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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十六章 真性悪魔
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16-3 不気味なる信頼感

 大混乱が続く解放軍陣地。

 正気を失った戦士達は自分勝手に動き回って、敵と戦う前から被害が拡大していた。笛の音色を聞いただけだというのに、聞いたほぼ全員が凶行状態におちいってしまった。酷いもので、死者すら出てしまっている。

 味方同士で腹を突き刺しあって同士討ちになった者も悲惨だが、特に理由なく溶岩川へとダイブして死んでしまった者も悲惨だろう。全員、無駄死にだ。


「ガガガガルルアアアッ!」


 俺も狂戦士となったガフェインと戦っている最中である。ガフェインのパラメーターは高く戦いたくはない相手だ。とはいえ、大振りの一撃が多く隙ばかりなので避けるだけなら容易い。

 とはいえ、ガフェインばかりと遊んでいる暇はない。

「ええい、お嬢お嬢呼んでいるジャルネがさらわれたんだぞ」

「ガウゥア、アアアア」

「この熊男め。調子に乗……ぬおっと!?」

 ガフェインと対面中、俺の影を踏んだ相手が体重を乗せながら槍を突き出してくる。

 俺は体をくの字に曲げて、白い刃先を通過させた。

「クックルー、クックルルー、狂ルー」

 何故か鳩みたいな言葉を喋るうさぎが右方向にいた。そりゃあ、兎の鳴き声なんて知らないけれど。兎の数え方は一羽、二羽だけど。それで良いのか、ローネ?

「ガウァウ。ガガァッ」

「クックルー。狂ルー」

「ええい、いい加減に頭を冷やせ! 青ッ!!」

 俺がローネの接近に気付けたのは、ローネが俺の影を踏んだため。青が入っている影を踏んだからだ。


「――氷像、凍結、凍束縛」


 青が影から上半身を出現させる。

 青の氷魔法が二人の足元を捕らえた。狂えるガフェインとローネの足元からしものような氷が生えてくる。足を拘束された二人は暴れるものの、動けはしな――。


「グガアアアッ!!」


 氷に覆われた足を引き千切るように、拘束された足をガフェインは無理やり動かした。

「味方でいるよりも敵の方が面倒臭い奴め!」

 こうなれば力付くだ。熊の急所たる鼻先を思いっきり蹴飛ばして止めるしかない。『暗澹あんたん』スキルを用いれば高い『守』も突破できるだろう。

 こう思って踏み込み体勢を取るが……背後から大きな影が差し込む。


「――止めてあげれば良いのかしら? 『怪物的誘惑テンプテーション』を発動するわ」


==========

“『怪物的誘惑テンプテーション』、人為的な恋により精神を支配するスキル。


 フェロモンを用いて性別を問わず相手を支配する事が可能。

 『魅了』との相違はスキル範囲が広い事と、相手の行動を阻害するのではなく相手をスキル所持者に従わせたいと思わせる作用にある”

==========


 俺の横の視界に大きなトカゲの舌が入り込んできた。

 背後に現れたのは大トカゲの背に座する半人半蛇の魔王。淫魔王だ。

 周囲の空気が濃くなる。淫魔王の体から視認できそうな程に濃密なフェロモンが大気に拡散していき、暴れる戦士達の鼻腔へと入り込む。

 血中に溶け込んだ淫魔王のフェロモンは脳へと到着。脳物質と結合して、催眠に近い状態を作り上げる。

 淫魔王のスキルはやはり厄介やっかいこの上ない。男の戦士はもちろんの事、女の戦士も指の力を弱めて手に持つ武器を落としていく。

 無茶苦茶に暴れていた戦士達が静まっていく光景を、ぼんやりと……白くかすんだ瞳孔を広げながら俺も眺めて――。


「――って、俺もかよっ。『成金』に『破産』も必要になるのか」


==========

“『成金』、両手から溢れ出る金にほくそ笑むスキル。


 金銭感覚が麻痺するが、持ち資産で実現可能な欲望に対する耐性が百パーセントになる。

 往々にして、人は現在資産以上の金を求めてしまうため、スキルを有効活用できる場面は少ない”


“実績達成条件。

 マッカル金貨一万枚分の金を一日で稼ぐ”

