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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十ニ章 東部戦線異常しかなし
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12-8 魔王大戦

 体内で収束、増幅、加速されたドラゴンブレスが、レーザー光のごとき一筋となって天から降り注ぐ。

 ドラゴンブレスは腰の部分を斜めに裂いた。黒い巨体がズレ落ちて、分割された下半身がムカデみたいにのたうつ。炭化した傷口を廃棄しなければ、接合は困難か。

「悪霊魔王様ッ」

「下がれ、月桂花。どうもこの世界には、野良の死霊が多いらしい」

「アアアアアアアアァァァァアァッ!!」

 ブレスを放った本体も猛禽類がごとき急速降下を敢行かんこうし、鉤爪を突き立ててきた。えぐられた腹から血のように黒い海が飛沫を上げて舞う。

 鳥が豚に襲いかかっている絵図だった。四十メートル級のドラゴンゾンビが六十メートル級の魔王の肉体に噛み付いて、肉を引き千切っている。醜悪な怪獣映画みたいだ。

 濁った瞳に頭部を一度断たれて下手糞に接合したような首の縫い跡。

 このドラゴンゾンビは、寄生魔王がナキナ王都を襲撃した際に現れた奴で間違いないだろう。

「アアアアアアアァ、アアアッ!!」

「分かる。魔王となった今ならば癇に障る鳴声の意味が分かるぞ。『領土宣言』」


==========

“『領土宣言』、縄張りを主張する王が有するスキル。


 支配した土地の内部であれば、どんな生物とも言葉が通じるようになる。

 また、ある程度の知能を有する忠臣ちゅうしんも、領土支配のために他生物と言葉が通じるようになる”


“実績達成条件。

 魔王として覚醒する”

==========


「アアアァ、アアアア――痛痛痛痛痛痛痛助助助助苦苦苦痛痛痛、痛ィイイイイイイイィッ!!」

「お前も骸骨兵共と同じく、生者の言いなりになっている口か。はっ、見苦しくて目が潰れる。その腐った体を握り潰してくれる」

 手腕を伸ばして、ドラゴンゾンビの細い首を締め付ける。

 同時に皮膚から悪霊共が腕を伸ばして侵食を開始する。

「痛クテ痛クテ痛クテ苦シクテッ!!」

 ドラゴンゾンビは純粋な力技で拘束から逃れた。ドリルのように体を回転させながら手を抜け出すと、急速上昇して空へと逃れてしまう。

 直接戦って実感したが、かなりのスペックを有するドラゴンゾンビだ。ゾンビゆえに保身に興味がなく、悪霊魔王と近接戦を行う狂った行動もいとわない。

 ブレスがまた空から降り注いできた。今度は腕が跳ばされる。

 焼かれた体など骸骨兵の『同化』でいくらでも回復可能であるが、せっかく構築した巨体を細分化されるのは不愉快だ。

 『暗影』を使う手もあるが……人間の頃の戦闘スタイルを用いるのは美しくない。そもそも、野良ゾンビごときに魔王が本気を出すまでもないだろう。こういった雑務は、家臣が負うべき仕事である。


「『動け死体』。ギルク、前回の屈辱を晴らせ」


 帝王切開がごとく、生々しい腹の傷口より黒い巨人が産まれ落ちた。

 絞まった肉体を持つ巨大なオークが、産まれると同時に地面を蹴り付け、上空を飛ぶドラゴンゾンビへと殴りかかる。


===============

 ●ギルク

===============

“ステータス詳細

 ●力:3664 守:300 速:54

 ●魔:188/188

 ●運:0”

===============


 背を見せる程に右拳を振りかぶり、筋肉のバネを限界まで溜め込んで放つ。腐った竜の腹にねじ込む。

 ドラゴンゾンビは衝撃波を生じさせながらピンボールみたいに飛んでいき、崖に衝突。椀型に山肌がくぼんで岩石交じりの土煙が舞う。クレーター中央には原形を留めていたドラゴンゾンビが埋まっているが、殴られた腹部は流石に消し飛んでいた。

 巨大オークことギルクは追撃を仕掛けるためにクレーターへと跳び込んだ。が、これは勇み足だ。

「痛イのは、嫌ァァァアアアアアアッ!!」

 これまで収束して放っていたドラゴンブレスを衝撃波として発射し、ギルクを空中へと押し上げる。

 浮いた巨体へとドラゴンゾンビは飛び込んだ。ギルクの横腹を噛み千切って空へと逃れてしまう。長い喉でギルクの肉を飲み込むと、殴られた腹の穴がふさがっていく。

「『同化』して作った体を更に喰うのか。まともに相手をしていられんな」

 とりあえず、ギルクは動けなくなるまでドラゴンゾンビの相手をさせる事にした。ギルク単独ではやや劣勢だろうが、敗北したならばまた新しい体を作り直してやれば良い。空を飛ぶ厄介者の気を引いているだけでも役立っている。

