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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十五章 仮面の者達
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15-6 勧誘の季節

 巨大キメラの数々に囲まれながら『淫らな夜の怪女』淫魔王に見下ろされていた。

 同時に、雑多な化物共、総数およそ万に眺められてもいる。気分的には動物園のおりの中いる猿みたいなものであるが、猿はいつも喰い殺される寸前みたいな強迫観念を受けているのだろうか。

 淫魔王は寝そべっていた格好から、寝起きみたいな緩慢かんまんな動作で姿勢を入れ替える。青銅色の鱗を持つ五メートル級のトカゲの肩に腰掛けて、眺めるように俺を見てくる。

 誘惑の精神重圧は強まって、唾を飲み込んだ。


「合唱魔王、ヒュドラーは強い子だったの。私のだったの」


 どうやってあんな首が百本もある化物産んだのだ、と笑い飛ばす事はできなかった。

 見渡す限りの異形はすべて、淫魔王の実子で間違いないのだ。

 里ごと囲んで俺達を逃がさないキメラ共。似ても似付かぬ魔獣の群集は、ただ一点、己の母親に付き従うという親孝行で結ばれている。それ以外の理由では統率できない。外見が違うもの同士で隣り合わせても殺し合わず、調教された熊のごとく穏やかに並ばせられる存在は、母以外にありえない。

 周囲の巨大モンスターを見ていれば、人間族と同じ大きさの淫魔王が合唱魔王の母親であっても可笑しくはなかった。

「母は悲しいわ。とても、悲しいわ。この悲しみを分かって?」

「……息子のあだ討ちに現れたという事か」

 寝起きみたいなテンションのまま、涙一つ見せていない癖に淫魔王は悲しがる。

 淫魔王の眷族共は当然興奮してしまい、ギャーギャーわめいて渦のような包囲網をしぼり、せまってきた。

 対策など何一つ浮かばない。淫魔王自身は『暗影』の射程距離内にいるため倒すのは造作もないだろうが、淫魔王を討ち取っても魔獣共は止まらない。むしろ、より強く暴れ始めて手が付けられなくなる。

 鱗の肌を持ちながらも、肌の柔らかそうな淫魔王のパラメーターは酷く低いだろう。魔王本人以外が強いという淫魔王の特徴と俺の『魔王殺し』スキルとの相性は、すこぶる悪い。

 魔獣共の鼻息を肌に感じる。

 大斧を持ったガフェインが前に出てくるが、熊の彼が赤子に見える大きさのナマケモノが腕を振り下ろそうとしていた。


「可愛い子供達。止まりなさい」


 淫魔王のつぶやくような命令を聞き逃さず、興奮していたはずの魔獣共はピタリと停止する。戦闘にもならない虐殺開始の一歩手前だった。

「ヒュドラーは自由に生きた子だった。母の願いを叶えようと魔王にまでいたった才児でした。あの子の死をいたんで、息子達よ。泣きなさい」

 淫魔王の言葉は絶対らしく、魔獣共は空に向かって咆哮ほうこうする。ただ鳴いているだけではなく、実際に悲しげに聞こえるのだから不気味なものである。

 鼓膜が破れないように耳を押さえる俺や皐月達にとってはいい迷惑だ。

「淫魔王っ! あだ討ちに現れたのでないのなら、何のためにやってきた!」

「きょ、凶鳥。もう少し言葉を選ぶのじゃ」

 ジャルネがうまく交渉しろと腕を引っ張ってくるが、喰われそうな恐怖やら化物染みた誘惑やらで精神的な余裕は皆無。虚勢を張って一歩前に踏み出せただけでも上出来だ。足の震えを隠しながら魔王と会話する。

「ヒュドラーを倒した子が現れたと噂を聞いたから、顔を確かめに来ただけ。それがまさか、仮面の貴方だった。……本当は強い子だったのね、貴方」

 誰かに代わって欲しいものであるが、残念ながら淫魔王は俺しか見ていない。

 合唱魔王は俺一人で倒せた魔王ではなかったが、淫魔王は俺が主要人物であると見抜いているらしかった。

「自由に生き、自由に死んだヒュドラーの最後を、母である私がけなしはしないわ。いいえ、ヒュドラーを討ち取った貴方だからこそ、用事がある」

 淫魔王は蛇の下半身をくねらせながら俺に命じてくる。


「淫魔王として命じるわ。貴方、私の眷族となりなさい」


==========

“●カウントダウン:残り九年と十月 → 残り八年と六月”

==========


 ……ど、どういう事でございます?

