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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十五章 仮面の者達
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15-4 禁則事項です

 どのエルフも綺麗過ぎて個性が薄いのだが、いつの間にか背後に立っていた長身長髪のエルフは特異だ。造形は作ったかのように整い過ぎている。人間の美しいという認識を理解した上で、その通りに生まれてきたかのような美麗。ただし、人間にそんな真似ができるはずもないので、まさに神が創りたもうた種族エルフなのだろう。

「――また神の話をしておる」

「んっ??」

 視線を合わせされて青紫の瞳にドキリとしていると、妙な事を口走っていた。少し変わった人なのかな。


「この祝いは……なんと、合唱魔王討伐の祝いの席か。数で押して倒せる魔王ではないというのに驚いたぞ。知っておれば祝いの品を持参したのだが」


 今日この場に現れたのだから、戦勝パーティに出席する以外に何があるというのか。まるで散歩中にお祭りを発見した、みたいな雰囲気をかもしている。

 族長は、近くでエルフの美しさに固まっていた狐似の人からコップを同意なく受け取ると、一口味を確かめてから一気に飲み干していた。

「うむ。なかなか美味いな」

「今更現れおってからに! ふてぶてしい長耳の族長め!」

「だから知らんかったと言うておろうに。祝いの品は後日贈ろう」

「そんな些事さじではないわっ! 森の種族に協力を得ようとおもむいた際に、弓矢で追い返された恨みをわしは忘れておらんぞ」

 ジャルネがお辞儀するように頭を振って怒りを表現している。どことなく地球は日本に生息していそうなヤンキーを連想してしまう動きであるが……いや違う、思い出したぞ。

 あれは確か、修学旅行で奈良公園に行った時だった。公園に住んでいる鹿達とたわむれていた俺は、一匹一枚ずつ鹿せんべいを与えていたのだ。鹿達は人間の無償の愛に喜んでいたのだが、最後に現れた雌鹿のせんべいが足りない悲劇が起こった。

 その雌鹿は「わしにもせんべいこせや」と頭を振ってガン付けてきたはずだ。角のない雌とはいえ、人間大の動物が怒ると手が付けられない。野生動物の恐ろしさを知ったのはあれが初めての経験である。

「それは、獣の種族が我等に先制攻撃をしてきたためだ。守備隊は当然の仕事をしたのであろうよ」

「痛いところを突いてくるが、和平の使者を撃ち殺すなどはお前達の言う蛮族の所業であろうに!」

 あの時は服が破られるわ財布を奪われるわで本当に大変だった。通りすがりの修学旅行生――他校生なので面識はないが、あの親切だった男子学生には感謝しきれない――に助けられなければ、今の俺はないかもしれない。

 それはそうと、あの頃の苦難を思い出せたぞ。『記憶封印』など最早恐れるに足らない。奈良公園の件にしろ、皐月の件にしろ、色々と思い出せてきている。自分が何者であるかというアイデンティティー以外に不都合はほとんどないが、切っ掛け次第、強い印象で思い出せるという情報は貴重だろう。

「いや、奈良公園じゃなくて宮島だったっけ?」

 まあ、完全に解呪とはいかないみたいだ。魔王から受けた『吸血鬼化』と『淫魔王の蜜』は無効化や中和できているというのに、魔王ではないエクスペリオの呪いだけ妙にしぶとい。


「ほう、お前も呪われているのか。これは吉報だ」


 誰かに共感を持たれたような気がしたが、誰かを確かめる前にジャルネ達の声に邪魔されてしまう。

「お隣さんの癖にお前達はいっつもそうだった。獣の種族を獣臭いなどと言って、自分達は上品な存在だと言いつつ狩場を横取りばかりしおって! 長い耳がそんなに偉いかっ」

「……ねぇ、凶鳥。絶対に私の気のせいだと思うのだけれど、私の故郷の地名をつぶやいていない? 最近そういうの多くない??」

「選民思想には我も困っておるのだ。森と共に生きておろうと獣と共に生きておろうと、そこに優劣をつけてもむなしいだけだと言い聞かせてはおるのだが。ただし、長耳は我等の象徴にして尊厳であるぞ。言い方には気を付けよ」

 いら立つジャルネの声は響く。

 祭りに酔っていた獣の種族達は円に集まって、エルフの族長らしき女を遠くから囲い込む。敵にしては殺気も武器もない美女相手にどう対処したら良いのか分からないため、とりあえず周辺を固めている。