==========

“『破産』、両手から消え去った金に泣くスキル。


 資産がなくなった圧倒的な喪失感により精神崩壊する。既に精神異常状態であるため、魔法やスキルによる精神攻撃を拒否できる。

 垂れた顔になるのはスキルの仕様ではない”


“実績達成条件。

 マッカル金貨一万枚以上の全財産を一日で失う”

==========


「山羊魔王が現れたの。悲惨なものね」

「静めてくれたのはありがたいが、全員ぼうっとしてしまって動きが緩慢かんまんだ。もう解放軍は使い物にならない」

「……どちらにせよ足手まといでしかないわ。向こうを見なさいな。地獄よ」

 御輿の中にいる淫魔王が指差した先は溶岩川の向こう側、主戦場だ。

 山羊魔王が現れるまでは魔獣が一方的に蹂躙するだけの場だったというのに、今見える一キロ先の光景は……いわゆる地獄の世界だった。


 飛行型のキメラが地上から放たれた四節の電撃魔法に撃ち落されて、墜落。

 四節の魔法を放った黒い謎生物がライオンの顔を持つキメラに上半身を食われて、即死。

 ライオンのキメラは左右から現れた黒い謎生物の短槍に体を突かれて半身を裂かれ、絶命。

 殺したキメラの頭部を斬り取って遊ぶ黒い謎生物を、巨大恐竜型のキメラが足で踏み付けて、圧殺。


 異形が異形を殺しまわる。死が層を成して積み重なり、地獄の腐葉土を成していく。

「何が、どうして……いつの間に。あの黒い生物はどこから??」

「あれが山羊魔王の眷族、悪魔族ね。おそらく獣の戦士の半数の命を対価にして、悪魔召喚を行ったのでしょう」

 地獄の戦いは入り乱れての乱戦状態で、魔獣の軍勢と悪魔族どちらが優勢であるかは判断し辛い。

 ただし、悪魔族のスペックは異様に高い。『力』も『守』も魔獣に負けておらず、魔法も使用できるようだ。隊列を組んだ一斉魔法攻撃によって戦場の一角が電撃に焼け焦げた。一体一体が無限復活しない吸血魔王程度の力を有していると見なすべきだろう。

 基本的に近接格闘しかできない魔獣にとっては戦い辛い相手のはずだが……悪魔族の戦いぶりは真面目とは程遠い。倒した相手の首をかかげてジャグリングする遊びが流行っているため、すべての悪魔族が戦っている訳ではない。

 突破力の高い魔獣が悪魔族の本陣を縦断して、かなりの悪魔族が体を損壊させた。


「こうなると数の勝負ね。幸い、私の子供達の方が多いから殲滅は可能でしょう」


 淫魔王の声質は常のようにゆったりしたものである。とはいえ、多少の違和感はある。

 発する言葉が重いのだ。

 戦場を見詰める視線がするど過ぎるのだ。大トカゲの背をさすっていない方の手は固く握られたままで、良く見れば血がにじんでしまっている。

 まるで、耐え切れない何かを必死に我慢しているような。エルフの族長の読心スキルでもなければ詳しくは分からない。

「山羊魔王め。悪魔まで召喚するとは、想像を簡単に超えてくれる」

「それでも、最初から全力を出していない。手を抜かれている今の内に削れるだけ削っておきたいものね」

 淫魔王は山羊魔王の全力を知っているためか、地獄を見ているのにまだ余裕がある。

 一方の俺は、底の見えない山羊魔王に戦々恐々としてしまっている。戦える戦力もほとんど残っていないというのに、どう攻略すれば良いのか……ん、待てよ。


「貴方は強い子よ。頼りにしているわ」


 淫魔王が現状を予想していたとすれば、解放軍が役立たずなのは知っていたはずだ。

 残っているのは俺と……皐月とエルフの族長のみ。エルフの族長は合唱魔王を倒した後に現れた余分に過ぎないので、俺と皐月のみが残戦力だ。

 解放軍を森に帰しておく、と言いながらスキルで戦士達を操る淫魔王。ハッとした表情を仮面で隠しつつ淫魔王を見上げてしまう。

 どうやら、淫魔王は最初から俺と皐月を……いや、きっと俺だけを頼りにしていた。

 ……だが、どうしてそこまで俺を頼りにする。息子の合唱魔王を倒した相手、だからだろうか?


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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