虎屋など同族経営の「世襲」の良さとは?
【佐藤】社長の後継者をファミリーの中から選ぶという制度は世界中の同族経営企業に見られます。ところが、ハーバード大学経営大学院のジェフリー・ジョーンズ教授によれば、他の国では「長男が継ぐ」というルールを定めている企業が結構多いのだそうです。
また韓国ドラマを見ているとわかりますが、創業家一族の多くが同じ会社に就職し、経営を担い、結果、骨肉の争いを繰り広げるというパターンもよくあります(笑)。すると経営が混乱し、企業は破綻へと向かってしまいます。
一方、日本の「超」長寿企業は、後継者の選定ルールが合理的かつ明確なのだそうです。逆にいえば、だからこそ長く存続できたともいえます。たとえば創業500年企業の虎屋には、「一世代につき一人限り」(一世代につき一人しか虎屋に就職できない)という厳密なルールがありますし、創業1400年企業の金剛組には、「後継者は能力で選ぶ」というルールがあります。そのため金剛組では、長男だけではなく、直系の三男、分家の次男、女性、養子などが実力で後継者に選ばれ、トップを務めてきました。
こうした後継者選定方法の利点は、若い頃から経営者候補として育成できることだと思います。一般的な日本企業ですと、年功序列が重視され、だいたい60代ぐらいの人が社長に選ばれて、次も60代ぐらい、また次も60代ぐらいというパターンが多く、30~40代が抜擢されることはまずありません。
ところが同族経営企業では、早くから後継者候補を育てていますから、ベテランの経営者が、思い切って、若い経営者にバトンを渡すこともできます。たとえば虎屋の18代当主、黒川光晴氏が社長に就任したのは35歳のときです。すると若い経営者は大胆な改革ができて、時代にあったイノベーションを起こすことができます。この制度は企業を長く存続する上で、非常に理にかなった制度だと感じています。
そもそもの組織力が高い日本企業
――「長寿であること」のほかにも、『なぜハーバードは虎屋に学ぶのか』を執筆された中で見えてきた日本企業の強みはありますか。
【佐藤】著書では日本企業の強みを数多く紹介していますが、今回の取材で特に印象的だったのが、日産自動車の危機管理能力が高く評価されていたことです。
日本では、日産は業績が悪化していることもあり、課題系のニュースばかりが目立ちますが、ハーバード大学経営大学院の教員は逆にそういう課題をその都度乗り越えて、存続してきたことを強みとしてとらえているのが興味深かったですね。
日産は創業から現在に至るまで、あらゆる経営危機を何度も乗り越えてきているので、社内に危機対応に関する知識が蓄積されている。だからこそ、「つぶれる」といわれながらも「つぶれない」のだと。そしてその能力が震災後やパンデミック下でいかんなく発揮されているところに注目して、教材化しているのです。
このように日本には長い歴史の中で、何度も経営危機に見舞われながらも、蘇ってきた企業は数多くあります。その大きな要因は、現場の社員の能力が高く、国や会社への忠誠心が強いことだと言われています。アメリカでは企業が危機にみまわれると社員はさっさと退職してしまいますから。
一方、日本では、経営者が経営に失敗して、会社が危機に陥っても、現場の社員が団結して能力を発揮して見事に再生させてしまう。たとえばリクルートホールディングスの事例もハーバード大学経営大学院の教材に取り上げられていますが、それを読むと、当時の若手社員がどれだけ企業文化の変革に貢献し、再生への原動力になったかが分かります。
先ほど申し上げたとおり、アメリカ企業の寿命は短くなるばかりです。これはこれで、経済を活性化する上で利点もありますが、実はパンデミックや金融危機のような状況をうまく乗り切って、長く存続させたいと思っている経営者は多い。だからこそ、日本企業の危機対応能力や復元能力が学ばれているのだと思います。

