アメリカ前国務副長官に聞く “中東への関与の影響は”(辻󠄀’s ANGLE)

トランプ大統領が発表したイスラエルとイランの停戦。停戦が守られるかは、依然として予断を許さない状況です。

アメリカの中東への軍事的な関与が、私たち日本、そしてアジア地域にどのような影響を与えるのか。バイデン前政権の国務副長官、カート・キャンベル氏に聞きました。

(「国際報道2025」で6月24日に放送した内容です)

 

・“アメリカの日本・アジアへの影響が弱まりかねない”

今回インタビューに応じてくれたのは、カート・キャンベル氏。バイデン政権で2025年初めまで国務副長官を務め、日本を含むアメリカのアジア政策を熟知した人物です。

 

キャンベル氏がまず指摘したのは、トランプ政権が中東への関与を深めることで、最大のライバルとも言える中国に対するフォーカスが中東に移ってしまっているのではないか、という指摘です。

 

キャンベル氏:インド太平洋地域に展開・配備した軍事力は、中東で緊急に求められるようになっている。しかし、本当の問題は政権の中枢部の時間や関心が移ることだ。

 

そしてひとたび政権の関心が移り、アメリカの戦略的な焦点が中東に向けられれば、私たち日本やアジアへの関与が弱まりかねないという懸念を示しました。

 

キャンベル氏: いくら努力しても、中東からインド太平洋へと根本的にシフトするのは難しい。つまり今後、数か月は、中東により重点を置くことになる。

 

・“日米関係の重要性を理解するキーマンがいない”?

キャンベル氏は、日米関係のスペシャリストでもあります。トランプ政権をめぐって、日本に対してもこんな気になる発言がありました。

 

キャンベル氏: これまでは常に、アメリカ政府内で日米関係を支持するキーマンが誰なのかわかっていた。日米関係の重要な意義を理解している人たちだ。正直に言うと、私は今(のトランプ政権で)誰がその役割を担っているのか、わからないでいる。

 

藤重キャスター: トランプ政権内で日米関係の重要性を理解するキーマンがいないのではないか、という指摘でしたが、日本はどう関係を構築しようとしているのでしょうか。

辻󠄀キャスター: キャンベル氏は、今回の来日中に多くの日本政府関係者に会っているようですけれども、その中にはアメリカとどう付き合っていけばいいのか、不安を隠さない人もいたようです。日本政府は、模索しながらのやりとりを続けている可能性もあります。

 

さらに日米の関税交渉が、いまだに妥結しないでいることについては、次のように述べました。

キャンベル氏: もしこの状況がかなり長引けば、日米関係に悪影響を与える可能性がある。指導者たちには真に重要な問題に立ち戻ることを望む。例えば、北朝鮮への強力な抑止力の保持、日米韓の3か国の連携を強化、中国の挑戦を認識することだ。

 

・トランプ氏の「破天荒」なスタイルは中国に効果的?

最後に視聴者からの質問を聞いてみました。60代の企業経営者の方からの質問です。

「私は決してトランプ氏のすべての言動を支持しているわけではありません。しかし、現在の国際社会や経済の構造を冷静に見たとき、彼の政策に一定の期待を抱いていることも事実です」 「中国の覇権主義に対抗できるリーダーとしての存在です」 「トランプ氏のような“破天荒で“強引に見える交渉スタイルが、むしろ中国には効果的であると私は考えています」

 

酒井キャスター: 予測不可能なスタイルは、けん制になる一面もあるかもしれませんが、どうなのでしょう。

 

このご意見に、キャンベル氏はこう答えてくれました。

キャンベル氏: (トランプ氏の姿勢について)中国は多少、警戒感を抱いているが、アメリカの同盟国や友好国も同様に警戒しているのが問題だ。私が政府にいたときは、中国は、アメリカが同盟国と効果的に協調することを警戒していた。トランプ政権がクアッド(日米豪印)や、価値観を共有するインド太平洋の国々の重要性を認識することを願っている。

 

トランプ大統領の型破りな動きは、中国への重石(おもし)となる一方で、同盟国にも負担になっていて、本来集中すべき事案に対応できていないとの指摘でした。

中東での紛争が長引くほど、日本やインド太平洋からアメリカの関心が移ってしまう。キャンベル氏が示した懸念は、私たち1人1人に突きつけられている懸念でもあります。

 

【見逃し配信はこちらから】

※放送後から1週間ご視聴いただけます


辻󠄀浩平(「国際報道2025」キャスター)

エルサレム支局、政治部、ワシントン支局、ロシア・ウラジオストク支局などを経て現職。パレスチナ問題やウクライナ情勢、トランプ支持者の取材など、各地で深まる対立や分断を取材。