 最優先は、骸骨兵の回収作業だ。

「『暗影』、『暗澹』。そして『同化』」

 密集地帯に跳躍してからの広域同化。オキアミをむさぼるクジラと異なり、悪霊魔王に満腹という概念はない。ひたすらに体の増量にいそしむ。

 一万体、いやニ万体は取り込めただろうか。巨体は更に膨張し、いつの間にか八十メートルを超過していた。敵軍総数のたった一割。まだまだ先は長い。

 とはいえ、ドラゴンゾンビ以外に障害が現れないというのであれば、一晩かからず敵軍すべてを取り込めるだろう。


「まあ、見逃すはずがないだろうとは思っていたが」


 ……見計らっていたのだろう。耳をふさぎたくなる重低音が長く響く。山々は音叉となっているため、想像以上の遠隔地から伝わっているのだろう。

 どうして意図的に重低音を響かせたのか、理由は明白。到来を戦場全体に知らしめるためだ。

 発信源と思しき地点、俺が炎上させた森林地帯の向こう側に注目する。

「山が、動いているように見えるが……覚えがあるな」

 一度、そいつの姿を目撃していた。ダンジョンから脱出した際に、山のみねへと消えていく巨大な威容に対してアニッシュが叫んでいた。


「……『行軍する重破壊』、墓石魔王と言ったか。毒をもって毒を制するつもりか」


 新参の魔王を出迎えに現れるとは、なかなかに殊勝な先輩だ。

 墓石魔王の正体は、確かゴーレムだったか。黒曜石のように黒光りしている直方体の胴体と、腕部か脚部のどちらかど思われる駆動部位が左右に備わっている。一般的なゴーレムとは形姿が異なり、人間よりも原動機に近い。無骨なデザインだ。

 十キロ近く離れていながら形が分かるという事は、俺に劣らず墓石魔王もかなりの大きさなのだろう。流石にスカイツリー程ではないだろうが、東京タワー近くはある。

 移動速度は縮尺的に遅く感じられた。ただ、紫色に燃える森林を気にした様子なく最短距離を突っ切っているので、到着は遅くはないだろう。

 森林火災に照らされるどころかあぶられているというのに、墓石魔王の胴体にはすすすら付いていない。

「異様に耐性の高い魔王だ。でなければ魔王と呼べないが」

 森林を焦がしている地獄の残り火で燃やせぬというのであれば、直接、地獄の紫炎をぶつけるだけだ。

 巨体が災いして命中もさせ易い。


「馬鹿め、一方的だ。――猛炎、砲撃、断罪、地獄弾。――猛炎、砲撃、断罪、地獄弾。――猛炎、砲撃、断罪、地獄弾」


 両腕を伸ばして、左右交互に砲撃を開始する。

 墓石のような直方体に着弾、爆炎が夜空を燃やす。二発目も命中。三発目は胴体左側を炎上させた。続けて四発目……皆中かいちゅう。五本目はややれて足元を爆発させる。

 詠唱を続けられるだけ続ける。

 都合、連射十発。四節魔法をこれだけ放てば魔王であろうともダメージが通るは――。

「――無傷、か。これは、面白い」

 墓石魔王は魔法で一切傷付く事なく前進していた。歩行速度さえも変化ない。

 サンドバックを叩いているようで愉快な気持ちになる。更なる攻撃を加えて快感を得ようと『魔』を手の平に充填じゅうてんさせていく。

 魔王の体ならばもっと高出力な攻撃が可能なはずだろうと、心臓から腕を伝い、手首に血液を通すイメージを。植物の根を促進させ、接続させていくイメージを。


「ッ! 悪霊魔王様、上空をッ!!」


 魔法に集中し過ぎてしまった。月桂花に声で警告されるまで気付かなかった。

 言われるがまま人間族の体で空を望む。どうせドラゴンゾンビが飛んでいるのだろうと見た星空には……目が浮かんでいる。

「目玉? いやまぶたもあるのか」

 目である。ドラゴンゾンビではない。

 変温動物的なまなこではあるのだが、それしか浮遊していないのだ。

 しかも数が多い。だいたい百個の目が戦場を眺めてクルクル動き、ふと、何かの拍子に視線すべてが悪霊魔王へと集中する。血走った目と目と目が、敵に襲いかかる寸前みたいに細められる。

 何でもありの異世界とはいえ、これは異常現象だ。

「何だ、あれは??」

「千里眼による超長距離捕捉?! これは、『終わりなきコーラス』合唱魔王!」

 眠るように瞼が閉じられていき、空に浮かんでいた目が消えていった。

 代わりに、流星のごとき光芒こうぼうが落下してきていた。ナキナの国境の遥か向こう側、魔界から弾道軌道で飛翔したと思しき高エネルギー。一筋が五節魔法に相当する破壊力を有しているのは確定的だ。その数、およそ百なり。

 爆炎に雷鳴に吹雪に濁流に暴風。

 周囲一帯を焦土と化すには過剰砲撃だ。

 当然一帯は破壊のオーバーフローが発生した。様々な属性の長距離魔法砲撃により、視界は真っ白に染まる。


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 助けたいシリーズ一覧

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