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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十六章 真性悪魔
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16-6 悪魔との戦い


「さて、そろそろ良いのかな。殺しあっても良いのか。紳士としては牙剥くご婦人であっても待たせるのは心苦しいものがある」

 山羊やぎ魔王が俺にたずねてくる。時間経過と共に続々と集まってくる魔獣を前にして肩をすくめていた。

 刺してやった首のナイフを抜いて、首をコキコキ小気味良く鳴らす。

「まったく、よくもこれだけ産んだものだ。有象無象ばかりではないか」

 三百六十度、己よりも大きな魔獣に囲まれているのに山羊魔王に焦りの感情は皆無だ。

 獣の戦士を圧倒した実力を持つからこその余裕の表情なのだろうが、淫魔王の子供達相手に余裕が過ぎる。特に今回は、最初から『魔王殺し』を発動させている。いくら真性悪魔が正体とはいえ、簡単にはいかないはずだ。

 主戦場であった平原での戦いが収束したのか、魔獣は既に百体を超しているぞ。


「しかし……どれも若く小さいな。『淫らな夜の怪女』淫魔王よ。お前が『怪物大帝』テューポーンとした子供共はもっと恐ろしげで、一癖も二癖もあったぞ」


 ガリ、と奥歯が割れる音が聞こえた。

 山羊魔王と対面している大トカゲの背が、音の発信源だ。

「どの子もッ、アナタが殺したのよ」

「まあ、そうであるが。五〇〇〇年前は質を揃えて私に敗退したから、今度は量で挑むつもりか。そんなものは工夫とは呼べない。何千年経っても変わらない愚かな女め」

「今度こそ、殺してあげる。私を愛してくれたヒトのため、絶対にかたきを取ってみせる。さあ、子供達、やりなさい!」

 淫魔王の激昂により戦闘が始まった。

 合図を待っていた魔獣は次々と山羊魔王へと殺到。山羊魔王の燕尾服は簡単に見えなくなる。


「違う。上だっ!」


 『速』87は伊達ではないので、動体視力で山羊魔王の飛翔を見逃さなかった。

 腰から生やした黒い翼で上空十メートル付近まで飛び上がり、両腕を頭の上にかかげている。

 『魔』の充填が行われる悪魔の手中に、膨大な力が圧縮されていく。


「手始めだ。――地獄変“針山”」


 地面から図太くとがった柱が何本も生える。

 見覚えのある魔法だった。この魔法はナキナの山城を破壊し尽した、寄生魔王が用いていた六節魔法の範囲殲滅攻撃で間違いない。

 巨大な針の数々は山羊魔王を中心に円球状に生える範囲を広げている。

 俺を含めて、魔獣達は一斉に後退し始めた。が、後退に不向きな体付きをしていた数匹が針の餌食となって絶命し、『速』に秀でていない数十匹も犠牲となった。

「地面を砕きなさい!」

 淫魔王の指示を受けて、重量級の魔獣が足で赤茶色の大地を踏み付けて割る。

 力を加えた部分からは針が生える事はなく、安全地帯と化す。山羊魔王と因縁ある淫魔王は真性悪魔の攻撃を知っているのだ。

「『呪文一節』とはいえ隙はあるわ。攻撃しなさい!」

 防御ばかりではない。

 飛行型の魔獣が山羊魔王をかすめて飛んでいった。くちばしには腕がくわえられているように見えたが……山羊魔王の左腕は根元から失われている。

「いいわ。『耐物理』スキルのある真性悪魔に子供達の攻撃が通じている。これならっ!」

 やはり『魔王殺し』スキルは有効なのだ。山羊魔王が俺の視界内にいる限り、防御力はないものと考えてしまって良い。

 初戦では回復されてしまって努力を無駄にされたが、今度はそうはいかない。回復されるよりも速く、攻撃すれば良いのである。


「子供達! 攻撃を続けなさい!」


 淫魔王が腕を伸ばし、上空の真性悪魔を握り潰すように手を握り締める。

 飛行可能な魔獣は群で襲いかかり、地上からも敏捷性ある魔獣が跳び上がり、一つの肉を奪い合うハイエナよりも獰猛に山羊魔王の体を千切っていった。

 とうとう、山羊魔王は頭だけになってしまったが……口が動いている。死んではいない。


「なかなかに苛烈だ。これならば次も大丈夫だろう。――地獄変“羊鳴”」


 山羊魔王は回復よりも攻撃を優先した。

 最初の攻撃は地面からであったが、今度は空から発せられる。山羊魔王の更に上空で急激に黒い積乱雲が発達したのである。

 積乱雲の中で回路サーキットきらめいたと思うと、一瞬で視界が白く焦げ付く。耳もおかしくなって状況を掴めなくなってしまったが、数秒たって視力が先に回復する。

 見えてきたのは、千の雷によって構成される天空のオルゴールメリーだ。地球上で一年間で発生する雷を十秒に凝縮したかのような放電現象。落下してくる電撃によって、魔獣は神経伝達速度よりも速く体が焼け付いて即死する。

