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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
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17-1 黒幕共の計略4

 妖艶なる女性の亡骸に、摘んできた花を持たせる。

「淫魔王は家族を山羊魔王に殺されて、復讐のために生きたのであったのだな。けれども、淫魔王が出した答えは復讐ではなかった。そういう生き方、真似できぬが、学ばねばならぬのであろうな」

 ジャルネも小さな手で、綺麗な花を持たせた。

 魂の消え去った淫魔王の体は冷たい。死後硬直により指も動かなくなっている。

 ゆえに……淫魔王の最後の表情、微笑みは維持され続けた。下腹部から下の損傷は激しいが、顔は綺麗なものであった。淫魔王の慈愛は死後も、家族を悪魔に殺された少女の心を救おうとしている。

 俺達が淫魔王をとむらう間も、激闘を生き延びた淫魔王の子供達が下山している。広範囲の大破壊で形の変わった火山地帯から、巨大なキメラ達が去りつつあった。むれの中心となっていた淫魔王の死により、キメラ達はここにとどまる理由を失った。それぞれが本来の生息域へと戻っていくのだろう。

 ただし、すべてのキメラ達が去っている訳でもない。

 俺達と同じように淫魔王の傍で肩を落としているカメレオンがいる。クリクリと動く独特な目は、湿っている。感情の読み取り辛い魔獣からでさえ悲しみが感じられた。

「魔王だった女性に、教国の方法で鎮魂を祈るのは誤りかもしれませんが……」

 更に俺達とは別に、銀髪の男女が戦いで負傷した体で祈りを捧げていた。淫魔王が保護していた人間族達だったと思うが、悪魔族との戦闘を無事生き延びていたらしい。


「家族を全員失った。山羊魔王もいなくなった。わしはどうするべきであろうか」


 天涯孤独となってしまったジャルネの不安に対して、銀髪の女性がジャルネへと提案を行う。

「……よろしければ、教国に留学してはいかがでしょう。巫女職としての力を伸ばすのも一つ。その気があれば私が推薦します」

「わしは獣の種族じゃぞ??」

「淫魔王の捕虜となって違う目線を得ました。姿形など気にしても無意味です」

 ジャルネは鹿の部族の唯一の生き残りであるが、魔王を二柱も倒した解放軍の立役者でもある。他部族にもこころよく迎えられるはずだ。


「……そうじゃな。外の世界を見るのも良いのかもしれんな」


 ただ、教国という宗教国家の王族らしき銀髪女性の誘いに対して、ジャルネは前向きにうなずいていた。




 と、ジャルネが今後の人生を思案している後ろで、女達がうるさく言い合っている。

「偽者です。そっちは偽者です!」

「顔に穴がある人間が何人もいるはずないでしょうに。仮面違うけど、こっちが御影で間違いない」

 四色の魔法使い達が二手に分かれて口論の真っ最中だ。一緒に山羊やぎ魔王と戦っていた間柄だというのに、戦いが終わった途端に対立している。女同士の友情はありえないのだろうか。


「ちなみに、貴方の名前は?」


 ふと、四人の内の一人、紫の子が俺にたずねる。

「俺か? 俺は凶鳥だぞ」

「やっぱり違うです! 本人が証言しているです!」

 俺の名前を聞き、黄色い子が自信を付けていた。くわしく聞いていないが、一体どういった内容で争っているのだろう。


「あー、こいつ、記憶失っているから名前変わっているぞ」


 四人の女の戦いに無謀にも参戦したのは、疲れきって地面に座り込んでいたペーパー・バイヤーだった。一般人と変わらない体で死闘を終えたばかりなので、マスクの中で息苦しそうにしている。

「仮面とったらどうですか、紙屋先輩」

「ラベンダーの言う事はもっともだが、まあ、外すのは今更だろう。それはそうと、俺は皐月とアジサイと同意見だ。凶鳥と名乗っているこいつこそが御影だと確信している」

「ぐぬぬっ」

「そもそも、アジサイがこちら側な時点でほぼ確定だろ?」

「ぐぬぬぬっ」

 数の上で劣勢になった黄プラス紫の二人組が言葉に詰まった。

 そのため、まだ立ち位置を表明していないエルフ二人に目線が集中する。

「リリームはどっちですか! アイサは魔法を伝授した私達を裏切りませんですよね!?」

 並べば顔立ちに共通点が見て取れるリリームとアイサ。アイサにトレアがいる事は知っていたが、三人姉妹の末っ子であるというのは初耳である。エルフなので当然と言えばそれまでであるが、美人姉妹には華があって素晴らしい。

