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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十三章 二度目の孵化
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13-5 火の鳥

 何故、今になって思い出してしまったのだろうか。

 何故、今まで彼女の名前を忘れてしまっていたのだろうか。

「サツキが、皐月がァあああああああ!!」

 今なお『記憶封印』が続いているのだから仕方がない。そんな言い訳の所為で皐月は目前で潰れてしまったのだろうか。

「ああああああああああああああああ」

 モスマンの足底の下でグチャグチャになっている皐月の遺体。髪の毛と血肉が交じり合って正視できない姿になってしまっていたが、それでも俺は手を伸ばす。どうにか拾い集めて元に戻せないものだろうか。そんな風に錯乱さくらんしてしまっている。

 当然だ。

 皐月は可愛い彼女だった。人生で初めて俺を好いてくれた異性だった。

 勝気な年下で、頭が良いのに勉強ができなくて。少々変わり者だったがそこもチャームポイントで、俺は皐月を大切に想っていたはずなのだ。それなのに目の前で死なれてしまったのだから、狂乱して何が悪い。

 両膝を地面に叩き付けて泣きわめく。

「あああ……、ぁ、ぁぁぁ」

 そんな俺をモスマンの赤い眼がにらみつけているだろう。ふくろうのような動作で首をかしげた後、皐月を殺した足で俺の頭頂部を踏み潰すモーションに入っているはずであるが、まったく気にならない。

 どうせ抵抗できるようなパラメーターではないのだ。むしろ、抵抗しないままモスマンに殺されて、皐月が待っている海底へと落水してしまうのがベストな選択ではないだろうか。

「ぁぁぁぁ……」

 ひたすらに泣きながら、遺体へと手を伸ばし続ける。

 まだ温かい血が手の平に付着した。一瞬前まで生きていた証拠である。女性の体温は男のそれよりも高いのだろう。いや、血をかいして伝わってくる熱量こそが命の温かみなのか。

 ならば、皐月は熱い女だったのだろう。

 血からは湯気が立っている。

 血からはブクブクとあわが立ち始める。沸点を軽く超えてしまって、油に着火するかのごとく火がついて簡単に燃え上がった。

 自然発火により炎上する皐月の遺体。

 傍にいた俺とモスマンも当然巻き込まれてしまったが――、

“――BAAAァガAAァァァッ!!”

「ぁぁぁぁ」

 ――モスマンは体が焼け焦げる痛みに絶叫しているのに、俺は大して熱さを感じていない。コタツの温度設定が高いかな、ぐらいの暑さだ。

 空へと逃れようとして、鱗粉だらけの羽を動かすモスマン。そのカビが生えたような体を取り込む大きさまで炎が球状に広がる。


「ぁぁぁぁ――ぁっ、あっ」

「――逃がさない」

「ああっ、なんて美しいんだ」


 地上に太陽という名の卵が出来上がる。

 太陽より伸びるプロミネンスが尾羽であった。

 左右に広がる炎の波は空を羽ばたくための両翼であった。

 俺と同じ鳥類でありながら、どうしてそんなにも美しいのか。神々しい赤をまとった鳥が孵化ふかしようとしている。

なんじ罪を償うべし」

 太陽は卵の殻である。

 そして、鳥の形をした火炎も卵の殻の一部に過ぎなかった。殻を破って現れた女の腕がモスマンの足を掴んで逃さない。

 女の腕というか、子供の腕。正確には……幼女の腕に見えたのだが。

「汝の刑罰は火刑、ここで燃え尽きなさい」

 腰どころか足まで伸びる長髪を持つ幼女が炎の中から生れ出る。しかも、ただの幼女ではない。全裸である。生まれたてなのだから当然かもしれない。

 なかなかに好戦的な幼女らしく、モスマンに対してゼロ距離で魔法を放っている。

「――全焼、業火、断罪、地獄炎」

 蛇のごとく紫色の炎がモスマンにからみついた。

“――BAAァガガゲガアガ”

 モスマンは叫ぼうとしてまず肺を燃やされた。地上に落下してからも苦しみもがき、地面に燃える体を擦らせて消火を試みる。が、炎は決して消える事はない。地獄の炎は罪人の罪がすべてつぐなわれるまで消える事はないのだ。

