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拝啓、びわしゅさんへ 追伸、幽霊船にトラを載せることの可否

いきなり本題から入ろう。またマッチングアプリで知り合った男に振られた。

あれから性懲りもなくマチアプをやっていたのか!?
そう思われるだろうが、毎日欠かさずマメにやっていた。

とある男、タロウと名乗っていた。私よりだいぶ年上、50代の男だ。
28日に会おうという話になり、指定された駅のカフェで待っていた。
席の位置も伝え。
私が早めに着いてしまい、退屈だったのでBluetoothイヤホンで自らがリーダーを務めるTRPGコミュニティ(以下、星神光輝亭と表記)のボイスチャットを聞いていた。

……あれ、タロウさん来ないな。店が見つからないのかな。
思ったより来ないぞ。

しばらくして当該マッチングアプリを開くと、一方的にお別れされており、最後のメッセージは『先にLINEを交換しておけばよかったですね』であった。

カフェにそれらしき……年齢と服装の男性は入ってきていた。
そして店内を見渡し、不自然に何も注文せずに退店していた。
ここで状況を把握する。

そう、タロウは私の容姿を確認するなり話しかけもせず帰ったのだ。

こういったことがあるのは知っていた。
過去にXの漫画で同じ題材を扱ったものを見たからである。

だが、いくら容姿に自信がないとはいえまさか自分の身に起こるとは思わない。
そして、もう一つ私の脳裏に過ったのは……

第3回聖書エッセイコンテスト

である。その中でもびわしゅさんが書かれた特別賞(あまり賞)受賞作、
抽斗の伝道者』だ。
私の受賞作『初めての教会訪問はGPSゲームと共に』とは毛色が180度違うのであるが、間違いなく名作なのでぜひ読んでいただきたい。
このページで全文を読める。

『抽斗の伝道者』には、びわしゅさんのお母さんがネットで知り合った恋人に会って即座に振られたエピソードが登場する。
そう、今回の私とだいたい同じ状況である。

心の中でびわしゅさんのおかあさーーん!!と叫びつつ、娘に呪詛をぶつけた彼女のように、この件を伝える家族は私にはいなかった。

母親からは児童虐待として扱われるものをだいたい全部受け、父親はその全てを無視。
妹は体調が悪くちょっとそれどころではない。
子供? さすがにこの流れで私の実子は登場しない。いないしね。

とまあそんな状況なのであるが、笑い話として星神光輝亭に書き込む。
今まで普通のやり取りをしていたタロウに、容姿だけで絶縁されたというのは、さすがに一人で抱え込むには重かった。
TRPG『ソード・ワールド2.5』のプレイヤーは大半が男性なので、そのボイスチャットにいたのも男性が多かったのだが、
「朝霧さんの顔がどんなだったとしても、さすがに男が非常識」という意見でほぼ一致する中、一人の女の子が「今都内にいるから遊ばない?」と誘ってくれた。めちゃくちゃいい奴である。

ダイレクトメッセージでやり取りをし、都内のゆったりした喫茶店でランチとデザートを楽しむ。
「朝霧さん、今夜の卓のエネミー、HPってどのくらいがいいんでしょう?」

エネミー相談である。
彼女はその晩、星神光輝亭で『ソード・ワールド2.5』のゲームマスターをする予定があった。
TRPGのゲームマスターというのは、シナリオを用意し、戦闘で戦う敵、つまりエネミーを用意し、それ以外もいろいろ用意する。
『プレイヤーたちが戦って倒せる妥当な強さのエネミー』をちょうどよくお出しするのは意外と難しいもので、こういった相談はよく受ける。

プレイヤーたちの作ってきたキャラクターや個人としての練度、彼女の出したいモンスターなども加味し、詰めていく。

シナリオの舞台は『幽霊船』であった。
幽霊船、つまり幽霊が出る船なので、アンデッド系モンスターが妥当……それは彼女も私もわかっている。
だが、アンデッドには『精神効果無効』を持つものが多い。
アンデッドに精神攻撃など効かないのである……と言いたいところだが、これは味方陣営からの『精神効果』属性の有利な効果までも受けられないことを意味する。

モンストラスロア

公式から出ているエネミー総覧『モンストラスロア』を電子書籍で開きながら、精神効果無効は操霊魔法使いと嚙み合わないよね、ファナティシズムの魔法が受けられないもんね、などと議論する。
モンストラスロア、ゲームマスターとして遊ぶ人以外にも、ドルイドやデーモンルーラーが使えて面白いので買ってほしい。尚、グループSNEから金銭授受は受けていない。

モンストラスロアの、『動物』分類エネミーのページを見ていてふと思いつく。
5レベル動物エネミー、『タイガー』……つまり、トラ。
(現実世界の)トラってわりと泳げた気がするぞ!?
つまり、トラが海を渡り幽霊船に上陸していてもおかしくないのでは!?

「タイガーって泳げるのでワンチャン幽霊船に載せられませんかね!?」
「確かにな??」

タイガーは、強い。先行時二回行動する『ファストアクション』に加え、『連続攻撃』による二回攻撃も持っている。
ここは単純計算でいい。四回殴ってくるのだ。
プレイヤーたちにとっても、歯ごたえのある戦いになるだろう。

「でも幽霊船にタイガーが乗ってきたら幽霊船の怖さよりタイガーの怖さが勝っちゃいませんか?」
「確かに!?!?」

正論である。タイガーはタイガーであるというだけでインパクトがでかすぎるのだ。
かくして無事幽霊船タイガー乗船案は却下となり、打倒にクロコダイルでも置いておけ!ということになった。現実世界ではイリエワニなどごく一部を除き、淡水生物だった気がするが細かいことは気にしないでおく。

実際のところ、うっかり敵側が先手を取ってしまい、物理ダメージを+2する『ファイア・ウェポン』の魔法を受けたタイガーが四回殴ってきたら……
お察しの通り、2×4で8点が追加され、タイガーの素の攻撃力も相まって冒険者を輪廻に還してしまう可能性がわりとあるので、やめておいて正解であった。

結論に入ろう。

びわしゅさんはその日、聖書を手に取り、母に聞かせたそうだ。
友人はその日、私にモンストラスロアを手に取らせ、『タイガーを幽霊船に乗船させる』という無茶苦茶な案を却下した。

私はその日、列車に飛び込まず首を吊らず、無事帰ってきた。
声をかけてくれた彼女は、皆が強い強いと言い張る(実際強い)レベル5動物エネミーのタイガーは、モンストラスロアは、私にとって間違いなく救いであった。

29日21時からは自作のシナリオ『かみさまへのみちしるべ』を遊ぶ。
この投稿の時間を見て欲しい、ギリギリである。恐らく間に合っていない。

人族の限界を超え、『超越者』となった魔術師リリスが、ラクシアの『神』となるまでの道のりを描いたシナリオである。

無論、私がゲームマスターとしてお出しするシナリオは全て自信作だ。
プレイヤーのお二人には、ぜひ楽しんでいただきたい。

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