 それぞれ顔を見合って目線のみで会話した二人は、遠慮しながら小さく挙手する。


「私はまだ御影シャドウなる人物を知らないので」

「ぼくはそもそも凶鳥しか知らないので、もちろん凶鳥と一緒です。師匠達には悪いですが」


 劣勢が極まった黄紫は両手でTを作ってタイムを取り、後ろに振り返ってボソボソと作戦を練り始める。

「ど、どうするです??」

「関ヶ原の戦いの西軍並みに不利になってきたけど、まだ確定した訳では……」

 悩める二人は答えを出せずにいたためだろう。弱腰をいさめるために空から新しい人物がおりてき……ぇっ。


御影シャドウ様を疑われるのであれば去りなさい。疑念を持った女が傍にいても迷惑なだけです」


 片脚の付け根まで見えそうな程に深いスリットのドレス。

 感情の薄い目をした長身の女性が、重力を無視してゆったりと地面に着地する。

「月桂花が、どうして。うぅ」

 嫌な事を思い出して腹が痛くなってしまった。これはトラウマになっていそうだな。

「凶鳥様、腹痛ですか?」

「嫌味……ではなさそうですが、あの時以来どこで何を。というか、あの時はどうして俺を刺したり?」

「もちろん、私は凶鳥様の傍を離れた後もずっと凶鳥様の傍にいましたわ。凶鳥様がそうしろと命じたではありませんか。もちろん、お腹を刺すように命じられたのも凶鳥様です」

「はっ??」

 月桂花は感情がないままに錯乱さくらんしていた。言葉の意味が分からずに絶句してしまう。

 そして、月桂花の背後から現れた人物を見て更に言葉を失う。

 黒いベネチアンマスクで顔を隠した『正体不明』な人間の登場に、心臓の筋肉が強張った。これもトラウマだ。

 心臓を刺された者と刺した者の対面。否応いやおうなく緊張が高まり、手が自然に武器へと伸びる。


「……お前は確か、御影シャドウか」

「…………魔王は倒れた。ここにもう用事はない。ナキナに帰るぞ」


 御影は俺に目線を合わせたが、すぐにらした。更に無防備にも背中を向けて、一人で去っていく。

「ごきげんよう、凶鳥様」

 お辞儀をした後、月桂花は御影を追う。

「わ、私達は御影に付いて行くです!」

「落ち着いたら連絡するけど、とりあえず今はっ」

 黄と紫の二人も後を追った。そのため、この場では何も起こらず緊張は時間経過と共に静まっていった。

 要所に必ず現れるトリックスター、御影。味方ではないというのに、俺と同じように魔王連合に戦いを挑んで第三勢力を築き上げている。

「御影、いったい何者なんだ……」

 今更かもしれないが根源的な疑問に対して、ペーパー・バイヤーが振り向く。

「あいつはお前かもしれないぞ」

「いや、さっぱり意味が分かんない」





「さて、魔王連合も半減し、情勢が分かり易くなってきたか」

 光の届かないモンスターあふれる階層に阻まれた地下の底。そんな地下の底を翼ある者として嫌悪しているはずの魔王、翼竜魔王は訪れている。それだけの事件が起きたのだ。

 魔王連合の柱も随分と減った。

 吸血魔王に始まり、寄生魔王、合唱魔王、淫魔王に山羊魔王。名立たる魔王が次々と討伐されていく状況は異常である。特に体を維持していた真性悪魔たる山羊魔王は魔王連合の中でも頭一つ秀でた存在であった。翼竜系のドラゴン族をまとめる翼竜魔王であっても、山羊魔王は倒し難い難敵であっただろう。

 魔王連合は力の半分を削られたに等しい。

 この損失は、想定されていたものではない。


「当初の想定以上に事が進んだものだ。近隣の主要な魔王は勝手に死に、我等は無事。笑える程の結果であるな、迷宮魔王」


 想定よりも数年、数ヶ月以上に早く物事が推移してしまっている。

 迷宮魔王の計画では、魔王連合を組織するメリットは二つ存在した。

 まず一つ目は、人類圏侵攻の際に他の魔王から横槍を入れられ難い点だ。複数の魔王が参加し戦力が充足している魔王連合に対して、魔界の他魔王が漁夫の利を狙うのは困難である。また、魔王連合に参加している魔王についても、互いに監視の目が光るので内部崩壊の危険が少ない。

 座付きの合唱魔王や山羊魔王といった強敵こそ傍に置いて注意する。基本的な兵法であろう。

「人類の抵抗力は意外な程に高かった。魔王連合への参加を持ちかけられた時には鼻で笑ったものだが、結果を見ると我の認識が低かったと言わざるを得ない。長年、人類を観察し続けた迷宮魔王ならではの正確な評価であった訳だ」

