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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
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17-5 歴史を語る

 L‐ATVは走り、途中でエルフに襲撃されていた部族を三つ助けた後、どこともしれない森で停車した。いちおう、ナキナに撤退するジャルネ達を支援するためのおとり役も任されているので、直接ナキナに向かわずジグザグに移動している。

 女性陣が多数派であるというのにたくましい。つるを編んだテントやハンモックを作成してくつろいでしまっている。

 ついでといっては何であるが……矢で狩猟した動物をさばいたり、モンスター避けの結界を作成したり、出現させた氷塊を炎で溶かして風呂作ったり、とやりたい放題だ。

 男性陣は車にガソリン補給し、銃や剣の手入れをする。地味だ。

 荷台の入口開いて座り、ハンドガンの銃口に棒突っ込んでみがく。

 隣に座って長剣をぬぐっている銀髪男性と肩が触れ合う。

「ど、どうも」

「あ、いいえ」

 名前も知らない者同士なので実にぎこちない。




「――という訳で、隣人問題ローカルから世界情勢ワールドまで、今の内に色々と情報共有しておきたいと思います」

 まばらな拍手と共に、夕食後の会議が始まった。

 最初の議題は教国の二人組についてである。銀髪の二人は立ち上がって、女の方から挨拶を始める。


「私がネイト・ネト・リテリで、こちらがウルガ・ガル・リテリです。母親は違いますが姉と弟の関係になりますね」

「姉共々お世話になります。教国の王族ではありますが、淫魔王と戦い、捕虜となって魔界に連れられて、今はこうして皆さんと。ここには様々な事情の方が集まっているご様子。立場を忘れた関係でいきましょう」


 似た二人だと思っていたが血は繋がっていたらしい。教国というのは異世界こちら側における宗教国家の代表を示す。大昔に勇者が建国した由緒正しい国であり、巫女職にとっては総本山なのだという。

 姉のネイトの方は誰かと良く似た容姿をしているのだが、はて、誰だったか。

 俺が思い出すよりも先に、アイサが声を上げる。

「あっ、リセリさんのご家族!」

「リセリは妹ですが……どこかで?」

「迷宮魔王の地下迷宮で一時的にパーティを組みました。今はナキナにいるはずです」

 俺もリセリの顔を思い出す。吸血魔王を倒す際にアイサとリセリで即席パーティを組んで挑んだのだった。あの時も大変であったが、更に大変な事態を何度も潜り抜けたためにすっかり存在を忘れてしまっていた。

「ああ、妹よ。リセリは本当に無事だったのだな」

「手紙で無事は聞いておりましたが、パーティメンバーだった方から無事を聞いてより一層安心しました」

 地下迷宮に潜っていたリセリもそうだが、ネイトとウルガの二人もそうであるが、教国の王族は前線に出るのを躊躇ためらわないな。



 新参二人の自己紹介の次は、エルフの前族長の番である。

「む、私もか。自ら名乗るのは久しぶりだ」

 この人も随分と偉い人である。森の種族は直面した問題であるため、前族長からは経緯についても詳しく聞きたい。


「森の種族の族長……いや、前族長となるのかもしれんな。ゼァミリア・トーテス・ノア・ブレイクタロス・オリジナルナなどと武勲が増えるたびに追加されたような名前を持つが、ゼナという愛称で呼ばれた時期が一番長い」


 という本人の申告があったので、今後はゼナと呼ばせてもらう。

「教国とは近年疎遠であるが、開祖となった勇者職とは原型一班オリジナル・ワンとして肩を並べて戦った間柄だ」

「その原型一班とは何です?」

 地球出身者が知らない異世界単語だ。以前に昔に戦った救世主パーティの名前であると聞いていたが、興味があるのでもっと詳しく聞いておきたい。


「ニ千年ほど前になるが、魔界を統一しかけた大魔王が出現して人類が追い込まれた時期があってな。魔王討伐を成しえなければ魔界の全モンスターが人類圏に流れ込む直前だった」


 モンスターが生息しているような世界なので、人類滅亡の危機が発生する頻度は地球よりも高い。原型一班の発足を語るには、更に大昔の危機についても説明が必要となる。

 約四千年前――文献が少ないため、正確な年代は不明。

 大魔王の台頭により、人類の総数が千人単位にまで減少した未曾有の危機があった。生き残った種族は大陸西方の半島に逃げ込み、最後の時を待っていたようだ。

 だが、追い込まれた人類の中にカウンターメジャーが現れる。救世主職なる特殊職業、人類滅亡の確定・・が条件の究極職業が現れて、大魔王を討伐し、運命を変えたのであった。

 人類はその奇跡を共有し、心の支えに今も生存している。

「二千年前の危機では、幻の救世主職にあやかったのだ。大魔王討伐に選出された十のパーティを救世主パーティと命名し、魔界の奥地へと旅立たせた」

「では、ゼナは?」

「私は十隊編成されたパーティの第一パーティに所属していた。勇者職、戦士職、魔法職等が揃ったバランスの良いメンバーで構成していたゆえ、その後の世界で模範となった。ゆえに原型の一班、オリジナル・ワンと呼ばれておる」

