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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十五章 仮面の者達
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15-5 大群来訪

平日ですが、書いてみました。

 エルフの族長の登場により山羊やぎ魔王の正体が分からなくなってしまった。弱い魔王なのか、強い魔王なのかはっきりしない。せめて種族ぐらいは把握しておきたいものである。

「それで、族長さん。山羊魔王の種族は?」

「話せるものなら話せておる」

 だが、正体を知っている人が喋れないのであればどうにもならない。

 ならば仕方がない。忠告はありがたいが魔王討伐は避けられぬ道である。山羊魔王とは戦うしかないだろう。


==========

“●カウントダウン:残り九年と十月”

==========


 あれ、最初は十年以上あったはず。カウントダウンが進んでしまったような。

「仮面の、それは愚かしい選択だ。アレの気分を損なえば被害を受けるのはお前達だけではないのだぞ。アレは人類を死滅さ……むう、わずわしい」

 目線を合わせながら言われてしまった。一言も発していない俺の心の声をいさめてくるのは止めて欲しい。

 族長が何と言おうと俺は戦うし、ジャルネ率いる解放軍も種族のために戦うだろう。話は最初から平行線であった――。


「ハォゥォォッ、オロロロロロロッ!!」


 ――最初から戦いの道しかなかったのだ。

 まったくの突然で反応が遅れる。里の周囲の森、多方向より独特なときの声が上がっていた。

「オロロロロロッ!」

「オロロロロロッ!」

「オーロロロロッ!」

 これは、合唱魔王討伐時に獣の戦士達が好んで使っていた遠くまで響く声だ。

 だが、宴会にいそしんでいた戦士達はだらけていた。こんな戦闘真っ盛りな大声を上げてはいない。

「お嬢。この声質はッ」

「……ああ、間違いなかろう。わしの鹿の部族じゃ。皆の者ッ、敵襲じゃ! 槍を持てぇっ!!」

 木々の合間から次々と完全武装した獣の戦士達が出現する。枝分かれした角にはためく布飾り。頬には赤と白の文様。魔獣の骨を削った手槍は酷く鋭利だ。それが数百本、逃げ場は既にないぞといばらのごとく伸ばされる。

 不意を完全に突かれた俺達は、ほとんど迎撃準備ができていなかった。女子供を中央に寄せて、円陣を組むのがやっとだ。


「戦う前から詰ませてもらった。わし等の勝ちじゃな。ジャルネ」

「おじい……いや、鹿の部族長。息子娘を殺されておいて敵に寝返った老人が、よくも顔を見せられた!」


 解放軍の知恵袋になっているジャルネが周辺の警戒を命じていなかった訳がない。だというのに、敵の大部隊の接近を許してしまったという事は、ジャルネ以上の知恵者が向こうにいるという証明だ。

 鹿族の特徴たる鹿の脚でやぶを飛び越えて、焦げたような肌色の老戦士が現れる。

「合唱魔王討伐の報。耳にした際には誇らしくも思ったが、敵の耳にも届けるには時期が早過ぎじゃ。勢力が拮抗する前に解放軍は崩す。ジャルネ、お前は山羊魔王の怒りを沈めるために首を差し出してもらうぞ」

 顔について言えばジャルネと似ている要素はない。老人の言葉遣いはジャルネとそっくりであったが。いや、ジャルネが老人の喋り方を真似ているのか。

「唯一の肉親まで山羊の供物くもつとするか。獣の気高さを忘れた家畜共め」

 この老戦士がジャルネの手本であったとすれば、手の内は知られていると思った方が良い。

 知略で負けていても戦う事は可能であるものの、敵戦士の数、森の木の数よりも多いな。見通しの悪い森林地帯でよくも千の戦士を統制できるものだ。合唱魔王討伐戦直後の疲労が完全に抜けていたとしても、勝利は厳しいものがある。