 次に二つ目は、魔王連合に参加した邪魔な魔王を人類に片付けさせられる点だ。

 魔王連合に参加を呼びかけた魔王はどいつもこいつも難敵ばかりである。倒すとなればかなりの資源を消耗しなければならず、消耗すれば別の魔王がハイエナのごとく襲いかかってくる。その負の連鎖を肩代わりさせる相手として人類は選ばれたのだ。

 まるで魔王連合の中でも将来的な敵対を想定しているようである。正確には、魔王連合内部での休戦協定は破られる事を前提としているのか。

 ……実のところ、魔王連合において真の協力関係を築いているのは迷宮魔王と翼竜魔王の二柱だけだ。生息域が重ならない事から二柱だからこそ、表面的ではない連合を形成できたのであろう。

 その他の魔王は基本的に、敵である。連合を組織しても、魔王は魔王を襲うという常識に変化はなかった訳だ。


「地を治めるのは迷宮魔王。空を治めるのは我。余った地上は緩衝地帯として共同管理。このままいけば達成できそうであるな。……いや、そうもいかんか」


 ただし、魔王連合も数が減った事によって状況が変わりつつあった。

 陰謀を巡らせる権利は誰にだって与えられているのだ。淫魔王が山羊魔王に敵対したように、別の魔王も公然と敵対を表明してくる事だろう。

 実際、山羊魔王と同等かそれ以上の脅威と目されていた魔王が連絡を絶っている。正直なところ、迷宮魔王にとってその魔王が健在は脅威だ。もちろん、迷宮魔王はそれを見越してオリビア・ラインの建造を進めていた。背中を撃たれる用意は整えている。

 ナキナ国が人類圏から孤立してしまったのは、ただの不運に過ぎない。

「アレも気がかりであるが、人類圏侵攻の方はどうなっている?」

 大陸西側の情勢は、つい数日前に変化があった。

 平原地帯における人類最大国家である帝国との決戦が完了したのだ。エクスペリオの作戦指揮とオルドボの後方かく乱によって帝国はついに膝を付いた。

 勢い付いた魔王軍は一気に帝都まで侵攻。防衛部隊を排除するよりも、帝都陥落後の略奪に時間がかかってしまっている状況らしい。大敗した帝国は領土の三分の二を失い、死に体となった。もはや戦う力は残されていない。

 人類国家はまだ数があるものの、残りは弱小国ばかりである。

 魔王軍の相手になるとすれば、勇者が建国した国、教国ぐらいなものだろう。

「残りは後方かく乱によって骨抜きにされた者共ばかり、と。結局、我等ドラゴンの出番はなかったか」

 順調過ぎるためだろう。翼竜魔王に楽観するなと警告するのは難しい。

 しかし、迷宮魔王はこのまま寡黙かもくに人類圏を制圧し、邪魔な魔王を駆逐する。地下世界すべてを我が物とするその日まで、計略を続行する。





「――というのが『神託オラクル(強)』で分かった事です。ええ、想定通りに事が進んでおりますわ」

 大森林の中、樹木と融合した城の中で美貌の持ち主が虚空を眺める。

「時代の変化に付いてこられなかった老害を排斥し、意に沿わぬ者共は捕らえてあります。……酷くは見えますでしょうが、これも我等種族が本来の地位を得るための尊い犠牲です。種族のためのいしずえぐらいにはなってくれたのでしょう」

 白いローブを着用した、長耳の巫女職がスキルを悪用している。


「これもすべて、貴方様が我等をパートナーとして選んでくださる賢明な方であったからこそ。共に人類共を統治いたしましょう」


 長耳の巫女職はたった一人で喋っている訳ではない。これから一緒に国を盛り上げていくパートナーと対面し、会話を楽しんでいる。

 ……そのパートナーは皮膚がずりけ、単眼が血走った化物であったので、まさに美女と魔獣といった構図になってしまっているが。ただ、ありえないのは、その化物がこんなにも大人しく会話を行っている事と――。


“Ga……森の種族……共闘………人類、統治”

「ええ、そのためにまずは人類と魔王連合に宣戦布告を。それが最善であると『神託』は示しております」


 ――この化物がナックラヴィー、怨嗟えんさ魔王であるという事にある。

 長耳の巫女職、森の種族の新しい長は怨嗟魔王へと手を伸ばし、怨嗟魔王は美しく白い手を壊さないように手を握り、握手を行う。


「新しい時代の幕開けがきました。この日が、森の種族が全種族の頂点となる第一歩とならん事を!」

“Ga……人類……掌握……森の種族……共闘”


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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