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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十三章 二度目の孵化
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13-17 二度目の孵化

 三カ所の窮地を救うため、俺は三人に『分身』してそれぞれへとひた走る。本来は忍者職の固有スキルである『分身』を、俺はある老人から知り得ていた。


==========

“『分身』、自分そっくりな攻性デコイを生成するスキル。


 一回一体、スキル所持者の十分の一のスペックの分身を作り出す。その際、『魔』を十分の一消費する。

 分身は一定時間ごとに与えられている『魔』を消費していき、ゼロになった時が活動限界”

==========

“ステータス詳細

 ●力:7(弱体)

 ●守:5(弱体)

 ●速:8(弱体)

 ●魔:49/63

 ●運:5”

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 まだ体は本調子ではなく、『速』は酷く鈍足だ。それでも俺は辿り着かなければならない。

 車ほどの大きさを持つ蛇の頭に襲われて、崖に追い込まれたまま圧し潰されかけている兎の戦士。ローネ。ここは最も単純な窮地であるため、分身体を差し向けた。

 戦場は天然自然しかない滝の傍である。岩猿が生まれてきそうな大きな岩石がゴロゴロ転がっているので、手で触れて一つを拝借する。


「『暗器』格納! そして、即解放!」


 ローネと蛇の頭の間に手をかざしながら、拝借したばかりの大岩を排出する。格納空間より膨張していく体積。蛇は岩を噛むような格好となってわずかに隙間が生じた。

 ローネの手を引っ張り圧死寸前の窮地から脱出させる。蛇の頭は後からやってきた熊男、ガフェインが殴り付けていた。

「お、お前……」

「鳥の鳴く森様。ありがとうございます」

 兎と熊の二人は手を握り合いながら俺を見ている。どちらも体中が傷だらけで戦闘続行は不可能だ。森を指差して、早く逃げろと告げる。

「本隊は十分に離れた。お前達も撤退しろ」

「しかしっ、まだお嬢が!」

「安心しろ。もう俺が向かっている!」




 喰われてしまったジャルネの次にピンチな青色の魔法使い。火炎放射器よろしく火炎魔法を吹いている蛇五匹に囲まれてしまっている。氷の魔法であらがってはいるものの、じわりじわりとあぶられている状況だ。

 既に死んでしまっている彼女の窮地を生命の危機と言って良いのか分からないが、依代よりしろを失えばこの世にいられなくなる。悪霊魔王になる前から縁があるため――もしかすると記憶を失う前からの縁か――、分身体を割り当てて助けに入る。

「あ、熱ィィ!?」

「私を助けにくるなんて。お戻りなさい! 一緒に焼け死にしてしまいます」

「この俺は分身だから安心しろ。それより、お前こそ早く俺の影に入って姿を隠せ!」

 青は俺の式神みたいな感じになっているので、影の中に身を隠す事は可能だ。

 もちろん、炎に照らされれば影は消えてしまう。青もそううったえてきたが、そこは考えてある。


「『暗澹あんたん』発動! さあ、暗澹空間を伝って遠くに逃げろ! そろそろ火傷が全身の五割に! というか、やっぱり普通に喋れ……熱チィッ!!」


 哀れな分身体は焦げながら消えてしまう。が、犠牲は無駄ではなく、青は暗澹空間から森の闇へと逃れ切れた。


「……そう、貴方は自分を取り戻したのね。良かった。浅子が喜ぶ」




 二カ所までは容易に救出できたが、最後の一カ所は問題だ。既に喰われてしまったジャルネを助けるためには、やっぱり俺も合唱魔王に喰われないとならないのだろうな。

「合唱魔王! 口を開けろ」

「んん、んんんー、んん、けぇ」

「喉越しを楽しんでんじゃねぇッ!」

 踊り食いで味わっているのならば、まだジャルネは生きている。とはいえ余裕はない。

 口が閉じられたままなので食道へ突入する事は不可能である。だが、『暗影』スキルの空間跳躍を使えば不可能ではないはずだ。


「『暗影』発ど……しないか。距離ではないな、移動先に空間がないか」


 跳躍先は動き続ける蛇の食道である。大人一人分の空間を外から見極め、タイミングを合わせて跳躍するのは難しい。密閉空間への跳躍失敗で、岩の中にある状態にならなくて良かったと思うしかないだろう。

 合唱魔王はまだ食事中なので行儀悪く口を開こうとはしない。だから魔法攻撃も飛んでこない。

「『暗影』発ど……また駄目か」

「んんんんー」

「喰いながら暴れるな!」

 ただし不規則に首を曲げ動かし、胴体で攻撃を繰り出してきている。正直、今のパラメーターでは避けられない。首と地面に挟まれ、り潰され、ミンチと化してしまう。鱗付きの体なので大根おろしみたいに良く擦れる。

