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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十四章 百の首を落とせ
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14-7 百本目の首

 合唱魔王の首は捕まるのを嫌い、自らからまって玉となり抵抗した。『魔』が残っている首は放水を行い、『魔』が残っていない首は毒がしたたる牙を見せて威嚇する。

 ただ、『魔王殺し』によってパラメーターが激減している合唱魔王では限界がある。獣の戦士達は俺よりも『力』強い。放水魔法も屈強な肉体に守られている熊やトカゲに対しては無力だ。喉元を掴まれて一本一本に引き離されていく。

 からまってほどけなくなっていた首は一度切断し、再生後に拘束する作業を続けていた。


「離せッ、離せぇッ」

 「合唱魔王をこんな粗末な縄で!」

  「やめいッ! や、やめろぉ!!」


 情けない言葉の数々だ。

 合唱魔王はもっと抵抗してくるものだと思っていたのだが、実に肩透かしな状況である。これなら首が百本に達するまで一人で戦う必要はなかったような。

「いや、そんな生易しいはずが……」

「なんじゃ。作戦が上手くいっているのに浮かない顔をして」

「仮面で見えない顔をうかがってくれるな。作戦が順調なら、第三段階は苦戦するはずなんだ」

「……なんじゃ、と??」

 蛇玉が解体され続けて、すべての拘束が完了していた。

 残る作業はすべての首を叩き斬る事のみだ。戦士達全員の呼吸を合わせて、秒の誤差も与えず首をすべて落とす。

「おーい、お嬢! それに凶鳥! 準備ができたぞ。今すぐにでもやれる」

 斧を振り上げた体勢で、ガフェインがたずねてくる。

「待つのじゃ、ガフェイン。凶鳥が奇妙な事を言っておる」

「ああ、待ってくれ。首の本数は数えているのか?」

 ガフェインに待ったをかけた。可能な限り早く合唱魔王を始末したいのは分かるのだが、首が揃っているかを確かめないと。


「凶鳥がもう増えない所まで追い詰めたんだろ。これで全部じゃないのか?」


 ガフェインが太い首を傾げた瞬間だった。

 無残にも地面に転がっている死んだ首の山の中から、生きた首が立ち上がる。と、舌を伸ばしながら詠唱を開始した。


「さて、そろそろイねや。――爆裂、自爆、破滅波!」


 弱体化していたはずの『魔』が急速に高まって、首の皮を突き破って外に放出されていく。爆発の勢いに乗って、頭蓋骨や牙といった固い部位の破片が飛び散る。

 咄嗟とっさに体を盾にして、ジャルネを守る。

 幸いにして爆発地点が遠かったので破片は飛んでこなかったが、爆発地点に近い位置にいた戦士数人が被弾してしまう。倒れ込み、苦痛を叫び上げている。激しく出血している者もいるので手当が必要だ。

「怪我人は俺のところへ。いや、俺が行く! 戦士達は今すぐに捕えた首の喉を潰せ! 同時に、死んだふりして隠れている首の探索! あと、一本でも残っていると完全に殺せない。早く首を数えるんだ!」

「指示が多くても混乱するだけじゃ。最優先は隠れた首の探索とせよ!」

 自爆戦術を用いてくるとは、合唱魔王ならではの戦法であるが見境がない。再生可能な首を完全に消耗品扱いしてしまっている。

 縄で捕えていた首の内、『魔』が残っていた数本が自爆して体を炸裂させる。ただ、爆発範囲は狭いので、見えている首が自爆する分には危険は少ない。潜伏しながら自爆してくる首の方が厄介やっかいだ。