 魔王に立ち向かった男の癖に弱気が過ぎるのだろうか。

 まあ、一対一ならいなせるだろうし、俺一人なら逃走できる自信はある。けれども、子供もいるしなぁ。

「皐月。『魔』は回復したのか?」

「半日も余裕があったから大丈夫だけど。人間相手に魔法は使いたくはないわね」

 そうも言っていられない状況だった。数の差をくつがえすには範囲攻撃可能な魔法を用いる他ない。

「ハォゥォォッ、オロロロロロロッ!!」

 もっと単純な方法はこちらも数を揃える方法であるが……仮面は、外したくはないな。怖くてたまらない。

「ハォゥォォッ、オロロロロロロロロロロッ!!」

 ハルピュイアならば集められるが、あいつらはおとりにできても戦力にはできない。

「ハォゥォォッ、オロロロロロロロロロロロろ、ぎゃッ!!」

「グォグォ、グオっ!」

 対処方法が思い付かない。数の暴力は本当に怖い、な――――。


「う、後ろ!」

「ガルル「後ろッ?!、どっちダ」ガルル「ヒヒィーン」

「バウバウ「ギャァァァァァァアア」シャーーー」

「キィィィ、ギィィ「やめ、やめッ」ヌオオオオ「ギャオギャオ」

「押し潰さ「カぷカぷカ「ムウウウウウウウ」「ムォーーー」ああああああああッ」

「ギギギッギギッ「クルッポーー、クルッポーーー」ーモー」バッフゥル」「ヤメテクレェッェェ」ムオオオオオ「カーカー」シュルルルr、シュルルル「クウナッ、クワナイデッ」「カララララ。カラララ「イタイッ、イタイタイタイッ」ギャアアア「ニゲロ、ニゲ「メーメェェェ」アァァァア「ペロ、ムシャペロ」オオオオオオオッ!!」


 ――――本当に怖い。

 なにせ、千を超える戦士を揃えていた敵部隊が簡単に飲み込まれて群集と土煙に消されてしまう。引き千切られた肉さえ残らない。


 首の長い化物がいた。

 胴の長い化物がいた。

 見知った形だが大きさが絶望的に異なった。

 見知らぬ形だが四足歩行している事だけは分かった。


 コモドオオトカゲに鋭利な角を生やし、キリンに肉食用の牙を生やし、犬に魚の尾を伸ばしていた。そういった奴等に比べればブラキオサウルスやTレックスは案外普通と言えるだろう。

 抵抗していた戦士達は全員いなくなった。エンジンを噴かした重機に立ち向かった者達の末路だ。ジャルネと言い合っていた老戦士のように、一目散に逃げ出すのが唯一の正解だ。

 まあ、囲まれていた俺達に逃げ道などなかった。囲っていた敵が潰される様を見ながら硬直するしかなかったのである。

「きっ、キメラの大群じゃと」

「種族も何もかも異なる癖に、どうしてこんなに群れているのよ!」

 左右でも幼女達が固まっていた。当然だ。魔界に住んでいたり慣れていたりしても、万の巨大モンスターが行儀良く行軍している絶望風景はなかなか見られるものではない。

 魔界の野生生物は凶暴であるが、凶暴だからこそ協調性がない。仲間意識を持つ前に殺し合う。視界を埋める程に群れたりしないものなのだ。

「こいつらには……地上への螺旋階段で見覚えがある。このモンスターの群れは、魔王の眷族だ」

 渦を巻くように迫っていた巨大大群は、幸運にも、俺達を飲み込む直前で停止した。

 海を割るように渦の一部が左右に分かれていき、地響きと煙のベールの先に直線道が築かれる。王のための道。魔王のための主要道。異形の大群すべての母のためだけに整備した石一つ残っていない平坦な道を、大トカゲの背に寝そべりながら、異形の女王がもったい付けながら接近してきていた。


「匂いが……うッ。ま、マズッ『破産』発動! 男達は鼻をふさげ、目をつむれ! 誘惑されて正気を失ってしまうぞ!!」


==========

“『破産』、両手から消え去った金に泣くスキル。

 資産がなくなった圧倒的な喪失感により精神崩壊する。既に精神異常状態であるため、魔法やスキルによる精神攻撃を拒否できる。

 垂れた顔になるのはスキルの仕様ではない”

==========


 精神耐性を高めるスキルを発動させたというのに、俺は心拍を高めていた。喉は渇き、瞳孔がゆるんでボヤける。

 モンスターにかつがれてやって来る女王の色香は、濃硫酸のごとく理性ごと男をとろけさせる。上半身は人に近いが、鱗に覆われた下半身は完全に蛇。冷血動物を見ているような気色悪さしかないはずだというのに、熟れた肉体からは決して目を離せない。

 その女は、『淫らな夜の怪女』淫魔王、と男共から畏怖いふされる。


「……まさか、ヒュドラーを倒したのが貴方だったなんて。少し驚いたわ」


 トカゲの上で上体を起した淫魔王は、俺の凶鳥面を見て優しげに口をゆがめた。


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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