 燃え尽きようとしているモスマンの最後。壮絶であるがまったく気にならない。

 気にするだけの余裕がない。

 俺は、炎から生まれた幼女に心を囚われていた。いや、決して俺が特殊性癖の持ち主という意味ではない。幼女の妙に勝気な眉に既視感を覚えてしまっただけである。

 というか、顔付き全体が皐月に似過ぎている。第二次性徴する前の皐月を想像したならば、炎の幼女そのままになるだろう。

「その顔は……ま、まさか!?」

「そっちのまだ溶けていない奴も! ――全焼、業火、断罪、地獄炎」

 ナックラヴィー型の怨嗟えんさ魔王にも紫色の炎が襲いかかり、トドメを刺していた。

 炎より生れ落ち、炎を操りし幼女。炎の精霊みたいであるが違うだろう。

 きっと幼女は…………ああ、間違いない。


「皐月の忘れ形見。お、俺との子供か!?」


 さて、今の俺は間違いなくステータス的に混乱中であった。

 目前で大事な彼女が潰された直後だという事を考慮すれば、心神喪失を裁判でも勝ち取れるはずだ。心が壊れてしまっているので正常に動作する方がおかしいと言える。

 赤い他人を娘呼ばわりしながら、抱き付いたとしてもそこに幼女趣味的な危険性は含まれていない。

「我が娘よォっ!」

 その一。皐月の顔をした幼女を見て、その幼女が皐月の子供であると連想する。

 その二。皐月と俺は恋人関係であり、肌の付き合いもあったと思い出している。

 以上を組み合わせれば、状況さえ無視できれば間違った考え方ではないはずだ。

 ただ、錯乱および興奮した状態で全裸幼女に抱き付いたのは間違いだ。異世界では不明であるが、日本だと社会的に抹殺されてしまう。要するに事案発生。

「なぁッ?! 変態!!」

 弱りきった『守』パラメーターでは、幼女の膝蹴りさえも致命傷になりえる。男性に対し、強制的にクリティカルヒットになってしまう部位を下から潰されてしまったのだから、死ぬしかない。

「ぐふぇっ、皐月ぃ」

 悶絶しながら泡を吹き、気絶する俺。

「んな?! 変態の感触が、ぐにゃって感触が!」

 一方、幼女の方も射抜いた膝から伝わった海綿体的感触に鳥肌を立てて苦悶していた。


==========

“『火の鳥』、永遠の命をつかさどる傲慢鳥のスキル。


 本スキル所持者が他殺された場合、年齢を幼児期まで若返ってから炎の中よりリザレクションする。

 年齢を元に戻すためには、他殺犯に死をもって償わせる必要がある。

 また、幼児期に退行している間はリザレクションできない”


“実績達成条件

 死を何らかの方法で回避し、炎の中より甦る。


“≪追記≫

 実績達成の種は『奇跡の葉』である。本スキル所持者の復活する様を獣のような種族に目撃されてしまい、彼等が信仰する不死鳥の化身であると誤解されてしまった”

==========





“これで、苦しい生がようやく終わ――”


 燃えカスとなる寸前、モスマンとナックラヴィーは人知れずつぶやいた。

 ……いや、モスマンに見えるだけの化物とナックラヴィーに見えるだけの化物が死に際に定型句を口にしただけだ。恐るべき魔王の呪いによって外見が激変してしまった哀れな化物にとって、死と解呪は同一の意味を持つ。

 体を内部よりむしばみ、激痛をもたらしながら体を強化する呪い。

 苦しみから逃れる唯一の方法は、死のみである。


“――だが怨嗟は終わらない。怨嗟の魔王は決して人に暴かれず、人を呪い、増殖を続ける。ゆえに怨嗟の魔王は最悪足り得る”


 ナックラヴィーに見える化物が先に事切れる。


==========

“●ケンタウロスを一体討伐しました”

==========


 ケンタウロスの肌をぎ取り、片目を肉に埋もれさせ、筋肉を無理やり増強させられただけの哀れな化物が怨嗟魔王の呪いより解放された。

 次に、モスマンに見えるだけの化物が死亡する。


==========

“●フェアリーを一体討伐しました”

==========


 フェアリーの全身にカビを生えさせて覆わせただけの哀れな化物が、怨嗟魔王の呪いより解放された。


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

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