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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十四章 百の首を落とせ
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14-1 信用は魔王討伐への第一歩

 魔王討伐に出向いた獣の戦士達は合唱魔王によって返り討ちにされて、死屍累々、負傷者多数、散々な状態になって兎の部族の集落へと敗走した。辿たどり着けた者は少ない。三百はいたはずの人数が百人近くにまで減ってしまっている。

 減った二百人、全員が戦死した訳ではないだろう。

 勢いで討伐部隊に参加した者達が、自分の里へと逃げ帰ったのだ。魔王は倒せないという現実を血によって再認した。だから、無駄死するしかないジャルネの解放軍を去ったのである。

 現実的な判断だった。

 まだ解放軍に居残っている者達は足りない薬と包帯を分け合って、傷に苦しみうめいている。

 戦士達を出迎えに現れた小さな子供や老人達は、家族が帰ってこない事に悲しみすすり泣いている。

 適当な魔王を討ち取って力を示すはずが、やはり、解放軍など名ばかりで無力な存在であると証明してしまったのだ。

 夜通し魔界を歩き辿り着いた集落で現実を見てしまった鹿の角を持つ少女は、己の妄言が招いた悲劇に衝撃を受けて立ち尽くす。傷付いた戦士の手当を手伝う事さえできず、呆然としてしまう。

「わしは……私は……なんと愚かであったのか」

 できる事は何もないが、つぐないぐらいはしなければならない。

「今日が合唱魔王に生贄を出さねばならん日じゃったな。ならば、私を差し出せ。抵抗はせん。この命はもう捨てた」

 それと、名ばかりで体のない集団を解散させるという、リーダーのつとめを終えなければならなかった。


「……解放軍は、解散す――」


 ――ふと、森がザワ付いた。

 醜い人面鳥が数羽、遠くの枝から飛び立って魔界の奥へと逃げていく。

 代わりに、鳥を模した仮面を顔に癒着させた男が森から現れた。たった今、集落へと到着したのだ。最後まで合唱魔王と戦っていた男なので、到着が最後になってしまうのは当然であった。

 凶鳥と自らを名乗る男は、到着早々、ジャルネの口を手でふさいでしまう。

 そして、ジャルネの言葉を引き継いだ。


「――リベンジだ。今夜、今度こそ合唱魔王を討伐する」




「ちょ、ちょっと、こっちにくるのじゃっ」

 何故かジャルネに手を強く引っ張られてしまい、兎の部族の住居、地下の穴倉へと連れ込まれてしまった。合唱魔王討伐まで時間的猶予はないというのに、何か大事な話でもあるのだろうか。

 すだれのような扉をくぐって、個室に入ったところで詰め寄られる。

「何をたわけた事を大声で言っておるのか! 鳥の鳴く森!」

 子供と大人なので、背丈に差があってジャルネの強面は遠い。それでもジャルネが本気で怒っている事は分かる。

「いや、凶鳥だって自己紹介したはずだが?」

「ふざけるでないわ! 討伐失敗で皆が意気消沈している中で再び討伐を行うなど、ふざけて言って良い台詞ではない!」

 ジャルネは怒っているが、これでも俺の身を案じている。

 敗戦直後の気持ちの沈みきった所に、空気を読まない男が現れたらどうなるだろうか。元々、獣の種族に限らず多くの者達から良い印象を持たれていないという付加情報も加えてしまおう。地下に引っ張られなければ、集団リンチに遭っていたに違いない。

「ふざけて魔王を討伐できるものか。勝つ絶対の自信がなければ魔王討伐なんて言い出さない」

 とはいえ俺は真剣なのである。

 一度、合唱魔王と戦ってパラメーターとスキルをある程度把握できた。その上での発言だ。

 さも当然のように魔王討伐が可能と語る俺を、ジャルネは若干以上にあきれた表情で見上げてくる。

「この男は本気で言っておるのか……、何を狂った事を。だから狂鳥というのか」

「あのなぁ、字が違う。俺にたたられておいて、酷い言い草だ」

「祟りじゃと??」

「ステータスを見てみろ。たぶん、あの子と同じスキルを実績達成しているはずだ」

 俺に言われるがまま、ジャルネは網膜上に映る己のステータスを確認する。


==========

 ●ジャルネ

==========

“●レベル:3”


“ステータス詳細

 ●力:6 守:7 速:3

 ●魔:1/1 → 63/64

 ●運:27 → 32”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●巫女固有スキル『神楽舞』

 ●巫女固有スキル『神託オラクル(強)』(強制開眼)

 ●実績達成ボーナススキル『神童』

 ●実績達成ボーナススキル『早熟』

 ●実績達成ボーナススキル『たたり(?)』”


“職業詳細

 ●巫女(初心者)”

==========

“『たたり(?)』、おぞましい存在の反感を買った愚者を証明するスキル。


 無謀にも神秘性の高い最上位種族や高位魔族に手を出して、目を付けられてしまった。本スキルはその証である。

 スキル効果は祟りの元である存在により千差万別。

 本スキルについては次の通り。

 一つ、スキル所持者の『魔』『運』に対して、祟り元の存在の『魔』『運』が加算される。

 一つ、お互いの位置関係が感知できるようになる”


“実績達成条件。

 仮面の男に助けられる”