「窮地だからこそ光るパラメーターもあるぞ」

 眼前に迫った合唱魔王の頭を見ると同時に、網膜に映る数値も確認していた。


==========

“ステータス詳細

 ●力:7(弱体)

 ●守:5(弱体)

 ●速:8(弱体)

 ●魔:49/63

 ●運:5 → 105”

==========

“『一発逆転』、どん底状態からでも、『運』さえ正常機能すれば立ち直れるスキル。


 極限状態になればなるほど『運』が倍化していく。

 このスキルを得る前提条件として、『破産』系スキルを取得しなければならないため、『運』のベースアップは行われない。

 スキル取得によって『成金』『破産』は強制スキルではなくなり、自由にスキル能力を発動できるようになる”

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「『運』さえ上がれば。『暗影』……発動!」


 視界は影に包まれて暗転。一瞬の浮遊感と共に俺は跳躍に成功した。




 まず感じたのは、酷い閉塞感だ。

 ブヨブヨしているのに分厚くて固い肉壁の間に、体は挟まっている。湿度も高くて不快指数はすこぶる高い。牛乳で湿らせた雑巾の中にいるようなイメージだ。

 頭はつっかえるが体はどうにか動かせる。中腰になりながら壁が脈動する方向へと進んでいく。

「胃にまで落ちているなよ。『暗視』発動」

 食道に明かりを取る窓など備わっていないので、スキルを使用して視界を確保する。

 曲がりくねった道を進むと、声が聞こえてきた。


「出してッ、出してッ、出してくれ、なのじゃッ!」


 声の方向に急ぐと、食道壁を叩いたり、で引っいている子供の姿が見えてきた。いたずらをしてくらに閉じ込められた子供、とニュアンスするのは生易しい。

「出してッ!!」

 指で引っ掻いている理由は、爪がげてしまっているからだ。

 消化液がにじむ壁を叩いている手も無傷ではない。ふやけて皮膚はズルズル。声は乾ききってガラガラ。二度と出られない穴に落ちてしまったと理解できるさとい子供だからこそ、ジャルネは耐え難い恐怖と戦わねばならなくなっていた。

くじける、ものか。誰も助けてくれないのじゃ。絶対に諦めるものか。私が私を見捨ててしまったら、誰が、私を助けてくれると」

 行動でも言葉でもジャルネは戦い続けていたが、心は既に生還を諦めている。抵抗しているという体裁を整えているだけ。そうとしか思えない。

 あまりにも痛々しくて、声をかけるよりも先に動いていた。食道壁を叩き付けようとしている手を握り締めて停止させてしまう。

「もう大丈夫だ」

「出してッ!」

「もう良いんだ。後は任せて良い」

「出し、てッ! 出し――私を止めるなッ!」

 親のかたきを見るような視線を向けられてしまった。『暗視』スキルを所持していないジャルネには、誰が現れたのかが見えていないから。それが理由ではないだろう。

 誰も助けてくれない、という現実リアルを信じているジャルネにとって、都合良く現れる助けの手は怨敵に等しい。

 ジャルネは振り返りながら俺の手を払いのける。思わぬ態度に、俺は苦悩するように仮面に手をやる。

「何を今更現れたッ。家族を救ってくれと頼んでおいてこなかった癖に、お前は何様だ!」

 赤い目で俺をにらむジャルネ。救いを求めていない子供を助ける事はできないだろう。

 ならば、俺は――。


「――俺は凶鳥だ。たたりを振りまく、鳥だから凶鳥だ」


 ――ジャルネを助けるのではなく、ジャルネを祟る事に決めた。

 手を離して見せつけてやるのは顔の仮面、凶鳥面だ。

「…………は? それはどういう意味じゃ」

 ジャルネは困惑している様子であるが、祟りに本人の承諾も理解も不要だ。

「お前は祟られた。お前が思っている以上に現実は非情だぞ。だから、思い通りには絶対にならない。ここで死ぬ事なんてできるはずがない」

 まずは、食道で死ぬべきジャルネを外へと連れ出す祟りを実行する。

 そのために『暗影』スキルは……使用できない。他人を連れての空間跳躍ができるスキルではないのだ。本来は緊急回避用スキルなので仕方がない。

「ならば一寸法師の真似事をするだけの事。内臓の痛みに震えろ、合唱魔王! ――炎上、炭化、火炎撃!」


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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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