「廃線」写真集 棄てられてもなお放つ鉄道の魅力 近ごろ都に流行るもの
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さびたレールの行き止まり。蒼然と草木に覆われる枕木…。廃線跡を訪ねる人が増えているという。4月発売「廃線めぐり旅」(イカロス出版)、「旅の手帖」(交通新聞社)5月号と相次ぎ廃線が特集される中、廃虚撮影で知られる写真家の丸田祥三さん(60)が5月、「廃線だけ 平成・令和の棄景(きけい)」(実業之日本社)を発行した。戦後から高度成長期を中心に人や物を載せて働き、役目を終えた姿は、郷愁やもの悲しさとともに壮烈さを感じさせ、荒廃に宿る「気」と美しさにページを繰る手がとまる。著者に廃線の魅力を聞いた。 ■小学1年生から撮り続け… 東京都港区芝浦。倉庫会社のトラックが出入りする道路に目を落とすと、アスファルトを押し上げるようにレールの一部が顔を出していた。こんな都心に廃線跡が! 「都電(路面電車)が次々と廃止された昭和40年代、撤去せずに埋められた区間が結構ある。年々、元の姿があらわになってきていますね」と丸田さん。猛暑で鉄軌が膨張するさまが、抵抗の意志を示しているかのようだ。 写真集には、この場所を含め全国各地の廃線を訪ね歩いた158作品を収録。約600カ所の撮影地から、観光地化されず時の経過に任せて残っている廃線風景に絞った。「わざわざ銀河鉄道999風に演出したり、その路線と関係ない古い車両を持ってきたり、何でもカフェにしたり。後から〝殺菌した昭和〟を作って、一体何なの?」 再整備で鉄道遺産がゆがめられてしまうことを嘆いた。例えば、100ページ目に掲載されている群馬県内の廃線写真は、線路を覆った土砂から生えた草がきらめく幻想的な光景が広がっているが、4年後に訪れると土砂が撤去され冷房の効いた駅が復元されていた。 ◇ 平成5年に出版した初写真集「棄景」で、日本写真協会新人賞を受賞した廃虚写真の先駆者である。 東京都新宿区に生まれ、家の前を走っていた都電が、ある日消えた。撮影を始めたのは廃止1、2年目の小学1年生の頃だ。「誰もが一顧だにしないものに、ものすごくひかれる」 その原点は、父である日本将棋連盟元会長の丸田祐三九段の影響が大きい。「先の大戦に従軍。捨て駒とされる『歩』を一兵卒に重ねて、どうしても大事にしたくて、歩を使って強い敵を追い詰め勝つことを無上の喜びとしていました」
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