 被害は大きいものの、地上の被害は空の被害に比べれば極小と言えるだろう。

 飛行型の魔獣はすべて落とされて、空にはもう山羊魔王しか浮かんでいない。


「――リバース・ボディ。ふむ、もう脱落者多発か。だが次を続けよう」

「攻撃させては駄目! 頭から潰すの!」


 たった一言で体の欠損を回復させた山羊魔王が、次なる地獄の作成に着手する。

 淫魔王ばかり戦わせていて情けない気分になるが、空の上にいる敵への攻撃手段を持たない俺にできる事はない。『魔王殺し』をおろそかにするのも愚策だ。

 そもそも遠くの敵を倒す役割は、魔法使い職が果たすべきである。


「――全焼、業火、疾走、火炎竜巻!」


 二度の範囲攻撃で山羊魔王の周囲は空白地帯となっていた。よって、そこに空を貫く火炎旋風が発生したとしても、被害を受けるのは山羊魔王のみである。

 他への被害を気にしなくて済む状況ならば、皐月の後方支援が百パーセント機能する。火炎旋風が山羊魔王の体を包み込み、火力による浄化を開始した。

「四節にしては火力が高いが、この程度の火炎魔法で真性悪魔が――」

「残念。それは師匠の魔法で、こっちが本番」

 違う。皐月の攻撃はこれから開始される。


「――全焼、業火、断罪、地獄炎、罪ある人はその罪によって生じる炎に焼き尽くされるであろう!!」


 いつの間に唱えられるようになったのだろうか。

 皐月が初めて放つ五節魔法が、山羊魔王に炸裂した。紫色の炎は体の油と魂の罪に着火して爆発する。先に発生していた火炎旋風を吹き飛ばす程の高熱が、山羊魔王の体を焦がし尽くす。

 伊達男の顔も含めて、肌という肌は木炭のように黒く焦げる。

 戦果を上げてガッツポーズを決めている皐月。

 皐月の隣では、エルフ語の詠唱が終わろうとしている。


「なんと五節魔法か。これは、若い者には負けておれん。――ラテッペ《花びらよ》、エカシリック《切り裂け》、イイサラトグム《むごたらしく》、ツヅ《塵とせよ》、《黄金樹の果実に手を伸ばさんとする愚者の腕は斬り落とされるだろう》」


 炭になっても原型をとどめていた山羊魔王の体。天より風に乗って現れた黄金色の花吹雪に細かく切断されてしまったので、今度は頭さえも残らない。

「やった……なんて言わないぞ」

 山羊魔王は細かなすすとなってしまった。五節魔法を連続で直撃させたのだ。本来であれば、ここで勝利を確信したのだろうが……戦場にいる誰もがこんなに容易く終わるはずがないと思っていた。

 実際、山羊魔王だった煤が自由落下に逆らって空に浮かんだままである。

「あの悪魔。やっぱり死んでいない。青、攻撃だ!」

 見ているだけではなく俺達は攻撃を継続している。ヒーローでもない奴の変身が終わるのを待ってやる義理はない。だが、山羊魔王の再生を止めるにはいたらない。

 悪魔の形に集まる黒い煤は密度を増していき、完了してしまう。

 復活した山羊魔王の姿は悪魔族に良く似ているようで、まったく似ていない。形状としてはそっくりなのに、生物としてのくらいに絶望的な格差が存在した。

 角のある漆黒の生物は、大きく口をゆがめて拍手する。


「おめでとう。君達は千年以上使っていた私の皮をぐ偉業を成し遂げたぞ。ここからは第二段階というものだ」


 真性悪魔が、本来の姿となって格下の生物を歓迎している。

 つまり対等な対戦相手と認めた訳であり、これからが本番だ。

 悪魔の黒い指が一本伸ばされる。


「褒美を取らせよう。ほんの気持ち程度の節魔法だ。ぜひ受け取ってくれたまえ」


 真性悪魔の指先には小さな球体が浮かんでいる。いや、球体に見えるが、物質的なものではない。空間に現れた穴と表現できるかもしれない。

 そして、俺はその穴を知っている気がしてゾっとした。

 直視した記憶はないが、直視するのをはばかられる真っ黒い穴。そこには罪人を罰する鬼が住んでいないが、そもそも、何かが存在するような海ではないのだ。

 だから、そんな穴が地表に落下したならば、無機物や有機物に限らず何だって穴に落下してしまう。大地はクレーターのごとくえぐれて、大気だって飲み込まれて激流が吹き込み、地平線の向こう側まで一切合財飲み干してしまうだろう。


「想像でしかない地獄を巡る魔法は終わった。これこそが本当の地獄である。生きている間に体験できるというのはなかなかに貴重であろう。――大地獄“無間落と――”」


 指が軽くひねられる。そんな軽い仕草で危険な穴が地上へと投じられようとしている。

 俺でなくても危険性を感じ取ったため、地上から攻撃可能な者達は全員攻撃を行った。が、成果は上がらない。真性悪魔の腕や胴体をいくら壊しても意味がない。

 捻られる指を正確に撃ち抜くだけの精度が、今は求められていた。


「――『鑑定モノクル』狙撃…………三、二、一、命中。誤差小数点第二位未満」


 偶然とは思えないが、飛礫つぶてのようなものが真性悪魔の人差し指を吹き飛ばす。

 指が曲がりきる前に飛ばされたため、行使されようとしていた八節魔法が暴投された。斜め上十五度方向へと等速移動していく黒い穴は、空で渦巻く暗雲と接触して発動。嵐よりも酷い風が吹き荒れ、穴の端は地上まで達したものの、大きな被害はおよぼさない。


「撃ち抜かれた……何者だ?」


 空にいる真性悪魔が最初にその者達の接近に気付く。

 火山地帯のごつごつした山肌を駆け上がり……たぶん見間違いだが、四輪駆動車っぽいのが姿を現す。


「ふははっ、L‐ATVでキタ!」


 一キロ先の話なので絶対に見間違いなのだが、前方座席にペストマスクの変な男が乗っていた。車体の上にもペストマスク二号がいて狙撃銃を構えているので、仮面舞踏会の帰りがけなのか。

 ふむ、目疲れが酷いな。


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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