、近年、授業時間の延長は各大学で積極的に議論されてきた。2015年度の東京大をはじめ、一橋大、芝浦工業大、明治大、上智大などが10~15分の延長を導入した。
その一つの早稲田大は「対話、問題発見、課題解決といった授業を実施する上での工夫がしやすくなる」と説明。時間延長で全体の授業日数が減り、「ゆとりあるカレンダーに再編され、留学や就業体験といった課外活動も柔軟に選べる」とも掲げる。
一方、2021年度に100分に延長した関西学院大は、2026年度以降に元通りの90分に短縮する。広報担当者は「昼休みが短く、食事時間を十分に確保できない課題を改善した」と話す。学生の意向調査では「授業間の移動時間が短い」「帰宅が遅くなる」などの声も上がっていた。
◆授業時間の延長、効果は一長一短
大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は「授業日数の減少は学生の自由度を高め、長い授業時間を活用できる教員は授業の幅が広がる」と説明する。一方、100...
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