 ゼナは族長を務めただけあって、なかなか誇るべき経歴の持ち主であった。

 ……それにしてはゼナがさして面白くなさそうな表情を作っているのが気にかかる。


「原型一班の実情を知る生き証人としてはな、他人の持ち上げようがわずらわしいものなのだ」


 栄光の原型一班であるが、有名人にはスキャンダルやいわくが付き物だ。

 まず原型パーティそのものである。

 大魔王を少数で倒した奇跡のメンバー。だが見方を変えればだたの決死隊だ。大魔王の軍勢に対して正規軍では対抗できないと悟った人類が、鉄砲玉を組織して魔界へと放った。苦し紛れな魔王暗殺計画というのが真実なのである。

「あの時代、どれだけの人間が成功を信じていたものか。それを後から喝采かっさいとは、実に笑える」

 ゼナの自嘲を同族のリリームが否定する。

「しかしっ、族長様が成し遂げた偉業は紛れもないものです!」

「十班の内、生還できたのは一班のみ。無謀な計画によって人類から失われた職業も数多い。魔王暗殺は失敗だった」

「しかしッ」

「そもそもな、原型一班オリジナル・ワンは大魔王を討伐していない。勇者職が破れ、逃げ出した後に大魔王は『暗殺』されたのだ」

 この話は、イバラが喋っていたような気がする。

 勇者職は大魔王を討伐していない。大魔王を討伐した本当の人物はアサシン職である。複数の筋から同じ話が伝わるのであれば真実なのだろう。

「教国の王族がいる前では言い辛いがな」

「いいえ、もう訂正しようがない歴史になってしまいました。教国が背負うべき罪です」

 勇者職はアサシン職に偉業を奪われてしまった真実を隠蔽するため、狂気に走った。西洋で行われた魔女狩りや日本でキリスト教が弾圧されたように、アサシン職を異端として処刑していったのである。千年以上経過した現在でも、それは続いている。

 ペーパー・バイヤーが俺を横目で見てからゼナに問う。

「ちなみに、そのアサシン職はどこの誰だったのですか?」

「それが分からぬ。突然現れて、突然魔王を倒した」

「知らない人間一人の口を封じるために、多くのアサシン職を処刑したと。なんて愚かしい」

「分からなかったこそ、全員殺せば問題ないと勇者職は考えたのであろうよ」

 昔の事なので調べようもないらしい。ナキナの忍者衆にもそこまで詳しくは伝わっていないだろう。

 アサシン職で『正体不明』。ペーパー・バイヤーが視線で「まさか、お前?」と問うが、お前には俺が千歳以上に見えるのか。


「さて、いわくの多い原型一班オリジナル・ワンであるが、まだあるぞ。かつてメンバーだった者の多くが、功績に反した最後を遂げている」


 アサシン職を弾圧していた勇者職。ある日玉座の裏側で、頭を抱えた姿で悶死もんししていた。

 律儀でムードメーカーな戦士職。酒と女に溺れる日々を過し、体を壊してあっと言う間にこの世を去った。

 法に忠実だった神官職。長くは生きたものの、賄賂で私腹を肥やし、油の多い食事ばかりを好み晩年は豚と見分けが付かなくなった。

 寡黙ながら頼れる格闘職。彼は大魔王討伐直後から姿を消し、いなくなった。

 真理に最も近づいた魔法使い職。他人を信じなくなって地下室に篭り、孤独に世界を救おうと探究を続けた。


「……まあ、あやつらの堕落と狂気も、一方的に責められたものではないが。救世主職め」

「ん?」

「いや、何でもない。知らない方が幸せな事もある」

 歴史を喋り続けたゼナが一息付く。いや、溜息かもしれない。

「我等が得たものは何だったのだろうな。大魔王を倒し、魔界に進出した事でやってきた人類の最盛期はたった二千年で過ぎ去った。それどころか、現在の人類に負担さえ残してしまって」

「意味深な事ばかり言って。ここまで喋ったんだ。まだ言うべき事があるのなら全部教えて欲しい」

 これまでの話は直接現状に関わるものではなかったが、それでも、間接的には繋がっているかもしれない。長きを生きるゼナの知識は俺達にとって生命線となるはずだ。

 特にまだ正体の判明していない魔王連合の魔王についても、情報を知っているはずだ。いや、知っていなければならない。

 だから、何であろうと知っている事は全部喋ってもらいたい。


「では、人類の機密であるが言ってやろう。『行軍する重破壊』墓石魔王であるが、あの巨大ゴーレムの作成者は原型一班オリジナル・ワンの魔法使い職であるぞ」


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 助けたいシリーズ一覧

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