 仮面が大きくズレて顔の穴が見えてしまいそうな危険域まで下がったが、こんな愚かしい開帳の仕方はしたくないので額を慌てて押さえる。

「馬鹿を、言うっ! 魔王の勧誘に乗るものか。そもそも、俺に何の得がある」

「貴方の命……では足りないかしら?」

 脅迫されているのは分かるが、だからといって魔王の手先になるつもりはないな。こと魔王との戦いにおいて、命はしんでいられない。

「ふふっ。可愛い目をしているわ、貴方。だからこそ、ぜひ欲しいわ。それに、貴方の方にも私の眷族となるべき理由と利益があるのだけれど」

「理由?」

「この手を握りなさい。眷族となった時だけ、教えてあげるわ」

 甘過ぎる誘い文句だ。絶対に断るべきだ。


「凶鳥。どうするのじゃ」

「どうする訳、君!」


 左右に幼い彼女達がいなければ、即答できたはずであった。全方位にキメラがいなければっぱねていたはずだ。

「……そんな年端もいかない子達をはべらかして、健全じゃないのね」

みだらな夜とか言われている魔王に言われてたまるかッ」

 大トカゲの上から手を伸ばしてくる淫魔王。

 それでも俺は――。


「――――眷属には、ならない」


 ――魔王の言い成りにだけは、絶対になりたくなかった。

 母親に無礼だ。母親は絶対だ。こう魔獣共は怒り動き出す。鋭い牙を持つ馬とライオンのキメラが襲いかかってきたので、対処しようと『暗器』でナイフを取り出して――。


==========

“●カウントダウン:残り八年と六月 → 残り――”

==========





「ホワァッ! あの馬鹿、死んだのかよ!?」


 仮面の男の驚愕が木霊こだまして、玉座は静まり返る。


「えー、あーごほん。続けてください」


 鼻のような、くちばしのような突起を明後日の方向にらしながら、仮面の男は話の続きをうながした。

「その反応……もしや、そなたは凶鳥の知り合いか」

「いいえ、違います。俺はあんな仮面馬鹿なんて知りません」

「い、え? いや、そなたも仮面仲間に見えるが。声もどことなく似ておる」

「人違いです。俺はペーパー・バイヤー。通りすがりの旅行者です。このたびはナキナ王と謁見えっけんでき、光栄に思います」

 そうなのか、と王冠が似合っていない若い王様は面食らっている。

 ここはナキナ国の王都。寄生魔王に破壊された城の代わりに設けられた仮設の玉座。

 オリビア・ラインからの魔族侵攻阻止に貢献したペーパー・バイヤーは、ナキナ王より功績を称えられていた。仮面ゆえにかなり不審に思われていたものの、仮面の不審者に慣れている王族達は気にした様子なくペーパー・バイヤーと会話している。

 中央の玉座にはナキナ国の若き王様、アニッシュ・カールド・ナキナが座してる。

「凶鳥は余が、国のために犠牲にしてしまった男だ。この者が喪に服しているのはそのためだ。大目に見るが良い」

「は、はぁ……」

 アニッシュ王の隣には喪服姿の女性が立っていた。顔を濃い色のベールで隠しているので表情は見えないものの、耳の形からエルフだと推測できる。

「ところで、ペーパー・バイヤー。聞いたところ、不思議な技にてオークを撃退したそうであるな」

「オークごとき、大した敵ではありません」

「いやいや、魔族の新兵器を所持した集団であったと報告を受けているぞ。謙遜けんそんするものではない」

 喪服女の耳は、エルフにしてはやや短く感じられるかもしれない。

 ただ、ペーパー・バイヤーは喪服女性など気にしていない。仮面でもさえぎられない声量で、自分を王に売り出すのに忙しいのだ。


「魔族の新兵器。ふ、あんな玩具おもちゃで武装したモンスターごとき敵ではありませんね。ナキナで俺を雇ってくだされば、それを証明できますが」


 ペーパー・バイヤーの大言を聞いたからか、喪服女がアニッシュ王に耳打ちする。

「ん、叔母上? ……うむ、勧誘であるか?? 二度ある仮面は三度ある? あからさまに怪しいが……う、うむ」

 人材不足の激しいナキナにとって、魔族と戦える人材は胡散うさん臭くても欲しいものである。

 アニッシュ王は少しだけ目をつむって考えをまとめた後、ペーパー・バイヤーの雇用を決定した。


「よかろう。ペーパー・バイヤー。ナキナの客将として、その手腕を余に見せるが良い!」


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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