「……はぁぁ。それで、エルフの族長自ら何の用事じゃ」


 怒ってばかりでは話が進まないためジャルネは深く息を吐いてから、エルフの族長に来訪理由をたずねた。

 族長は耳飾りのリングを揺らしながら答える。

「…………警告にきた。山羊やぎ魔王とは戦うな」

「それはさっきも聞いた。わしは理由を訊いておる」

「理由は――まぁ、気になるだろうよ。だが答えられん」

「はぁっ?!」

 このエルフ、何しに現れたのか。

 エルフには良い印象はないものの、すべてのエルフが悪いという訳でもない。例外アイサは常に俺の心の中にいる。この族長さんは善意で俺達に警告してくれている可能性もあるのだ。というか、それ以外の何かは思い付かない。

 だが、弱いと評判の山羊魔王を次のターゲットとして選ぶ事のどこがそんなに悪い。


「――そこの仮面。その通りだ。山羊魔王を選ぶのは適切ではないぞ」


 ふと、視線を合わされながら族長に答えられてしまった。何も喋っていなかったのにどうして俺へと答えてきたのかは分からない。凶鳥面は目立つといえば目立つが。

 怪訝けげんな顔を見せつつも、少し本気で考え始める。

 相手は森の種族の長である。理由もなく山羊魔王討伐を警告してくるはずがないというのが論理的だ。ただ、俺達を説得するための材料を一切明かさない事で色々と破綻してしまっている。これでは、場を引っき回す荒しと変わらない。

 まずは族長の人柄を確認しよう。

「なぁ、ガフェイン。あの族長さんはどういった人だ?」

「俺に聞かれても詳しくは知らんな。森の種族で最も生きた女だと噂されている。少なくとも俺よりも年上だ」

「ちなみにガフェインの年齢は?」

「ひー、ふー、みー。…………二十九だ」

 ガフェインに訊いてもガフェインの年齢しか分からなかった。

 次にローネに訊いてみる。

「族長はどういった人だ。エルフは他種族に排他的な奴等ばかりだと思うが」

「森の種族のすべてが選民的な訳ではないので。少なくとも族長に限って言えば、人々から尊敬される存在です。御伽噺おとぎばなしの時代を生きた方であり、救世主パーティ、原型一班オリジナル・ワンの一翼だった方とうかがっております」

 熊などよりも多くの情報が得られた。

「私もジャルネからのまた聞きですが。人類滅亡の窮地きゅうちの時、多種族は手と手を取り合って大魔王を討伐したと。ちなみに、私の年齢は二十一です」

 なるほど。少なくとも過去に一度、種族間のしがらみを忘れて協力した事がある訳だ。これ以上は救世主パーティについて深く追究する必要があるだろうが、それは後回しで良いだろう。

「なるほど。では、次に皐月の年齢は……知っているから別にいいや」

「ちょっと、どういう事よ!?」

 さて、大魔王と戦った実績のある族長が俺達に対して戦うなと警告してくる。

 ……ちょっと雲行きが怪しくなってきた気がする。


「族長さん。理由を明かせない理由を訊いてもいいですか?」

「――ふ、答えたくても答えられんな。もう少し訊ね方を考えてみろ」


 意味深に笑っているから絶対に言えない理由があるよ、この人。

「もしかして、山羊魔王は合唱魔王よりも強いので?」

「それでは答えられんな」

「山羊魔王は新参の魔王ではないのですか?」

「それも答えられんな」

 こんなの絶対におかしい。山羊魔王が若い魔王である事は異世界の中では周知されている。それをYESと答えられないのは不自然が過ぎる。

 まるで族長は、山羊魔王に関する問いに対して答える権利を持っていない、みたいな。

「族長。山羊魔王との交戦経験はありますか?」

「答えられんな」

「言い方を変えましょう。魔王との交戦経験はありますか?」

「当然である。我はオリジナル・ワンの一行であるぞ。かつて、数々の魔王と戦った」

「その多くの交戦は全勝でしたか?」

「オリジナル・ワンとはいえ無敗とはいかぬ。人類の敵は強大なのだ」

 これはきっと、俺だから直感できるのだと思う。

「族長さんが破れた魔王は相当強かったのでしょうね」

「ああ、強かった。とてもじゃないが、アイツには敵わん。かつてのオリジナル・ワンを全員揃えても勝てるかどうか。アイツは規格外の魔王だ」

 目前で俺に視線を合わせている族長について、俺はある種の親近感を覚えるのだ。絶世の美女と俺のどこに共通項があるというのか、傍目はためにはきっと分からない。


「族長さん。そのアイツという魔王に、呪われましたね」


 次の族長の返事がYESだった場合、族長は何らかの呪いを受けたために山羊魔王に関して何も答えられないという事実が判明するだろう。


「ふ、答えられんのだ」


 族長の返事がNOだった場合、きっと族長を負かして呪った魔王アイツとやらは山羊魔王という事になるのだろう。


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