 廃棄された首の中から、死んだふりをしている首だけを発見するのは困難である。必然的に、生きていようと死んでいようと構わず戦士達は喉を潰し回る。

 『救命救急』スキル持ちの俺が負傷者の手当てをしている間に、混乱は落ち着く。

 一度自爆されても次は位置を把握できる。自爆自体も散発的で続いていないので、ジャルネの的確な指示と、ガフェイン達の勇猛により対応はほどなく完了した。

「ジャルネ! 早く、数を!」

「分かっておる。えーと、一本二本、三本」

 ただ、他にもまだ潜伏している首がいないとは限らない。

 本数の把握を急がせたいところであるが、ジャルネは指を折りながら首を数えている。そういえばジャルネは指を使わないと計算できなかった。

「首を十本束になるように集めるんだっ」

 足の動脈を傷付けられた戦士の手当てを完了した後、後方へ運ばせる。これで俺もカウント作業に参加できる。

 十本一束の蛇首が七つ。合計七十本。

 束にされるのを嫌がって首をくねらせ抵抗しているのが……目算で、二十九本。

「足して九十九本?! 数え間違えか??」

 数え間違えだろう。束にしていた首の一本が窒息死していたらしく、元気に首を再生して自爆しようとしている。

「とことん、邪魔してやるけえのぅ!」

「させるか!」

 呪文を発音しようとしていた首の喉へとロープをかけて、締め上げる。

 窒息と失神の境目を見分けるのは困難に思えたが、手から伝わる心拍減少具合から上手に調整できてしまう。ロープを使って化物を締め上げる既視感に従って、首をうまく失神させられた。

「ん、このポップアップは――」

「全部締め上げたぞ!!」

 網膜内の文章を読んでいる間に、すべての首を束にし終えたらしい。

 十本一束にされた蛇首は……九つ。

 束にされず、バラになっている蛇首は九本。


「なっ、やっぱり一本足りないぞ!? 探せ、どこかに一本隠れているぞ!」


 百本に一本足らない首の数。

 足りない一本を探してさらったばかりの首の死体の山へと槍を突き立てる。地下へと潜っていないかと巨体を大勢で引っ張り上げて地面との接地面を確認する。

 それでも発見できなかったので何度も数え直した。

 やはり、首の本数は九十九。

「百本というのが誤りなのではないか。ヒュドラーの首については諸説あるぞ?」

 ジャルネの言う通りではある。百本というのはあくまで予測値でしかなく、実際は九十九だったのかもしれない。

「こういう時にアイサさえいれば、いや……放逐しておいて頼るのはよそう」

「……ん、今、女の名前を口にしなかったか?」

 アイサの『鑑定モノクル』スキルは熟知しているが、残念ながら職業スキルではなく実績達成ボーナススキルだ。救世主職の『既知スキル習得』スキルでは覚えられない。まあ、覚えてしまったらアイサが個性を奪われたと泣いてしまう。

 合唱魔王の首の最大数を調べる方法はない。

 だからといって、このまま合唱魔王を縛り続ける訳にもいかない。首はいつか気絶から回復し、いつか『魔』を自然回復させてしまう。

「どうするのじゃ、凶鳥!」

 悩むよりも決断が求められた。


「――分かった。斬ろう」


 九十九本の首を斬り落とすよう戦士達に告げた。

 一斉に振り上げられる武器の数々。負傷者が出ているので、ガフェインのように一人に数本が割り当てられた者までいる。

「良いのか?」

 ジャルネが角で突くように俺を見上げて、最終確認を行う。

「構わない。これも作戦だ」

 うなずいてから、全員に対して号令を出した。


「憎き魔王の首を、斬り落とせッ!!」


 毒性に富んだ粘度の高い血が一斉に飛び散った。戦士達は呼吸を合わせて、誰も役目をしくじる事なく完璧に首を斬り落とした。

 大地に転がったのは九十九の首と、生首になった巨大な胴体。

 倒れ込む振動音が響き渡るが、それだけだ。唾を二度も飲み込む時間が経過しても特別な変化は起こらない。

 ……静寂が続く。

 …………討伐メッセージがポップアップする事のない、無慈悲な時間が続く。


「じゃははっ!! じゃはははっ!! 実にしかったのぅ!!」


 合唱魔王のなまった爆笑が静寂をぶち壊す。

 爆笑は五十メートルの胴体の末端、尻尾で発音されていた。

 尻尾は鎌首を形作る。と、俺とジャルネに対して爬虫類の瞳孔でにらみを利かせた。尾にはないはずの口を開き、尾の擬態に邪魔だった巨大な牙を伸ばす。

 今更分かっても遅いのだが、合唱魔王の百本目は確かに存在した。

 最初から視界の中に存在した。下手に隠すのではなく、堂々とさらしておく方が精神的な死角となり易い。実際に騙された側からすれば痛恨だ。

 分裂して数を増やす首よりも断然巨大な百本目が呪文詠唱を開始する。

「百本目ッ!?」

「正確に言うなら、わしが一本目オリジナルとなるがのぅ。不正解には罰を。――大波、潮騒――」

 斬り落とされた九十九の首も再生を完了し、縄の拘束を逃れた。

 これが、合唱魔王の計略の正体だった。姑息こそくなまでの生存戦術こそが、合唱魔王の真髄だったのだ。

 後悔しきれないが、ともかく、目前の危機には対処が必要となる。

 一本目オリジナルが唱えているのは『魔』の充填量から推測するのに四節魔法だろう。至近距離からくらえば回避も防御も不可能。俺だけではなく傍のジャルネも当然巻き込まれる。

