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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十三章 二度目の孵化
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13-18 魔王からは逃げられない?

 網膜を焦がす熱量で、手の平から生み出された火球が食道壁へと沈み込んでいく。

 焦げ臭い煙が勢い強く吹き上げた。密閉空間に蛇肉の香ばしい臭いが充満し、目がいぶされて染みてくる。


「んぎゃッ?! なんじゃ、胃が痛ぐわァぁあ!!」


 鍛えようのない体の内側からの魔法攻撃だ。魔王とて胃潰瘍並みの苦しみを味わっているはずである。


「食あたりかっ? 生きたまま喰ったのが悪かったのか! いや、喰ったのは獣の種族のはずじゃろ。こんな魔法攻撃みたいな胃痛が起こるはずがァ、ぐギギ!」


 体内にいるのだから合唱魔王の苦痛の声がアラウンドに響いている。

「よし、もう一丁。――炎上、炭化、火炎撃!」

 皐月と再会していて良かった。

 魔法は火属性に限ってもいくつか存在し、性能も威力も様々である。本職の魔法使いではない俺が知っている魔法は「発火、発射、火球撃」の三節だけであったのだが、上位互換たる「炎上、炭化、火炎撃」の三節を皐月が使用していた。そのため、こうして見よう見まねができている。

「魔法をこんな至近距離で無茶じゃっ、けふぉ、けふぉ」

「煙が酷いが我慢しろ。もうすぐ穴が開いて外に出られるぞ」

 威力が高い分『魔』の消費も激しいのだが、ぎりぎり足りる。バーナーを使って金庫破りをしている泥棒の気分で食道壁を燃やし続けていると……合唱魔王が大きく首を振って、嘔吐えずいた。


「たまらん! う、うげげげげげ、ゲボッ!!」


 波打つ食道に押し出されるまま、酸味のする濁流に流されて俺とジャルネは吐き出される。転がりながら食道から口内、そして外へとピンボールのように飛び出した。

 外はもうすっかり暗くなっている。俺達以外に逃げ遅れている者達はいないらしい。

「ほら、外に出られたぞ。脱出成功だ!」

「これのどこが脱出じゃ!」

「どこからどう見ても脱出だ。後は逃げるのみ」

 計算外だろうと脱出できればこちらのものだ。全工程の半分以上をこなして、折り返し地点も遠く過ぎ去って過去となった。

 残作業はジャルネを連れて戦闘区域からの離脱のみである。簡単としか言いようがない。

「どこに消えたかと思えば、そこのお前が胃痛の正体か。よくもやってくれたのぅ?」

 ただし、合唱魔王の蛇の首、総数五十本ににらまれている状況を打開しなければならない事は除く。

「この合唱魔王が逃げすと思ったんか? 絶対に逃がさん。いや、逃げてもええが……魔法砲撃からは逃れられんぞ?」

 ただし戦闘区域から離脱しても、千里眼観測によって超長距離魔法砲撃が可能な合唱魔王の射程内から逃れられない事実を除く。

 そんな分かり切った難事、忘れてはいない。ここで手抜かりするぐらいなら最初から他人をたたる事はしないさ。

 仮面の癒着具合を確かめながら立ち上がり、合唱魔王と対峙する。

 勝率は……決して皆無ではないのだ。魔王に対して、俺は絶対的なスキルを有している。

「…………いや、今はその時ではない」

 だが、スキルを開示するからには絶対に勝利しなければならない。スキルが最も力を発揮できるのは最初のみで、次からは対策を立てられて効果が薄れてしまうためだ。勝つための策を何重にも張り巡らせてからでなければ、合唱魔王は討伐できない。

 合唱魔王が全力を出していない状況で、俺だけ全力を出す訳にはいかない。

 とはいえ、全力を出さずに合唱魔王から逃げるのは相当に困難なのだが――。


「――ここは魔界だ。だったら、そろそろ飛んでくる頃だ」


 凶鳥とジャルネに名乗った時から、気配を感じていた。気配を感じるだけでも嫌悪感が浮かび上がる羽ばたきが各所から集まってきている。


“――まずシイ。オ前ハ貧シイ”


 実に醜い鳥が、どこからか次々と集まっている。

“――醜イニモ程ガアル。醜悪ダ”

“――ダカラ、オ前ハ鳥ダ。我等ト同ジ、鳥ダ”

 醜い人面鳥が同類と見なしている俺をあわれむためだけに飛んできていた。夜目で飛べない闇夜を、嗅覚のみを頼りに飛行している。ただ、飛ぶには不向きな体付きなので数羽が勝手に墜落して、勝手に死んでしまっているようだ。十分に数が揃うのであれば何羽死のうと構わないが。

 見える範囲、すべての枝は止まり木にされて垂れ下がっている。止まった傍から糞尿を垂れ流すので汚らしい。


「この奇面な鳥は、ハルピュイアかっ。お前の仮面もハルピュイアを模しているが、何をしようとしておる!?」

「『既知スキル習得(A級以下)』スキル発動。習得スキルは魔王職の『低級モンスター掌握』。さあ、醜い鳥共よ。合唱魔王にたかれ!」


 魔界において最も役立たない魔鳥ハルピュイアの群を、役立たせてやる。

 飛んできたハルピュイアはおよそ千羽以上。そのすべてをスキルで掌握して合唱魔王へと差し向けた。

“――醜イッ、死ヌゥ”

“――ナンテ命ヲ粗末ニ使ウ。ナンテ酷イ鳥ナノダ!”

