なぜ日本には「桁外れ」の長寿企業が?

――学生だけではなく、教員の間でも日本は研修先として人気が高いと聞いています。2024年の教員研修ではどのような企業を視察しましたか。

【佐藤】2024年6月にハーバード大学経営大学院の教員33人が研修旅行で来日しましたが、多くの長寿企業を視察したのが印象的でした。虎屋、山本山、第一生命ホールディングスなど、視察した企業13社のうち5社が長寿企業でした。

限られた研修旅行の時間の多くをこれらの企業に割いたのは、それだけ強い関心を持っていることの表れだと思います。このうち、虎屋の事例は2022年にハーバード大学経営大学院の教材に取り上げられ、授業でも教えられています。

なぜ世界の中でも特に日本の長寿企業がこんなに注目を集めているのか。その理由は2つあります。1つは圧倒的に数が多いこと。日本には、創業100年以上の企業が約4万5000社もあります(2024年帝国データバンク調査)。

もう1つは超長寿企業が数多く存在していること。世界最古の企業、建設会社の金剛組の創業は西暦578年。1400年以上の歴史を持ちます。このほかにも日本には創業1000年を超える企業が11社も存在しています(2024年帝国データバンク調査)。

そもそも建国約250年のアメリカには、長寿企業の数は極めて少ないですし、大企業の寿命も平均15~20年とどんどん短くなっています。アメリカに住んでいる人たちから見れば、創業500年、創業1000年というのは、想像もつかないほどの歴史の長さです。

もちろんヨーロッパにも長寿企業はありますが、日本ほど超長寿企業が集まっている国はありません。そのため、教員たちは「日本に行ったら、ぜひ長寿企業を直に見てみたい」と思うのではないでしょうか。

『なぜハーバードは虎屋に学ぶのか』(中公新書ラクレ)を刊行した佐藤智恵さん
写真提供=中央公論新社
なぜハーバードは虎屋に学ぶのか』(中公新書ラクレ)を刊行した佐藤智恵さん

――日本の長寿企業は学生の間でも関心が高いのでしょうか。

【佐藤】ハーバード大学経営大学院で「虎屋」の事例を教えているローレン・コーエン教授によれば、学生の間でも、長寿企業への関心が高まりつつあるそうです。その理由の1つは、発展途上国の財閥の後継者、日本の中小企業の後継者など、ファミリービジネスの後継者が少なからずいること。こうした学生たちにとって、「自分のファミリーの事業をいかに長く存続させるか」は、まさに自分の人生やキャリアに影響する重大な問題なのです。

もう1つは、就職先として「ファミリーオフィス」(超富裕層を対象に資産管理や運用サービスを提供する機関)の人気が高まっていること。ここで働く人たちが知りたいのは、どのような企業に投資をすれば、永続的にファミリーの資産を増やせるのかです。こうした2つの理由から、学生の間でも長寿企業への興味が増しているのだそうです。その中でも、創業500年企業の虎屋は、授業で教えている企業の中でも最古だそうで、毎回、高評価を得ていると聞いています。

ローレン・コーエン教授
©Evgenia Eliseeva for Harvard Business School
ハーバード大学経営大学院ローレン・コーエン教授