 ならば呪文詠唱が完了する前に阻害するしかない。

 ただ、土壇場で呪文を止めさせるとなると殺すしかない。殺せないのではなく、殺してしまう。『魔王殺し』スキルは一本目オリジナルにも効いているので、恐らく可能だ。

「――排除――」

 だが、せっかく百本揃ったというのに、また数を減らすのは間違っている。合唱魔王攻略の最終段階への条件は整った。我が身を犠牲にしてでも合唱魔王の首を百本にしておく意義は大きい。

「魔王には……やっぱり勝てんのか」

 まあ、誰も死ななくて済む素敵な方法があるので、そっちで済まそう。

 一本目オリジナルの鼻先へと跳躍しながら片手を熊の戦士へと向けて急かす。

「ガフェイン、得物を貸せッ」

 ガフェインが投擲してきた大斧を受け取……るのは『力』的に無理があるので、『暗器』で一度格納した。

 空中で体を半捻りさせながら腕を大振りし、一本目オリジナルひたい目がけて格納していた大斧を放出する。


「――満潮波――じゃははっ、かかった。殺されるのは実に本望! 分裂した首共の基礎代謝に取られておった『魔』を回復させねばならんからのぅ。死んで回復をっ、んぐッ――」


 金属と頭蓋骨が衝突し合うにぶい音と共に巨大な蛇頭が地面に沈み込む。

「――げふぉ。じゃははっ、お前達を血祭りにするのは再生してからじゃ。首を一斉起爆して地平線まで飛んで後退した後、超距離砲撃で地域一帯を焦土にしてくれよう」

 虫の息になっているからか、一本目オリジナル饒舌じょうぜつだ。崖際に追い詰められた犯人のごとく語り出す。


「自爆魔法は本来そのためのものか。だが安心しろ、一本目オリジナル。お前は無傷だ」


 盛大な勘違いなので、俺もネタバレしてやろう。

「斧の一撃は『非殺傷攻撃』だ。デス回復したければ他人に頼らず、自爆しておくべきだったな」


==========

“スキルの封印が解除されました

 スキル更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』”


“『非殺傷攻撃』、致命傷にできる攻撃を任意で加減可能。

 攻撃手段が素手、剣、弓、等、それが攻撃であれば種類は問わず スキルは適用される”


“実績達成条件。

 己よりも高レベルの相手を殺害可能な条件下で殺 害せず、無力化する”

==========


 俺のネタバレの意味を理解するのに合唱魔王は時間を必要とした。すべての首を傾げて、隣同士で見つめ合っている。

 その隙に、ジャルネの傍まで戻って彼女を抱え上げる。戦域全体に対して撤退を指示する。

「ちょっ、凶鳥! 肩にかつぐぐらいできんのか。顔が近いではないか」

「体格的に無理言うな。全員、全速離脱ッ! 悠長にしていると巻き込まれるぞ!」

 合唱魔王攻略は最終段階に入った。

 俺の影に潜む青に指示を出し、ゴースト同士の青と赤は距離を無視して連絡を取り合う。

 そして、赤を通じて指示を受け取った神様が山向こうから飛来する。彼女の膨大な『魔』を検知されない距離からの砲撃。長距離魔法攻撃は合唱魔王の専売特許ではないのだ。


「――魔王必滅! 燃え尽きろォォォオォッ!! 神罰、業火、大炎ッ、火鳥襲来ゴッドバード・アタックッ!!」


 ……プロミネンスの尾でなびかせ、コロナの羽で飛翔し、そのまま合唱魔王にダイレクトアタックするとは思っていなかったが。

 目が焼け付く熱量に照らされる。深夜の魔森に一足早く太陽が生じて何もかもを焦がしていく。

 合唱魔王のいびつに広がる異形が赤く熱せられて融解し、崩れていく。


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

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