==========


「なッ、なんじゃこの『祟り(?)』とは! こんな珍妙なスキル昨日まではなかったはずじゃ」

「合唱魔王に喰われて死ぬところを、俺に祟られたからな。当然だ」

「祟り? 助けられるが実績達成条件? ええい、素直に助けたと言えんのか! 混乱するではないか!」

 頭を抱え込んで角にぺたぺた触れながらジャルネはうなる。ふふ、今更悲観しても遅い。ジャルネは既に祟られてしまったのだ。

「これは、私……わしはお主にお礼を言わねばならんのじゃろうな」

 一人称をわざわざ老人臭く言い直して、ジャルネは頭を下げた。


「凶鳥よ。わしはお主に命を救われた。ありがたい事じゃ。これでわしは責任を取って死ぬ事ができる」


 ジャルネは子供にしてはさとい、聡過ぎる。元々、早熟で頭の良い子だったと思われるが、余命を悟った老人のように死を語るのはやり過ぎだ。

 いくら言動を老人臭く改めたところで、精神年齢が簡単に上がってくるはずはないというのに。

 なんて祟り甲斐かいのない幼女なのだ。昨日命を救われておいて今日死のうとしているなんて、敗戦直後に魔王討伐を語る俺以上のたわけではないか。

「俺に対して簡単に死ぬとか言うなよ」

「死者多数の大敗。象徴たるわしが命を断って責任を取るのが筋じゃ。幸い、今日は合唱魔王に生贄を出さねばならん日らしいからの。供物くもつとして身をささげようぞ」

「お前なぁ……」

 ただ、まあ――、


「あ、でも生贄に志願してくれるのは人選しなくて済んでありがたいな。じゃあ、生贄はジャルネに決定で」


 ――魔王討伐作戦その一に自主参加している積極性はぜひ買いたい。

「……のう、凶鳥よ。お主の言動にいちいち頭痛を引き起こされるのじゃが。合唱魔王を討伐するつもりなのじゃろ? 一方でわしに生贄になるのは賛成じゃと??」

「言葉にするとその通りだ」

 頭に角が生えているから、外気温の変化が直接脳に影響するのだろうか。偏頭痛が骨を伝って振動し、ジャルネの奥歯をギシギシと響かせる。可哀想に。

「頭の痛くなる男じゃ」

「何の策もなく合唱魔王に挑んだお前達を見ていて俺もそう思っていたぞ。だが安心しろ。合唱魔王攻略の策は昨日徹夜で考えた。勝率はかなり高いぞ」

「信じてやりたいところじゃが、わしを含めて誰も信じはすまい。今のわし等にとって魔王討伐は悲願であり、創造主よりの『神託オラクル』がごとき甘い言葉で、身を滅ぼす毒の言葉でもある。この世界に救世主など決して現れないし、わしは絶対に信じない」

「救世主、ねぇ」

 敗戦によって折れてしまったジャルネの言葉には諦観があふれている。溜息が空気より重い。

 目をらすついでに、それとなく網膜の中に映る職業に目をやる。


==========

“職業詳細

 ●救世主(初心者)

 ×アサシン(?ランク)(封印中)

 ×死霊使い(無効化)”

==========


 死霊使い職が消えてしまって無職に戻っていたはずなのに、救世主なる身に覚えのない職に就いてしまっている。

 俺がジャルネの信じていない救世主です、と言っても信じてくれないだろう。俺だって意味不明で混乱気味である。記憶を失う前に就職していたのだろうが、過去の俺は何をしでかしたというのか。

「話だけでも聞いてくれないか?」

「話だけ、であればな……」

 どのように説得すれば、合唱魔王は討伐できると信じてくれるのか。具体案を語るにしても魔王討伐の中核は俺のスキルなので、やはり最後にものを言うのは信用度、これまでの人生の行いになるのだが。


「――おい、本当に合唱魔王を討伐できるのか?」


 突然、野太い声が部屋の外からかけられた。

 誰かと思えば片方の肩に包帯を巻きつけた熊男、ガフェインだ。歩行が随分と危うい。兎のローネが寄り添っているが、肩を貸すには体格差が大きくて役に立っているようには見えない。

「ガフェイン。毒が抜けておらぬ体で無理をするではない」

「お嬢。ここは無理をする時ですぜ。魔王討伐に関わらず、戦いとは元来そういった血腥ちなまぐさいもの。お嬢だけが無理をするのは間違っている」

 無理をしていると言っているぐらいなので、苦しそうにガフェインは入口に座り込んだ。

 丁度、目線は俺と水平となって、獣の鋭い視線が俺に問いかけてくる。

「残った戦士は百人足らずだ。それでも、お前はあの合唱魔王に勝てるというのか?」

 まさか、俺を信用していないと言っていたガフェインがたずねてくるとは思っていなかった。

「どうなんだ、おい?」

 俺を信用しようとしていない男が、こうもしつこく話をうながしてくるはずがない。俺はいつの間にか、ガフェインの信用を勝ち得てしまっていたらしい。

 最悪の場合、たった一人でも合唱魔王を討伐するつもりでいた。

 いや、皐月も必要な人員なのだが……どこかに消えてしまっているな。後で探さないと。

「百人も集められるのか? 皆、負傷で動けないだろ」

「馬鹿を言え。俺達は獣の戦士だ。足一本動けば戦場に出向く。それもこれも、大魔王に勝てるという確証があってこそだがな」

「そこは安心して良い。合唱魔王ごとき、百人いれば楽勝だ」

 凶鳥たる俺を信じる者は稀である。だから、悪霊魔王は放逐されてしまったのだと思う。だが仮に百人、俺を信じてくれる者が現れたならば、きっと違う未来もあるのだと信じたい。

 仮面の位置を調整するために天井を見上げながら、魔王討伐の必須事項を告げた。


「作戦で必要になるのは百の首を同時に落とすための人員。それと、合唱魔王に隙を作らせるための生贄と……大量の酒だ」


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