 ハルピュイア共は一斉に抗議してわめき散らす。やかましくてかなわないが、非難されている俺よりも、耳が五十以上存在する合唱魔王の方がわずらわしいはずだ。

「愚かな。ハルピュイアごときを何羽集めたところで、ダメージ一つ負わんというのに!」

「だったら無視して鳥の巣になっておけば良いだろう? 糞害は酷いだろうが、ダメージはないからさ」

「魔王がハルピュイアごときの便所と化せるか! おのれぇッ! すべて撃ち落してやるわッ」

 周囲を飛び回るハルピュイアに対して、合唱魔王の首達は攻撃を開始した。

 人の顔をした鳥は実に気色悪い。首が届く範囲であれば噛み付く事も可能であるが、触れるのもおぞましいため、魔法で一羽一羽落としていくしかない。


「ああッ、クソ――放水、射撃、水流撃」

 「ハルピュイア相手に魔法を使わねばならんとはのぅ! ――稲妻、炭化、電圧撃」

  「集るな! さえずるな! このッ、――大波、潮騒、排除、満潮波砕」

   「なッ、その首! ハルピュイアなんぞに四節を唱えて! 『魔』を浪費するんじゃない!」


 多数の首が独自に考えて攻撃してくる合唱魔王の特徴は恐ろしいが、利点は状況次第で欠点に成り代わる。

 双子であっても結論が別れて、喧嘩になる事は多いと聞く。五十も頭が存在する合唱魔王ならばより高い頻度で思考同士が衝突するはずだ。


「首を増やせ! 迎撃速度を上げる!」

 「馬鹿言うな! 更に混乱させるつもりか!」

  「慌てるでないわ! いつも通り、方針決定権は一番首が行え」


 もっとも、長年を生きる合唱魔王ならば対策ぐらい考えているはずだろう。

 例えば、全体意識を束ねるために一つの首がまとめ役を担うとか。そのまとめ役は、最も太い首などが適任だ。

「――なるほど、丁度、お前がまとめ役の首か。『暗躍』解除」

「仮面の男ッ! いつの間に登っていた?!」

「お前を潰せば当分安心できる。『暗澹あんたん』発動!」


==========

“『暗澹あんたん』、光も希望もない闇を発生させるスキル。


 スキル所持者を中心に半径五メートルの暗い空間を展開できる。

 空間の光の透過度は限りなく低く、遮音性も高い。

 空間内に入り込んだスキル所持者以外の生物は、『守』は五割減、『運』は十割減の補正を受ける”

==========


 合唱魔王の周囲にハルピュイアを飛ばしている間に、太くて登り易かった首に登頂を果たしていた。

 俺を凝視してきた眼球に手の平を向ける。『暗澹』スキルで『守』を半減させてから、残り少ない『魔』をすべて凝縮させた一撃を放つ。

「――炎上、炭化、火炎撃ッ」

 合唱魔王の片目で火花が上がった。殺すには威力が不足していたものの、目玉のタンパク質を凝固させるには十分な火力があっただろう。

「ギャァが、ああッ、目玉ガァ、キ、キサマハアァアッ!!」

 決定打にならなくても問題ない。合唱魔王が冷静でなくなればなくなる程に、逃走に成功する可能性が高まる。

 冷静でなくなり過ぎて、血が昇ってプッツンしてしまった場合は……それはそれでどうにかするしかない。


「キサマがァアァッ!!」


 片目を潰された頭は、顎を九十角以上に開いた。

 気付けば、他すべての首が大きく口を開放して地面や上空、ありとあらゆる方向を照準している。それぞれの喉奥にて『魔』が高まっていく。

 合唱魔王が何をしようとしているのかはすぐに理解した。


「合唱魔王ッ、お前まさか!」

「首は五十しかないがのッ、フル・バーストッ、じゃッ!!」


 そう特殊な攻撃ではない。各首が様々な属性で四節魔法を放つ、そういった飽和攻撃だ。

 ただ、合唱魔王は自らが巻き込まれる事を恐れずに五十連で魔法を放つ。爆発と衝撃波が広がり、千羽はいたはずのハルピュイアも巻き込まれて死に絶える。

 もちろん、蛇の頭の上も被害範囲であり、俺にも爆風が――。





 合唱魔王の首も半数が吹き飛んで消えたものの、数を倍にして復活した。百の首が瞳孔をしぼめて戦果を確認する。


「……仮面の男は、消えたのぅ」


 気配をかき消すスキルを警戒していたので、何重にも探索魔法を用いて周囲全域を探った。その結果を合唱魔王はつぶやく。

「『魔』の気配は……残っていない。死体も消し飛んだか」

 木の陰にも滝壷にも岩陰にも、仮面の男は潜んでいない。

「獣の子供は逃がしたかもしれんか。獣共もほとんど逃げた。砲撃してもええが……あっちは山羊の領土かもしれんし。あー、ムカつくがどうにもならんのぅ」

 酷い目にあったと感想を述べながら、合唱魔王は巣穴である鍾乳洞へと潜っていく。飽和攻撃で随分荒れ果ててしまい、寝床としては酷いものだが、代わりがないのであれば仕方がない。

 百の首を生やしたまま合唱魔王は地下へと潜っていく。


「――『暗影』発動っと。ふう、二度も蛇の体に入るとは思っていなかったな」


 合唱魔王の七メートル後方に、突然、仮面の男が出現する。フル・バーストの爆風から逃れるため、『暗影』スキルで合唱魔王の食道内へと逃げ込んでいたのだろう。

 生物の体内に他生物が隠れていた場合、『魔』の気配が紛れて発見し辛い。人間族に寄生するダニ虫の行動から男はそう学んでいたのである。

 仮面の男の生存に気付いた首は一本も存在しなかった。そのため、男は無事に森へと逃げ延びる。


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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